第002話 歓迎ムードのはずなのに
気づけば20分過ぎてました…申し訳ありません。
戦闘パートはもうすぐです、もうしばらくお待ちを。
「とりあえず、まずは基本的情報を教えておくね。
まず第一に、この世界を含めた数多ある三千世界、その三千世界を治めているのが僕のとお様…神王さまね?
…で、とお様一人だと何かと大変だという事で、三千世界には各世界に管理する神様がいるんだ」
この神達の名称を、総じて『地神』と呼んだデュケインは悠々と講義を続けていた。
さらに上位に『天神』と呼ばれる神の上位存在が魔神を含めた者たちという事を教わりながらも、ウルの身体は命懸けで接近してくる刃を紙一重で躱し続けている。
頭と体を容赦なく使い続けるこの修行法は、一つ間違えればそのままあの世行である。
既に視線で追い切れる速度を超えてしまっていて、経験と感覚を以て血を流しながら講義を聞き全力で躱し続けている。
「…で、どうしてウルが必要になったかというと、この世界の人間や獣人たち、それにエルフや妖精とか精霊たちには、『上位存在』である女神は殺せないという訳」
『天神』ならば『地神』を滅ぼすことも可能らしいが、この世界のルールの所為で、『天神』はこの空間の先にある異世界には入ることができないのである。
集中力は途切れていないが、さすがに精神的に疲労が見えてきて、紙一重で躱し続けていたはずの肉体に次第に切り傷が増えていく。
それに気付いたデュケインは振るっていた刃を収めると、いったん休憩の指示を出した。
膝をついてそのままへたり込んでしまったウルに、高い位置から声が届く。
「息を整えたら続きをするんだから、早くしてよね?」
こうして、一日目にして最初の修行でもある体術の修行は一旦休憩に入った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「「「ようこそ使徒様、歓迎いたしますっ!!」」」」
馬車から降りて第一声は、塔で出会った誰よりも友好的だった。
左右を警護するかのように並んでウルを迎え入れたのは、教皇庁を一手に守護する100人の精鋭たち、そのさらにトップである20人だった。
獣人とエルフ、それに魔族の騎士たちは馬車から降りてきた白尽くめの少年に一部の隙も見せずに、一人としてウルを自分の物差しで測ろうとする視線ではなく、厳格な意思を以て臨んでいる様子に、思わずウルがため息をついた。
「最初の印象のお陰か、目の前の騎士たちの評価はウナギ登りですね」
それを聞いた少女が少年に視線を向け、ウナギってなんでしょう、と尋ねてきたが、ウルはそのまま無視した。
別に少女が嫌いなわけでなく、説明するのが面倒なだけである。
後から降りてきた枢機卿や先に降りて辺りを警戒していた騎士団長たちも、かろうじて面目は保てていると安堵しているようであった。
ゆったりと、散歩をしているような歩調でゆっくりと歩く少年に、まったく危機感や緊張感などは持ち合わせていない。
例え、目の前にそびえている教皇庁が芸術性を限界まで極めている場所であろうと、その態度には全く変化は見受けられなかった。
モノクルを外して腰に付けてあるバッグに詰め込むと、騎士たちを一人一人眺めながら建物の入り口に辿り着く。
たった数十メートルの距離に五分近くかけて歩かれては、周りの者たちの背に嫌な汗が流れていた。
「……さてと、お邪魔します」
まるで近所の家に上がり込むような呑気さに神経質な者は眉間に皺を寄せ、心配性な者はこんな人間に任せて大丈夫なのだろうかと不安になっていた。
「ふむ、そういえば内装が綺麗ですね。
マスターの城ほどではありませんが、よい出来です」
一人で納得しているウルだが、入り口を開けた先で待っていた大主教たちや使用人たちまで完全に無視して通り過ぎていくあたり、後方で見ていた少女や枢機卿たちは確信した。
『この人天然だ』
既に自分の世界というものが確立してしまっている以上、どこにいても自分の在り方が変わらないし、変えようもない、相手としては一番性質の悪い存在である。
