第033話 嫌いなもの、勘違いしたやつ
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
目を開けると、何故か目の前にはデュケイン様がいらっしゃいました。
記憶を辿ってみたのですが、私は意識を落とす、つまり寝ていなかったはずです。
まるで取調室のような部屋で、デスクライトと七三分けと眼鏡をかけたデュケイン様がニヤニヤしています。
…無理やり引っ張ってきたという事ですかねこれは。
あと気付いたのですが、部屋の端には聴取内容を書記係の方がいらっしゃいました。
お知り合いでしょうか?
「こちらの事は気にせずに、君はそこの戦神と漫談していたまえ」
心を読んでいらしているようで、どうやらこの方も天神の一柱のようですね。
「はい、それじゃあこれからウルが昨日しでかした事についての裁判を始めまーす」
「…デュケイン様、その格好に合わないです」
「…なんなのだろうね、このぐだぐだ感は…はぁ」
よく分かりませんが、後ろの方は疲れたような溜息をされています。
よほどデュケイン様の相手をされるのがお疲れなんでしょうね、心中お察しします。
「…まあ冗談はさておき、今回ウルが起こした誘拐騒ぎについてちょっとまあいろいろとお話があるわけ。
こんな面白セットをバルに作らせてなんだけど、これは聴取でも裁判でもなく、お説教部屋だからね?」
今回の騒ぎで全面的に私の不注意から引き起こされた事態の反省と、環境破壊一歩手前の破壊行為を行おうとしていたことでした。
「ウルが悪くないのは僕が保証してあげる、けど、隙を見せてそれを防げなかったことについては反省する余地はある、それは分かるよね?」
「はい、その点については猛省しています」
今後2人と別れる際には、転位結晶の重要性を入念に教えておかなければいけませんね。
「隙をつくような姑息な相手が基本悪いの、イジメでもそう、弱いからってそれを理由にいじめるのは筋違いなのだ、うん、そうそう」
「…話が逸れているのだよデュケイン」
「あれ、なに話してたっけ?」
「デュケイン様の髪形は超絶似合わないという話ですよ」
「あれ、警察官って七三分けで眼鏡じゃないの?」
「お説教だろう…まったく、こういう手合いは本当疲れる」
天神の方はお疲れのようですね。
「とりあえず、ウルはあの獣人2人を大事にするっていうのならきちんとすること。
今回はあの程度で済んだけど、次何かあって後悔しても遅いんだからね?
じゃ、僕は言いたいこと終ったから、あっちに返すね」
返事をする間もなく私は強制的に意識を落とされ、気づいた時には椅子に座ってぼうっとしていました。
「…なるほど、使い魔をこの世界に下ろしたことで自由度が上がったという事ですか。
という事は、眠っていなくても突然意識を向こう側に持っていかれる可能性も出てくると…」
落ちてしまっている本を拾うと、ホコリが付いている部分を軽く払う。
外を見てみると、もうすぐ夜が明ける時間のようで、どうやらデュケインは2人が眠っている間に事を済ませてくれていたようだ。
「暇ですし、本の続きを読みますか」
更なる魔法の向上を目指すために、私は図書館から借りた本を2人が起きるまで呼んでいました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リオンとジュリーが起きたのは昼食の時間で食事を済ませて今回の経緯を聞くことになった。
マークを痛め付けた時に吐かせた証言同様、二手に別れてから依頼をすべて達成してすぐに襲われたそうである。
依頼の期日までまだ日があるので再度討伐をしなくてはならないが、今度はウルも同伴する事になった。
もちろんウルは手を出さずに2人に歪を狩らせていたが、辺りを警戒していたため空気がピリピリしていた。
順調に歪を討伐すると、換金部位を切り取って袋に詰めていく。
傷一つ負う事なく歪を狩ったことを褒めると2人はほっとしたように息をつくが、すかさず帰りは走り込みをするというとげんなりしていた。
「先生…あたしたちさっきまで歪と戦ってたのよ?」
「ここから走り込みで帰れるほど体力が残っていないんですが…」
弱音を吐く2人に、ウルが困った風に首を傾げた。
「何ですか2人とも情けない…と言いたいところですが、まあいいでしょう。
当分お金に困る事は無くなりましたし、街道一帯の強力な歪は大体ですが排除できました。
