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ハイル 救いの物語  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第4章 追憶と逡巡の代行者編
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第044話 嫌いなもの、黒いモゾモゾ

誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。

 


「…修行中に封印を解くだなんて、一体何を考えているのですか?」


 封印を解かれた副作用なのか、酷い頭痛に襲われているが目の前の魔神に憎まれ口の一つは言わないと気が済まなかった。


「何って、保険だよ保険。

 器を入れ替えた上に記憶の封印、核の強化と性能の引き上げ、その他諸々術式をお前に刻み込んだけど、どこで失敗があるか分からない。

 それに、たった7日間で強くなれるだなんてたかが知れてるに決まっているでしょ?

 それを補足するためにお前を呼び戻したんだ。

 いざとなった時、経験が足りなくて性能高いのにやられるとかいう残念な結果を出さないために、これから時間を限界まで引き延ばしてお前を鍛える」


 確かに、1週間で強くなるなど土台無理な話である。


 私はコミックスや小説の中に生きている主人公たちではない。


 戦闘に特化した存在でない以上、強くなるのに際限などかけてはいられないのだ。


「…それにしても、なぜ私に会得出来る(・・・・・)筈のない(・・・・)魔法が使えるのですか?」


 本来『視る』事にしか存在できなかった私に、このような技術必要が無いはず。


 四大属性にその他多くの属性を感知した私がその異常に気付かない訳がなかった。


 一つの属性しか持ち得なかった存在である私の異常事態。


 原因は、どう考えても目の前の目人に他ならない。


「何故って、バリエーションが多い方が応用の幅が広がるからに決まっているじゃない。

【空間属性】はお前たち専用の能力だけど、あれってまさに応用の一つも出来たらあっという間にチートの権化まっしぐらだよ?

 以前は僕もザコい敵ブッコロすのに【空間切断】とかで楽してたからすっごく分かる。

 あれは絶望的につまらない(・・・・)

 故に、それと引き換えに大抵の魔法を使えるという対価にお前と一緒に完全封印した」


 はぁ、と溜息をつく魔神だが、その仕草をするのは本来私のはずである。


 自分の都合で弄られて、楽しい気でいられるほどお気楽ではないのだが…『今』の私は一体どう対応しているのだろうか、心配である。


「…という事は、私が目覚めたら他の魔法は使えずに【空間属性】限定の魔法使いになるという事ですか?」


「まっさか、お前が目覚めても別に何も変わらないさ。

 一緒にとは言ったけど、別個に封印式はしてあるから。

 魔法に関しては、記憶を取り戻したお前が使用する魔法全ての権限を放棄した際に戻ってくることにしてある、はは、まるで物語の主人公が『これしか方法がないんだっ』的な展開が体験出来るんだ。

 機会があれば一度はやってみたくなるんじゃないかな?」


「パターン的にそれ私が死ぬ確率高くないです?」


「何故か生きちゃって感動の再会の確率も高いよね?」


「…」


「…」


「…もういいです、それより修行に移りましょう。

 あなたと話してると本当に疲れる」


「それじゃあ御期待に応えてみましょうか。

 頑張りなよ『   』、どうしようもない時、お前は絶対に出ざるを得ないんだからね」


 まるで未来を見透かしたかのような魔神の言葉に、私は嫌な予感しか浮かんでこない。


 7日間で不足だった経験を、私は限界まで肉体を酷使させられた。


 最後の一日を100年に引き伸ばしたという荒業をやってのけた魔神もまた、随分と疲れていたようだ。


 ともあれ、これで私の願いが叶うのなら、100年くらい安いものである。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…もう、色々疲れました」


「戦闘中にナニ物騒な言葉吐いてるんですか先生っ!?

 援護してくださいよ、後衛2人は別の歪で忙しいんですからっ!!」


 時間が経つごとに記憶が呼び戻されてきて、戦闘中にもかかわらず酷い頭痛が襲ってきている。


 主にデュケインとの関係と100年のまさに地獄といってもいいくらいの修行っぷりに思わず、100年も寝ずに鍛えたらそりゃ強くなる、というものであった。


 記憶が呼び戻されてきたせいか、ロクな思い出しか返って来て鬱になっているのではと思うくらいに精神が薄弱としていた。


「嗚呼、どっと疲れてきました、そろそろ眠ってもいいですか?」


「昼寝してたら食べられちゃうでしょうっ!?

 ていうか援護、援護要請ですってばっ!!

 え、え、え、エマージェーシーってやつですよっ!!」


 リオンが歪との戦闘中ウルは動こうとせず、一足先に歪を倒してきていたジュリーとエーヴァがリオンの援護に回るのだった。


 途中からリオンも歪と一緒に魔法で追いかけられていたが。


「…はーい、お疲れ~リオン。

 走り込み頑張ってたね」


「いやいやいや、最後ジュリーたち歪じゃなくて僕追いかけてたよねっ!?

