第007話 …また弟子?
久々の戦闘パートです。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
謹慎と称して東の塔へ幽閉させられたテレサは、己のしでかしたことを猛省していた。
しかし、あの少年を一目見て、“欲しい”と思ってしまったことに対して、なぜか反省という行為に苦悩してもいたが。
ヴァッサーゴ卿、と呼ばれていた彼の同行者の言葉を聞き、どこかの国の貴族なのかと思い、各国の貴族の名を調べてみたが、『ヴァッサーゴ』を名乗る貴族は一人もいないという虚しい結果であった。
自称なのか、それとも過去潰えた貴族の末裔なのか、それすらも分からないが、一目見てテレサは彼の少年に強く惹かれていた。
塔越しから見える世界は色褪せていて、否、あの少年と出会ったころからテレサの見る世界はすでに色褪せてしまっていた。
重いため息をつき、酷い別れ方をした彼とどうやって会おうか、そればかりを考えている。
謝罪と、謝罪と、説得を重ねるしかないことは自分でもわかっていた。
素直になれない自分に対して、あの少年が不愉快に思っていたのだ、せめて改善をしなければ話にならない、そうテレサは思いながら、侍女の持ってきた昼食を口にするのだった。
1ヶ月後、再び護衛を連れて城下を歩いていてデュケイン達と出会う事を、まだ彼女は知らない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長い道のりでの約1週間、目的の村に着きようやく野宿から解放される、と思っていたデュケインの予想は覆された。
予想を遥かに覆す結果が目の前にあったのである。
「…これは、酷いね」
思わずぼやいてしまうデュケインに、エインディアも同乗した。
「無情じゃのお…生存者居おるか怪しいもんじゃわい」
一週間かけてやって来た村―――トスカーナは廃村と化していた。
まともな建造物など一つとしてなく、柵すらも残らず押し潰されている。
かろうじて井戸は原型を残しているが、中を見てみると死体ばかりで水は汲めそうにもない。
どうやら井戸に逃げ込もうとした所を背後から襲われ、そのまま落ちてしまったという事だろう。
「…今日も野宿じゃないか、たまにはベッドで眠りたいね」
「おぬしは『管理者の間』に戻っとろうが、使い魔が不憫でならんぞい」
ここに来る道中歪と出くわしたが、この村を滅ぼした原因となった歪とは遭遇していなかった。
大抵が低位の歪ばかりで、数にしても村をここまで廃墟にするような暴力的な勢力でもなかったのである。
周囲を見回してみるが、辺りは死臭が漂っていて生きている者の気配がしない。
「…この村の人口は、下調べだと140人弱。
一人残らず殺されたとなると、もっと死体が出ていてもおかしくないんだけどなあ」
血痕の痕は辺りから飽きるほどに見られるが、肝心の死体がどこにもない。
井戸だけでも10人もいなかったのに対して、残りの100人以上の死体がどこへ行ってしまったのかという疑問に当たってしまったのである。
「…いやな想像じゃが、食われたんじゃなかろうか?」
エインディアが嫌そうな顔をして思っていたことを口にして、デュケインも状況を判断してか、それ以外に理由が見つかるとも思えなかった。
歪から襲われて現在はどこか秘密の場所で隠れている、という考えは当初からあったのだが、すぐに否定された。
致死量としか思えないほどの血液が、そこら中に地面や建物に染み付いているのである。
生存している者は絶望的なほどにいるとは思えないというのが、デュケインの見解だった。
「…エインディア、何か聞こえない?」
「明察じゃの、正面から何か来よるぞ…どうやら中位の大型歪のようじゃ」
音が次第にこちらに近づいてきたのを確認すると、デュケインは【神斬】を抜いた。
甲高い回転音が響き渡り、デュケインが一目散に走って行く。
「こいつ殺るから援護よろしくねっ!!」
まだ目標が何なのかもわからないうちに飛びだしていったデュケインに、エインディアが一足遅れて追いかけ始める。
「ヴァッサーゴ卿、まだ歪の全容が分からぬうちにっ!!」
そしてようやく追い付いた時には、既に戦闘がはじまっていた。
中位の歪は名称をカズイスナークという凶暴な蛇型の歪である。
全身を再生させようにも胴や尾からは出血の収まらない状態で、デュケインは嬉々として斬痕を増やしていく。
頭部からの毒息を軽々と避け、建物がドロドロに溶けるのを見ても意に介さずに突き進む姿は、さながら狂戦士である。
「ははっ、これだからデカいのは斬りがいがあるよっ!!
