第039話 徒歩と修行と勘違い
はい、始まりました第3章です。
番外編で活躍されたデュケイン様も、この章では少し席を度々外されます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
最初、私の記憶は『無』かった。
突然発生したとしか思えないような存在だった私は、現状を把握するため状況を観察し始める。
まずは自分の手を眺め、足がある事を確認し、深呼吸をしてようやく歩き出す。
肌を刺す寒気は私がきっと裸だからなのだと実感し、吐く息が白い事に気付いて今この辺りの土地は寒いのだと理解した。
葉っぱ一枚もない寒々しい大木の林を抜けると、そこには何一つない荒野が広がっていた。
生き物の臭いが全くしない、身体を突き刺す鋭い風が私を通り過ぎていくのを感じながら、ようやく私は空を見上げた。
夜闇の中、空に広がる星々が煌めいていて、広大でいてぞっとするほどの孤独感を味わされた。
空虚感しか感じない私が、初めて口にした言葉。
「わたしは…だれ?」
答える者はいない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リオンです、現在逃走中です。
何からかって?
現在進行形で不機嫌な先生からデス。
久しぶりに寝たせいで嫌な夢でも見たのか、先生が起きた時ちょっと怖いくらいに空気が淀んでました。
シュトルンガルドが復興を始めて数日後には国を出て、エルフの国ステルヴィアへ向かう予定です。
エルフ族は神木ディーヴァ内部に住んでいて、魔法に長けた種族だそうです。
かなりプライドが高いので、他種族と喧嘩すると後々尾を引くことが多いとよく聞きます。
不機嫌ながらも朝食を作ってくれた先生だったんですが、その後の訓練は以前と比べて単純になったけど危険度が10倍増しとなりました。
そう、先生が言うには『鬼ごっこ』と言われるこの訓練。
一度でも当たったら即アウトと言われたこの訓練は、ステルヴィアに向かいながら進行中です。
神器が当たっても切れないからいいけど、圧力関係は無効化されないから、ふっとばされたら一発でノックアウトという性質の悪い得物と、空間系統以外の多種多様な魔法が雨あられの如く降ってくる絶望的サバイバル。
曇り空も相まってどこの世紀末かと錯覚している状況です。
僕たちが通った後は正直幻でも見ているのかというくらいの惨状が残されていて、随分前に話していた『環境保護』という約束を魔神様としていたらしいんですが忘れてしまっているのではと思っちゃいました。
「せ、せんせい、それはマズイです、この辺りが吹っ飛びますってっ!!」
「大丈夫です、私の弟子がこの程度で死ぬはずがありません、信じてます」
「話が通じていない気がするわ!!」
一緒に訓練に参加しているジュリーもそう感じたのか、完全に頭プッツンしてる先生ほど怖いものはない。
上位歪を相手にするより怖いなんて、全くもって悪い冗談である。
先生と同じくらいの大きさをした氷塊や鉄塊、それに拡散してくる火球など、最近先生の魔法のレパートリーは日増し毎にすごい事になってきている。
さすがに影を使った魔法は使ってきていない、曇り空のお陰で地面は薄暗い影で覆われていて、あっという間に終わってしまうからである。
魔法を躱し続け、神器の一撃を風圧含めて逃げ回っていき、ようやく反撃に出る。
ルールを少し弄っていて、隙が出来たら攻撃してもいいと言われている。
生半可な攻撃をしようとなると停滞カウンターが即座に来るので、状況を見極めなければならない。
殆ど命懸けの勝負と変わらない、緊張感漂う訓練だ。
ハンデとして魔法を一度放って5秒は使わないという事から、その5秒の間に神器の攻撃を避けて躱して捌いて一撃を入れなければならない。
といっても、先生の神器は中距離、僕の剣は近距離なので、1対1だとかなり不利な点が多い。
横薙ぎを受け止めずに払い、後方からジュリーが火球を放って牽制をしているが、先生はジュリーの放った火球を切り裂いて向かってくる。
「…ジュリー、もう少し視界を遮る位の魔法でないと牽制になりませんよ?」
上段から向かってくる神器を捻ってぎりぎりのところで回避したが、風圧までは無理だった。
そのまま吹き飛ばされて転げたが、風圧は当たり判定ではないのでこのまま続行である。
5秒経ったのか、再び魔法の嵐がやってくる。
「魔法を切り裂くなんて想定外過ぎるけど分かったわよもうっ!!」
反論するジュリーだったが、先生の言葉に納得してお返しとばかりに視界を遮るほどの火球を5つ連続で放った。
『灼火の白弾』という火系統でも上級にあたる魔法である。
魔力の錬度次第で最上級魔法に匹敵するこの魔法なら、足止めをするより一撃当てて訓練終了に持ち込めれる可能性があった。
太陽が落ちてきたのかというほどの爆発が起き、思わずやったのではないかと思い足を止めた。
光が収まり爆炎と煙で正面が見えないほどで、正直やりすぎたような気がしてならない。
先生でなければジュリーもここまで無茶はしないが、何せ相手が先生である。
「せ…せんせーい、大丈夫ですかーっ!?」
「はい、大丈夫ですよ?」
「っ!?」
頭に鈍くて重い痛みが走る、気配を消して側面から飛び込んでくるとは思わなかった。
反応に遅れたジュリーが走り出そうとしたけど、間もなく先生にゲンコツをもらって、訓練は終了した。
時間にして1時間30分ほど、先生がしている10段階のかせも2段階まで外すことが出来たので十分な成果だと言われたが、状況が状況だけに余り諸手を上げて喜べないところである。
ていうか、喜んだら絶対に先生が不機嫌になるからやめておいた。
「ジュリーの『灼火の白弾』5連は良かったですね、短時間であれだけ出来ればもう充分に上位歪を圧倒できるでしょう。
リオンも私の攻撃を紙一重で見切れるようになってきましたね、最小の動きで避けてからの鋭い一撃が多くなってきています、身体強化無しでここまでくれば近い内ブリンドといい勝負が出来そうですよ」
「「あ、ありがとうございました」」
訓練が終わると落ち着いたのか、先生の雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。
指摘された個所もほとんどその訓練中に治していき、終わった後の感想会では褒めるというアメとムチな訓練法は実際のところすごく効いていると思う。
「…努力を続ける事こそが強くなる一番の近道です。
私もそうですが、あなた達もまだまだ発展途上、精進すれば遥か高みに上りきれるでしょう。
励みなさい」
と、今日の訓練は終了したのだが、ここで思わぬ横やりが入ってきた。
「そこの魔人族、離れなさいっ!!」
僕たちと先生の間を割って入るかのように矢が放たれた。
すぐに気付いてお互い避けたが、矢自体は威嚇だったのか僕や先生を狙ったものではなかった。
とはいえ、先生の事を言及している声の主から見て、次の矢は先生を狙ってくるとしか思えない。
これはまさか…以前にもあった気がする…。
「獣人族の2人が魔人族の奴隷商人に襲われていると連絡を受けました、ステルヴィア国第二王女にして冒険者ギルドランク黒、エーヴァ・リーサ・ステルヴィアが相手をします、かかってきなさいっ!!」
「「「……はあ」」」
王女様よりランク黒より、また先生が悪者にされていた。
読んで戴き誠にありがとうございました。
このパターン多いですね、ウル君大変です。
この章の冒頭ではウル君の過去が少しずつ垣間見えていくといった感じになっていまして、章の内容としましてはそれ程本編が進む感じはあまりありません。
さて次回予告。
次回、『誇り高き王女』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




