第026話 代行者と王
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執務室では、王が信頼しているブランニューと騎士団長のガノンが召集されていた。
「分かっているとは思うが…この1週間の出来事、誰が裏で糸を引いているのか、分かる者はいるか?」
アルハザードが重々しい空気の中で、ゆっくりと目の前に立っている2人を眺めた。
ブランニューとガノンは同時に、ある人物の名を上げた。
「「ウル・シイハ」」
その冒険者の名前が上がり、あるハザードもその名前に肯定の意を示した。
「そうだ、あの教国からの使者である。
ブランニューの持ち帰った情報では、4家以外にも教国のトリューマン大司教が含まれているのだが、彼は教国へと召喚されている途中、護衛の者と一緒に小規模だが歪の群れに襲われて亡くなったらしい」
襲われた護衛の構成は全て人間族で、しかも貴族の二男や三男で構成されていたようだ。
親類たちは教国に抗議をしたらしいが、教国は無視しているらしい。
トリューマンの事については事故であると判断したあるハザードだったが、この事故さえもウルが予想していた通りなら、付け入る隙などが見えたとしても、それが罠だとしか思えない位に緻密である。
おおよそトリューマンが召喚された理由は、アヴァロン側にトリューマンと貴族の関係を公にしないために教国に連れて行こうとしたこと、人間族の貴族で構成されていた理由は単に自国であるという事であることか。
例えトリューマンを逮捕しても、4家との繋がりが告発された証拠になかった以上、教国へ何か要求することは叶わないが。
護衛をしていた貴族の騎士たちは、教国でもいい評判を聞かないと報告が上がっており、騎士団の風紀を乱すこともよくあったという。
殺す理由としては、教国が本気でアヴァロンを潰す前段階と見受けられるが、悪い芽は今のうちに摘んでおくという理由もあるだろう。
殺してしまえばこれ以上悪くなりようもないし、アヴァロンからの教国への干渉力も削がれ教国側に利しか残らない。
おまけに、アヴァロンは他国に悪印象しか残していない国である。
この状況下で何かを要求されても、拒否できることはまず無理であろう。
幸いにして、不正行為で脱税していた4家の金を国庫に回せたので、幸いにして財政は少しばかり潤った。
だが、獣人奴隷推進派である宰相はまだ尻尾も見せていない。
ここまで智謀を張り巡らせたウルならば、何かやってくれるのでは、と思い込んでしまった。
しかし、そんなことをよそに、王城に教国の使者が来ると知らされてきたのはそれから数時間後の事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…で、先生はどこまで仕組んでいたんです?」
ここ最近の貴族の不正事件やその後の大司教の事故による訃報を、リオンたちがウルに詰め寄っていた。
ウルとしては黙っている必要もないので正直に話した。
「どこまでって…最後以外は全部私がやりましたよ?
ああ、最後というのは大司教が護衛たちと一緒に死ぬというシナリオですが…あれは運任せですから、想定してはいましたが本当に死ぬとは思っていませんでしたね」
よくて護衛が半分になれば、教国にいる騎士団の風紀が少しはマシになると思って仕掛けたことだったので、どちらでもよかったようであった。
「まあ、共倒れしてくれないかな、と願ってはいましたが。
まあ、悪人の共食い、共倒れは見ていて胸がすっとしていて、気分が良いです」
手を汚す苦労と手間を考えると、ウルは勝手に自滅してくれた方がありがたいと物臭ぶりを発揮していた。
「ああ、あと今日のお昼に王城へ行くように書状を書いておきましたから、食事をしたら準備をしましょう」
何事もなかったように話を切り上げ、食堂へ降りて行ったウルについていくリオンとジュリーは、先生を怒らすとヤバい、と再認識するのだった。
「あ、先生あたし城へ行くような上等な服持っていないんだけど、どうしよっか?」
「僕もですね…というか、獣人って城へ入るの可能なんですか?」
食事をしながらしゃべる2人がウルに聞いてきていたが、押し通るので問題ないといって問題は片付けられた。
「教国の使者にいちゃもんつけるなら、片っ端から破門しますので大丈夫でしょう」
「…あたし、アヴァロンの国が嫌いだけど、今回ばかりは可哀想に見えてきたわ」
「…同感だね」
「何を言っているんです2人とも、獣人奴隷解放のために手を貸してあげているのではないですか。
何処にも可哀想な場所はありませんよ?」
「…こうして、先生の犠牲者が着実と増えていくのね…」
「今日だけでもどれだけの犠牲者が出るのか…まあ人間族だしいいのかなあ」
リオンとジュリーは最終的に、人間族だしいいか、という結論に落ち着いたようだった。
朝食を済ませて普段通りの作業をこなしていった3人は、そのまま王城へと向かっていった。
