第038話 シュトルンガルドに至る
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
これにて、第2章が終了いたします、読んで戴き、誠に感謝、感謝を皆様に。
そして、こんな時に限ってデュケイン様は御休み回です。
平にご容赦を。
エドワードたちは後詰めで送られる予定だった騎士団と共に王都へ向かっていた。
代行者の影武者でもあるシュナイダーも同行しており、各国も目を離せない事態であると言えた。
式典の証人となるためアドルフも同行してきており、同行する護衛としては少ないと言えたが、周辺はウルたちがすでに掃除をしており、つつがなく進んでいた。
エドワードたちは、これまでのウルがやってきた所行の報告書を読んでいて、よくもまあここまでやったものだと呆れたものである。
一歩間違えれば国崩しでもしているかのような数々の所業に、苦い薬を飲んだ時のような苦しそうな顔をするのだった。
子供たちが一時期拉致されたらしいが、どうやら問題なく奪還できたようで、その件については謝罪文だけで10枚を超える大作となり、途中で読むのを止めたくなったものである。
誠意は分かったからもう少し短くしてほしい、と切に思う3人なのだった。
報告書に書かれている情報は全て自分の見た物を限りなく客観的に、後付けで個人的な感想部分など含まれていたが、大部分でエドワードたちも同様に、嫌悪すべき部分が多々あった。
最大の障害であるアーブラハム・フォン・ローゼンバウト公爵を排除し、その後邪魔な貴族たちの数を3分の2まで減らすという手腕は、正直に言って喉から手が出るほど欲しい人材である。
そして、残った貴族たちには王族に反抗するほどの戦力など微々たるもので、将来に起こる筈だった内乱という可能性も摘まれた。
エドワードがこの話を聞いた時、正直に言えばアヴァロンが内乱をしている間に復興を手早く進めるという手もあったはずなのに、どうしてアヴァロンを生かそうと思ったのか。
そのことを聞いた時、エドワードはウルが放った言葉に思わず肝が冷え切った。
『人間族を殺し尽くす手間より、奪い返した後の生き地獄の方が長く思い知ることが出来ると思ったからですよ』
貴族たちが減ったとしても、まだ問題は数多く残っている。
奴隷商売で財を成した商人たちは逸早くアヴァロンへ帰路をとっており、その所在を調べるのにはまだ時間もかかるだろう。
シュトルンガルドとの外交を円滑に再開しようとするならば、まずはその諸所の問題を片付けなければならない。
山の山頂でやってくる津波に安心をしていたが、やってきた津波は山を遥かに超すほどの高さを誇っている。
アヴァロンがその津波に耐えられるのかは、不明である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エドワードたちがやってくると、ウルはリオンたちに行ってくるといいと言って一人離れていく。
再会を祝して抱擁している姿を見て騎士団に後の事を頼むと、ウルはそのまま姿を消した。
本来ならばエドワードたちと報告書について仔細も伝える予定だったが、せっかくの家族水入らずを邪魔するほど自由人ではないつもりな本人であった。
ウルはその家族水入らずの為に、今日一日支えるためで暗躍する事にしていた。
ウルの特技は人間観察からの対象の行動予測である。
何気ない仕草から相手の思考や性格、行動パターンを瞬時に洞察する事において、他者を圧倒するほどの才があった。
獣人たちによる祝賀会があちこちで開かれており、その中では密かに獣人たちを助けていた人間たちも少なからずいて、事情を知る獣人たちからは受け入れられていたが、その中に不穏な火種が紛れ込んでいることがある。
獣人たちが楽しげに酒を飲んでいる最中にほんの少しだけ距離をとっている商人風の青年がいた。
青年の目的は獣人たちに親しくなって信用を得た所で秘密裏に獣人を誘拐し、奴隷商人に売るという仕事を生業にしてきていた。
