第042話 代行者は見た、王室の意外な顔
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
デュケイン様御休み回です。
「…おやおや、久しぶりに来てみたけど、やっぱりそのザマか。
『 』、お前あれから2000年以上失敗をし続けているのかい?
最初の一、二回ならともかく、これ以上はさすがに核の方が歪みそうなんだけど。
…まあ正直なとこ、もうすぐあの方も起きるだろうし、もうお前の事なんて必要なくなったんだけどね」
久しぶりに会ったソレは相変わらず同じ姿をしていて、一方的に契約を解消してしまった。
一方的だという事で、契約後の身の振りを今まで通りにして欲しいというと、不思議そうな顔をしながらも受け入れてくれた。
「…もしかしたら、今のまま…ううん、これ以上酷くなったらあの方に会えるかもしれないなあ。
ふふ、その時は願いをもう一度だけ聞いてくれるかもしれないから、考えておくんだね」
そう言って、あの魔神は消えていった。
残された私には、いつもと変わらない、苦痛に満ちた世界が迎えにやってきていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…それにしても、こんなに都合よく王族層へ来れたのは重畳というものですね、これも私の日頃の行いの成果というものなのでしょうか」
と、呑気に紅茶を飲んでいるウルに、胸焼けをしたような反応を見せたリオンとジュリーがウルに冷たく当たる。
「悪行三昧と思い込みの激しい先生が日頃の行いっていうのはちょっと問題発言ですよ…?」
「そうよねえ、私たちもフォローできる事と出来ない事があるっていうか…ねえ?」
「…おや、ここには猫もいるんですね。
この世界では初ネコですよ、どの世界もネコは可愛いですねえ、毛並みがふわふわで和みます」
「にゃ~あっ!」
「「最近スルーっぷりに拍車がかかって来てるなあ」」
と応接室でネコの腹を撫でながら和んでいる3人は、呼びだした第一王女ミネルヴァが来るまでゆっくりと待っていた。
神木ディーヴァには3つの層で構成されていて、共有層・平民層・王族層となっており、高層に当たる王族層から見る外は壮観である。
エルフ族自体の総人口が約3万5000、その3分の1が他国に散らばって生きているそうで、諸外国にいるエルフ族は総じて実力者揃いらしい。
「…ようやく来ますか、さてさて、鬼が出るか邪が出るか」
「…もうとっくにいるんですけどねえ」
「リオン、ここから紐ナシダイブ敢行しましょうか?(訳:飛び降りますか?)」
「先生は完璧ですっ!!」
と漫才をする暇さえでき始めていて、応接室が少し騒がしくなり始めた頃、彼女たちがやってきた。
エーヴァは青を基調としたドレスを着ており、以前は付けていなかったイヤリングやティアラなどをしていて、冒険者だった時の面持ちとは違い、まるで別人のようである。
スタイリッシュなドレスを着こなしているエーヴァは、しなやかでいて凛とした雰囲気を醸し出していた。
ミネルヴァはエーヴァと違いややおっとりした顔立ちをしていて、どちらかというとミネルヴァの方が妹に見えてしまうほど童顔である。
こちらは緑を基調としたドレスを着ており、胸元の開いたデザインは男性が一度は視線を向けてしまうのではないかと思うほどに魅惑的である。
対してウルは見向きもせず、リオンは一瞬固まってしまったが、リオンの反応が男としては至極当たり前の行動だが、隣に座っているジュリーがすごい形相で睨んできていたため、すぐに我に返るのであった。
そしてさらに2人エルフ族の剣士が2人入ってきたが、こちらは護衛としてだろう。
双子なのか、腰には双剣が装備しており、いつでも臨戦態勢をとれる状態を保っているようなのだが、殺気立っているせいかあまり楽しくお茶会という訳にもいかないようである。
見た目からして真面目そうな空気を発していて、粗相をすると声を上げて怒鳴るか睨むかのどちらかをしそうなのが予測できた。
「遅れてしまってごめんなさいね、護衛はいらないと言ったのですけどディルが聞いてくれなくて」
「……」
ミネルヴァが入って来て早々謝罪の言葉を口にしてか、ディルと言われて反応した真面目そうなエルフの眉間に皺が寄った。