 焼いて切り刻むの(あっち)で僕助ける方だよっ!!」


 ジュリーが火球を複数放ったり、風系統の得意なジュリーが見えない風の刃で鎧をかすめたりと、背筋が凍る思いを途中からしているリオンとしては、納得いくものではないだろう。


「あら、あたくしとしたことが、制御が甘くなってしまったようで…困りましたわ」


「あたしも先生が項垂れてるから度々視線外しちゃって…目立つリオンの方に照準いっちゃうんだよね~」


 反省する気0な2人なのだった。


 いつもならここでウル辺りが説教を始めるのだろうが、何故かぼうっとしているウルからはあまり反応がない。


「…どうしてあのバカ魔神、大方神王様(マスター)に褒めてもらいたいとかいう理由で受けたんでしょうねえ。

 戦闘なんかに特化していないのにあの100年と7日間の地獄の猛特訓に耐えられて、最後の1日は余ったとか言ってのんびり話し込んでいたと勘違いしていたとか、しかも経験だけ積んでいるからタチ悪いくらいに強くなっているし…なんなんですかあの悪魔はっ!!

 いや、悪魔だなんて生温い、魔王ですよあの眼帯ドSめ…」


「…なんかさ、先生の性格変わってない?

 前から残念だったんだけど、なんていうか今回はさらに凄いというか…暗いね」


「あ、あたし似たような人見たことあるわ。

 リオンのお父さんがシュトルンガルドにいた時、政務に追われて肉体と精神が限界近くまで困憊していた時の呪詛みたいな口ぶりにそっくり」


 ジュリーの父であるグリフィスがシュトルンガルド王エドワードの政務が滞っていることに業を煮やしている場面を偶然知ってしまった時のことをジュリーは言っているのだが、今回は状況が少し違うだろう。


 エドワードの場合は自業自得だが、ウルの場合は100%相手側の所為でここまで落ち込んでしまっているのである。


「…3人とも、すいませんが休みたいので一度1人にしてくれませんか?

 帰って来るまでには落ち着きますから」


「いま目を離したら首でも括ってそうな位暗いんだけど」


 と直球で返したジュリーに、さらに項垂れるウル。


「…ちょっとエーヴァ、あたしたち見回りしてくるから、先生見といてくれない?」


「あ、あたくしがですのっ!?」


 突然指名されたエーヴァが慌てるが、本人としては願ったり叶ったりという所だろう。


 とはいえ、会話のほとんどが戦闘に関したものばかりで、仲間としては信用され始められて入るが、それ以外ではろくに会話などしたことがない2人を残して、一体どうすればいいのか。


 嬉しいのだが、突然過ぎてどのような話をすればいいのか、リオンとジュリーが行ってしまって、残されたエーヴァは暗い空気を発生させ続けているウルにどう声をかければいいのか、分からずにいた。


 姉のミネルヴァならこういった場合どうするのかというと、『嫌いなモノの話をすれば意外と長く話せるのよ、それからは流れに任せなさい』というの言葉を思い出し、いざ声をかけようとした。


「あ…その、う、ウル、ちょっとよろしいかしら?」


「…なんです?」


 不機嫌そうに口を開くウルに思わず後ずさりたくなったエーヴァだが、何とか会話を続けようとした。


「ウルは嫌いなモノってありませんの?」


「…脈絡もなくいきなりなんです、その質問は?」


「質問を質問で返さないでよっ!!

 …ひ、暇だからちょっと話がしたかったからで、あなたが心配だからとか、そういうのじゃなくて…その」


 エーヴァの意図が分かったのか、仕方ないという感じでウルは話に乗ってきた。


「嫌いなモノですか…そうですね…ん?」


「どうかしたの?」


「いえ…あの黒いのはなんでしょう?

