第041話 剣と魔法と王女様
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
デュケイン様御休みです。
「お前が『 』かい?
色々と詰まっているくせに随分と空っぽだねまた」
ソレは私に初めて気づいた存在だった。
何やら一方的に話を進めてきて、私にある契約を持ち込んできたのである。
「『独り』が詰まらないんでしょ?
僕のお願いを叶えてくれるのなら、独りぼっちじゃ無くしてあげる。
とはいえ、第一歩の方法を教えてあげるだけだから、あとは自分次第だけどね?」
ソレは酷く壊れた笑みで私に語りかけてくる。
今まで見た存在の中で、飛び切り壊れたソレの差し出された手を、
「…お願いします」
弱々しくも、掴み取った。
初めて誰かに触れたことは嬉しかったが、手に取った手は酷く冷たかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
剣が砕ける音がした。
ウルが音の下方向を見ると、上位の歪と戦闘をしているリオンの剣が中ほどから折れてしまっていたのである。
神木ディーヴァへ着き、エルフ族たちからの冷たい視線の洗礼を受けた後、ウルたちは依頼をいくつかとる事にした。
ディーヴァ付近の森を荒らしている上位の歪が近頃出没しているらしく、住民たちの一部が怯えているらしい。
高額な報酬なため何人かの冒険者が受けたのだが、全て返り討ちにあい誰一人として帰って来ていなかった。
ウルはその事態に乗じて信用を得るための足掛かりとして利用しようと考え、早速その依頼を受けたのである。
弟子2人が白い目で師を見ていたが、お互いの利益になるという点に変わりないため、何も言わなかったが。
最近この2人、ウルに対して態度が冷たくなってきているという。
「せんせいっ、剣が壊れましたっ!!
一旦離脱しますよっ!?」
リオンが声を上げると、ウルがこのまま歪を引き付けろと無茶な指示を下した。
「逃げたらリオンを追いかけるでしょう、なるべく私たちの視界で逃げ回りなさい。
『氷雪を彼方に 天嵐よ在れ 嵐氷渦巻く斬華っ!!』
…ジュリー、私はいいのでリオンの補助に回りなさい」
「…先生って最近更にトンデモなさっぷりに拍車がかかって来てるわねえ」
呑気な割に殺伐とした状況なウルに対して、ジュリーがぼやいている。
ウルの魔法が上位歪ゼルクチェンの全身を覆い、瞬く間に血ダルマへと変えた。
ゼルクチェンの巨体が大きな音を立てて横に倒れ込み、二度と立ち上がる事は無かった。
氷系統と風系統を同時に操る高等技術を会話を交えながらしている様は一見簡単そうに見えるが、ただでさえ違う属性を同時に操るのは熟練の魔法使いでも早々出来る者ではない。
『料理していたらちょうど思いついたんです』、とまるで日常会話に魔法を混ぜているウルだが、本人は至極真面目である。
とはいえ、相性の良い属性同士であれば比較的簡単とウルは言っているが、相性の悪い地系統と風系統を操るとなると、難易度はケタ違いに跳ね上がるのだ。
単一の属性しか持っていないジュリーからすればあまり参考に出来ない話ではあるが。
「ジュリーっ、あのデカ蛇牽制してくれっ!!
足無いのにすっごく早いっ!!」
ゼルクチェンはいわゆる大蛇種で、そこらの樹木より二回りほど大きくしなやかで頑丈、そしてその身にそぐわないほどの速度を有しており、上位ランカーの冒険者でも手を焼く歪である。
それがなぜか群れで行動しているという異常事態だ、戦闘を行っていて、ウルは報酬と見合わないとぼやいたものである。
リオンの言う通り、足もないのに獣人族並に早い力が一体どこにあるのか、まったく不思議なものである。
「はいはーい、横っ腹に一発かますわね~。
『大火乗じて焔と為す 煉爆ぜりしは塵と為せ 爆焔咲き狂う煉華っ!!』」
詠唱を終えたと同時にリオンが全力でゼルクチェンから離脱した。
『爆焔咲き狂う煉華』がゼルクチェンの全身に爆発が生じた。
横っ腹どころか全身を芯まで焦がすほどの熱量である、牽制のつもりで使ったつもりだったが不意を突かれたせいか、ゼルクチェンはもうピクリとも動いていない。
周りの木に少し引火したが、ウルがすぐにフォローに回ってすぐに消し止められた。
国全体が森林地帯というステルヴィアで火を使う魔法は用途を厳格に定められており、他の同行者に水系統の魔法を使える魔法使いがいなければ単独での使用は禁止されている。
少し焦げてしまった樹木に同情しているウルだったが、既に戦闘でゼルクチェンが力づくで木々を倒してしまっていて、半径20メートルほど見晴らしがいい具合に禿げ上がっている。
「…ま、いっか」
特に反省の様子が見えないジュリーに鉄拳制裁を施すと、リオンに向き直った。
「あともう1匹いますが、先にリオンの剣の具合を確かめましょう。
リオン、壊れた剣を出しなさい」
「あ、はい…これです」
壊れた剣を渡され、様々な術式を施していた魔法剣が見事に壊れてしまっていた。
「これはまた…随分と無茶な使い方をしましたね、修復するより新しく造った方がよさそうです。
結界を張って、じっくり作っている時間は―――」
