第035話 ゴミ狩り
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
デュケイン様御休み回です。
王都では貴族の子息、子女たちの為の学院が創設されていた。
他国では親交を深めるために交換留学などの制度が設けられていたが、この学院ではそういった制度は設けられておらず、貴族たちだけの学院となっていた。
堅苦しい貴族社会の中で、子息子女たちが週に一度だけ学院から出ることが許可されている開放日では、羽目を外す学生たちが多くいた。
そして、ヘルマン・フォン・エッセン男爵もその一人であった。
お供の学生たちと共に、週に一度の自由を満喫するため、彼らは平民では足を踏み入ることすら出来ない高級な店で食事をし、華美な宝飾を買い漁り、路地裏で弱っている獣人に暴力を働いたりと好き勝手にしていた。
自らの稼いでいない金で浪費していく様は、汗水流して働いている者からすれば殺意の一つや二つ湧くものだが、誰も口には出さずにいた。
「ヘルマン、今日はどの店で夕食するんだ?」
名前も覚えていないお供が夕食時の店をどうするのか聞いてきた。
王都にある高級料理店は全て把握しており、その中で最も気に入っている店があったので、そこにしたのである。
「さすがヘルマン男爵、食通でいらっしゃる」
ヘルマンの父は王都でも有名なルドルフ・フォン・エッセン侯爵であり、既に長子であるヘルマンには男爵の爵位を譲られている。
アーブラハム・フォン・ローゼンバウト公爵と過去結託しており、彼が処刑されてからはその勢力もガタ落ちしてしまっているが、まだ侯爵家はその権勢を誇っていた。
『金柳亭』と書かれている看板の扉を開くと、洗練された給仕がヘルマンたち一行を迎え入れた。
「いらっしゃいませヘルマン様、本日も金料亭へお越しいただき、誠にありがとうございます」
給仕のヘルマンに対する扱いはいつもと変わらぬものであったが、それを当然の様に受け取ると案内を無視して好きな席に座ろうとした。
「…ん、なんだあれは?」
他にも先客たちがいて裕福な商家の者たちであったが、一際目を引いた者たちがいた。
一人の人間が、獣人2匹と同じテーブルで食事を摂っていたのである。
黒髪に黒い瞳という珍しい組み合わせに、整った顔立ちをしていた少年である。
身形の整った服装をしていて、獣人たちもそうだが、とても高そうな服を着ているようだ。
自分の知らない貴族の子弟なのかとヘルマンは思ったのだが、獣人のような下等生物と食事をするような貴族などいないだろうと判断してすぐにその思考を切り捨てた。
この料理店は獣人お断りの張り紙は出していないが、料理自体が高額なため貧しい獣人たちが店に入ってくること自体あり得ないというのが暗黙の了解であったのである。
それがある人物の計画であることを、ヘルマンたちは知らなかった。
気に入っている店に、汚らわしいケモノが人間と一緒の食事をすることに酷く不愉快に思ったヘルマンは、席に座ろうとする前にまず、飼い主らしき人間に店から出て行くように命じた。
「おいキサマ」
おいしそうにフォークとナイフを上品に使って食べているその人間の手が止まり、なんだコイツといったような目で見てきた。
「……」
一瞥しただけで、返事もしなかった。
「貴様、僕に逆らうのかっ!!」
「私の名前はウルっていうんです、『貴様』だなんて名前ではありません。
あと、食事の邪魔です」
馬鹿にしたようにウルと名乗った人間はヘルマンに文句を言ってきたのだが、ヘルマンは自分に盾突いたウルに腹を立ててテーブルに拳に叩きつけた。
「黙れ平民がっ!!
貴族の僕に盾突くだなんて許さないぞっ!!」
「…あーあ」
「犠牲者一名追加、っと」
隣で2匹の獣人が何か喋っていたことに気付かず、ヘルマンはウルの胸倉を掴み上げる。
「…服が伸びます、手を離しなさい」
あくまで冷静に対応を重ねるウルの声は、ヘルマンの神経をさらに刺激させた。
拳を振り上げてウルに殴り掛かろうとした時、身体がすくんで動けなくなってしまう。
原因はすぐに分かった。
掴んで持ち上げているウルからヘルマンへと殺気が向けられているのである。
ヘルマンは剣術の成績が高く評価されていて、ヘルマンより強い学生はこれまでいなかった。
ウルは胸倉を掴んでいる手を強引に引き離すと、ヘルマンの手首から異音がした。
それは、食事中に聞くような音ではなく、とても暴力的な音を有していたのである。
「あ…て、僕の手がああぁっ!!」
「ヘルマンっ!?
貴様、平民の分際でよくもっ!!」
帯剣していたヘルマンのお供たちが一斉に抜剣すると、周りの迷惑も顧みずにウルたちに襲い掛かってきた。
「…リオン、ジュリー。
後はよろしく」
「「はい、先生」」
獣人たちは襲ってくる人間たちに怯む事無く軽く反撃を加えた。
振り下ろしてくる剣を避け、手首に容赦なく握りしめて粉砕し、剣を振り回す学生のこめかみに軽く一撃する。
呆気なくヘルマンに追従していた者たちはその勢いを削がれ、店内で転がってしまっていた。
手首を押さえながらその様子を見ていたヘルマンは、見向きもせずに食事をしているウルを睨みつけている。
「貴様…こんなことをしてタダで済むと思っているのかっ!?