近い内この国へ戻ってくるだろう獣人たちの安全が少しはマシになったという事になりますかね」
ウルは2人に、当面は教国の騎士団が警備の人員として派遣されることを伝えて日が落ちるまでゆっくりと宿に帰っていくのだった。
その日から、ウルはいつも以上に2人の事を気にかけるようになった。
1部屋にして2人が眠っている間ずっと警戒し続けていたり、食事も摂らなくなってリオンとジュリーが食事をしている最中でも辺りを警戒し続けているようで、守ってくれてありがたいと思うと同時に、少し息苦しさを感じていたリオンたちだったが、休んでくださいと言えなかった。
あまりに必死なウルの様子に、これ以上余計な心配をかけたくなかったのである。
教会へ出かけて獣人たちの様子を見たり、冒険者ギルドへ行って依頼を受けるウルの様子は何の変哲もないように見受けられた。
修行の内容も少しだが変わった。
体力が尽きるまで最初から全力でこなし、尽きたら魔法で活力を戻し、というサイクルを延々とし続けるという超スパルタメニューが鳴りを潜め、基礎鍛練と王都外周の走り込み、組手の繰り返しになっていった。
そして、内密の話があるという事でウルに王城から招待状が届くと、内容はこちらの日時に合わせて会談を行いたいと書かれていて、特にする事も無かったウルは2日後に指定した。
ウルはリオンたちと共に王城へ向かうと、すぐに会議室へ案内されて豪華な部屋に連れて行かれた。
既に王や新しく宰相に抜擢された人物も座っており、部屋の隅には護衛の騎士たちが沈黙を保っていた。
「…これはまた、随分とお待たせしたようで申し訳ありませんアルハザード王」
用意されている3つの椅子にウルたちは座ると、今日は一体何の用なのかとわざとらしく聞いた。
用意されている飲み物は紅茶のようだったが、座っている王や宰相のテーブルにはすでに冷えた紅茶が置かれていた。
予定されていた時刻よりずっと前からい続けていたと推測したウルは、獣人奴隷解放についての目途が立ったことの報告だろうと予測した。
口を開いたアルハザードの言葉はウルの予測した通り、来月の下旬までに獣人奴隷に関する法の撤廃を宣言し、同時にこれまで奴隷にされてきた獣人たちの補償金と慰謝料に関する法をまとめた文書を渡してきたのである。
ウルは法に詳しい訳ではないが、アルハザードが渡してきた法の内容には、法の穴を潜り抜けれるような部分はないように感じられ、個人的にこれでいいと答えた。
これでウルの目を潜り抜け、たとえば慰謝料は補償金を払わない事態が発生した場合、以前謁見した手紙と同様に制裁を加えればいい話である。
そしてアルハザードは知らないが、教国をはじめ、魔人の国ルーテンブルク、エルフの国ステルヴィア、竜人の国ムシュフシュにシュトルンガルド再興の旨をすでに伝えており、一部戦力の派遣を決定していたのである。
教国の騎士団の派遣はすでに伝えていたが、さらに他国の戦力がシュトルンガルドの防衛に参加してくれるという事は、一部の血迷ったアヴァロンの貴族勢力の牽制にも役に立つことは明白である。
アルハザードがウルを…代行者という立場を利用して獣人奴隷を解放する計画を立てていることはすでに知っており、ウルがそれを逆手に取っていただけの事である。
勘違いをしているアルハザードは、最後までそれに気付かないだろう。
交渉の極意は二進一退、着実に一歩ずつ進めることが堅実な交渉と言えよう。
だが、ウルは強引にも二進三進と押し続け、根回しもすべて滞りなくしてしまった。
相手が引く事の出来ない状況にまで追い込み、まんまと要求通りの状態にしてしまう。
勘違いしないでくださいね王様、あなたが私を利用したんじゃない。
私があなたを利用したんです。
内心これからの予定をどうするかを考えながら、メイドに出された紅茶を飲むウルの姿は、酷く楽しそうだった。
読んでいただきありがとうございます。
ちょいネタなデュケイン様回、といったところでしょうか。
残念なことに、獣人さんたちの邪魔以外はすべてウル君の掌というわけでして。
もう少し2章は続きますが、もう少しでこの国からおさらば。
ウル君の腹黒さが少し…落ち着くかもです。
さて次回予告。
次回、『計画通り、次の予定』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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