総じて容姿端麗なエルフ族はその仕草一つ一つも様になる物で、不機嫌そうな表情をしていても似合っていて、まるで他人事のようにウルは気にしないと言って手を振った。
「お気になさらずミネルヴァ様、護衛の方も素性の怪しいものと食事すると言われて護衛も無しに済ませられる問題でもないのは分かっております。
…それにしても、護衛の方は中々に実力がありそうですね、リオンとジュリーの2人がかりでも1人倒せるのか怪しいものです」
私がやれば瞬殺ですが、という軽口はさすがのウルも口には出さなかった。
今回はアヴァロンの時のような強硬手段に出る必要のない、流れ作業といってもいい次第なのである。
わざわざ不興を買ってまでケンカ腰になる必要はなく、エーヴァと会った時の様に暴力的な発言は控えるべきだという事はわきまえていた。
「ディルとライナはエルフ族の中でも最も優秀な7人の戦士で、戦になれば国の戦士たちを束ねる将軍としての役割を持っているのですの。
とはいっても、普段はあたくしたち王族の護衛なのだけどね」
借りてきた猫のように大人しかったエーヴァがようやく口を開いたのだが、少しばかり顔が赤い。
ウルと目が合うと、さらに顔が赤くなったのか、俯いてしまってまた黙ってしまった。
「……?」
首を傾げるウルであったが、エーヴァの様子がおかしいとは気付いたが、それが何を起因としているのかまでは分かっていなかった。
「紅茶のおかわりを持ってきたので、入れて差し上げますわ。
…さあ、どうぞ?」
紅茶は先ほど飲んでいたカップに注がれたのだが、前の紅茶とは違ってか、なにやら黒い色をしていた。
「…前のものとは違いますね、別種ですか?」
黒い紅茶というものをこれまで見たことの無かったウルの脳裏に嫌な予感が走り、それに追い打ちをするかのように黒い湯気が吹き上がった。
「ええそうなの、様々な薬草をブレンドしたとっても健康にいい紅茶なのですのよ。
ちょっと苦みがあるから、一口飲んだ後にこちらの薬膳ジャムを口に含まなければならないのだけど…こちらもおいしいから大丈夫だと思いますわ」
実に頼もしいお言葉である。
毒殺でもする気かと疑ったウルであったのだが、あまりにも明け透けなので、これが彼女たちにとっての普通なのだと感じた。
ウルがディルとライトの方へ顔を向けると、2人は首を振って諦めろと言った表情をしていて、嫌な予感が的中したのだと確信した。
ウルはミネルヴァの言う所の『様々』という中に、一体どれだけの効能ある薬草やハーブをぶち込んだのか聞きたくなったのだが、聞いても聞かなくてもどの道後悔しそうだったので諦める事にした。
「…人間と言わず、種を問わず諦めは肝心ですね」
ロシアン形式といえばいいのか、ウルは殺人的な臭いと暴虐的な視覚効果をもたらしている一杯の紅茶を手に取った。
弟子2人は本能的に目の前の紅茶が危険だと分かっているのか、硬い笑顔をしたまま固まっている。
エーヴァはこの状況に危機感を感じていないのかとウルは見つめるのだが、特に気にした様子もなく、平然と殺人紅茶を飲んでいた。
やはり苦いと思ったのか、真っ黒な薬膳ジャムも一口ぱくりとスプーンですくって食べているが、おかしな様子もなく平然としている。
その様子を見て少し安心してしまったのか、少しだけ警戒を緩めながらも慎重に最初の一口を含むと、舌に乗せた。
瞬間、後ろから鈍器で殴られたかのような衝撃を受け、ウルの意識が飛びそうになった。
初めての感覚で混乱しているが、どうにか粗相だけはせずに済んだようである。
「―――っ!?」
「…あら、どうかなされたの?」
ミネルヴァが不思議そうな顔をして、本当に不思議そうな顔をしていた。
「…せ、先生…だ、だいじょうぶ?」
ジュリーが小声で心配そうな声を上げていたのだが、ちいさく笑って大丈夫だと返すが、どう見ても大丈夫という顔ではない。
まるで重篤患者が無理をして家族に笑顔を向けるようなもので、見ていてとても痛々しく感じられる光景である。
「…ええ、こんな歴史を変えるような味を堪能出来て大変光栄です。
様々な薬草が織り成す重厚でいて深い、まるでこの国を表したかのような素晴らしい紅茶です…ああ、ジャムも戴くのでしたね、いただきます…くぅっ!?
…嗚呼、これもまた素晴らしい、長い時間をかけて熟成してきたのか、まろやかでいて舌に歴史の重みが…はっ!?