 何やらだんだんと近づいてきているような…?」


 落ち込んでいても、戦闘に関して100年の長のあるウルである、気配を察知する技能も持ち合わせていて、どんな異変も逃したりはしない。


 ウルが見たもの、それは、何やら黒い小さな集団が遅い速度ではあるがだんだんとウルたちに近づいてきているのである。


 強そうには見えない、しかし、何やら嫌な造形をした存在のように感じられた。


 一体どれだけの足音なのか、辺りの雑音を掻き消すほどの音で、ウルはその戦闘をじっくり見て、そして確信した。


「嫌いなモノ…そうですね。

 黒くて小さくて、耳障りな鳴き声をするアレが嫌いでしょうか」


「え…それって?」


 エーヴァはウルが見つめている方向に顔を向けた。


 そう、毛色は黒く、耳は小さく、尻尾は体長よりはるかに長い。


 極め付けは目で、歪特有の紅い目をしていた。


 冒険者ならば誰もが一度は見たことがある歪だろう。


 モルドラット。


 それが数え切れない位いたのである。


「き、きゃっ―――!?」


「悲鳴上げてるヒマがあるなら走りなさいっ、『氷茨の(ヴォンエイス)っ!!』」


 視界を塞ぐ形でウルが魔法を放った。


 大気中から氷の茨が形成されていき、網を幾重にも張り巡らせてモルドラットの進行を阻んだ。


 しかし、大量のモルドラットの質量と数に、網の抜け目から侵入しようとするモルドラットも現れる。


 横からも溢れはじめて出てきている辺り、異常な数のモルドラットがいる事は確実だろう。


 再度魔力を込めて氷の茨を放ち続け、網というよりは壁を形成して段階でようやく治まった。


 しかし、壁の向こうからはガリガリという音が絶え間なく聞こえてきている、モルドラットが茨の壁を削り抜けようとしている事は見て取れた。


 エーヴァは悲鳴を飲み込んで急いでリオンたちの元へ向かって走っている。


「先生、急いで一旦ギルドに親睦に戻りましょうっ!!

 対策取らないとこれはまずいですっ!!」


「落ち込むのはその後でゆっくりしていいから、急いでよせんせいっ!!」


 リオンとジュリーがウルを困らせるような言葉をかけてきていたが、苦笑する程度で気持ちが楽になっていることに気付き、内心感謝していた。


「(頼りにされていると実感できている辺り、少しは救われた気分になれました。

 ありがとう、3人とも)」


 言葉にはしない、この想いは後日形にして返すべきだろうと、そう思ったウルなのであった。


 後方では、ウルの思いを無視した侵攻が着実に実を為そうとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…参ったな、封印が解けっちゃった。

 口悪くなってそうだなあ…封印前のウルってすっごく口悪かったんだよねえ、ふてぶてしかったし」


 とぼやいているのは暇を持て余している魔神(デュケイン)であった。


 隣で見ていたバルからしてみれば、どっちもどっちだという視線を送っていたが、そんなことは例え耳にしても聞こえないだろう。


「とはいえ、あれだけの無茶な術式を刻み込んでいたのだ、リミッターの方まで被害が及ばなくてよかったと言えよう…(けい)の軽率さにはほとほと呆れるが」


「…新密度が下がった気にさせないでよその『卿』って言い方っ!!

 っていうか、シャレ面白くないよ?」


「いつ私が卿と仲良くなった!?

 心外にも程があるっ!!」


「全否定とか酷いっ!!

 僕悲しいっ!!」


 わっと泣く仕草をワザとらしくするデュケインに、バルの端正な顔に余り相応しくない皺が寄った。


 神器を召喚して躊躇なく照準をデュケインに向ける。


「…()っていいか?」


「あ、それ勘弁、ホーミング性能付の神器とか弱っている僕と相性悪いから」


 いきなり真面目な話に戻ったのか、神器を取り出したバルからすれば舌打ちしたい気持ちにさせられて後方で待機している使い魔5ははらはらして状況を見守っていた。


「近い内『管理者の間(ここ)』でかなりの戦闘が起きるから、僕はこっちにいる。

 バルは手を出さずにいてよ、感動の再会としゃれ込みたいからね」


「…何か視たのか?」


 ほぼ全能と謳うデュケインがにやついた顔を引っ込ませてここまで鬼気迫っている雰囲気を見ると、余程の事態なのだろうとバルは察した。


 かつての『戦神(かれ)』を見ているようで、あまり嬉しい気分にはさせられなかったが。


「好きにすると言い、元よりこの件は私の手に余る。

 卿の仕事なのだ、卿が片付けると良い」


 といって、バルはいつも通り調理を始めていた。


 デュケインの使い魔達のいる教国も現在は面倒事がきていて任したままの状態である。


 何者かが『観察者』にちょっかいをかけ始めようとしている辺り、物騒でいて即座に処理したいが、こちらの未来の方が重要度は遥かにマシだろうと判断したデュケインは、一度この『管理者の間』に戻ってきた。


「…さーて、手掛かりがようやく自分の足で来ようとしているんだ。

 ちゃんと来ないとぐれちゃうぞ?」


 そう嘯く魔神の顔は、いつもと違い鬼気迫るものであった。



読んで戴き誠にありがとうございました。

久しぶりのデュケイン様の登場でしたね。

色々と昔から何かやっていたようで、ウル君との関係が怪しまれます。

とはいえ、100年も鍛えればそりゃ強くもなりますよねって話で。

実は100年以上鍛えてましたという何とも都合のいい…。

まあ、本編も少しずつ動き始めています、次回もお楽しみにっ!!

さて次回予告。

次回、『殺鼠剤ありませんか?』です。

ではでは皆様、また次回まで。

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