第045話 殺鼠剤ありませんか?
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
「『 』、未来は決まっているとか、そういう『運命論』的なものを信じているかい?」
本気の殺し合いの最中、魔神は色々と私に話しかけてきた。
他愛のない話から真面目な話、果ては哲学や趣味の話など、様々である。
酷い時には下ネタ満載の話までされて散々だった。
「…未来を知っているあなたがそんなことを言うのは意外です」
そう【破軍】叩きつけるように魔神に斬りつけるが、ぼんやりとした顔をしながらでも躱して見せ、真横から凶悪な回転鋸が私の頸部を狙ってくる。
身をよじるだけでその危機は回避できたが、まだまだ恐怖体験は迫ってきている。
「解ってないねえ、僕が視ているのは『過去』と『現在』の積み重ねの結果であって、確実に起こるだろう未来、つまり運命なる物など早々ないってことが言いたいのさ」
「…時間さえかければ私はあなたに勝てる、そう言いたいのですか?」
あり得ない話だ、確かに力としては下位の天神と同等の力を与えられたとしても、相手は最上級の力を持つ魔神。
才能という名の差に隔たりがありすぎる。
「『運命』なんて言葉はね、カミサマぐらいの存在に適用されるくらいで、地上を生きている者達にそこまでの強制力なんてそうはないんだよ。
生き物にはある程度の限界があるからね、それに比べて神様には限界がない。
その気になれば時間をかけて幾らでも強くなれるんだ。
…ああ、そうそう。
よく物語とかに出てくるテンプレ的主人公もある意味強さに限界ってないのかもね。
生き物の限界を超えた強さ発揮するだなんて、まるで化け物か神様みたいだもの」
と、いつの間にか違う話に逸れ始めてきていた。
逆ではないだろうかと思った。
神の力は早々覆せるものではない、むしろ運命という言葉自体を鼻で笑ってしまえるような存在だ。
地上の者たちが感じるだろう無慈悲な理不尽など、数多の神達ならば退かせてしまえるはずだ。
だが地上を生きる者たちならどうであろうか。
あの魔神が言った通り、生き物にはその種族ごとの限界というものがある。
その限界を超える程の力、その力に辿り着くまで、一体どれだけの『過去』と『現在』を積み重ねるというのだろう。
いったい、どれだけのぎせいをはらえばわたしは――――――、
「はーい、首ポロリー」
魔神が呑気な声を出すと同時に、私の頸動脈に悲鳴を上げる事の出来ない痛みが走った。
というより、声を上げられないのは当然である。
頸動脈を通過した回転鋸はそのまま声帯にまで侵攻し、反対側の頸動脈まで強引に斬り飛ばしてしまった所為である。
結果、どうなったかというと…。
「イエイ、本日100度目の死亡おめでとー。
最初の2789回目よりだいぶ良くなってきたね、首繋げたら少し休憩するから反省点見直して30分後にまた延々と殺し合いしようね」
「―――っ!!」
「あー丁度声帯もぶっちぎっちゃったから苦痛の声も上げることが出来なかったんだ、残念だったねー。
…繋げるまでお前の身体に暇潰しでエッチないたずらとかしてあげよっか?」
断固拒否、と言えたらどんなに良かったか。
言ってみただけだったのか、すぐに言葉を翻した魔神は丁寧に私の別れた頭部と胴を繋げてくれた。
元通りになったその後、私はさらに712回殺されその日は終わった。
生き返るとはいっても、無間地獄さながらの苦痛の日々である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
首をさすったウルではあるが、そこには傷一つない肌があるのみである。
途中から数える事もしなくなったが、一体どれだけ死んだのか、もう覚えていない。
そのせいか、記憶が戻り始めてからの心の荒みようは速度を上げているようで、たまに当り散らしたい衝動に悩まされているようであった。
「火系統を使えば森は燃えてしまうから、今回ジュリーは御休みかなあ。
かといって、近接戦闘と言ってもあの大群体を前にして束になってもかじられるだけだろうし…ここは先生とエーヴァで決定だと思う」
と冷静に意見を出してきたリオンの頭をわしゃわしゃと撫でるウル。
戦術眼に関してはやはり金獅子の一族というべきなのか、忌憚ない意見であった。
普段弄りまくっているせいか、あまり反応は見せなかったが。
かといって、及第点はまだ上げられないが、と思うウルなのであった。
あのモルドラットの大群から撤退して状況をギルドに報告すると、すぐに緊急会議が開かられた。
