第009話 四苦八苦十二苦
佳境に入ってきました。
第8話です。
突如、『管理者の間』を取り囲んでいた結界が破られた。
何事かと思いバルと使い魔五人衆が臨戦態勢をとる。
現在身動きの取れないデュケインに代わって、現在は彼らがこの場を守護していた。
バルを閉じ込めていたデュケインの結界を簡単に破壊できる相手にどれほど抵抗できるか分からないが、頼まれている以上逃げる気は彼らには無い。
「ちょっとー、なんでこんなにこの場所ごみごみしてるの?
しかも迎えの一つもないなんてなってないよっ!!」
と、バルの耳には聞き覚えのある声が流れてくる。
そう、数ヶ月前に自分に命を下した、あの声が。
「し、神王さまっ!?」
五人衆を慌てて止めると、不意を打つつもりでいた神殿頂上を急いで降りていく。
「あ、バルバトスの所の坊っちゃんじゃないか。
オッヒサー、うちの子どこ?」
元気よく挨拶してきたその姿に神王としての威厳など欠片もなく、単なる親バカがいた。
デュケインとデザインの違う白いローブを羽織っており、眼もまた鮮やかなもので蒼よりもさらに深い藍の色に、炎よりなお力強い真紅が自分を映しているのか、何を映しているのか、バルには全く分からない。
「現在、あちらの世界に感覚を共有させて女神の駒と交戦中です」
「あららー、自動更新するルールの抜け道に気付いちゃったのか。
さっすがうちの子、あったま良いね…客観的にはあんまり褒められたものじゃないけど」
苦笑する神王に、バルは嘆息していた。
「まあ出来ちゃったものは仕方ないし、うちの子が楽しければそれでよしっ!!」
それでいいのか神王よ、と誰も突っ込む者はいなかった。
五人衆も交えて宴会気分でデュケイン達の戦いぶりを見る神王は、眠っている我が子の頭を撫でながらその様子を見て楽しんでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦闘を初めて30分も経たないうちに、村の形がすでに原型を失い始めていた。
「かっ、やっぱテメエの動きから見て、どうやら憑代使ってこっちに来てやがったっていう訳かっ!!
てんで話になんねえぜ魔神様よおっ!!」
戦闘を開始して数合打ち合わせただけでデュケインの正体に気付いたソロモンであったが、デュケインも負けじと向かっていく。
「そういう事は僕を倒してから言うんだねっ!!
最初の不意打ち以外、貴様の攻撃は一度も当っていないよっ!?」
鎖鋸と黒い影が交差し、強い衝撃波が走る。
走り抜けるデュケインに追撃をしようとしたソロモンであったが、エインディアの正拳が高速で去来した。
「っとあぶねえ、やっぱあの魔神様よりこっちの姉ちゃんの方がおっかねえぜ。
まあ当たる気なんてさらさらねえがなあっ!!」
「また避けられたわい、もう少しのろくさと動いてくれんかのお。
こうも避けられると自信がなくなってくるわいっ!!」
エインディアの正拳をいなすとお返しとばかりにソロモンが蹴りを入れてくるが、肘を使ってその一撃を叩き落とした。
その一撃だけで足など木端微塵になるはずの一撃は、何か硬いものに当たってその威力を減衰させられたのに気付いたエインディアは、少しだけ表情を曇らせたソロモンにローキックをお見舞いした。
バランスを崩したソロモンだったが、デュケインが向かってくるのに気付いてか無理矢理残った片足をばねの様に使って緊急離脱した。
寸でのところでデュケインの一撃を避けられたソロモンは空中で制止し、体制を整える。
「空飛んで休憩だなんて優雅だねえ…『落ちろっ!!』」
【神言】を使うとソロモンが墜落してくるが、デュケインは何故か攻撃を加えようとしなかった、
「…で、どうエインディア。
対象の攻撃手段、分かった?
