第003話 思った以上に深刻でした。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
11/5 魔術⇒魔法 に変えました。
「…次に、魔法の行使方法についてだね、正直これについては教えようがないんだよねぇ…何しろ僕霊的な存在だからさ、生活にも魔法を使うのは当たり前というか…んー、よし、ここはウルの感性に従って頑張って」
すっぱりと諦められ、修行二日目にして修行内容を放棄されました。
もう少し悩んでくれると大変うれしいのですが…。
「…せめて、普段どのような事を思いながら術を使っているのかだけでも教えてくれませんか?」
「そうだね~……便利な手がもう一つあるっていえば分かる?
あーもう少しで手が届きそうなんだけど届かない、っていう所にこれがあれば便利~…みたいな?」
「酷く大雑把ではありますが、言いたいことは大体わかりました。
つまり、それを応用してイメージを膨らませるんですね」
便利なもの、程度で良いのはありがたい。
魔法というものが日常生活とは無縁な生き方をしてきた大半の人間にとって、その説明は分かり易いものといえた。
「まぁ、『理』っていうのを理解している分もあって、ウルなら大抵の魔法ならできるだろうから安心してもいいよ。
その代わり、地形が変わる位の魔法は乱発を避けるように、環境破壊はダメなんだからね?」
二日目の修行はこうして穏やかに過ぎていき、一日目の修行で参っていた最強の肉体を一時的に癒してくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……このアンドレア大陸には、6つの種族が7つの国で暮らしていました。
魔人の国ルーテンブルク、エルフの国ステルヴィア、獣人の国シュトルンガルド、竜人の国ムシュフシュ、妖精の国フィンヴァラ、人の国アヴァロン、そしてこのアンストル教国です」
ヨハンが語る口調はまるで子守歌のように心地よいようで、聞き始めて数分でウルの眼元に変化が現れた。
ヨハンの声は耳に自然と残るような安心感のある声量の様で、聞く者の心を癒してくれるようである。
「そしてここ数百年なのですが、『歪』という存在が魔獣たちを襲うようになったのは。
以前から魔獣たちの被害はありましたが、この歪という存在はその魔獣たちに“憑りつく”形でさらに凶暴性を上げてきたのです。
以前はそれほど脅威とは思われていなかった最弱の魔獣でさえ、一般人の手には負えないほどの強さとなってしまったのです」
「…国はどんな対処をしたので?」
言葉が途切れたのか、眠気が一瞬収まったウルがうろ覚えの記憶でヨハンに問いかけた。
ヨハンはウルが話しを真面目に聞いているのだとばかり思って、さらに張り切って語り始める。
話が始まったと同時に、ウルの眠気との対決は再開されてしまったが。
「国は…大規模な連合軍を組織しようと各国に布告しました。
軍事最強といわれるシュトルンガルド当時の王アーサーは、あと一歩という所で思わぬ事態が発生したのです。
妖精の国と連絡が繋がらなくなったばかりか、妖精の国に入るこが出来なくなったのです。
当初は強力な結界を張り事が済むまで引き籠るつもりだと言われていたのですが、どうやらあの国の中では強力な歪が出現して、国を犠牲にしてまで強力で強大な結界で覆っているようなのでした…現在もその結界は張られたままですが、結界の限界が来れば結界は崩壊し、強力な歪が大挙してくるでしょう。
そして、人の国アヴァロンはこの事態に対して自衛以外の戦力しか保持していないため人員を割く余裕がないと、連合軍参加を拒否したのです。
結果として、連合軍の連携を待たずに、歪が獣人の国を強襲してアーサー王は死亡、王族や公爵家は今も行方が知られておらず、獣人の国は事実上崩壊したのです」
国を一つ滅ぼした歪はさらに魔獣に憑りつき続け、現在では大陸のほとんどの魔獣に憑りついていると言われている。
歪が魔獣に憑りつくのを見たという者が言うには、黒いもやのような存在が魔獣に憑りつき、魔獣の闘争本能をさらに凶暴化させているようだと話していたそうである。
魔獣という存在は本来、魔力の貯まった地域に野生の獣が魔力を大量に体に有してしまって為る存在の様で、その魔獣がさらに変化するというのに対して魔獣を研究する学者たちは歪と魔獣は別種の存在だと発表した。
「…それで、まだ続きがありそうですね?」
浮かない顔をしているヨハンに対して、眠気をようやく押さえ込んだウルは話を促すが、ヨハンは語ろうとしない。
仕方なしに、その隣にいたアドルフに訊ねたが、ウルが予想していたより遥かに悪い答えが返ってきた。
「崩壊したシュトルンガルドの国をアヴァロンが半ば強引に属国にしたのですじゃ。