事態を重く見た王族もそれに参加するという次第で、現在は第一王女であるミネルヴァが現在会議室でギルドマスターやそのほかの重鎮たちと対策を立てているようである。
「そうですね、確かに私たち4人で考えれば、私とエーヴァの魔法が適任だと思います。
…しかし、それは2人で処理出来ればの話です。
ネズミも積もれば何とやら、あれだけの数に私達2人では火に油を注ぐようなものですね。
ここはおそらく国がギルドに何らかの要請をしてくるはずです、大よそ見当はついていますが、魔法を扱える者限定でなるべく被害を最小限に目的とした駆除作戦が展開されるはずです…しかも、倒した後もそれだけでは終わりません。
ジュリー、分かりますか?」
突然質問されたジュリーだったが、しばらく考えて帰ってきた言葉が、
「モルドラットを操っている親玉を倒さないといけないのよねっ!!」
というもので、ウルからすればまだ及第点には届いていない。
ジュリーは頭は良いがどうも戦闘に関したことにしか頭が回っていないようで、時たまウルが残念そうな目で見ていることがあった。
「それだけではありませんよ。
エーヴァは分かりますか?」
「モルドラットを駆除した後の熱処理と周辺地域への巡回警備の強化、協力してくれた冒険者への報酬や少額の見舞金…言い上げたらキリがないけど?」
さすがに王族というべきなのか、どれも正解であるが、ウルとしては必要無いものもあったようである。
「ええ、モルドラットの体内には感染性のある病原菌がいますから、熱で消毒しなければなりません、時間もお金もかかるでしょう。
他にも、モルドラットの襲撃がどの位のものだったのか、他にも脅威になる歪がいないか巡回警備をしないといけません、まあ基本ですね。
報酬はともかく少額の見舞金など不要です、使うのなら自国の戦士に渡せばいい、冒険者は自身の身一つで生きているのです、必要以上の施しは彼らの矜持を腐らせます。
あとは…そうですね、この戦果をエーヴァとミネルヴァ王女に出来れば上々といった所でしょうか?」
ウルのいた世界でもあったことだが、ネズミが猛威を振るった時代もあり、『黒死病』と呼ばれていた。
様々な書物を読んで、ウルはモルドラットが『黒死病』と酷似した病気を引き起こすことを知っていた。
死亡率は極めて高く、治療をしなければ確実に死ぬというものであり、この世界でもかつて猛威を振るっていた時期もあったという。
治療法はまだ見つかっていないらしいが、光系統と水系統の魔法での治療が効果的だと上がってきており、魔法研究者たちは日夜この病気の研究を費やしているそうだ。
対処としては熱での消毒が一番であるが、以前ウルは知らずに踏み潰していた。
素手で触っていないため何事もなく終わっているが、本来ならばその場で討伐部位を切り取った後は燃やすべきであったと言えよう。
モルドラットが感染症を引き起こすような存在であったことはその後の事だったため、知りようもない話であったが。
「…先生、あのモルドラットはどういう風に対処するんです?
凍らせると森にまで被害及びますし、風系統だって森林伐採に繋がります、闇系統は…森が結局なくなっちゃいますし…」
リオンの言う通りで、凍らせた森林を元に戻したところで以前と変わらずの活動が出来る訳でもなく、風系統を使ってモルドラットを駆除したところで、終わってみれば見渡す限りの殺風景な土地になってしまうだろう。
闇系統はここに至って論外で、精密な制御が出来たとしても一度間違えればステルヴィアに大穴が空いてしまうだろう。
何よりエーヴァに闇系統の素養がない時点でこの魔法は使えない。
ウルとエーヴァに共通しているのは、風系統と水系統である。
「…殺鼠剤でもあれば楽なんですが」
「…なんですそれ?」
「ネズミ限定の毒です、とはいえ、これも却下ですね。
作るのに時間がかかりますし、後々環境によくない影響を及ぼすほどですから。
エーヴァ、水系統の魔法で何か良い策はありませんか?」
「…悪いけど、水系統は治癒専門なの、役に立てる以前の問題なのよ」
風系統で中遠距離攻撃補助を一手に担い、水系統での治療がエーヴァの本領であるからして、水系統での攻撃といえば、水弾での牽制が精々らしいのだ。
「…文字通りの焦土作戦ぐらいしか上がってきませんねえ」
本来の焦土作戦というのは、奪われる地域の利用価値のある建物・施設や食料を焼き払って、その土地の利用価値をなくして敵側に利便性を残さない、食料・休養等の現地調達を不可能とする戦術及び戦略の一種であるのだが、この場合ウルが行おうとしているのは…、
「だだだ、ダメよ先生っ!!
