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ハイル 救いの物語  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第2章 地獄の沙汰も代行者編
31/97

第029話 下げて上げて堕ちる

誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。


 


「…ウル…ウルってば。

 こら、起きろ、このバカ弟子めっ!!」


 ベッドから転がされて、ウルの目が覚めたのだが、おかしなことに気付いた。


 痛みが無かったのである。


 そして何より驚いたのは、聞き覚えのある声だ。


「…って、デュケイン様?

 …服装が変わっていますが、イメチェンです?」


 そう、ベッドに土足で立っていたのは、ウルを7日間に亘って鍛え上げた師でもあり、この世界に送り込んだ魔神なのだった。


 そして辺りを見回すと、見知った管理者の間にいる事に気付き、これは夢の世界なのだと気付く。


 という事は、目の前にいるのは違う存在という事なのだろうか?


「…はぁ、違うよウル、僕は本物のデュケインだよ。

 いろいろ試して使い魔を送り込んでね、感覚とか共有してるんだ。

 今いるのはムシュフシュなんだけど、管理者の間の方でウルのやっていたこと見ていたんだけど、その事についてちょっとね」


 というのは、このところのアヴァロンでのウルの行為について何か問題点があったという事なのかとウルは思ったのだが、デュケインは心を読んでその通り、と答える。


 そして思った、目の前にいるのは本物のデュケインなのだと。


「別にさ、ウルが獣人族を戦力にするために邪魔な人間族を皆殺しにするっていうのに関して、僕としては正直別にかまわないんだよ」


 …怒られると思ったんですが、違いましたね。


「けどね、僕は良くてもとお様はダメっていうだろうから、そこについてはちゃんと留意しておいてよ?

 いつになるかは知らないけど、とお様は絶対に見に来る。

 その時に、わざわざ神王の代行者として送り込んだ存在がその世界の存在を滅ぼす、っていうことにどう思うか…分かるでしょ?」


 頭をかくデュケインに、ウルはしまったという顔をして、それを見たデュケインに呆れられていた。


「まあそういう事。

 実際犯罪者を殺すことに対してとお様も何も言わないだろうけど、その国の法、たとえ悪法であっても法は法なんだよ。

 つまり、何の罪も犯していない人間もまとめて殺してしまう、という行為は正直褒められたことじゃないんだ。

 魔法の実験と称してローゼンバウトに精神的拷問をかけたことに対しては、まあ正直ちょっと引いたんだけど、まあ相手が相手だしね、特に何も言わない。

 けど、覚えておいてねウル」


 ――――――――――――――――――――なんだからね。


「え…デュケイン様、聞こえな」


 瞬間、夢から覚めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…先生、先生ってばっ!!

 お城のなんか偉そうな人が来てるの、ちょっと相手してよ!!」


 告発文書を完成させた後に机で寝てしまっていたのか、前のめりで眠ってしまっているウルにジュリーが揺さぶっていた。


 夢から覚めたウルは、デュケインが最後にウルに何を言おうとしていたのか聞けれなかったせいか、少し不機嫌であったが、そんなことを知らないジュリーは首を傾げているばかりである。


「…で、どこのどいつですか?

 あともうちょっとで聞けたのに…はぁ」


「…先生、どんな夢見てたのよ」


「怖い師匠に日頃の行いを注意される夢ですかね、今この世界に現界されているようでして、次会った時が怖いです」


 ムシュフシュにいるとデュケインが言っていたため、会うとしても数ヶ月は先だろうと思っているが、あの様子だと暇だったからという理由でこの世界に来たのだろうと推測した。