牙と心臓は頂いたあっ!!」
尻尾からの大振りの横薙ぎを跳んで躱すところに追撃するかのように毒牙がデュケインに襲い掛かってきた。
デュケインは口笛を吹きながら、まるで指揮棒を振るような感覚で、【神斬】を振るった。
「・・・牙、一本もーらいっと」
右の鼻腔から真下にある牙までざっくりと、を器用にも曲げながら切りつけたデュケインは、あまりの痛さに仰け反った。
転がる牙を眺めながら、デュケインは【神言】を使った。
『凍ってしまえっ!!』
辺りを冷気が襲い、霜が立ち始め、地面からは黄色かった大地から色が抜け落ちるように白くなっていく。
それはカズイスナークにも襲い掛かり、全身を覆った時には、十全に動くこともままならない状態にまでなってしまっていた。
デュケインはというと、【神言】を一度しか使っていないおかげか、まだ十分に動けている。
【神斬】の内臓魔力は全開で使っても困る事がないので、酷く燃費のいい戦いになったようであった。
それでも “窮鼠猫を噛む”という言葉を知っているデュケインは、動きが緩慢な状態になっているカズイスナークにも油断なく斬りかかっていく。
強力な尾から斬っていくとどこからか物音がするので一瞬だがそちらに耳を傾けた。
だが、カズイスナークはその瞬間を見逃さなかった。
急激に体を震わせながらカズイスナークは身体を覆っている全身の寒さを吹き飛ばし、不揃いな状態の尾でデュケインを張り飛ばした。
一瞬でそんな芸当をしてみせたカズイスナークに対して、デュケインは尾の一撃を受け止めるので精一杯だった。
軽いデュケインの肉体が景気よく吹き飛ばされていく中、音のあった方向へ視線を移す。
「…生きていたんだ」
【神斬】の刃の部分で受けたため、分厚い肉厚に差し込んだままの状態で手放してしまったデュケインは、空中でそのまま態勢を直すと、エインディアにカズイスナークを足止めするように命じた。
「エインディア、足止めよろしくっ!!」
「任されたっ!!」
命じられたと同時に飛び出したエインディアは、拳を握りしめたままカズイスナークの腹を殴りつけた。
鱗を砕いたままめり込んでしまったが、勢いよく引いて再度殴りつけると、大口径の大穴が空いたような状態に早変わりしていく。
カズイスナークの身体が白だったら、エインディアが殴った個所はおぞましい光景を移していただろう。
苦悶の悲鳴を上げるカズイスナークをよそに、デュケインは生存者の竜人の子供の元に駆け寄った。
「ちょっと君、ここから離れなさい。
戦闘に巻き込まれたら、命の危険もある」
「………」
聞こえていないのか、ぼうっとしたままデュケインを見ているので、思わずデュケインは【神言】を使って、竜人の子供を高い上空にまで浮かばせた。
カズイスナークの全長は20m弱、念のために50mまで高くしたのだが、その時になってようやく子供の悲鳴が聞こえてきたが、デュケインはそのまま無視した。
「…喜んでいいやら困ったやら、調査も面倒だし…ああ面倒だ、後の事は後で考えよう。
それよりあの蛇にトドメを刺さないとっ!!」
あれだけ殴りつけてもカズイスナークはいまだに元気なようだが、いつの間にかエインディアに抵抗する事ばかりに集中していてか、デュケインの事を忘れてしまっているようでいて、チャンスだと思った瞬間、慎重に走り出した。
食い込んだ【神斬】をそのまま引き抜くと、カズイスナークの悲鳴が辺りを響かせるが、それ以上にデュケインが持った兵器の甲高い回転音はそれを上回った。
「さあ響き渡れ【神斬】、敵の断末魔を肴にお前の歌声を聞かせろおおっ!!」
デュケインが更に柄に魔力を込めると、白かった刀身が更に輝きを増していく。
そのままおから胴体にまで捌くように斬り進んでいき、苦悶の悲鳴を上げているカズイスナークの口にまで差し掛かったところで、力任せに引き抜いて脳天に突き込んだ。
のた打ち回っているカズイスナークのあまりの暴れっぷりに、デュケインは再び吹き飛ばされたが、今度はエインディアが見事に受け止めた。
「…エインディア、ありがと」
「なんのなんの…それより、刺さったままの神器は良いのかの?」
「大丈夫、刺さったままでも回転はするから、良い所で止まった時にはあの蛇もお陀仏さ…ところで、下ろしてくれない?
