第010話 スパルタの反対はすごくスパルタ
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「俺に戦い方を教えてくれ…ですっ!!」
「…ハイドリヒは言葉が不自由だねえ」
そんなのんきなデュケインに、ハイドリヒがショックで言葉を失っていた。
「何でもかんでも語尾に『です』付けてればいいってもんじゃないんだよ?
ハイドリヒは、『弱々しい僕を鍛えに鍛えてムキムキマッチョのスーパーマンにしてください』って言わないといけない訳、アンダスタン?」
「…ノットじゃ、ハイドリヒはヴァッサーゴ卿の言葉に耳を貸さんでもよいぞ?」
デュケインの言葉を否定して、エインディアが素っ気なく言う。
ソロモンを倒した後デュケイン達はハイドリヒの体力と合わせて首都アンヌンへの帰路を辿っていた。
ギルドを通して代行者であるウルに情報を提供した後は、ある情報を調べなければならないのである。
「…あんまり強い歪もいないし、この国はハズレだったなー」
「あの蛇だけじゃ足りんかったか?」
「中位だからね、デカいからって中身はスカスカだよ。
おいしさはともかく…微量増ってところかな、上位の歪がいっぱい出れば少しはマシなんだけど」
「燃費の悪い体しおってからに…」
そう、デュケインの早期戦力増強である。
カズイスナークを吸収した際に、あまり身になっていなかったこともあってか、イライラが積っているようだった。
使い魔の肉体を維持し、尚且つ能力を引き上げるためには、今以上の歪を必要としている。
そう、最初に吸収した堕竜のような、強力な歪を。
ソロモンを吸収するという手があったのかもしれなかったが、倒してから跡形もなく消滅してしまった所為もあり、あれでは吸収する事も出来なかった。
とはいえ、堕竜のような強力な歪がそこらへ転がっている訳でもない。
さしあたってはアンヌンへ帰った際にギルドの掲示板で強力な歪の情報が上がらないのか待つばかりである。
「それじゃあハイドリヒは今から僕と鬼ごっこをしよう」
「鬼…ごっこ?」
知らない言葉だったのか、ハイドリヒはデュケインの笑顔に不安を感じてか、思わずエインディアの服の裾を掴んだ。
エインディアは長年の経験から、デュケインが何をやろうとしているのか大体察しがついたようである。
デュケインの戦力増加も望ましいが、まずはハイドリヒの必要最低限の体力である。
「鬼ごっこじゃだめか…じゃあ追いかけっこだ。
僕はハイドリヒを追いかけるから、ハイドリヒは僕に捕まったらダメ。
捕まったら…そうだね、今日の夕食が減らそう、それはもうごっそりと」
「ハイドリヒにはまず体力を付けなくてはならんしの、武器を扱うのはその後じゃて。
心配はいらんぞ、竜人族は獣人族並に身体能力は高いからの」
とはいえ、止めようとはせずにむしろ勧めていた。
付いてくるといった以上は、死ぬ気で頑張ってもらわねばならないからである。
妥協や怯懦といった惰弱な精神などでいられたら、到底デュケイン達と共にいる事は出来ない。
「まあ、今日は特別に30分だけにしてあげよう。
明日からはその倍の1時間を目安に追いかけっこをしようね。
さて…10秒あげるからなるべく遠くに逃げな、スパルタなんて生温い訓練の始まりだ」
「本当はわしがやりたかったんじゃが…先日の戦闘で腰を痛めての。
当分はヴァッサーゴ卿が教官を務めるから、励むんじゃぞハイドリヒ」
「お…おうっ!!」
元気よく答えたハイドリヒは、元気いっぱいにデュケイン達から離れていく。
見渡す限りの平原なので、いざ危険な歪が現れたらすぐに対処できるよう、エインディアは体力を整えてなければならない。
現在もっとも戦力のあるエインディアだからこそ出来る事である。
「…んじゃ行ってくるけど…エインディア、警戒は怠らないでね?」
「心配せんでも役目は果たす、ハイドリヒと遊んでやってくれ」
「…訓練だっての」
1秒以上たってもデュケインが追いかけてこないので、ハイドリヒが心配してかこちらを眺めてきていた。
ハイドリヒが一目散にデュケイン達との距離をもっと開くべきだったと後悔したのは、それから5分後の事である。
その日の夕食は、宣言通りハイドリヒの夕食はごっそりと減らされた。
しかし、元々の食事量が大量だったため、ハイドリヒは結局のところ満腹の状態で満足していたという。
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努力すれば夢は叶う、という言葉がある。
とんだキャッチコピーだ、と真実を知る者からすれば思う事だろう。
正確にはこうだろう。
自分の才能が夢を叶えるだけの努力をすれば夢は叶う、という事だ。
自分の才能を知るという事は、自分というものを識る事にある。
黙っていても夢は叶わない、寄っても来ない。
そんな堕落した者たちを見て、僕はほとほと人間は下らないと思い、
夢を叶えるために努力を惜しまない者たちの姿を見て、僕は素晴らしいと思った。
しかし、そんなのは稀だ。
僕が見てもロクな夢なんて見ていない、そんな連中の夢を見ても僕は何とも思わない。
そしていつからか、僕は自分の夢が何だったのか、忘れてしまった。
おかげで、夢を叶えようと努力する者達を見ては嫉妬したもので、羨ましくて、眩しくて、酷く自分に呆れたものである。
そして目の前に、新たな夢を見る者が現れた。
小さな少年だ、最近家族を失い悲しみでいっぱいだろうに、いつもにこにこと笑っている。
どうやら僕に苦手意識を持たれてしまったけど、まあそれは気にしないでおこう。
彼の夢は酷く単純で、『強くなりたい』という事らしい。
僕の現在の目的とも会うので、手助けをすることにした。
相方も気に入っているようなので、厳しくはあるけどあっという間に一人前にしてみせよう。
幸いにして夢を叶えるだけの才能と、努力する気概を多分に持っている。
まだまだ手がかかりそうだけど、息抜きがてら鍛えてあげましょうか。
読んで戴き誠にありがとうございました。
短いですが、まあとりあえず投稿をということで。
ハイドリヒ君のスパルタ講座についてはこれからも続いていくということで。
デュケイン様の回想も入ってきて、いろいろと思うことがあるようで。
さて次回予告。
次回、『フラグは片っ端から折る』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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