第028話 嫌いな人の不幸は蜜の味
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
長いので、お時間ある方ゆっくりとどうぞお願いします。
リオンが目を覚ますと、目の前にはつい先日会ったばかりのローゼンバウト公爵が忌々しそうに睨んでいる。
…先生、どうやら潜入は成功のようです。
公爵邸にどうやって侵入出来たかは不明だったが、どうやら地下の牢屋へ連れ込まれたらしい。
鎖で両腕をグルグル巻きにされた上に吊るされているリオンは、毒の所為であまり力が込められないことに内心で舌をうつ。
傷の乾き具合から、そう時間は立っていないよう感じられたリオンは、どうやって時間を稼ごうかと思案したのだが、まだ毒が廻っているせいか、思考が覚束ないようである。
「…ふん、《漆黒の蛇》が獣人一匹を連れてくるのにどれだけの時間をかけているのだ」
「悪いな旦那、1人きりになる機会を窺っていたんだが、なかなか人通りの少ない所に行かなくてよ、結構時間がかかっちまった」
どうやら雇い主との関係は程々に良好な様で、公爵に対して言葉遣いがなっていないはずなのに、その事に対して何も言ってきていない。
2人の後ろには何か器具が置かれていて、見たこともない形をした器具のようだが、ロクなものではないのは感じ取った。
器具からは吐き気がするほどの血と腐臭の匂いがしてきたのである。
「さて、貴様にはこれからあの小僧の情報を喋ってもらおう。
なに、正直に話せばこの器具を使わずに済む。
…私としては、抵抗してくれる方がいいのだがなあ」
器具を使い慣れた風に扱うローゼンバウトに、リオンの目が次第に冷めていく。
囮を買って出た時、覚悟はしていた。
人間―――ローゼンバウトのような―――が獣人に対してロクな対応をしないことは分かりきっていた。
しかし、ウルの役に立つために、リオンは覚悟を決めている。
『時間を稼げば、私たちが助けに来ますから、残り物は残しておいてくださいね』
そうおどけて言う主人の為に、リオンは毒が抜けきるまで、この仄暗い空間でただ待ち続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…長いですね。
うまくいけば背後から不意をつけるのではと思ったのですが…少々読み違えましたか、修正しなければなりません」
「…先生、リオン大丈夫かな?
今頃拷問とかされて、泣いてないかしら?」
暗い中で考え方も後ろ向きになっているのか、ジュリーの呟く言葉が次第にエスカレートしてきていることに気付いたウルが、慰めともつかない言葉を返す。
「心配いりませんよジュリー。
どんな怪我をしていても、死んでいない限り私なら傷跡も残らず治せます」
歩いていく2人だが、どうやら中継地点なのか、少し広い空間に足を踏み入れた。
よく観察してみると、周りは全て牢屋のようで、しかも中には獣人たちが何十人といた。
種族が違うからといって、ここまで酷い傷つけ方を見れば、顔を背けたくもなるだろう。
ウルは怪我をしている獣人の少女に近寄るが、あとずさって距離をとられてしまった。
それもそうだろう、ウルの種族は分類上魔人であるが、見た目は人間族と変わらないのである。
人間に傷つけられた獣人が襲ってくる可能性のある存在に近寄られれば、逃げ出したくもなる。
無傷の者はおらず、体中や顔に酷い傷跡が残っていて、しかも治療の痕跡すらないようである。
話す気力もないのか、ウルたちの存在に気付いてはいるが声をかける者は一人としていなかった。
「…先生、これって」
ジュリーが指を指した方向へ視線を向けると、毛並みの荒れた絨毯が天井や壁に所狭しと敷き詰められている。
「…まあ、十中八九公爵さんの仕業でしょうね。
趣味の悪い事に、拷問に耐え切れなくなって死んだ獣人はあのように皮を剥いで装飾に変えているようです。
…なんというか、とことん外道ですね」
牢屋には厳重な鍵が施されていると思ったが、何故かしていない。
しかも、開けようと思えば簡単に開いてしまうのである。
どういう事かと首を傾げていたウルに、どこからか声がかかってきた。
「…坊や、開けないでおくれよ」
振り返ってみると、両耳が歪にかけている獣人がだるそうな表情でウルたちを見ていた。
「…開けたらどうなるので?」
ウルは牢屋の周りをきょろきょろと見ながら、獣人の言葉に耳を傾ける。
