第001話 使徒様はゴーウィングマイウェイ
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神殿の中央にある『降臨の塔』最上階では、教皇ヨハンをはじめとした教会の大幹部たちが揃って約束の時を待っていた。
『降臨の塔』とは、かつて幾度となく神が降臨した塔であり、この世界に対して何らかの方向性を示すため、神が作ったとされる塔である。
あらゆる衝撃をものともしない塔は、覚えている者がいない遥か昔に作られたとしか知られていない。
「…来ませんな」
猫族の獣人であるゼンガー枢機卿がそわそわとしながら最上階にある祭壇を眺めている。
「約束の時まであと五分じゃ、我らが神が遣わす使徒様は一体どのようなお姿をしておるのか…楽しみじゃのう」
教会の生き字引とも言われているエルフ族のアドルフ枢機卿は気もそぞろな同僚たちを見てにやりと笑って見せた。
護衛として同行している四人の騎士団長たちは、辺りを警戒しながらもこれから起こるだろう奇跡を待ちわびているようでもあった。
「……来ます」
純白と黄金の刺繍を施した衣装を着ている少女がぽつりと呟いた。
その言葉と同時に、塔が震え始めた。
塔が震えたと同時に、塔全体もその色を変えていく。
灰色だった塔が次第に白く光り輝きだしたのである。
そして、塔の最上階よりさらに上空の空に、一条の光の柱が落ちてきた。
終着点は降臨の塔最上階の祭壇、間近で見る強い光に、少女をはじめとする全員が目を塞いだ。
「こっ、これはっ!?」
「おおうっ、待ちかねたぞっ!!」
動揺しながらも、この場にいる全員は何が起きたのか理解した。
塔を眺める信者たちや観光客たち、そして住民や獣を含めた全てが理解した。
『何か』が起きたと。
次第に光が淡く消えていき、たった30秒ほど出現した光の柱は消えてしまった。
強い光が消えていったお陰でようやく目を開ける事の出来た者たちは、そこに居るだろう祭壇に目を向けた。
そこには、
「おおう、彼の者がそうかっ!!」
「だがあれを見ろ、人族だぞっ!?」
「限りなく人に近いというのなら、魔人族もそうであろう、器だけで判断するでないバカモノめっ!!」
祭壇に現れたのは、純白の変わった鎧を身に纏った、青年と呼ぶには難しい、少年の姿をした使徒であったのである。
「…どうやら、私は歓迎されていないようですね」
かけられる言葉が非友好的だったことに対して、使徒と呼ばれていた少年の表情は若干の不快感を出していた。
付けている片眼鏡の位置を手で直しながら、祭壇から降りてくる使徒。
慌ててその場に跪いた一同だったが、少年は一番先頭にいた少女を無視して、そのまま階段の方へ向かっていく。
慌てて気付いた一人の騎士団長が階段を塞ぐ形で止めたが、少年は不思議そうな顔をしているだけだ。
「どいてください、階段に進められないではありませんか」
「お、お待ちください使徒様。
まずはあなた様の勅を…」
「あなた方の尻拭いをしに来た代行者です、それではさようなら」
騎士団長の声も少年には届かず、再度歩き始めようとした少年の足が不意に止まった。
右手を握られたのである。
「ま…待ってください、あなた様はこの世界に平穏を…秩序を取り戻してくれるのでは?」
少女が少年の手を両手で掴んでいるが、力付くで止めているのではなく、少年が気まぐれを起こして止まっているという事は明白である。
少年はため息混じりながらも、少女の質問に少年なりの誠実さを持って応える。
「……マスター、神王さまからはそう命を受けています。
命を受けたからには十二分にその役を果たします。
が、別にあなた方と共同歩調をとる必要性は全くありません。
“時間はいくらかけてもよいから諸悪の根源の首を落とす”、これが私の受けた命ですから」
少年は少女の手を軽く触れて離すと、階段から降りて行った。
あまりの態度に、思わず全員が固まってしまっていたが、数分もすれば正気に戻るというもの、慌ててアドルフが騎士団長たちに少年を監視せよと命を下した。
「あの恰好で塔を出られると非常にマズイ、あの様子じゃとどうも偏屈な性格をしておるようじゃし、ここはひとまず様子見をせんか?」
アドルフの命令に、4人の騎士団長たちはその命に従って行動をとろうとしたが、ゼンガーが慌ててアドルフの命令に意見した。
「で、ですが監視というのはさらにこちらの印象を悪くするのではないでしょうか?
いっそのこと、遠巻きにでも護衛ができる位置で保ったまま精鋭を配置すればよいと思うのですが」
「そうは言うがのう、わしの勘が正しければあの手の性格をしておる者は他者に構われるのがキライな類の存在じゃ。
力ある者がそんな性格をしていれば、待っておるのは破滅一択じゃな」
「随分な言い草ですねおじいさん、ちょっと傷つきます」
何故か再び現れたのは先ほどの少年だった。
はねている黒髪を指で梳いている仕草が年相応に見えなくもないが、陰口を叩いていたに等しい事に気付いている面々としては背筋が凍る思いであった。
「……まだ何か、用があったのですかな?」
アドルフが恐る恐る聞いてみると、少年が困った様子でため息をついた。
「そういえば、ここがどこだか聞くのを忘れていました。
とりあえず話は聞いてあげますから、どこかゆっくりできる場所に連れて行っていただけませんか?」
肩を竦める少年に、内心安堵する少女や枢機卿、騎士団長たちは当初予定していた監視や警護といった案を一瞬で破棄して、『降臨の塔』から少し離れた教皇庁へ向かっていった。
読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、この世界のこととかについては少しずつ本編交えながら入れていきます。