失礼、あまりのおいしさに気が遠くなってしまいました」
途中から紅茶にかける評価とは思えないほどの言葉のかけようで、リオンの顔が引き攣っている。
ジュリーも、師であるウルをここまで豹変する事態に、目の前の紅茶を絶対に口にしたくないと切に思った。
とはいえ、出されたものに一口も口に付けなかったことは礼儀に反する事であり、最終的には絶対に一口だけは飲まなくてはならない。
ウルのように、無理をしてまで飲み干す必要はないのである。
「そうそう、ウルさんにちょっとお願いがあるのだけれど、構わないかしら?」
紅茶を堪能したのか、落ち着いてきたのかミネルヴァがようやく本題に入ってきた。
エーヴァの様子もよそよそしくなり始めているのだが、アルコールを摂取したわけでもないのに酩酊し始めたウルには気を使っている余裕もない。
「私に出来る範囲で叶えられるのでしたら、なんなりと申しつけてください(…装備している毒耐性の魔法でも解毒できないとなると、本当にこの紅茶の成分には薬効しかないのですか…この世界に来て初めての脅威が紅茶とは…恐ろしいですね)」
「ええ、少しのだけでいいので、あなたのチームにエーヴァを移籍させてほしいの」
「お、お願いしますわっ!!」
ミネルヴァがそういうと、エーヴァがいきなり立ち上がって90度に頭を下げた。
「最近、神木の周りでも危険な歪が頻繁に出没する話を聞いて、エーヴァや戦士たちも頑張ってくださっているのだけれど…あまり成果が上がっていなくて困っていましたの」
とそこへ来たのがウルたちであるそうだ。
先日ゼルクチェンを3体討伐したという話はすでに冒険者ギルドから他の階層の駆け巡っており、神木内ではちょっとしたヒーロー扱いをされているそうなのである。
とそこで面白くないのが王族達や国を運営する者たちで、余所者が手柄を獲ったというのにはあまりに面白くないらしく、どうせなら同じ冒険者として名のあるエーヴァを入れて名声を高める、という事を画策したらしいのである。
「…それは、私たちに話すとマズイ話な気がするのですが?」
ふらついてはいるが危険域にまで達していないので平然そうに見えるウルが口を開いたのだが、紅茶の方に視線を向けるとあの時の衝撃がフラッシュバックしてか、再び視界が明滅して酷い事になっている。
「まあダメなんでしょうけど…最近エーヴァも今のチームが不満なわけじゃないらしいのだけれど、心を一新して目標にがんばりたいというか…まあそういった思惑無しであなた達と居たいらしいのですのよ」
「あ、あたくしの主要武器は弓ですの。
魔法は風と水の二重属性で、どちらもランク黒に相応しい技量を持っていますわ」
というミネルヴァとエーヴァの言葉を受け、どうするかと弟子2人に聞くウル。
「僕はかまいませんよ?
ジュリーが後方にいてくれて援護は嬉しいけど、いざとなった時フォローできる後衛も欲しかったところですし」
「リオンに言われるのは癪だけど、非常時の時に3人ってちょっと心許ないし、あたしは頼もしい後衛が増えていいと思うわ。
前衛のリオンに中衛の先生、後衛にあたしとエーヴァ王女様が加わればかなり理想的じゃないかしら?」
とのことで、反対する者はいなくなった。
「…まあ、お聞きの通りで、受け入れましょうか。
別にそちらの思惑込みでも構いませんよ、私たち別に名声に興味ありませんし」
「そ、それでしたら…よろしくお願いしますわ。
それでは、新しいチームを祝して」
そういうと、エーヴァがウルの殻だったカップに混沌とした紅茶を並々と注いだ。
「紅茶ですが乾杯といたしましょう」
「…オウ、ジーザス」
思わずそんな言葉が口に出たウルであったが、本心だったろう。
意味を知らない者たちは首を傾げたが、ウルは気にせずに笑顔を保ったままである。
「いえ、なんでも…それでは、乾杯」
2杯目の紅茶を飲んで、ウルの意識はそこで途切れた。
次に起きた時、いつの間にか宿屋に泊っていたウルは酒を飲んでいないのに二日酔いのような現象に襲われ、あんな劇薬物を普段から飲んでいる王族2人に脅威を感じるのであった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
さらに言いますと、このお話サブサブタイトルがございまして。
『君の紅茶で困憊』という何ともひねれていないタイトルが。
殺人的な味のする紅茶を普段から飲んでいるってすごいですね、これがエルフ族の美の秘訣!? みたいな?
…と、まあ冗談はさておき、一時的にエーヴァ王女さんがウルのチームに移籍です。
さて次回予告。
次回、『蔓延る異変』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