「…その牢屋の扉には魔法がかかっていてさ、開けたら見張りの人間がやって来て、あたしら獣人を動けなくなるまで痛めつけるのさね。
連れてこられた獣人は散々痛めつけられたあとこの牢屋に入れられ、気が付けば牢屋には鍵がかかっていない、逃げ出すチャンスだと普通は思うだろうさ。
けどそれがあいつらの罠さ、怪我で必死に逃げようとしているあたしらに、抵抗する気力なんてほとんど残ってない。
あっという間に追いつかれたら、また殴られて蹴られて、散々痛めつけられたら、またこの鍵の無い牢屋へ入れられるのさ」
吐き出すように獣人はそういうと、あんたたちなにもんだい、と尋ねてきた。
「こちらはジュリー、見ての通り獣人の女の子です。
私はウルといいます、人間族のように見えるかもしれませんが、魔人族なので勘違いしないでくださいね」
人間族でないとウルが言うと、一部の獣人がウルに視線を向けてきた。
この世界での魔人族は高潔でいて、200年前のシュトルンガルドへの支援を積極的に行ってきたと史実にも残っていて、獣人たちの間では魔人族には信頼されているようである。
ウルは自分のことを高潔だと思ったことはなかったが、相手に信用されるためになるべく真摯に対応することにした。
「あたしたち、リオンっていう獣人の男の子を助けようとここへ来たんだけど、お姉さん、何か知らない?」
「…そういえば、少し前に黒蛇野郎が手下と一緒にここを通っていったね。
何か荷物のような物を担いで行っていた気がする…その中に詰め込まれたんじゃないかね?」
ウルたちが見たのも、リオンが袋のような物に押し込まれて連れ去られていたのを思い出し、それだと確信した。
「…ところで坊や、あんた魔人族なんだろ?」
「そうですが…やっぱり、信じられませんか、私が魔人族だと?」
獣人の女性はゆっくりとだが首を振ると、重苦しそうに指をある方向へ向けた。
「あっちで俯せに倒れている子の怪我が酷くてね、応急手当程度でいいんだ、魔法でちょっと治してくれないかい?
扉から近いし、牢屋越しでもいけると思うんだが」
ウルがその獣人に近づいていくが、倒れている獣人の少女は動く気力もないのか、ぼうっとした状態で身動き一つしていない。
ウルは少女に治癒魔法をかけると、周りにいる獣人たちもまとめて治療した。
完全に治癒できたのに驚いたのか、節々を動かして満足したのか、獣人たちはウルたちに頭を下げている。
「…ちょ、坊や、いくら坊やが魔人族でも、そんなに魔力を使ったらもう魔力が…」
心配する女性に笑いかけて、心配ないと首を振ったウルは、並み以上に魔力があるといって誤魔化した。
「戻ってきたらお姉さんの怪我も、他の獣人さんたちの怪我も治すので、そこで待っていてくださいね」
「…まあ、期待せずに待ってるさ。
それと…あの子の怪我を治してくれて感謝する」
疲れたのか、女性は倒れこむ様に眠ると、安定した呼吸が聞こえていた。
他の獣人たちに手を振りながら奥へと進んでいくウルに、ジュリーの声が震えながら聞こえてくる。
「…あたしたちが…いったい、何をしたっていうのよ。
むかしは、人間たちとだって別に仲が悪かったわけじゃなかったのに…どうして、こんなひどいことされないといけないの」
誰かに聞いているわけではない、ジュリーが悔しそうに吐き出すその言葉に、ウルは何も言おうとしなかった。
言った所で気休めにしかならないし、何より心にも思っていないことを言った所で、虚しさしか込み上げてこない。
黙ったまま歩いていく2人は一歩一歩と地下通路を進んでいく。
そして更に数分経って、奥から灯りのような光と声が聞こえてきた。
慎重に進みように合図をジュリーに送り、ゆっくりと歩きながら耳を澄ませた。
どうやら男が一方的に怒鳴っているようで、相手は小さな声でぽつぽつと反論しているようである。
だが、ジュリーには確信できていた。
それがリオンの声であるという事に。
走り出そうとしていたジュリーの手を掴んで落ち着くように諭し、何度か撫でて落ち着かせた。
心配なのはウルも一緒だが、状況がまだ把握できていない以上、無闇に音を立てたりするのは愚策といえた。
どうやら暗がりで行われているようで、かなり接近しても問題ないように見えた。
聞き覚えのある怒鳴り声を頼りに近づいていき、それがローゼンバウト公爵だと気付いた時、ウルの口に笑みがこぼれる。