僕は鎖じゃないかと思うんだけど」
【神斬】の回転を抑えてデュケインが話しかけると、エインディアもそれに同意した。
「同意じゃな、加えて半径5m位はほぼテリトリーといった所かの。
超近接戦闘にも対応できるあたり、伸縮自在な武器なのじゃろうな。
念には念で、距離をとるのなら10m位とっておけばそこまで心配する事は無いじゃろう。
…次で詰もうぞ、ハイドリヒの方が心配になってきたわい」
「あ、すっかり忘れてたよ…村を滅ぼした分、しっかりとコレには償ってもらわないとね」
鎖鋸の回転が元のように甲高い音を上げ始める。
ソロモンは自分を目の前にして悠長に話しているデュケイン達に苛立ちを覚えていたが、状況的には圧倒的にソロモンに不利である。
実力を計って離脱し再度罠を張って奇襲をかけようと考えていたが、どうやらこの場から無傷で逃げるのは難しいと判断した。
「…かっ、ペラペラしゃべるのはそっちも同様だなあおい。
こっちもヤバイが、そっちの魔神様は魔力の方は大丈夫なのかあ?」
憑代の魔力を使い過ぎてしまっている以上、デュケインにこれ以上の戦闘は難しいはず。
エインディアとの戦闘だけなら、勝てはしないが追跡を攪乱させて緊急離脱できない訳ではない。
ソロモンはデュケインにこれ以上の戦闘は無理だろうと判断したが、デュケインは全く堪えていない。
「…余計な事を囀るなよ真っ黒エルフめ。
書道の硯みたいに頭をごしごし削ってやろうか?」
悪そうな顔をしてにやりと笑うデュケインに、何故か仲間のはずのエインディアがドン引きしている。
「…ふん、まあいいよ。
今気づいたけど、神王様も来ているみたいだから、なおさら無様な姿は晒せない。
さっさと片付けて、感動の再会タイムをしなくちゃねっ!!」
【神斬】の回転が更に輝きを増し、デュケインとエインディアはソロモンを挟みこむ様に左右に飛び出していく。
「ちぃっ、なめるなあっ!!」
ソロモンが両腕を振ると、黒い鞭のような影が2人に襲い掛かってきた。
デュケインは無造作に振ると影が【神斬】の刀身部分に巻きつき、拳で撃ち落とそうとしたエインディアの手甲に絡みつく。
3人が硬直すると、唯一ソロモンは余裕の表情を取り戻し、哄笑した。
どうやら動きを封じたことで心に余裕が戻ってきたようである。
デュケインは振りほどこうとするが、回転を無理矢理抑え込まれて【神斬】はその攻撃力を大幅に低下してしまった。
ようやく視認できた漆黒の鎖を解かない限り、使う事は出来ないだろう。
「………で?」
「あぁ?」
デュケインの不満そうな声に、不愉快そうな声を上げて睨みつけるソロモン。
「だから、この後どうするのさ、せっかく動きを止めているんだから魔法とか使って僕たちに攻撃は加えないのかなって聞いてるんだよ」
元の種族がエルフなため、遠隔攻撃が多彩な風系統の魔法を警戒しているデュケインだが、いざとなれば【神言】で防ぐので、そこにカウンターを御見舞いしようと考えていた。
「かっ、大方さっきの力で防いで俺に一発入れよおっていうんなら諦めな。
余裕になった状態の俺は、ちょっとやそっとじゃ崩れねえよ」
「あはは、負けフラグいただきだね。
エインディア、あと頼むよ?」
「承知した」
読まれているのなら別の手がある、と考えてデュケインはおもむろに【神斬】を地面に深々と差し込む。
両手を空けてデュケインはソロモンに【神言】を使う。
『四方結界・暗縛っ!!』
ソロモンを囲むように4本の柱が急に現れると、勢いよく地面に刺さり強い光を放った。
「目晦ましかっ!!」
影すら光にかき消されたと同時に、今度はソロモンに黒い影が襲いかかった。
黒い直方体がソロモンを閉じ込め、左右からは鎖が伸びきったままである。
デュケインは勢いよく走り出すと、ソロモンの懐に接近した。
それと同時に、ソロモンを閉じ込めていた黒い直方体に罅が入り、そこから怒りの形相をしたソロモンが声を上げる。
「きっさまああああああああああああああああっ!!」
「くたばれええええええええええええええええっ!!」
鎖を振るおうとソロモンが右腕を動かそうとした。
が、何故かは分からないが動かない。
ソロモンは見た。
デュケインの【神斬】がはるか先に深々と差し込まれていたことに。
そして、デュケインが一体何を使って自分に止めを刺そうとしているのかを。
そう、先の【神斬】には柄が無かった。
高らかに振り上げられた勝利の柄の先には、まるで鉈の様な分厚い刃が装填されており、易々とソロモンの肩に深々と叩き込まれると、そのまま紙の様な手軽さで切り裂かれた。
「がっはあっ!?」
漆黒の鎖がソロモンの悲鳴と共に消失し、エインディアの手甲と【神斬】から消えた。
「…ふむ、どうやらあの鎖は消えたようじゃな。
見事な一刀じゃヴァッサーゴ卿、あの神王様もさぞ喜ばれておるじゃろうな」
「…あれ、エインディア。
なんかいま変に聞こえたんだけど…?」
「ほっほっほ、気のせいじゃ」
常日頃デュケインの事を目に入れても可愛いとのたまう生粋のオヤバカである彼の王に、エインディアを含め神王の事を知る者たちはその称号を影で使っていた。
「それよりもソロモンじゃっ、この者から何か情報を…」
「かっ、喋る訳ねえだろうが姉ちゃんよおっ!!