王城へ着くと用件を聞かれて教国からの使者というと、予想通りというか、リオンとジュリーにはここで待つように言い、ウルだけを連れて行こうとしたが、その言葉を無視して3人で進んでいく。
兵士は止めたのだが、邪魔をしたらあなたを破門します、という脅迫を止めに来る兵士たちを物言わぬ石へと変えていった。
謁見の間までその問答は続いていき、国の重鎮達が少し騒いでいた。
一部の者たちは獣人を城から出て行かせるようウルに脅してきたが、聞こえない振りを通していた。
「…使者殿、この城に獣臭い亜人共を連れてこられては、国の品位というものがですな…?」
「…お名前を聞いてもよろしいですか?」
ウルに突然話しかけられて、軍務卿リーデンバッハ伯爵が間抜け面でそのまま自らの名を明かした。
ヨアヒム・フォン・リーデンバッハと名乗った男は、似合わない口ひげを生やした60代前後の貴族で、異端狩りと称していまだ奴隷でない獣人たちを捕えては奴隷にして、その富を稼いでいるという、獣人たちにとって目の敵にされていた存在である。
リオンとジュリーはそんなリーデンバッハを見て、犠牲者がもう1人、と小声で呟いていた。
「ヨアヒム・フォン・リーデンバッハ伯爵、あなたの一族にアンドレア教から破門の通達が近々届きますので、先にお伝えしておきます」
「なっ、なんだとっ!?
そ、そんなバカな、そんな権限が、貴様の様な冒険者風情にある筈が無かろうっ!!」
当然のように反発してきたリーデンバッハだったが、ウルの言葉はこの場にいる全員にとって非常に都合の悪い存在になった。
「私は今回の件で教皇猊下より全権を頂いています。
その内の権限の1つに、私の邪魔をした人物は過去の功績、位、富がいくら高かろうと、教会からの破門を告げることが出来る、というものです。
乱用するつもりなどありませんが…されても問題ない方ばかり集まっているようですし、この場で全員告げて差し上げましょうか?」
集まっているのは大臣以上の者たちばかりで、その者たちが揃って破門されるとすれば、国というものが成り立たなくなるだろうことは簡単に予測できた。
「国王陛下、アルハザード・ベリアム・アヴァロン陛下、おなーりー!!」
何も言えなくなった大臣たちをよそに、アルハザードが宰相を伴って現れた。
礼をする様子もなく、ウルたちはアルハザードが王座へ座るまでじっとしている。
宰相であるローゼンバウト公爵は下賤な者を見る目付きでウルたちを睨んできているが、目が合ったウルは鼻で笑って見せた。
リオンとジュリーも推進派の筆頭であるローゼンバウトを睨んでいたが、獣人である2人を一瞥して眉間に皺を寄せると、視線から外してしまった。
「さて、今日は教国からの使者がいらしたという事なのだが…随分と若いな。
それに王城へ来るまでに随分と時間がかかっているかと思うのだが…何かあったのかな?」
アルハザードがそれとなくウルに事情を説明しろと言ってきたのだが、ウルは王都での状況を確認していた、とだけ伝えた。
「前の大司教が役立たずでしたので、教国へ召喚したのですが、その途中残念なことになってしまいまして…色々と処理作業をしていたのです」
色々、というと言葉を強調したウルが、王座の脇にあるカーテンを一瞥してにやりと笑って見せた。
「さて、以前の役立たずがどのように話しを進めていたのかは知りませんが、私はあれと違い無駄なことが嫌いなのです。
手紙があるので誰か代わりに取って来ていただけませんか?
もちろん、読むのは陛下だけですが」
ガノンが取りに行くと、ウルは無言でその手紙を渡した。
魔道具を使っておかしな仕掛けが無い事を確認すると、そのままアルハザードに渡す。
アルハザードは手紙の封を切って中の内容を見たが、その内容を見て顔を顰めていた。
ローゼンバウトが何事かといって手紙の内容を聞こうとしたが、ウルが手紙の内容を暴露した。
「その手紙には、この世界にやってきた代行者様、アンドレア教教皇ヨハン様、アドルフ枢機卿猊下の連名で、貴国の行っている非道な行為、具体的に申しますと、獣人を奴隷とした各法に対して、即時の撤廃。
その他、占領している旧シュトルンガルド帝国の返還、及び賠償を今後にかけて行っていただくことを、厳命しているのですよ」
断った場合のリスクというのは、大よそアルハザードたちが予想していた物もあったが、代行者の決定次第では、人間族そのものが滅亡の危機に瀕しているのだと理解させられた。
ウルが先ほど言ったような要求の他にも、奴隷商人たちがこれまで稼いでいた金を奴隷にしていた獣人たちへの補償など、数えればきりのない程にあり、これを全て叶えた場合、今後数十年に渡りアヴァロンは財政を圧迫して反乱がおきるとしか思えない位にきついものだったのである。
「王族御三家の2つである金獅子、銀狐の一族が今後シュトルンガルドを再興していくことになるでしょう。
あなた方人間族は、その為に全力で補償をして、この地から去ればよいのです。
分かりましたか?」
「言わせておけば貴様ぁっ!!