それはまるで、獲物を得た時の肉食獣のような獰猛さで、その威圧感を察したのか、隣に控えていた黒尽くめの男がウルたちに問答無用でナイフを投げてきた。
音を立てずにそのナイフを掴むと、公爵の太ももに向かって投げ返した。
男はすぐに気付いて公爵を連れて後退した。
「・・・な、何をする《漆黒の蛇》!!」
ローゼンバウトが声を上擦らせて男に抗議するが、男はウルから目を離そうとしない。
それもそうだろう、ウルは素手ではあるが既に臨戦態勢を整えている。
距離が10メートルほどの間合いがあるが、ウルの脚力ならば瞬時にゼロにすることも可能だろう。
目の前の少年が格上だとすぐに気付いた男は、どうやってこの場から逃げ出そうかと計算しているが、お荷物である公爵がいる時点で可能性は限りなく低い。
人質にしようとリオンに視線を向けたが、男たちにとって予想もしない事態が起きた。
ウルたちと男たちのちょうど中間に吊るされているリオンは、ウルたちが来ることを待っていたのか、力尽くで鎖を引き千切ったのである。
「…待っていましたよ先生、メインディッシュは残してます」
ウルの注文を憶えていたのか、リオンが肩をすくめてローゼンバウトを指さした。
本来ならば他人に指を指してはいけない、と場違いな注意をしそうなウルであったが、別にローゼンバウトだしいいか、と何処か投げやりに思っていた。
リオンにこちらに来るように言うと、大胆にも視線を2人から逸らして治療を始めた。
ローゼンバウトは隙をついて逃げようとしたが、男に服を掴まれていて逃げられない。
「貴様、今のうちに逃げなければあの小僧にっ!!」
「いやいや旦那、今アレに後ろ向いたら、容赦なくバッサリいかれるって。
こういう時はさ、喋って時間稼ぎが一番じゃんよ?」
おちゃらけ男を忌々しげに見るローゼンバウトは、分かったといってウルに向かい合う。
「…これは使者殿、変わったところで会いますな」
「…はい、これで毒の方も取り除きました。
怪我の具合はどうですかリオン?」
「ばっちりです先生、思った以上に麻痺毒が酷くて、邸内を混乱状態にできなくてすいません。
メインディッシュは残してあるので、許してもらえませんか?」
「…基礎訓練2倍で勘弁してあげます」
白々しい挨拶を無視して感動の再会劇場を演じているウルたちに、ローゼンバウトが地下通路に響き渡る声で怒鳴った。
「貴様らあっ!!」
「…そういえば、ローゼンバウト公爵閣下。
ここへ来る道中気持ち悪いものを見ましてね、趣味の悪い絨毯はあるは、怪我をした獣人がたくさんいるはで気が滅入りました。
どうしてくれるんですか?」
どうやら不機嫌なウルに、知ったことかと吐き捨てるローゼンバウト。
「…まあ、弱い者いじめが趣味のクズに謝罪されてもあまり愉快ではありません。
地べたに這いつくばって額を付けて謝罪の言葉を形だけでも言えれば、半殺しで勘弁してあげます」
ウルの言葉に反射的に怒鳴りあげるローゼンバウトだったが、隣にいた男はウルの言う通りに行動をした。
土下座をするよう座って額を地面に擦り付けると、悪かったと言ってその場で固まってしまったのである。
これにはリオンもジュリーも驚いたが、ウルはそんな男を眺めるているだけだ。
…今さら冗談でした、とは言えなくなりましたね。
「貴様、《漆黒の蛇》ともあろう者がこんな小僧になんて無様な格好をっ!!
恥を知れえっ!!」
「…いやいや旦那、半殺しで済むなら越したことないぜ?
しかも、謝罪といったって、服が汚れる位で形だけで済むんだろ、生きてりゃ何とかなるかもしれねえじゃねえか」
土下座の状態でそう答える《漆黒の蛇》と呼ばれた男に、ローゼンバウトは聞いているのかも怪しいが、男の横腹を忌々しげに蹴っていた。
確かに、男の言う事は一理あるだろう。
心の籠っていない謝罪と誠意を見せ、後はこの場で殺さないという約束(半殺しは確定だが)をしているのなら、一も二もなく行動してみせるだろう。
しかし、ローゼンバウトの貴族としての矜持が小僧と見下していた相手に膝を屈し、皿には頭を地面につけて謝罪の言葉を口にするという屈辱に、耐えられるものではなかったのである。
「…そこの黒蛇さんみたいにしないんですか公爵さん。
簡単じゃないですか、膝をついて手を付けて、頭をすりすり地面に擦り付けたら『ごめんなさい、下賤な私が悪うございました』って言えば半殺しで済むのですよ?