治安維持を名目として軍隊を派遣して事実上占領したアヴァロンは、歪を対処するので当時精一杯だった他国を尻目に、シュトルンガルドの民たちを労働力として繁栄していったのです。
国の六割ほどの民が奴隷とされ、今でも辛い目に遭わされていると聞きます。
残りの四割は国を逃れ、今は散って小さな集落で細々と暮らしておるそうです」
これが二百年は前から続いているようで、現在でもこの悪習ともいえる法が続いているようだった。
当初軍を引くように勧告を出していたルーテンブルクだったが、歪討伐がさらに困難となったために、その勧告も次第にお座なりのものとなっていき、現在では月に一度という定期的で事務的な文書を送るという形となっていた。
それにしても、
「どこの世界も人というのは…はぁ」
考え出すとキリがないのか、思考を途中で放棄したウルは頭を振って話を聞き続けた。
最後まで話を聞き終えて、ウルの目指す第一目標は決まっていた。
「とりあえず、戦力は欲しいので獣人たちを解放しましょう。
邪魔をするであろうアヴァロンの国は最悪滅んでも構いません」
この状況で笑ってみせる神経を一同は疑ってしまったが、内心ではアヴァロンの蛮行を止めるにはこれしかないという案が確かにあった。
しかし、
「…で、ですが、現在の王アルハザードは獣人たちを奴隷とする法に対して否定的で、他の貴族たちと表立ってまで対立しています。
ならば彼と協力して最短の道を目指すのも…いいと、思うのですが……」
声が段々と小さくなってはいたが、ヨハンがウルの過激な手段を少しずらした案を提示した。
二百年経ち、腐りきっていたアヴァロンの王族たちにの中で、異端として生まれたアルハザードは現在三十歳。
腐りきった国の内部では、宮廷闘争も日常茶飯事だった彼の人生は人道を本気で国に根差そうとしている理想主義者だった。
これまでどうやって生きてきたのか不思議に思うウルではあったが、その理想をこちらの思惑と混合してでも手段は選べないと判断する。
獣人たちの大半が奴隷化されて二百年、根性が奴隷同然の代物になってもらっては、いくら時間をかけても歪を狩り残す可能性も出てくるのである。
魔獣については仕方ないにしても、歪という存在だけでも滅ぼさなければならない。
「じゃあそちらの案で行きましょう、正直国を滅ぼすのは面倒ですし」
気分屋なおかげで助かったともいえるが、一部の者はウルという存在が人族とは違う種であると思い込んだようであった。
同じ種を滅ぼそうとするなど、他種族から見ても狂気としか思えなかった為でもあるが。
「さて、ひとまず聞きたい事も済みましたし、今度こそお暇しましょう。
ああ、そういえばこれを渡しておきます、便利ですが一つしかないので気を付けて持っていてくださいね」
そういうと、ウルはヨハンに赤い三角錐のような物を手渡した。
ウルは他にも青と緑の三角錐を持っているが、それはウルが持っておくものらしい。
「これは転位結晶といいまして、三種の三角錐がある場所へ瞬間的に転位できるという代物です。
まあ、転移できるのは青だけですが、そのほかの二つは目印ですね。
その他念話もできるというお得な機能付きなので、緊急事態が起きた場合は連絡を入れて、私が行こうと思った時は転位してきますし、用が済めば残りの緑の三角錐で元の場所へ帰るという事になりますね」
空間魔法の一種のようだが、ウルには空間系統の適性が無かったようで、仕方なしにデュケインがこのマジックアイテムを渡したようだった。
ウルが使える魔法は八種、四大魔法に雷・光・闇。
そして物に属性を付与すると言った魔法を操るが、ウルが得意としているのは水属性と派生する系統魔法である。
とはいえ、魔法を使うのは一対多数の戦闘のみの様で、基本的に接近戦になるようだった。
「…それほど、私たち教国と共に行動するのが嫌なのですか?」
「あなたたち強そうですし、余程の事態でもない限り死にそうにないですから。
それよりも、一人で自由気ままに旅をしながらというのもやってみたいですしね」
どうやら観光がてらこの問題を解決するような言い方をされて、一人の騎士がテーブルを叩きつけた。
「使徒殿っ!!」
「代行者です、聞こえていますようるさいなあ」
おちょくるようなウルに騎士団長、メア・イゾルテが騎士を抑え込んだ。
「シュトックハウゼン、止めなさい。
代行者様の言う通りよ、我々は強いわ、余程の事がない限り、代行者様には組織の外側から働きかけてもらうというのには一理あると思うの」
「もちろん、権力が必要なときは使わせてもらいますが…そうですね、影武者でも作ってそちらはそちらでやってみれば如何です?」
ウルが提示した案はこうだった。
ウル本人は単独で歪を退治していくが、それまで教国にいないだろうウルの代わりを背格好の似た騎士に影武者をさせる。
教国の面子も保てるという訳で、反対する場面は特になかったようである。