陛下に対して何たる口の利き方だ!!
近衛兵、この無礼者どもを捕えて牢へ入れよ!!」
後方から近衛の兵士たちが続々とやってくると、ウルたちを囲い込んだ。
「さて王よ、返答を聞きましょう。
その手紙の要求通り、獣人奴隷に関しての法を撤廃していただくか、それとも、滅びの道を歩みますか?」
激高しているローゼンバウトを無視して、ウルはアルハザードに要求が諾か否かを問うた。
ここで言質さえ取れればあとはそれをヨハンに報告して、後は布告されるのを待てばよいだけである。
されない場合、近衛兵を退けてしっかりと報復する事になるが。
「……分かった、要求通りにしよう」
「陛下、何をっ!?」
「近衛兵、下がるのだ。
さて、謁見はここまでにしておこう、これから緊急で会議を開かねばならぬのでな」
食い下がるローゼンバウトに、アルハザードの言葉を確かに聞いたウルは満足そうに一度だけ礼をした。
謁見の間から出ていくウルに、黙っていた大臣や宰相たちからの殺意をひしひしと受けながら悠々と出ていく様を見て、アルハザードは教国からの使者に感謝の念を送った。
これだけの要求が来れば、アヴァロンは受け入れるしかない位の立場まで追い込まなければならない。
例え獣人奴隷を財産としてアヴァロンで通しても、教国、ひいては大陸全土が許しはしないだろう。
確かに今後数十年にわたって補償をするというのはアヴァロンにとっては苦しい時とはなるが、手紙には最後こう書かれていた。
『歪討伐に際して、人間族アヴァロンは自国の自衛に専念されよ』
200年前、大規模な連合軍を作ろうとしていた時、アヴァロンはその誘いを断ったことがあった。
そしてシュトルンガルドの悲劇が起き、今日にまでその影響が及んでいるのである。
教国からもう何もするなと言われたのだ、その通りにさせてもらうしかない。
謁見の間は騒がしくなっていて会議どころではないかもしれないが、無理矢理兵士たちに引き摺られて話を進めていこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ふーん、今回はウルも強引な一手を仕掛けてきたなあ。
ねえバル、これで良かったと思う?」
使い魔の視覚共有を一度切り、管理者の間からウルとアルハザードの一幕を見物していたデュケインが、中華鍋を振るっているバルに話しかけていた。
「人間側がどう思っているかはともかく、こうでもしなければならないとその代行者が考えた末の結論なら、その意は汲んでやるべきだと思う。
まあ、これだけの事をされて人間側は黙っていないだろう」
おそらくは秘密裏にウルに危害を加える者が出てきて、この件をうやむやにしてこれまで通りの状態にする、とバルがいい、デュケインもその言葉に賛同した。
「まあ、人間だったらそのくらいやりかねないかな。
まあ、反対している奴全部殺せば話は進むと思うから、それでいい気もするんだけどね」
相変わらず力尽くなデュケインの言葉を極力流し、バルは話を進めていく。
「宰相か、有能だが獣人を奴隷とする事に異常なほど拘っている人物のようだな。
あれだけ排除すればあとは問題ないと思うのだが…」
出来上がったのか、完成した料理をデュケインに手渡した。
「豚肉に近かった魔物で作った回鍋肉だ。
他は机に置いてあるからそこで食え」
「バル腕上げたねー、いただきまーす」
立ち歩きしながら机に歩いていくデュケインに、先に机に座っていたバルがワインを飲んでいる。
これからどうなるのか適当に予想をしながら、デュケインは料理に舌鼓を打つのだった。
読んでいただきありがとうございます。
さて、王様との謁見タイムでした。
実に強引で一方的な要求でしたね。
獣人さんたちの国を再興するに当たり、人材発掘については懸念が十二分に検討されそうですが、まあそれは置いておいて。
まあ奴隷推進派の宰相は反対するのは当然ですよね。
貴重な労働力がいなくなるんですもの、必死にもなります。
挙句これまでの獣人さんたちへの補償とか…ぞっとするぐらい要求来るでしょうね、なんたって200年分。
さて次回予告。
次回、『因果応報字の如く』です。
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