さすがにお姫様抱っこはかっこが付かないんだけど」
「なんのなんの…役得じゃのお」
ニヤニヤと笑っているエインディアに居心地が悪かったのか、逃げようとするのだがエインディアにがっちりと固められてしまっていて、なかなか逃げられない。
「なに不穏な事言ってるんだよちょっとっ!!
あ、それよりあの蛇もう死んだから、あの子供下ろさないとっ!!」
ようやく抜け出して、回転が止まった【神斬】を引き抜くと、頭部が滅茶苦茶になった状態のカズイスナークの状態を確認した。
ちょうど脳天を刺して滅茶苦茶にしていたせいか、心臓を破壊するまでもなく、カズイスナークは無残な最期を迎えた。
「…いくら注意でも、倒し難いのはちょっと面倒だな、これからも注意しないと…体中が少し痛くて仕方ないよ」
「もう少し思慮深い行動をとって欲しいのお…お前さんの本来の身体じゃないんじゃ、もっと使い魔の肉体の事を考えてのお…」
「あーもう、説教はたくさんだよっ!!」
エインディアから逃げるようにデュケインはカズイスナークの死骸から離れ、竜人の子供を下ろすと、泣きじゃくってしまっている少年をどうしようかと考えたが、名案が浮かんでこない。
「なに泣いてるんだよ、ほら、怖いのもういなくなったでしょ?」
「う、ひっく、お、かあさん、が…っくうぅ…うあああーんっ!!」
いきなり抱きつかれてきてそのまま押し倒されたデュケインは、面倒臭いなあと内心ぼやいた。
「あーほら、お兄ちゃんがおいしいご飯作ってあげるからなかないの。
エインディア、ここじゃあまた歪が来そうだから、少し離れた所に結界張って炊事の用意しておいて」
作るとはいっても、バッグに入れていた干し肉を焙ってパンに挟んだ簡単ハンバーガーである。
それでも、少年にとってはまともな食事自体が久しぶりだったのか、泣きながら食べていた。
「…おいしかった…です。
ありがと…ござい、ました」
「うんうん、お礼が言えるのはいいことだよ。
僕はデュケイン、こっちはエインディアね。
少年の名前はなんていうのかな?」
落ち着いたのか、子供は恥ずかしそうにもごもごと言いながら自分の名を名乗った。
「えっと、オレ、ハイ…ハイドリヒっていう…ます」
「…それはまた、御大層な名前だねえ…うん、いい名前だ」
何を思い浮かんだのか、思わず顔が引くついたデュケインがハイドリヒ少年の頭を撫でた。
珍しい銀髪に銀の瞳、男の子のようだがまだ可愛らしさの方が勝っていて、このような状況でなければ、愛でるのに十分な対象であったとデュケインは思ってしまった。
デュケインはハイドリヒから事情を聴いた。
どうやら歪たちはデュケイン達が依頼を受ける以前の段階で村を襲っていたようで、ハイドリヒはこの廃村で10日間ひっそりと隠れ住んでいたという。
デュケインは生きるために必死で気配を殺す術を覚えたのだろうと推察して、エインディアも同意しる。
実際にハイドリヒが音を立ててしまうまで、デュケインが何も気づかなかったのがその証拠であり、一角の才能は少年にはあるのだと思った。
「まあここなら大丈夫だけど…これからどうする?
お母さんの事は残念だったけど…これから一人だよ?」
厳しいようだがデュケインも忙しい身である。
見た目12・3歳ほどの子供ではそれほど戦力にならないと思っているため、このまま連れて行くわけにもいかなかった。
母の事を言われ、そして自分が一人っきりになっていたことを思い出したのか、また泣き出しそうになるハイドリヒに、デュケインが厳しく声をかける。
「泣いてもハイドリヒのお母さんは帰ってこないよ?