 事実その通りなのだが、ウルの師匠が怖いと聞いて、ジュリーはウルより怖いのだろうかと内心びくついている。


「アヴァロンの…えーと、なんて言ったっけ。

 情報特務機関…なんとか?」


 うろ覚えなのか、ジュリーの言葉に眉を顰めていたウルだったが、何よりそんな組織と関わりたくもないウルからすれば、厄介なことこの上なかった。


「…私の睡眠を妨げるとはいい度胸ですね、その何とかは」


 とはいえ、現在太陽は真上にまで登っており、正午になりかけている時間帯である。


 夜更かしをしてまで完成させていたこともあってか、起きる時間もその分遅れたようであった。


「…突然押しかけてしまい申し訳ありません。

 自分は…」


「昼食を摂りたいのでその後にしてください」


 階段を降りて行くと文官の男が立ち上がってウルに挨拶してきたが、朝食を済ませていないウルの不機嫌パラメータは最底値であり、見ず知らずの他人に優しくできるほど余裕が無かったようである。


 きっと睨まれたのが聞いたのか、男はそのまま項垂れるようにしている。


 リオンたちと昼食を摂ってからウルの部屋で話をすることになった。


 告発文書はすでにバッグの中にあるので、部屋の中には必要最低限の物しかない。


「…で、諜報組織の人間がこんな真昼間から、一体なんのようなのですか?

 今日は冒険者の仕事でもしようかと思っていたのですが」


 本当は教会に行く予定ではあるのだが、真実を伝える必要はないと思ってウルはそう口にした。


 どこまで知っているのかは分からないが、諜報機関の人間が出向いてきている以上、何か裏があるとしか思えてならなかったのである。


「…自分の名はブランニュー・フォン・アリステインといいます。

 情報特務機関の長をしておりまして、教国の使者の方へ今後のご予定をお聞きするように出向いた次第で」


 探るような目で部屋を一瞬見回して破軍に目を向けたが、ブランニューは何も知らないといった仕草でウルの出方を窺っていた。


「…回りくどいのは好きじゃありません、用件があるのならはっきり言ってください」


 駆け引きの類を出来る立場に立っていない相手に対して、ウルの反応は冷めている。


 ブランニューは観念したように両手を上げると、本当の目的を白状した。


「…宰相閣下が突然使者殿の…その、訃報を伝えてきましてな。

 異常なほどに機嫌が良くて…獣人奴隷に関する法令の撤廃に反対してきまして、正直、尋常とは言えない精神状態のようでして…」


「それはまた、残念な頭をした宰相がいたものですね…墜とした時どんな顔をするのでしょうかねえ」


 いかにも悪そうな笑みをしているウルにリオンとジュリーが苦笑いしている。


 ブランニューはウルが昨日何をしていたのか聴取しに来たのだというと、教会にいた、とだけ答えた。


「教会ですか?」


「ええ、怪我をしている獣人たちを見つけましてね、手当てをして夜遅くにこちらの宿に帰ってきたのですよ」


 肝心なところを省いてはいるが、嘘はついていない発言に後ろにいる2人はもう何も言わなかった。


「…信用は、していただけないのでしょうね」


「この国に信用だなんて言葉があったというのを今知ったところなので」


 痛烈にも皮肉るウルに、なんとも言い難い顔をするブランニューなのだった。


 ブランニューとしては、ここで不興を買う訳にもいかず、ただ相手の気を損ねない話をするしかない。


 しかし、ローゼンバウトに何かしたのはウルたちに違いないと確信しているブランニューは、なんとしてもその情報をアルハザードに伝えなければならなかった。


「…そういえばイプシロン伯爵家なのですが、先日爵位と領地と財産を取り上げられ、一族は散り散りになったそうです」


 嫌いな相手が更にいなくなったことに気分がよくなったのか、ウルが作ったばかりの告発文書を彼に渡すことにした。


 以前のように文官を気絶させるという行為よりははるかにましであるからだ。


「…そうですか、それはいいことです。

 ところで、今日起きたらこのような物があったのですが、見ていただけますか?」


 バッグから告発文書の入った封筒を取り出すと、封筒の筆跡に見覚えがあったのか、渡されてすぐに中身を確認した。


 以前の4家同様、証拠と告発文書がセットに入っており、反論できないほどの完成度と証拠が内封されていた。


 そしてその告発された人物は、ローゼンバウト公爵と書かれている。


「…使者殿、この封筒をどこで?」


「さあ?