これほど慈悲溢れる譲歩案はないと思うんですけど?」
何処から聞いても慈悲という言葉が微塵も籠っていないだろう、と誰もが突っ込む。
「…先生、なんだか格段に酷くなっていない?」
「…先生がかなり御立腹中です」
「…ははっ、坊主、良い性格してるねえ」
「…褒められちゃいました」
「「「褒めてないからっ!!」」」
怒りで声が出ないのか、顔を真っ赤にして震えているローゼンバウトをよそに、4人は暗がりでまるでコントの様にはしゃいでいた。
だがしかし、未だに憎々しげに睨んできているローゼンバウトに、ウルの表情が一気に消えてしまう。
「…ローゼンバウト公爵、抵抗できない相手を痛め付けた気分はどうですか?」
一歩、ウルはローゼンバウトに歩み寄る。
びくりと体を震わせたローゼンバウトをよそに、ウルはゆっくりとだが近づいて行く。
「力のある獣人を自分の下に引き摺り下ろして、悪し様に蔑む気分はどうですか?」
一歩。
「拷問の限りを尽くし、悪趣味にも皮を剥いでまるで絨毯のようにし、獣人たちの誇りを踏みにじった気分はどうですか?」
一歩、また一歩。
「あ…あ」
「小僧と侮っていた相手に、自らの計画を悉く潰された気分はどうですか?」
一歩、また一歩。
そして、ウルはその表情を失くした状態で、ローゼンバウトの目の前に立った。
「何も答えられないのですか?
その口で答えられないのですか?
数多の他者を罵倒し、蔑み、見下す言葉を投げつけるしか能がないのですか、ローゼンバウト公爵?」
だったら、とウルがにこりと笑いかけ、唾液で汚れてしまうのも無視したまま両手掴み上げる。
「そんな口、いりませんよね?」
と、物騒な言葉をかけたウルが小声で何かを呟いた。
リオンたちはウルが何を言ったのか聞き取れなかったが、ローゼンバウトが突然悲鳴を上げたことの驚きの声を上げた。
「あ、あ…わ、わふぁふぃのふふぃふぁああああっ!!」
おそらくはウルがローゼンバウトに容赦ない一撃を加えたのが原因で、倒れ込んで転がりまわるローゼンバウトを見たリオンたちだったが、おかしなことに気付いた。
血の痕跡がまるでないのである。
「…ふむ、一発目から成功ですか。
これは幸先がいいです」
うんうんと頷くウルをよそに、悲鳴の声量がさらに上がっていくローゼンバウトに一体何が起こっているのか。
知りたくもなかったが、リオンは意を決してウルに歩み寄っていく。
「せ…先生、あの公爵に何を?」
「いい質問ですよリオン」
待っていましたとばかりに笑顔で答え始めるウルに、場違いな笑顔を見てしまった男は小さく悲鳴を上げた。
「闇系統魔法の派生の一つに、精神魔法というのがありましてね。
まあ字の如く心に直接語りかける魔法なんですよ。
簡単に言うと、今あの公爵さんの頭の中では、私がそこらにある拷問器具らしきもので拷問という拷問を繰り返している、という幻覚を見ている最中ですね」
のたうちまわっているローゼンバウトを見て、あの時小さな声で何かを言っていたのはこれの事か、とリオンたちは気付いた。
「まあ、精神次第で苦痛具合は前後しますから、それほど使い勝手が良いかといわれれば、そうとも言えませんね。
ああ、黒蛇さんも受けてみます、あれ?」
「い、いやあ…やめておこうかな」
遠慮した男だったが、ウルは気にせずに魔法を放つ。
「まあそんな遠慮せずに。
『闇よ苦痛を持って応えよ ミットシュトルゼン』」
「ああああああああああがあっがっが、がああああっ!!」
悲鳴を上げている2人をよそに、魔法の効果を確認したウルがリオンたちに2人を拘束するように命じる。
「それが済んだら、上に上がって証拠を集めますよ」
縛り上げた2人を放置して、さらに奥へと進んでいくウルたち。
途中、リオンを連れ去った《漆黒の蛇》の手下と鉢合わせしたが、声を上げる余裕を与えずに気絶させると、同様に縛って放置した。
邸内の警備は全くと言っていいほどなく、部屋を散策して、ようやく書斎へとたどり着いた。
机の内部は魔法で施錠していたが、ウルが無理矢理破壊して取り出す。
本来ならば専用の鍵が無ければ不可能だが、ウルはそんなことにまるで気づいていない。
裏取引の証明書や偽造した公式文書、さらには人身売買組織との関連リストなど多岐に渡って証拠が出てくる。
「…さて、十分探しましたし、元のルートで帰りましょう」
証拠をバッグに入れると、元のように地下通路のある場所にまで走って行く。
手下たちに何かウルが手をかざすと、呻いていた男たちはそのまま気絶した。