今君が考えるのは、これからどうやって生きていくかという事だ。
この村を捨てて、1週間かけて首都アンヌンに行って保護申請を受けて教会で引き取ってもらうというのも一つの手だね」
教会が経営している保護施設がアンヌンにあるのは知っていたので、そこへ行ってみてはどうかと提案してみたが、ハイドリヒは嫌だと首を振った。
そして、どうしようかと考えてエインディアと話していたのだが、ハイドリヒのデュケイン達を見る視線に妙な気配を感じて、恐る恐る聞いてみた。
「嫌だって言われてもねえ…もしかして、僕たちと一緒に来たいの?」
「だめか…ですか?」
「…エインディア、ハイドリヒの気配って気づいてた?」
「いや…正直言ってわしも坊主が出てくるまで気づかなんだわい。
もしかすると…血統特殊魔法の類かもしれんのお」
血統特殊魔法と聞き、それなら大丈夫かと思ってしまったが、依頼をこの後どうするのか考えてしまったデュケインである。
このまま置いておくとなると、いくら血統特殊魔法で気配を完全に消したとしても限界は来るだろうし、何より子供を1人で置いていく事に対して葛藤があった。
10日間も1人でいた子供をもう一度置き去りにするほど、デュケインも鬼ではない。
「…連れて行くとしたら、やっぱり弟子かな?
ウル以外にもう1人弟子が出来るのか…面倒だなあ…けど、このまま一人にしてあとで歪に殺されるとかいうのは後味悪いし…」
「…わしが面倒を見よう。
それならば良いじゃろうて、ヴァッサーゴ卿?」
唸っていたデュケインに、エインディアがようやく口を開いた。
「同じ竜族のよしみじゃ、こんな機会滅多にない事じゃし、ある程度鍛えて放り出せばよいじゃろう」
「…竜族って…エインディア、立場ってものを…」
「…そ、それでもいい…から、お、お願いだ…です!!」
渋るデュケインに、ハイドリヒが勢いよく頭を下げた。
ボロボロと涙を流しながら頼み込む姿に、デュケインがため息をつく。
「…好きにしなよ、なるべく死なないように頑張りなよ?
…エインディア、一応言っておくけど今回だけだからね?」
「肝に銘じておこう、今回限りと…なんなら、誓約でもするかえ?」
「いいよそんな面倒な事…今日はもうここで休もう。
明日になったら辺りの情報を収集するから、2人も寝るんだよ?」
そういうと、意識をそのまま『管理者の間』まで飛ばしたデュケインは、調理途中の鍋から肉の塊を串で刺して食べる。
「…うん、やっぱりバルの料理が一番かな。
ウルのもいいんだけど…大雑把だからなあ」
以前クリスマスに頼んだウルの料理を思い出して、見た目は良いけど味付けが大雑把で(しかも大半の味が異常に濃かった)あったことに唸ってしまった。
「…にしても、弟子ねえ…まあ僕が取る訳じゃないし、面倒見る程度なら大丈夫かな」
エインディアがハイドリヒをどう鍛え上げるのか棚上げして、デュケインは残っている鍋のつまみ食いを再開した。
バルが戻ってきた時には、『ごちそうさま』の置手紙と共に調理途中だった鍋はからっぽで、満足そうにワインのボトルを片手にいい具合にデキあがっているデュケインを見てこめかみに筋を立てていた。
読んで戴き誠にありがとうございました。
久々の戦闘でしたね…大丈夫だったでしょうか?
序盤テレサちゃんのデュケイン様に対する想いをなるべく適当に考えてみましたが…一目惚れ以外になかったんですよねこれ…まあ一刀両断されたわけですが。
そして銀髪竜人少年ハイドリヒきょ…君。
気配遮断系統の決闘特殊魔法を持っている珍しい子。
とりあえず本編とはなるべく絡む予定はおそらく…ございません。
あるとすれば後日譚でばったりチックな感じになるのかなあ…予定は未定ということで。
さて次回予告。
次回、『歪人強襲』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