「―――――――――――っ!!」
と、残り1匹のゼルクチェンがウルたちを補足して突撃してきた。
上位歪と言えどあまり知能が発達しているようなタイプでないようで、力任せな一撃をするつもりなのだろう、確かにあの太い胴からの一撃は当たるととんでもない事になるのは周りの折れた木々を見て分かる通りだ。
「無いようですね、リオンとリオンは離れなさい。
結界を張っておくので大人しくしているんですよ?」
「「はーい」」
「……、『地硬く堅固な牢よ 時閉ざし永遠の牢獄へ 無間牢獄っ!!』」
呑気な返事をする弟子2人に若干の呆れを残し、地系統と時系統の魔法で作った入脱獄不可能な牢屋を造りだした。
「ちょっ、先生今牢って言ったでしょ牢って、結界じゃないじゃないのよっ!?」
「僕たち罪人じゃないですよ先生っ!?」
本来ならばもっとマシな詠唱があったのかもしれないが、この魔法はウルが創ったオリジナルの魔法である。
入る事も、出る事も不可能なこの牢屋ならば、万が一破壊される事は無い。
拠点にも併用出来たり、詠唱を少し変えれば移動も可能としているあたり、かなりの汎用性がある。
「大丈夫ですよ2人とも、その結界は私が生きている限り絶対に壊れませんから。
心配いりませんよ?」
「だから結界じゃないってのっ、無視すんなこらぁっ!!」
「ジュ、ジュリー、抑えて抑えてっ!!
…けど先生、ネーミングもうちょっと考えましょうよっ!?」
弟子たちの猛抗議もなんのその、風通しの為に作った鉄格子からは何も聞こえてこない。
今回使用したのは犯罪者用で、防音も兼ねているのである。
【破軍】を棒高跳びの要領で跳び上がると、軽やかにゼルクチェンの額に飛び乗ったのである。
どこの軽業師でも目を剥くような芸当からウルは懐から2本のナイフを取り出した。
シュトルンガルドで造った特製のナイフで、1本1本に強力な魔法がかけられている。
【束縛】、名の通り刺したり斬りつけた対象の動きを強制的に拘束し、暴れられないようにする。
刺したままの方がその対象を強く縛る事も可能で、【口封じ】とは違いこのナイフには殺傷能力がある。
【毒蛇】、刺した対象を致死量の毒を流し込み、声を上げる事も出来ずに絶命させる、ウルの作りだしたナイフの中で最も危険な作品である。
かすったりしただけでものた打ち回るほどの激痛が走り、その後に全身から血を撒き散らして最後には骨を残して溶けるという、呪いの逸品と言い換えてもいい。
その凶悪無比なナイフを、ウルはゼルクチェンの両目に差し込み、トドメとばかりに【破軍】で頭蓋を貫いた。
身動きすることすら出来ず、ゼルクチェンが悲鳴を上げた。
しかしすぐに全身から血を流し始めると、ウルはゼルクチェンから離れてその最期は無惨にも骨格標本張りの白い骨を残すのみとなった。
ゼルクチェンの肉は渋くて食べれたものじゃないとのことだったので、別段残念な様子は3人には無かったようである。
『無間牢獄』を解くと、ウルに駆け寄ってきたリオンとジュリーが相変わらずの猛抗議をしてきていたが、のれんに腕押しぬかに釘、全く意に介しないウルに歯噛みする2人なのだった。
「先生って色々と残念ですよね、色々と」
「先生って乙女心が分かっていないんだわ、きっとそうよ」
「傷一つなくて平和じゃありませんか、何が不満なのやらさっぱりです」
「「…はぁ」」
ウルが首を傾げる中、弟子2人は師の残念っぷりをどうにかしないといけないと奮起するのであった。
後日、不貞腐れている2人の為にウルが新しく武器を新調して気分を良くしているのに満足しているのだが、それはまた別の話である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…あらエーヴァ、どうなさったのそんな所で?」
「…姉上、実はですね」
神木ディーヴァでは、第一王女ミネルヴァと第二王女エーヴァが一室で話し込んでいた。
先日帰ってきたエーヴァの様子がおかしいと、侍女から聞いたミネルヴァが駆けつけてきたのである。
「…ふうん、よかったわねエーヴァ、それって―――」
「ちっちっち、違いますよ姉上っ!?
あの者は魔人族で、その、可愛くて強くて…」
慌てふためくエーヴァに、ミネルヴァがふふっと微笑むと妹の肩を掴んだ。
「任せておきなさいエーヴァ、その可愛い冒険者さんを呼んで食事としゃれ込みましょう」
やる事があるといきなり立ち上がると、止めようとするエーヴァを一人残し部屋から出て行った。
廊下を歩きながら、ミネルヴァは楽しそうに妹が頬を染めている相手がどれ程のものなのか待ち遠しく思うのであった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
戦闘回なので会話は少なめな感じで。
次回から少しちょっと王女様たちと楽しいことが始まります。
さて次回予告。
次回、『代行者は見た、王室の意外な顔』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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