一人、ヨハンが脹れているようだが、少女らしい仕草に苦笑してしまった。
整った容姿にまるで黄金の糸のような長髪をツインテールにした彼女の表情は、まるで一つの芸術品である。
容姿については仮面でもつければ問題ないと言って、ウルは白かった鎧を黒色に変化させた。
「それじゃあまたどこかで、力付くで止めようとしたら半殺しにしますよ?」
出鼻をくじかれた形であったが、止めるものは誰一人としていないようである。
とそこへ、アドルフがウルの元へよりネックレスを渡した。
四大元素を意匠とした銀色の十字架を見て、強力なマジックアイテムと思ったのだが、力の反応が見られない、若干力はあるようだが、攻撃や防御に使えるとは思えなかった。
アドルフはその十字架を見せれば大抵の事は面倒事はやってこないと言ったのだが、ウルは不思議そうに首を傾げるのみである。
「その十字架はのお、枢機卿以上の意を受けた者のみが持っているとされる代行証じゃ。
これがあれば国の検問や国境を越える時に受ける審査を免除され、なんと教会での寝泊りもタダじゃ。
どうじゃ、至れり尽くせりじゃろ?」
しかも教国と契約している商店では商品が三割引きと、旅の心強い味方のようである。
「…何が交換条件で?」
「かか、話が早くて助かるわい。
いやなんじゃ、七日に一度教国ではヨハン様やわし等をはじめとした会議があっての、そこで生の情報を見てきた代行者様の言葉を聞かせていただきたいという訳じゃ」
教国へ上がってくる情報は膨大だが、どれも重要度というのは組織の下から上に上がってくるまでに時間がかかるようで、大抵が数日過ぎた情報となってしまう。
それを解決するために、ウルには目となり耳となって欲しい、というのがアドルフの言い分であった。
使われることに対してあまり乗り気ではないようだったが、十字架の魅力に比べればそれほど苦になるようでもないようだ。
端からこの身は使われているのだし、今更だと自嘲してしまった。
「それで、その心は?」
「代行者様と親交を深められれば良いのお」
したり顔で笑うアドルフに、なぜか親近感を覚えたウルは二つ返事で承諾した。
「いいでしょうアドルフ、名前を呼び合えるほどに仲良くなるのは案外早いかもですよ?」
アドルフから十字架を受け取るとウルはその十字架を首にかけ代わりと言ってアドルフの名前を呼んだ。
これにはアドルフも驚いたようで、幸先が良いわいと内心で手を叩く。
「それでは皆さん御機嫌よう、また用があればその転位結晶の念話で呼んでください。
手が空いていれば相手をしてあげますよ」
薄手の黒いマントをはためかせながら、ウルはのんびりと出口へと向かっていき、教皇庁を出て行く際に手を振って出て行った。
残った面々は、この状況を整理するために足早に元の職場へと帰っていき、取り残されたヨハンがテーブルに残された転位結晶を眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アンドレア教は努力型宗教の一種だ。
常に努力し、隣人に優しくあろうとする信者たち。
毎日必死に前を進んでいくことこそ至高とするこの宗教は、大陸全土に信者を集めている一大宗教であった。
国の国教はすべてアンドレア教で、この世界にある唯一の宗教といっていい。
ヨハンは神から信託を受け教皇となり、以降千年を超える月日をこの教国で過ごしてきた。
限定的な不老不死にしてアンドレア教の象徴でもある少女は、その一日のほとんどを祈りの時間に費やしている。
実務に関しては優秀な枢機卿たちがいるためやることが無く、教皇としてする仕事といえば、信者たちにバルコニーから手を振ると言った簡単な事しかない。
そんな彼女も目の前にいた代行者と名乗った少年には頭を悩まされた。
天然の部類だろうあの人格で、平気で国を滅ぼすと言ったあの表情は、夢に出てきそうなくらいに印象的であった。
肩のあたりまで適当に切ったままの髪に放置し、やる気といったものをまるで感じさせないあの雰囲気。
顔の容姿は小奇麗にまとまっているが、目を瞬きする時のみ生気をかろうじて感じられる程度である。
目つき次第で美形が台無しになるという典型例であった。
死んだ魚の目、というよりは見つめていると次第に胸にざわりと、不安になってくるような目でいられて、これが私たちの世界を救うであろう使徒とは誰も思わないだろう。
だが、実力に裏打ちされているだろう発言というのも理解できた。
幸いにして、デュケイン自らが鍛えたというあの少年の力。
頼もしいとも思ってしまい、頬がにやけるのを止められないヨハンなのであった。
読んでいただきありがとうございます。
まあ何と言いますか、ウル君の性格は誰に似たのやら…過激なことで。
もうすぐ戦闘的パートが始まりますよ。
ではでは、また次回お会いしましょう。。




