第011話 フラグは片っ端から折る
少しばかり遅れまして、11話でございます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
私の名前はバルという。
序列第8位魔神バルバトス侯爵の長子だ。
調理人や給仕や大工の様な事をしているが、これでも貴族なのだよ。
苦労性でね、現在進行形でデュケインの手伝いを無理矢理させられている。
「「「「「閣下、御指示をっ!!」」」」」
そして、今は『管理者の間』へ押し寄せてくる歪の掃討の指揮を任されていた。
相当な力を持つだろう歪も、使い魔五人衆の連携にかかれば楽勝というもので、襲い掛かってくる歪は一定のラインから先には来ていない。
「…そういえば昔デュケインと戦線を共にした時、このような場面があったような気が…?」
討ち洩らしの歪が近づいてくるので、それをじっくりと眺めながら、弓を引く。
矢は魔力で誂えてあるので、本数制限もない上に追尾機能付きで、歪の眉間と心臓に綺麗に刺さった。
神弓【鳴神】は神王様が父に下賜された神器の一つだ。
威力としては神器の中では低い方だが、技術を磨けば並の神器より遥かに運用可能である。
何しろ、この神器は他の神器と比べて使用魔力をほとんど使わないからだ。
大抵の神器は内臓魔力と使用者の魔力を運用するが、『鳴神』は使用魔力を1使うだけで50という高威力を実現するのである。
増幅器としては最高の出来であると自画自賛していた神王様だが、加減というものを知らないように思えた。
歪が放たれる矢を打ち落とそうと腕を振るうが、矢はその攻撃を避け、するりと心臓に突き刺さる。
一度放たれれば絶対に当たる、という『事象の確定及び強制』という二重の意味でも強力な概念武装をしているあたり、どうしようもないくらいに相手が可哀想な結果しか思い浮かばない光景である。
これで何十度目か分からない歪の大軍の掃討にため息ひとつで済ませると、使い魔五人衆に休憩をとらせ、私も束の間の休息をとる事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…それで、このお出迎えはなんなのかな?
ちょっと大袈裟過ぎて引くんだけど」
少しばかり口調の高いデュケインに、ハイドリヒがエインディアの後ろに隠れていた。
アンヌンまでの道のりを1週間でやってきたデュケイン達だったが、それはハイドリヒがいなかった場合であった。
それを4倍の1ヶ月という長さに伸ばしたのは、単にアンヌンでのデュケインとエインディアの2人の噂が少しでも薄れる事を期待していたという事もあってか、その分ハイドリヒの修行に熱を入れていたのであった。
おかげで、年の割に体力と引き締まった肉体を手に入れたハイドリヒは、下位の歪程度なら簡単に逃げ切ることが出来るようになっている。
若いだけあって成長速度は目を見張るものがあった。
そして目の前の出迎えである。
最も人通りの多い東門には、普段いるような門番ではなく、何故か正騎士が左右にずらりと立ち並んでいたのである。
まるで威嚇するかのような威圧感でおそるおそる門を潜っていく者達を尻目に、関わりたくないと思ったデュケイン達は、他の門を目指したが他も同様だった。
何故か正騎士たちが配置されていて、まるで誰かを待っているかのようである。
仕方なく東門へ戻り潜ろうとした瞬間のいかにも警報の様な合図である。
前に正騎士に大怪我負わしたからその所為かな、と思ったデュケインではあったのだが、逃げようにもいつの間にか門は閉まっている。
そしてどこから現れたのかと思うくらいの出迎えである、デュケインは素直に気持ち悪いと思った。
「も、もうしばらくお待ちをっ!!
