第004話 腹が減ったら狩りですね
間に合いました、第4話にございます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
「…さて、体術の基礎は固まったところで『武術』に移ろうと思うんだけど、ウルはどんな武器がいいの?」
「強い武器がいいです」
真面目に返したつもりだったのですが、この反応は失敗のようでした。
笑顔で固定されたデュケイン様の御顔は理由不明のお仕置きで時間がずれる事態に。
「とお様の武器は全部強いのっ!!
…あと、防具に関しても用意してるから、とりあえず選んでよ」
白い空間の一ヶ所が切り取られると、その中から大量の武器や防具が零れだしてきました。
古今東西集めに集められた武器や防具は、全て神王のお手製らしい。
とはいえ、大量すぎて選ぶのには苦労しました。
適当に手前の武器を取ろうとすると、全部見てから選ぶようにと注文を受けたため、選ぶのだけでも時間を足られるとは。
小山から宝探しの如く掘り返していくと、装備一式が見事に揃った物が出てきました。
これ幸いとばかりに防具一式を決めて、あとは武器探しに奔走しました。
防具が中華系だったので、武器もそれにあった物が良いはずと考え、青竜刀や長刀を探すこと数十分。
理想の出会い(武器)がやってきました。
両手に選んだ装備を持っていくと、デュケイン様が呆れた顔をされています。
「…うっわ、これ選んだんだウル…まあいっか、別に問題ないし」
そういうと、持ってきた装備に何やら力を込めはじめるデュケイン様。
神殺しの力を込めるそうで、これがあればどれだけ例え神でも傷を負わせるというものだそうで。
「とりあえず、これは神殺し専用の武器にしておいたから。
あっちの世界に行っても、これで神とかその眷属以外を斬り殺すことは無理だからね?」
…なんでしょう、その言い方は。
別に、他の殺し方を聞いたわけではないのですが。
困った顔をしているようだった私に、意地悪そうな顔をするデュケイン様。
装備を身に着けると、体術を駆使しながら武術を始める私でした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
教皇庁から出てきて、ウルは人通りの多い場所へやってきた。
時間帯はどうやら昼のようで、市場では惣菜や服などを売っているバザーが賑わっていた。
昼食も売られているようで、簡易的な器に並々と載った料理は、ウルが空腹であったことを思い出させるのに十分な理由であった。
とはいえ、現在の路銀というものを持っていないウルには買うことができない。
こんな事なら、路銀をいくらか貰うべきでした…。
借り受けている十字架も、さすがに元手がないと使えません。
そう悩んでしまっていたところを、ウルの耳にすれ違った男たちの声が入ってきた。
「っはは、今回は大量だぜ、ギルドの評価にも色が付きそうなほどの大物だしよ…」
「まったくだ…シリア方面であんな穴場があるなんてな、間を空けてまた行こうぜ」
ギルド…大量…シリア方面…穴場…ふむ。
「そういえば、デュケイン様にこの世界はギルドという冒険者組織があると聞いてましたね」
全てに置いて自己責任で世界を渡る実力者たち。
相互扶助を根底に、情報収集・交換などを行う者たちの集まりのようだが、この世界ではあまり良い職業とは思われていないようだ。
何せ全てに置いて自己責任、失敗の大半を『死』で占めているこの職は、堅実に生きるなら商人として生きたいと思うはずである。
とはいえ、一人でどうにかすると言った手前、職に貴賤もありませんか。
路銀を稼ぐのに格好の手段を見つけて、ウルは近くにいた気の良さそうな老夫婦の商人にシリア方面がどこなのかを訊ねた。
「シリア方面かい?