普段は雑貨屋食材を市場に回すようなことをカモフラージュにそこで知り合った獣人たちに近づき、時間をかけてゆっくりと信用させて誘拐することがほとんどであった。
関係している奴隷商人の所在をいくつか知っているためまだ人脈は潰えておらず、お祭り騒ぎの時だからこそ、浮かれている間に一人二人誘拐する計画を立てていたのである。
品定めの為に犬耳の少女に狙いを定めて、どうやってここから離れて連れ去ろうかと思案していた所をトントンと肩を叩かれて振り返る。
「はい、何かごよ―――っ!?」
青年は首根っこを掴まれそのまま路地へと連れ込まれたのは男の方で、万力で挟まれたかのようにギリギリと鋏まれて満足に息をする事すら敵わなかった。
青年が消えたことに、獣人たちは気付く事は無かった。
《漆黒の蛇》ことガリレオは足音も無く追跡者から逃げ続けていた。
雇い主である公爵を失い、部下たちを失い、身の置き所を失くしたガリレオは単身小汚い商売に再び手を染めようとしていた。
品定めをしていた最中、視線を感じて一旦逃げようとしたのだが、相手は追跡者としてガリレオを追って来ている。
追跡者は一定の距離を保ったままガリレオを追跡してきており、ガリレオの勘違いなどではない。
相手はフードを被っており、正体は不明だが身長から見てまだ子供位であるが、洒落にならない位に腕の立つのは確かである。
「…はぁ、旦那も死んで金払いのいい奴はみんな消えちまうし、変な追跡者はいるはで最悪じゃん」
ガリレオは細路地に逃げ込んで素早く建物をよじ登って追跡を逃れようとした。
追跡者が入ってきた時には、既にガリレオは建物を登りきっており、気づかれずに逃走は完了。
そのはずだった。
追跡者はおもむろに狭い路地から見える空を見上げると、念のために追跡者を観察していたガリレオとばっちりと目が合う。
「おいおいマジかよオイ、目合っちゃったぜチクショウめっ!!」
どんな理由であろうと追跡者は諦めようとはせずに追いかけてくる。
よじ登ってくる追跡者に更に距離をとるため、ガリレオは逃走を再開した。
10秒と経たずに追跡者は建物を登りきると一目散にまだ見えるガリレオを追いかける。
身体能力はどう考えても追跡者が上で、逃げ切りようがない。
障害物は特になく、ガリレオは鬼ごっこを5分ほどしてあえなく追跡者に捕まってしまった。
かといって、ロープなどは使われていない。
ただ至近距離で野放しにしており、その気になれば逃走劇は再開されるだろう。
が、ガリレオは諦めていた。
どう考えても、目の前の亡霊に勝てるわけがないとはっきりと自覚しているからである。
「あー、なんというか、久しぶり?」
フードをとった追跡者はガリレオの間抜けな挨拶に溜息をつき、挨拶は返さなかった。
「お久しぶりです黒蛇さん、暇だったので会いに来ちゃいました」
目の前には、公爵や部下たちと共に殺したはずの相手、教国の使者がいたのである。
「…はぁ、やっぱりかよ。
おかしいと思ったんだ、殺せるわけがないと自覚していた相手を何故だか殺せていて、そして殺したはずなのにその後の隠蔽処理を忘れるほど酒を飲むだなんて、普段の俺たちならあり得ねえ…が、あの時はそうとしか思っていなかったからなあ。
坊主、お前さん俺たちの記憶を弄ったな?」
亡霊と思っていた相手は生きていた、という事実をガリレオは口にして自分のうかつさに呆れていた。
「…へえ、自力でそこまで気づけていただなんて…やっぱりあの|道化(公爵)よりはマシといった所ですかね?」
わざとらしくぱちぱちと手を叩くウルに、ガリレオはもう諦め一歩手間である。
抵抗は無意味であると自覚しているが。
「あの道化を始末した後に、黒蛇さんだけ逃げ切っているのに少し気がかりになっていましたから…後顧の憂いを立つために潰しておこうと思っていたんです」
「…おいおい、半殺しで許してくれるんじゃなかったのかい?」
「記憶にございませんね、勘違いでしょう」
笑顔で言い切るウルに、ガリレオは思わず顔が引き攣った。
「…なあ坊主、取引しないか?」
「取引の意義を知っていますか?