殿下がお越しになるまでもうしばらく…っ!!」
一番手前にいた騎士が大声でデュケイン達を止めてくるので、無理矢理逃げようとすると30を超える騎士たちが襲いかかってくるのだろう。
「…なんだろう、いい予感が一つも来ない」
「いい事なんぞここ最近どころか一度もなかったろうに」
デュケインとエインディアがぼやいたが、ハイドリヒとしては自分の事を勘定に入れられていないことに少しだけ淋しさが残った。
「…お、お待たせいたしました」
と、5分ほど待ってようやくその殿下という人物がやってきた。
ハイドリヒは見当もつかなかったが、連れの2人は分かっていたようである。
テレサ・シェリム・ムシュフシュ、以前デュケインを仕えさせようとした王女であった。
デュケインの正体を知る者からすればとんだ命知らずかと思うだろうが、本人との相性もあり(特に正直じゃないという一点につき)可哀想な騎士を1人犠牲とした残念な関係である。
デュケイン本人としては、もう二度と関わりたくない少女なのだが、相手側はそうもいかないのだろう、騎士を1人潰しておいて、はいそうですかで済ませれるほど易しくないという事なのか。
ともかく、面倒な相手なのである。
「うわ出たっ!!」
「…まるでお化けが出たような反応じゃの…まあ気持ちとしては分からんでもないがのお」
心底嫌そうな顔をあからさまにするデュケインにその反応に対して苦笑するエインディアは、ハイドリヒから見ても首を傾げるばかりである。
普段からよくころころと表情を変えるデュケインに対して、ようやく理解できて来たのか、最初の頃の様な苦手意識はこの1ヶ月で薄れてきた。
デュケインは良くも悪くも気分屋なのである。
エインディア曰く、『あれは三千世界一の快楽主義者じゃ、ああなっては終わりじゃな』とハイドリヒにはよく分からない言葉を使っていたのだが、あまり精神的な面ではお手本には出来ないという事を厳しく言われていた。
「…その、以前は不躾な物言いをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
それで…その、お詫びとしてお食事でもどうかと思っているのですが、王城へお越しいただけないでしょうか?」
1ヶ月前とはまるで人が変わったかのような言葉遣いに、思わず目を疑ったが、間違いなくあのテレサである。
口を開けば人の神経を逆撫でにするような物言いが、あの口から一遍も出てこないことに対して、デュケインは何か絶対に裏があるとしか思えてならなかった。
こういう時に限って使い魔の身体が不自由なのだと思い知らされるのだった。
あのテレサが一体いま何を思っているのか、読心できないのが残念でならなかった。
「…どうしよう、すっごく行きたくないなあ」
「…口に出ておるぞ?」
正騎士たちからも、王女に向かって言葉遣いを直せという視線が突き刺さってきているが、まるっきり無視である。
「…それって、今からじゃないとダメなわけ?」
裏があるにしても、何も用意も無しに虎穴に入る訳にもいかない。
足手纏いのハイドリヒがいる以上、事は慎重にあたらないといけない訳である。
テレサとしてもすぐには準備も出来ていなかったのか、2・3日間をとってくれればよいと快諾した。
心境の変化にしては怪しすぎると思ったデュケインであったが、今はこの状況をさっさと終わらせたかったのか、テレサや正騎士たちを無視して通り過ぎていった。
デュケインはテレサをじっくりと観察をしていたが、おかしな様子は起こさず、俯いたまま擦れ違っていくのだった。
宿屋に着くと、すぐにエインディアが結界と探知系の魔法を発動した。
「…監視されておるのお…危害を加える気はないようじゃが、逃げたりせんように見張っておるのかの?」
「うっざ、ちょっかいかけてくる奴なんて豆腐で頭ぶつけて死ねばいいのに」
「ヴァッサーゴ様、トウフってなんですか?」
言葉遣いが少しばかり向上したのか、ハイドリヒがデュケインに質問していた。
デュケインはハイドリヒの質問には答えずに、なぜか絵だけで対応している。
手渡された紙には、立方体が書かれただけで、見る者によっては箱としか思えないだろう。
「…箱みたいなのが、トウフなんですか?」
「豆腐というのはなハイドリヒよ、豆で作った食べ物のことじゃ。
汁にしてもよいし、冷やしてからネギやしょうがを乗せて食うのもよし、一部の地域での家庭的料理ではかかせん食物なのじゃよ」
具体的な製造方法を語り始めると、ハイドリヒは俊足を生かして部屋から出て行く。
エインディアがハイドリヒに知識を授ける際、最初にハイドリヒが逃げ、ばてた所を捕まえられて説教込みで講義が始まるのだ。
座学が苦手なのか、ハイドリヒは毎回同じことを繰り返していて、デュケインとエインディアとしては、もう少し座学にも真剣になって欲しいと思っている所である。
念のためにハイドリヒには印をつけてあるので、どんなに離れていても見失う事は無い。
「…エインディア、ハイドリヒと遊んできなよ。
僕は情報収集がてらご飯食べてくるから」
「さようか、ならばそうするとするかの」
2人は分かれると宿屋の受付に出かけてくると一言伝え、町へ乗り出していく。
20分後、ハイドリヒが噴水で涼んでいる所をエインディアに見つかり、罰とばかりに突き飛ばされて水浸しにされ、少し離れていた場所で食事をしながら眺めていたデュケインは爆笑していた。
読んで戴き誠にありがとうございました。
魔神の武器は軒並みチート、神王様もいい加減なことで。
さてテレサちゃんが何話か振りに登場、しょげた状態でデュケイン様と再会を果たしました…結構嫌われてますが。
どんな食事会になるのやら…。
さて次回予告。
次回、『食事とお話』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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