それならこっからずーっとこの通りを抜けて行けば門があるから、そこからまっすぐ行くと分かれ道があってねえ…」
聞く相手は正解だったようですが、余計な話が多すぎですお婆さん。
お孫さんの誕生日は知りません。
情報を聞いて今度何か買いに来ると去っていくウルに、話し足りなさそうにしていた老夫婦だった。
十字架を見せて守衛に敬礼されるが、見向きもせずにウルは目的地であるシリア方面へ向かう。
分かれ道を見つけると、あまり整備されていない方へ針路をとったウルは一時間ほど黙々と歩き始めると、まるで隠すように塞がれている道を発見した。
実は他の道もあったようで、木々をどかしてみると別の道が現れた。
…もうすぐですかね。
そうしてウルはさらに歩いていき、二人組の男たちの話していただろう目的地にたどり着いた。
「…予想していたのは手頃に狩れそうな歪だとばかり思っていたのですが…これはこれでいいかもですね」
そこにあったのは薬草ばかりで、歪など一匹も見当たらない。
日当たりのよい崖は教国と元獣人の国とを偶然にも分け隔てているようで、眼下から見渡すとそこはまるで理想郷のように見えた。
生きていることを声高に表現した野鳥たちが飛び交う森林は、歪がいることを除けば生き物たちの楽園のようだった。
飛び降りれば歪の一匹や二匹楽にいるだろうが、空腹な所為かあまり気乗りしなかったウルである。
手当たり次第に積んでいき、種類と個数を均等に分けると、腰のバッグに入れていく。
このバッグ、どれだけ入れても重さの変わらないマジックアイテムで、ウルの身に着けている物は全てこういった特殊な物ばかりだ。
便利機能も多々付いており、持ち主から一定範囲離れると自動的に戻ってくるという防犯使用である。
その所為か、道具に頼りすぎている感の否めない事態に陥っているのに気付いたのは、当の渡したデュケインの方であったという。
危機管理能力が一般人以下といっていいほどの状態であったウルは、この時思わぬミスをしてしまった。
冒険者なら絶対に採取しないだろう薬草を摘んでしまったのである。
サメルン草、魔獣や歪といった凶暴な存在の好む臭いを持っているこの薬草は、摘まなければ何も問題ないのだが、摘んでしまった場合液胞を拡散し、一定範囲内にいるだろう生物を呼び寄せてしまうのである。
使われる手段としては大規模な討伐に際して使う事のみで、単独で使うのは自殺行為といわれていた。
そうとも気づかずに、先ほど同様種類と個数を均等に分けていくと、ようやく周りの空気が変わったことに気付いたウル。
「…おや?」
気付いてもどういう事態かよく分かっていないようだったが、事態の急変を告げる存在が目の前に現れたおかげで、一人納得するのだった。
「…初歪ですね、見た感じネズミ系の魔獣に憑りついたのでしょうか?」
現れたのは体長50センチ程の大きさをした黒々しいネズミだった。
丸い耳、とがった鼻先、長い尻尾といった特徴はどの世界でも同じようだったが、この世界のネズミはどうやら肉食のようである。
ウル(エサ)を見つけた所為か興奮しているネズミは慎重にウルに近づいていき、飛びかかる寸前だったのだが、先手を打たれた。
「そんなつぶらな瞳で見つめないでください、潰したくなりますから」
素手で、というよりブーツを使って全力でウルはネズミの頭上に落とす。
痛みを感じる間もなく死んだネズミを見て、ウルはネズミよりブーツの心配をしていた。
「…汚れてしまいましたね…まあいいとしましょう、えてして衣服や靴といった物は汚れてしまうものですから」
命を奪ったという事に対してまるで躊躇しなかったウルは冒険者としてまず第一段階はクリアしていた。
特に今現在冒険者の主たる仕事内容というのは、歪討伐なのである。
元が魔獣であろうと何であろうと、生き物を狩るという事には変わりない。
それに、山賊退治などこの世界には吐いて捨てるほどあるのだから。
「…しかし、ネズミには菌がたくさんあると言いますし…どこが換金部位なんでしょうか」
尻尾などは弾力があるようだが、牙の方ではないかと思ってしまったウルは潰してしまった頭部を手袋越しに漁ってみる。
気持ちの悪い音を完全にシャットアウトしながらも、脱力感に襲われた。
頭部と一緒に、牙は粉々になってしまっていたのである。
「…もう少し気を付けないと、ご飯が食べられませんね。
次からは胴体を狙いましょう」
そう意気込んで、ウルはネズミの尻尾を根元から無理矢理引き千切るとバッグへ入れた。
そこへ、新たな闖入者たちがやってくる。
血の臭いと草の匂いに魅かれて、大型の歪こそいないものの、下位のありとあらゆる歪がウルを取り囲んだ。
「…これはこれは、団体さんでしたか。