そんな事したら100年規模でステルヴィアに緑が無くなっちゃうじゃないっ!!」
火系統の魔法の恐ろしさを誰よりも知っているジュリーが即座に否定した。
もちろんウルも本意ではないが、最悪の事態を想定するならば、そのような事態も起こりうるだろうことは間違いない。
その最悪の事態を避け、他の対処に活路を見出そうと考えている4人だが、いい案は上がってこなかった。
「…ダメですね、4人では埒が明きません。
一度解散して情報収集に移りましょう、あちらの会議が終わる位には戻ってきてください。
その時にもう一度話をしましょう」
「分かりました、先生」
「あたしたち今回役に立てそうにないし、ここで役に立たないとねっ!!」
「…あたくしは長老たちに聞いてくるわ」
「それじゃあまた」
4人は別れるとそれぞれ駆け足で心当たりを探しに行った。
残ったウルもどこかへ行こうと考えたのだが、突然視界が変わった。
通例の如く、デュケインに呼び出しがあったのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「呼ばれてないのにじゃんじゃかジャーンっ!!
ウルの可愛くて強いお師匠様、デュケインくんでーっすっ!!」
突っ込み所満載の掛け声とともに、ウルの師匠である魔神はいつもながら意味不明な言葉と共に現れました。
いえ、この場合現れたのは私の方というか。
とはいえ、可愛くて強いのは確かですね。
「……」
「…あー、その様子じゃあ本当に封印解けちゃったんだね。
本当は封印が解けるのはもう少し後だと思ったんだけど、色々ウルの身体弄ってたらうっかり記憶系の封印に負荷がかかりすぎて解けちゃった…みたいな?」
てへ、と語尾と共に可愛らしくポージングしていますが、あざとすぎて逆にイラッときます。
人の神経逆撫でにするのが得意なだけあってか、的確過ぎて眩暈がしてきそうですよ。
「可愛く誤魔化してもダメです、全能云々を謳っているのならもう少し出来のいい封印をしてくださいよ、今更すぎますが」
「まあいいじゃんそんなの、解けちゃったのは仕方ないってことで。
それより見てたよ、ネズミちゃん大行進っ!!
いや、大侵攻かな?
どっちにしろ対処が困るよねえ、国の9割が森とか超めんどくさくない?」
やはり、そういう事でしたか。
渡りに船とはこの事ですね。
「2割だね」
「というと…被害の限度ですか?」
「うん、2割を超えるとあの森どころか大陸の魔力バランスが一気に崩れる。
ウルはどうにかしてあのネズミと…それを操っているのをブチ殺して、尚且つ被害を2割以内に収めないといけないのだっ!!」
さらっと重要事項が流れていますが、事実大陸の魔力バランスが崩れると、相乗効果で生態系にも影響が及ぶので、色々考えないといけませんね。
「無茶言いますねホント…焼く以外で対処が出来ないから困っているのに」
「じゃあ沈めればいいじゃん?」
と、何ともなしに策を出されたデュケイン様。
え、沈める?
「ああ、精確に言うと埋めるんだよ。
森の肥料にもなるし、一石二鳥だよねっ!!
みんなの考えの及ばない策を閃くだなんて、さすが僕っ!!」
埋めるだけなので森への被害も少なく、感染症の予防も埋めているので問題なく、私一人でやるだろうからほかの冒険者たちも怪我もなく済ませられますね。
問題があるとすれば、エーヴァやミネルヴァ王女の手柄に出来ない位です。
「いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?
齧られるよりマシじゃん、適当に風の結界とかして神木守っとけばそれで十分じゃない?」
と更に良いアイディアを…これで行くしかないと感じてしまった以上、こうしてはいられませんね。
「さすがですねデュケイン様、色々と手間が省けそうです」
「そ、じゃあ封印の方はそれで…」
「それはそれ、これはこれです。
次回に持ち越しにしましょう、その時ゆっくりとお話ししましょうね?」
「ちっ」
舌打ちなんてしないでくださいよ目の前で。
というか神様がそんな事しているなんてある意味悲しいです。
「べーっだっ!!
ウルなんてネズミに耳と腕と脚齧られてダルマになっちゃえっ!!」
とんだ捨て台詞です、18禁指定直行ですねそんな場面が出たら。
意識が薄れるなか、何故かデュケイン様が悲しそうな顔をしていましたが、何かあったのでしょうか?
読んで戴き誠にありがとうございました。
はい、いろいろ冒頭からぶっ飛んだ状況でしたね、桁のおかしな数とか。
そしてネズミ対策、実際殺鼠剤あってもすぐに対処出来ないですよね、あったら楽だと思いますが。
そしてデュケイン様が策を授けていただきましたっ!!
なんと生き埋めにしろダナンテ…さすがウル君のお師匠、容赦ねえっ!!
さて次回予告。
次回、『ネズミと猫の関係』です。
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