ぼ、僕はルドルフ・フォン・エッセン侯爵が長子、ヘルマン・フォン・エッセン男爵だぞっ!?
父の手にかかれば、貴様ら如きっ!!」
ルドルフの名前を聞いた瞬間、ウルの目が怪しく光り。
そして獣人たちはヘルマンを見て可哀想なものを見る様な目で見ていた。
まるで、ワンパターンすぎる展開、と言わんばかりに。
「…私、教国の使者なんですけど、アヴァロンの貴族は理由もなく平民に襲い掛かってくるものなんですね、驚きました」
「なっ!?」
教国との関係を知る程度の知恵はあったようで、ヘルマンはウルが教国の関係者と知ると、みるみるうちに脂汗をかき始めた。
それに呼応してか、金柳亭に警備兵が何事かと言ってやってきた。
「教国の使者に対して襲いかかってきた不届き者です、即刻連行してください」
ウルがそういうと、兵士たちは丁寧に非礼を詫びるように謝罪し、ヘルマンたちを連れて行ってしまった。
その様子を見て誰一人としてヘルマンたちを助ける者はおらず、ヘルマンは呆然と兵士たちに引き摺られていくのだった。
その様子をウルたちは笑顔で見送り、新しい料理が運ばれてくると、まるで先ほどの事など忘れて料理に舌鼓を打っているのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳で、さっきのお馬鹿さんたちで通算20組目です。
ほんと、面白いくらいに引っかかってくれますねえ」
デザートのプリンのおいしさに頬を当てながらうっとりするウルに、リオンとジュリーが苦笑していた。
「…と言うか先生、どれだけ食べればお腹いっぱいになるの?」
「そうですよ、朝からずっと食べ続けて、もうあれから10時間以上ずっとじゃないですか。
お腹が割けちゃいますよ?」
心配する2人だが、ウルは心配ないと言って笑ってみせる。
「本来私は食事を必要としないのですが、生き物というのは食事をすれば最後は出さなければなりません。
…まあ食事中にするべきでない話ですが、これは分かりますね?」
頷く2人に、ちょうど傍を通った給仕からゴホンと咳をされてしまった。
ウルは内心申し訳ないと謝罪して、説明に戻る。
「しかし私の場合、食事をすれば本来出す必要なく、全て身体に吸収されるのです。
ちなみに、この行為は正直に言って燃費が悪すぎてあまり効果的ではありません。
…まあ簡単に言うとですね、私はいくら食べても肉体に何の変化も及ぼさず、食べ続けることが可能なんですよ」
お腹いっぱい、という概念が全く存在していないらしかった。
その気になれば店の材料を喰い尽くすことも可能と豪語したウルに、近くにいた共演者たちの顔が引き攣っていた。
彼らはウルに雇われた冒険者たちで、朝から晩までここにいるだけで、1人当たり2万ヒトゥン貰えることになっている。
既に50人近くを連行されていく様を見続けている彼らは、内心でざまあみやがれ貴族め、と手を叩いて喜んでいる。
「金柳亭の主人にも感謝を、今回引き受けてもらわなければ、こうも順当に事は進まなかったでしょう」
ウルが選んだ金柳亭は獣人たちを厨房で多く雇っており、最初安い労働力で獣人を使っているのかと訝しんだウルが情報屋に調べさせたが、予想外の答えがやって来ていた。
金柳亭の主人は、密かに獣人たちを擁護していたのである。
多くはなかったが行き場を失くした獣人たちの為に余った食材を使ったり、残した客の料理を更にアレンジして食事をさせたりとしていたのだった。
主人はかつて獣人たちに命を救われた経験があり、その恩を返すために貴族たちにばれぬよう、獣人たちを少なからずではあったが助けていたのである。
「…正直、俺たちが丹精込めて作った料理を味わいもせずに食い荒らすような連中は好きじゃなかったってだけだ」
ぶっきらぼうにそう返した主人にウルはそうですか、と気の無い振りをして返事をした。
「料理長、もうすぐまた貴族の方々が…」
給仕がわざわざ客引きをしてきたのか、料理長とウルに報告を入れてくる。
よほどこのイベントが楽しかったのか、この場にいる者全てが楽しそうな、本当に楽しそうな笑顔をしていた。
「それじゃあ御主人、追加のメニューをお願いしますね」
「…まだ食うのか」
朝からこの調子のウルに、主人もげんなりしている。
「それはもう当然、こんなおいしくて飽きさせない料理、食べていないと損ですよ」
主人はため息をつき、材料足りるといいんだが、とぼやきながら厨房に入っていくのだった。
「いらっしゃいませ、リヒャルト様。
本日も金料亭へお越しいただき、誠にありがとうございます」
扉を開くベルがして、団体のように貴族たちの子弟が続々と現れる。
共演者たちが、給仕が、料理人たちが、ウルたちが待ち構える『狩場』へのこのこと現れた。
「さて…まだまだ続きますよ」
口元が緩んでだらしのない笑顔をしているウルが、楽しそうな表情で獲物に目を向けた。
「作戦名『おいしい料理とゴミ狩り』が」
その日、詰所に送り込まれた貴族の子弟子女たちは過去最高の100人を超えたとか。
読んでいただきありがとうございます。
釣れる釣れるいっぱいつれました、はい。
なにがって?『ゴミ』ガデスハイ。
単調な感じに終わってしまいましたが、次回はもっと面白い展開がっ!!
てなかんじで、さて次回予告。
次回、『思わぬ大物?』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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