そして、未だ縛られながらものた打ち回っているローゼンバウトと《漆黒の蛇》にも同様に手をかざし、ロープを解いた。
「先生、こいつらに何をしたのよ?」
ジュリーが気絶した2人に何の魔法をかけたのか知りたいようだった。
「今日起きた出来事の記憶をいじって、後日のイベントに備えるんですよ。
公爵さんと黒蛇さんとその部下たちの記憶は、リオンを誘拐して、拷問、そしておびき寄せられた私とジュリーをまんまと殺し、祝杯を挙げたところを泥酔、という記憶が今あります。
まあ追加で牢屋に捕まっている獣人さんたちにも記憶の中では殺して捨てた、っていう事にしていますから、連れ去ってももう大丈夫ですね」
牢屋の事を知らないリオンからすれば首を傾げてはいたが、事情を説明されるとはあと溜息をついていた。
戻ってきたウルたちに獣人たちは驚き、そして歓迎した。
全員の治療を済ませると、体力が落ちている獣人をウルたちが出来るだけ担いで連れて行き、墓の真下にあった梯子にまで登っていく。
全員を連れて行くと、門番をしていた男を背後から襲って気絶させ、深夜の貧民街を大行進していく。
後から数えたら20人近くの獣人―――しかも全員が少女や女性―――がいて、さすがに宿に入れる訳にもいかず、教会にいる見習い神父に事情を説明して匿わせることにした。
彼は獣人を見ても嫌悪感を見せる事は無く、ベットが足りないのはご容赦をといって全員を受け入れてくれた。
夜も遅かったのでミルクとパンしか出せなかったが、まともな食事をしたのが久しぶりだったのか、全員が涙を流しながらパンを頬張ってミルクを飲み干していた。
「…見ていて痛ましいですね、彼女たちは」
「大丈夫です神父、彼女たちは元々奴隷でもありませんし、公爵さんたちの記憶にはすでに彼女たちはいません。
追われることももう無いでしょうし、英気を養って、これからに備えればいいことです」
神父の声にウルが心配ないと伝える。
例え知ったとしても、既に証拠を押さえているウルからすれば何をしても無駄としか言えないだろう。
夜が明けたらまた来ると約束して、ウルたちは宿屋へ帰っていく。
2人を、特にリオンに解毒剤と栄養剤を与えて眠るように指示し、ウルは告発文と証拠を作り始めた。
あっという間の出来事であったが、これで障害が無くなったことにより、獣人奴隷解放まで問題なく進むはずである。
起きた時、既に記憶を捏造されて上機嫌でいるであろうローゼンバウトが反論できないほどの証拠を突きつけられて絶望した彼の表情を想像するだけでウルも上機嫌になり、告発文の完成度はさらに制度を増していくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ウルってさあ、腹黒っていうより外道一歩前って感じな気がしてきたんだけど」
一部始終を見ていたデュケインやバルが思った感想がこれであった。
「…ふむ、宰相が卑劣漢故にあそこまでやってしまった、という可能性もある。
そう自分の弟子を外道といってやるな」
バルがそれとなくウルのフォローを入れて、デュケインがそれもそうかなあと頷く。
「まあ、ウルの持論はあれだからなあ…相手が酷ければ酷い程容赦がなくなっていくんだけど…とお様と出会った時からあの考え方みたいだし、僕は気にしていなかったんだけど…なんだかなあ」
ウルの事情を知っているデュケインとしては、ウルにそこまで非道な行為をしてほしくないという気持ちがあったため、このような場面を見てしまうと、思わず考えが逡巡してしまうのだった。
「…うん、一回ウルと話をした方がいい気がする」
「…まあ頑張るのだな、私は今の所興味がさしてない」
何かを決めたデュケインにバルは適度に応援するような言葉をかけ、管理者の間では悶々とした空気が漂っていた。
「っていうかさあバル」
「…なんだ?」
「《漆黒の蛇》って中二病的ネーミングについてコメントある?」
「ノーコメントだ」
読んでいただきありがとうございます。
なんというか、長くてすいません。
黙々と打っていたら、いつの間にか8000ほど打ってました。
ちょっと暗いお話ですね、なんというか、お食事中の方もすいません。
ウル君の腹黒魔法も決まりました。
記憶まで弄れるって…ウル君どこでそんな危ない本読んでるのやら。
公爵さんは今落として強制的に上がっています。
あとは、まあ落ちるだけです。
さて次回予告。
次回、『下げて上げて堕ちる』
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、御感想、御質問お待ちしております。