俺は義理堅さじゃあ他の5人より断トツで一番だっ!!」
豪快に斬られてもまだ余裕があるのか、血を吐きながらもソロモンがふてぶてしく叫んでいる。
「へえ、君みたいなやつがあと5人いるんだね。
いい情報だ、あとでウルに教えてあげよう」
「がはぁっ、しまったあっ!?」
「…思ったよりちょろいかもしれんの」
とはいえ、元気な様でいて致命傷を受けているソロモンには、残されている時間もそう多くはないようで、先の失敗を経験してか頑として口を開こうとしなかった。
「…もういいや、喋らないなら利用価値ないし、ぶち殺して終了。
別に、殺した後でも情報なんていくらでも引き出せるし?」
鉈の状態の刀身を元のあった鎖鋸の鞘に収めると、再び回転を始めた。
「…仕込の剣が入ってるたあやられたぜ、普通二重の鞘だなんて考えねえからな」
「まあノーコメントという事で、今喋っている最中お前の目が一体どこと繋がっているのか怪しいからね?」
「……」
「あれ、図星だったの?
ああそうだ、最後に一つだけ教えてあげるよ」
“君の名前についてだ。”
「どうして僕が君の名前を聞いて怒ったのか、その理由だよ。
とっても簡単さ、名前がムカついたんだ、それだけだよ」
「そんな理由でっ!?」
「ばいばーい」
場違いな笑顔で甲高い回転音が合わさっていく。
「呪ってやるぞ、神王の犬めえええええええええええええっ!!」
心臓に深々と突き込まれた【神斬】はソロモンの呪詛の籠った悲鳴をかき消し、辺りに血が飛び散っていく。
止めを刺されたソロモンは崩れるように消えていくと、跡形もなく消失していった。
呆気ないもので、デュケイン達とソロモンとの決着がついた。
「…それじゃあエインディア、そろそろ限界なんで、あとよろしく」
「久々に家族水入らずして来るんじゃな」
「はは、バルがいるから出来そうにないなあ」
そもそも閉じ込めたのはお前だろうが、とその場にバルがいたら言った言葉だろう。
使い魔からデュケインの気配が消えると、残ったふらふらの使い魔はそのまま倒れ込んでしまった。
どうやら限界近くまで肉体を酷使していたようで、使い魔も音を上げてしまったようであった。
苦笑したエインディアは使い魔を背負うと、隠れているハイドリヒの隠れている隠れ場所へ向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいまー、とお様見てくれて…あれ?」
「おお、戻ったか。
残念だったな、ついさっき帰っていったぞ?」
宴会の後を片付けているバルと使い魔五人衆が手際よく皿を洗っては拭いていた。
何故か桜の木まで生えていて、宴会どころか花見気分であったようである。
「さ…さっきまで気配があったから褒めてもらおうと…」
カクカクと手を伸ばすが、その先には何もなく、空を切るばかりである。
「呼び止めておいたのだがね…ギリギリまでいてくださったのだが、敵に止めを刺した辺りで時間が来てしまったようで、伝言を残して帰っていかれたよ」
「な、なんてっ!?
とお様なんて言ってたのっ!?」
そういうと、バルはポケットから一枚の紙を取り出してデュケインに渡した。
ひったくるようにその紙を受け取って内容を見た。
筆跡は、デュケインの知る神王の字である。
『お疲れ様、僕の可愛い子。
頑張っているようで安心したよ、まあ心配もしてなかったんだけどね。
今度会った時に二回分褒めてあげるから、楽しみにしておくように。
神王より』
という、簡単ではあるが愛情が籠っている内容であり、デュケインも落ち込んでいた機嫌が一気に戻ってきた。
「ふふ、今度会った時が楽しみだな。
それじゃあバル、戦勝祝いに何か作って~」
「洗い物が済んだらすぐに作る」
『管理者の間』は相変わらず平和であった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
いつの間にか神王様おいでになってました…すぐ帰っちゃったけど。
意外と危なげなく戦闘は終わってましたね、最終的に怪我とかほとんどありませんし。
さて次回予告。
次回、『スパルタの反対はもっとスパルタ』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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