 起きたら机の上に置かれていたので、寝ているうちに誰かが置いたのでしょう。

 リオンとジュリーは何か知っていますか?」


 わざとらしく話を振るが、2人は首を振って知らないと答える。


「…そうですか、ではこの文書は自分がお預かりいたします。

 然る後、宰相殿を捕縛して裁判が始まるでしょう。

 それと並行して、獣人奴隷解放に関する法の撤廃の公布がなされるでしょう」


 ブランニューがそういうと、礼を取って部屋から出て行った。


 窓から見下ろすと、慌てるように王城へと向かっていくブランニューを見たウルが、リオンとジュリーに向かいなおった。


「…本当は2ヶ月ほどで済むと思っていましたが…もう少しかかりそうですね。

 後で報告しなければ…エドワードさんたちに謝らなければなりませんね」


 その言葉に、リオンとジュリーが再度首を振った。


「いいえ先生、謝らなくてもいいと思います」


「そうよ先生、正直2ヶ月で事が済むだなんて、父さんたちも思っていないわ」


 むしろ200年に渡る苦難の日々があと少しで終わるのだと思えば、あと1ヶ月延びた程度では何ともないという訳らしい。


 ウルとしては約束を破ったことに申し訳ない気持ちではあったが、2人の言う事にも納得した。


「まあ、謝罪はしないという事ですが、報告はしなければなりませんね。

 裁判所にも行かなければなりませんし…まだまだやることが多いです」


「…裁判所って、先生、あそこに言ってどうするのよ?」


 リオンがジュリーの服の裾を引っ張って耳打ちする。


「ほら、あの公爵の証拠をあの特務機関の人間に渡しただろ?

 記憶の操作されていた公爵の驚く顔がきっと見たんだよ」


「…うわー、やっぱ先生性格悪いわ」


「…聞こえてますよ、2人とも」


 にこりと笑って、ウルは2人にいつも以上に濃い鍛錬をこなすように指示した。


 とばっちりを受けたリオンは先日の2倍のメニューから3倍になり、夜遅くまで庭で剣を振る羽目になるのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…あれ、なんだか夢がいきなり途切れた気がしたんだけど」


 ウルと夢の世界で話していたデュケインが最後の伝言がきちんと伝えられたのかよく分からないでいた。


 バルは10階建てでようやく完成した神殿の出来に満足しているようである。


「…忠告は一応したのなら、それでよいと思うのだが?」


「…まあ、そうなんだけどさあ」


「…なんだ、妙にあの存在に構うな。

 惚れたのか?」


 神殿を作って余裕が出来たのか、デュケインをからかう様な発言をしたバルだったのだが、デュケインはバルのからかいに真面目に返していた。


「…ウルの見た目は確かに可愛いけど、好みじゃないかなあ。

 精神生命体な僕らにとって、性別とか基本気にはしないからまあ無くはないんだろうけど。

 …っていうか、いきなり何変な事言ってるのさバル、神殿壊してまた作らせるよ?」


「勘弁してくれ…」


「僕をからかうだなんて、100年早いよ」


 結局、頑丈に作っていた神殿の2階から8階までの階層を粉々にされ、殆ど最初から作り直されるよう命じられたバルなのであった。


読んでいただきありがとうございます。

デュケイン様からちょっとお説教が来ちゃいましたね。

とはいえ、御本人は何とも思っていないようですが。

公爵さんも、いい具合に道化をされているようで、どうなることやら。

さて次回予告。

次回、『邪魔者排除、念願成就』

ではでは皆様、また次回まで。

コメント、御感想、御質問をお待ちしております。


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