この状況で切り札でもない限り、寿命は数十秒しか増えませんよ?」
ウルの手から高温の炎球が詠唱もなく現れる。
それでも気にはなるのか、ごそごそとバッグから片眼鏡を取って付けると、炎球を向けられたまま話してみろと無言で訴えてくる。
「実はな…俺、あの旦那と知り合ってまだ一度も獣人殺してねえんだよ」
「…続けてください」
ガリレオは正直に話した。
元々裏社会で暗殺家業を黙々と続けてきたガリレオは、貴族の便利な駒として《漆黒の蛇》という名を轟かせていた。
金次第でどんな相手でも殺して見せるその手腕をローゼンバウトが見出したのはウルたちがアヴァロンへやってくる1ヶ月ほど前であったという。
知り合ってすぐにそりが合わないことは自覚していたが、金払いが良かったことも嵩じてガリレオは渋々といった様子で獣人たちを誘拐していた。
どうして獣人の女ばかりを狙ったかというのは、ローゼンバウトの注文だったらしい。
そして誘拐されてきたのが、ウルたちが現在教会で保護している20名前後の獣人たちだったらしい。
「…嘘をついていないようですね…が、潰さない理由としてはまだその切り札は切れ味が悪いですね。
何かほかに研げる様な砥石はありますか?」
「…俺を坊主の部下にしてくれよ。
死ぬくらいなら、もう少し年を食ってから死にてえっていうのと、坊主がやってきたこと…いや、これからやろうとしていることを見てみてえんだ」
命を差し出す、という砥石しかなかったガリレオだが、思いのほかウルには効果があったようで、向けられていた炎球はそのまま消失した。
「…正直獣人たちを誘拐していたことは許せませんが…黒蛇さんは使い勝手がよさそうですね。
私がアヴァロンを離れた後の情報収集を主な任務に、個人的に雇い入れるとしますか。
…よかったですね黒蛇さん、ものによりますが老後はウハウハかもしれませんよ?」
ウルはモノクルをバッグに戻し、黒いバングルを取り出した。
ガリレオに渡して手首に着けるように言うと、ガリレオはそっと内側を見つめた。
恐る恐る手に取ってみるが、毒針といった仕掛けはなく、安心してバングルを付けたが、予想を遥かに裏切る結果が待っていた。
突如焼けつくような痛みがバングルに嵌めた手首からしはじめたのである。
あまりの痛みに思わず外そうとしたが、いつの間にか外せなくなっていた。
ようやく痛みが引いて大量の汗をかいたガリレオに、終始笑顔のままのウルが腰を下ろしてガリレオと目を合わせる。
「それは念のための保険です、装備者を守る盾であり、裏切り者に容赦なく鉄槌を下す槍でもありますので、気を付けてくださいね?」
内心では弄った記憶を元に戻してあの時刻み付けた恐怖を呼び覚まそうとウルは思ったが、使い物にならなくなっても困るため自重した。
連絡手段は冒険者ギルドを通して連絡をするように簡単な段取りをつけると、まだやる事があるのか、足早と去っていくウル。
建物からそのまま飛び降りていくウルに、ガリレオは鼓動の速い心臓を押さえて安堵した。
この場から生きていられたことと、今後の自分の処遇に。
その日、《漆黒の蛇》は死に、暗殺者業界からその忌み名が聞こえる事は無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳で、エドワードに追加の報告書です。
逃げてしまった奴隷商人が現在潜伏している都市とその所在、ざっと40名ほど調べてきました。
これを交渉カードに、アヴァロンから賠償金をもっとふんだくってくださいね?」
といって、辞典の様な分厚い書類を持ってきたのは、エドワードが王都にやってきたことによって開かれていた各祝賀会が終わってから数時間後の事である。
既にリオンたちには眠るように言いつけており、今日も王城で寝泊まりする事になっていた。
危険がないとは言い切れないが、結界を張っているので心配はないと言えた。
貴賓室でまだ起きていたエドワードたちは、今日一日何の音沙汰もなかったことに何かあると気付いて4人で待っていた。
案の定という事なのか、やってきた情報は相変わらず性格でいて信憑性の高いもので、非の打ち所もない事の見本のような報告書であった。
「…これで、私が獣人族にやってあげられることは終わりました。
あとは、あなた方次第です…期待していますよ?」
アドルフも混じってその報告書を眺めており、顔をぴくぴくと引き攣らせながら書類をめくっていく様子に思わず苦笑するウルなのだった。
「ああ、なるべく期待に沿えるよう尽力いたそう。
感謝、ただ感謝を…ありがとうございます」
頭を深く下げたエドワードたちに軽く手を振って気にしないように伝えると、ウルは部屋から出て行こうとした。
「それじゃあ私はもう戻りますが…何かやる事ありますか?
何なら手伝いますよ?」
エドワードたちはウルの言葉をやんわりと断り、あとは自分たちでどうにかすると聞くとそのまま扉を閉める。
ウルは黙々と自室へと戻っていく中、自分の内にある種の不安がよぎった。
「…私は、本当に皆の役に立っているのでしょうか」
ぽつりと呟くウルに応える者はいない。
結果的に、ウルは獣人たちを利用したのである。
囚われの身である獣人たちを解放するという条件を突き付け、役に立つであろう戦力にするために助けたにすぎない。
結果は確かにその通り、役に立ったことは確かである。
しかし、それでもウルは不安だった。
その不安を払拭するためだけに、ウルは行動を続けていくのである。
代行者という立ち位置の他に、何らかの意義を見出すために。
夜も更けていく中、眠っているリオンたちを見守りながら、ウルの思考は巡り続けていく。
読んでいただきありがとうございます。
ようやく、終わりました第2章が。
長いような…短いような?
ウル君の不安がっていることは、まあなんとなくですがお察しを。
なんたって神王様に頼まれていますから、期待に応えるためにはみんなの役に立ったと実感できないと不安の一つや二つ出てくるわけでして。
さて、予告していましたが次回は設定などを送っていく予定となっております。
忘れていたような設定など、細かく入れておくので気が向けば読んで戴けると幸いです。
ではでは皆様、また次回まで。
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