「……あ、庭がありますね丁度いいのでここで話しましょう」
それを聞いたアドルフは部下たちに、近くの部屋からイスとテーブルを用意するように指示を出した。
理由など大体予想が出来た、陽気が気持ちいいをはじめとした酷く自己中心的なものに決まっている。
急いで円状に用意されたイスとテーブルのなぜか下座にある椅子に座ってしまったウルに、慌てて近くにいた物が上座の方へ座って欲しいと願い出たのだが一蹴された。
「特に偉い立場の人間じゃないのに、上座に座るのはおかしいので嫌です」
変な所で常識人であったのに、目の前の使徒に対してどう接すればよいのか計りかねているアドルフやゼンガーに、少女が再び話しかけた。
「し、使徒様は我らが神が遣わされたとても偉い方です。
私達よりずっと偉いので、こちらに座っていただけませんか?」
じっと見つめ合う二人だが、先に折れたのは意外なことにウルの方であった。
気まぐれが起こったのか、適当に嘯きながら上座に座るのに安堵した少女は、自然とその隣に座る。
隣に座った少女に、ウルが不思議そうに眺めていた。
そう言えば、この少女の立場はどういったものなのでしょうか?
他の豪奢な服を着た枢機卿たちの服装と比較しても、劣るどころか所々見栄えする刺繍も見える。
そして思い至ったのが、デュケインが話していた一人の少女の話であった。
「…思い出しました、貴女がデュケイン様のおっしゃっていた少女、『教皇ヨハン』なのですね」
名を知っていたことに驚いたのか、ヨハンと呼ばれた少女ははいと頷いた。
「はい、どのようなお話で聞いていたのかは分かりかねますが…私がこのアンストル教の教皇をしておりますヨハンです」
名しか名乗らなかったことから、苗字というものを持っていないのだろう。
聞いていた通りだと納得すると、ウルは全員が座ったところで自己紹介をした。
「初めまして皆さん、私はあなた方の言うところの神様が派遣した使徒と呼ばれる存在…とはいえ、別に偉い訳じゃありませんし、名乗るほどの者でもありません。
まあ…とりあえず【代行者】とでもお呼びください。
親しくなれたら私の名前を教えて差し上げますよ?」
あまり友好的な方向へ持っていくのが難しい相手という事はすでに知られている。
それでも軟化する気配のないウルの態度に対して、ヨハンや枢機卿たちの対応はおのずと決まる。
すなわち、被害の広がらない方向で気の向くままにやることをしてもらう、という事になった。
「それは…仲良くなれば代行者様のお名前を呼んでもいいという事ですか?」
「もちろん呼んでも構いませんよ。
まあ、会話中に私の名前が知られるという事はありますが、名前を呼ばれても見向きもしないし反応もしません」
社交性というものを度外視したウルの発言だが、極端に否定的な者は一人もいなかった。
「さてと、一応デュケイン様から話は伺っていますが、現状況を詳しく聞いておきたいので口頭で説明、もしくは資料ください」
ゼンガー枢機卿が近くにいる大主教にすぐに資料を持ってくるよう命令すると、五分ほどで大まかな資料の紙の束がまるで辞書のように束ねられている。
ここ最近の細かい状況については、口頭で説明してくれるようだった。
「それではまず、この世界に現れた『歪』について御説明させていただきます」
デュケインがウルに叩き込んだことは、あくまでこの世界で生きていくために必要な力であって、この世界の一般常識などについては全くと言っていいほどに教わってこなかった。
そのために、いざ塔を下りようとしても、この世界の地理すら知らないウルからすれば、暗闇に放り込まれた子供同然の状態なのである。
そして、ウルはこの世界の現状がいかに面倒で、長い時間がかかるという事に頭を悩ませる羽目になるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
意外と真摯なデュケイン君、どスパルタですけどバッチリな修行ぶりでは?
一章の最初は少々世界観をお話しするので、先頭については後半から始まります。
ではでは、ありがとうございました。