ご飯のタネが増えたと喜ぶべきか、腹が余計に減ると嘆きべきか…悩みどころですね」
とぼけてみせるウルだが、この数をさすがに徒手空拳でやり過ごせるという事は考えていないようで、バッグからある物を取り出した。
三つの剣先を所持した武器を取りだすと、一斉に飛びかかって来る前に歪達に飛び込んでいく。
「…働いた後のご飯は美味しいと言いますし、もう少し働きますか」
反応の遅れた歪達を斬り倒しながらそうぽつりと呟くと、ウルはこの世界で最初の戦闘を開始した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
護衛任務を受けた枢機卿直属の隊員の一人であったオデットの得意とする風魔法『身隠す碧の風』はどうやら代行者に対して有効だった。
バザーを渡り歩いて何かに気付いたのか、証人と何か話すと一目散に首都ヘルツィカイトを出て行った。
アドルフ枢機卿が瞬時に破棄した任務であったが、直属部隊の権限には単独行動も含まれており、その権限を拡大解釈した一部の者が代表で隠密任務に適したオデットを指名したのだ。
為人を観察するという事が主な内容だったのだが、オデットは代行者の人物像というものが計れずにいた。
情報収集能力はあるのか、すれ違いざまに冒険者の話していた話を元にここへやって来て薬草を摘んで、ギルドで換金しようという事なのか。
実際に代行者は手当たり次第に薬草を種類ごとに摘んでいき、この辺りの薬草は当分生えてこないくらいに乱獲してしまっていた。
サメルン草を摘んだときは、思わずこの場から逃げ出したくはなったが、スティンクンが発動している以上何も問題はない。
運悪くも中位以上の歪が寄って来てしまっていて、よくもまあこれだけ歪が集まってきたというものだ。
その数約三十八、討伐するのなら確実にギルドランク上位の実力が無ければこの時点で彼の人生は終わる事だろう。
実力がある所為か慢心的な面があると判断した矢先に、何かを呟いたと同時に武器を片手に大量の歪に飛び込んでいくというのは如何なものなのか。
振るっている武器はオデットの見たことの無い形状だった。
槍のような刃、といえばいいのか。
剣先が三つに山のように分かれていて、円運動を基本に歪たちを蹂躙していく。
ここで気づいたのだが、あの武器で狩られていく歪は冒険者や騎士たちが倒していった歪とは違う現象を起こしていた。
倒された歪は魔獣の身体から抜け出してどこかへ消えていくが、代行者が倒した歪は魔獣の身体から抜け出すと、武器に取り込まれていったのである。
オデットが見たもの、それは、黒いもやとされる歪が代行者によって滅ぼされた決定的な瞬間であった。
惨劇となった崖は歪たちの死骸で散乱しており、乱獲した薬草も当分どころか年単位で生えてくるのか怪しい場所となり果てた。
適当に換金部位を切り取っていく代行者に、そこは討伐部位じゃない、とか、そこは高級部位なのに放っておくのかよ、と内心ツッコミを入れながら仕方なしに去っていく代行者の代わりに散乱している魔獣の死骸から本来の換金部位を切り取った。
くすねるつもりではない、ギルドへいって換金をする際、落とし物といって彼に渡せばどうにかなるはずだ。
オデットから見た代行者というのは、間の抜けた変わり者にしか映らなかったのである。
危機管理能力に問題ありと思われながらも、状況を瞬時に打開する手段を有している。
実力に関しては歪を単騎で約四十体を余裕で討伐できる実力。
歪を確実に滅ぼした、これは実際に視認。
報告書としては、これで十分だった。
読んでいただきありがとうございます。
代行者の実力がちょっとだけ見れましたが…まあこれは本格的に戦闘パートではございませんので。
採集中に魔獣と出遭うのは事故です、よって戦闘描写はすっごくかるめということで。
ではでは、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。
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オデット「あの~すいませ~ん」
ウル「どうかしましたかお姉さん?」
オデット「あの~さっき落し物がおちてまして~、もしかして坊やのかな~って思ったんだけど~」
ウル「ああ、これはご丁寧に、ありがとうございます…しまりの悪いバッグですねもう」
オデット「(…うわぁ、ほんと気づいてないよこの子)」
ウル「どうかしました?」
オデット「い、いいえ~、それじゃあ寝坊や、次からは部位は確認してばっぐにいれるのよ、じゃあね~」
ウル「……いっちゃった、ていうか、こんな森になんであんな軽装備?」
首をかしげるウルをよそに、予定通り渡したオデットは一目散に教皇庁へ戻っていった。




