第023話 私の都合は絶対です
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
デュケイン様は今日も御休み回です。
十字架を持った者たちが王都へ来て1週間経ったが、王城へ来る気配は全くない。
部下たちによると、冒険者として身を立てているのか、日々王都付近の歪を狩ったり、護衛で隣町まで移動していて、一向に王城、更には教会に近寄る様子が無いのである。
「…どういうことだ?」
ブランニューが理解できんといった顔をして、部下たちも同様な顔をしている。
かろうじて上がってくる情報から推察して、現状の王都近辺の情報を収集しているのではないか、というものが最有力ではあるのだが、確実とは言えなかった。
そして同時期に上がってきたイプシロン伯爵家への暴行容疑でその者たちがその容疑者へ上がっているのだが、明らかに奴隷ではない獣人に対して売却しろと言ってきていて、武力をちらつかせてきていると聞けば、反撃されて当然、と判断する事に。
更に言えば、以前からイプシロン伯爵家は不正に税を着服しているという情報も入ってきており、茶々を入れられて教国との関係にヒビを入れるより先に対処するべき、という事に決定していた。
「…まだ様子見だ、手を出そうなんて気を起こすな。
相手は冒険者、しかも茶ランク。
うかつに手を出せば手酷い失態になる」
基本的に国が冒険者ギルドに対して一方的な命令を出すことはできない。
出来るのはあくまでも依頼としての関係である。
冒険者ギルドに弓を引くような行為は、その背後にいる教国を敵に回すことと同義なのだから。
教国の権力は絶大である。
現在王室にいる御典医は教国からの出向であるし、城下町や各都市にある治療院なども教国がその根本にいる。
そして何より商人たちとの関係が強すぎるのだ。
教国首都にある商店は各国でも最大手の教国、並びに王室御用達として名を馳せている大商人たちが割拠しており、その影響力は計り知れない。
その気になれば物流すらも操ることも不可能ではない相手に手でも出せばどうなるのか。
待っているのは嫌でもわかる破滅である。
「…陛下、この国はもう存亡の危機に立たされているのかもしれません」
200年の暴挙に対する返済の期日が、足音を立てて聞こえてきたような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
尾行者が張り付いてから1週間経ってからも行動を起こそうとしないウルだったが、しっかりと冒険者としての仕事はこなしていた。
もちろんだが、近日中に王城や教会にはいく予定ではある。
近日中だが。
それがいつなのかはリオンたちも分かってはいないが、おそらくあと1週間後も同じ状態なのだろうとは思っていた。
「…先生、今日は魔法についての修行らしいけど、どんなことするの?」
「…僕はいつものように素振りを終わらせたら何か依頼が無いか見てきます」
王都での生活に慣れてきたのか、リオンも1人で仕事に行くようになっていた。
「…いえ、リオンは今日はお休みです。
基礎体力をつけるために王都の外周を10周した後、剣の型を10セットしておきなさい」
「先生、それは本当に休みです?」
会話をしていて噛み合っていないようだったが、それが終われば後は好きにしてもいいという事なのだろう。
とはいっても、ウルがいなければ満足に食事に行くことも難しい王都では、リオンやジュリーたち獣人にとっては生活しづらい場所であるだろう。
結果的に、川原の鈴鹿邸の一室でギルドから借りた戦術についての本を読むこと位しかすることが無かった。
ウルの生活スタイルは基本3休4日のスタイルであり、毎日依頼をこなしている冒険者と比べればかなり緩いように見える。
しかし、依頼を受ける室では圧倒的にこちらが上で、期日次第では一度の依頼でかなりの数をこなすのである。
ここ最近で一番すごかったのは、王都周辺にいる中位の歪を10体以上討伐してほしいという依頼に、大幅に超える50以上の歪を狩って来ていた。
実際に目に移るすべての歪を狩っていたウルに、蹂躙なんて生易しい、と近くを通った冒険者は語ったらしい。
実際ウルの歪に対する執念ともいうべきなのか、例え森の外へ出ない無害と思える歪すらも狩っている様子は異様に見えた。
「大丈夫ですよリオン、ちゃんと弟子の証であるブレスレットとイヤリングつけてますよね?
それがあれば、たとえ誘拐されたとしてもすぐさま私が助けに行けますし、うっかり相手を殺してもいい訳が付きます」
ウルからもらった貴金属はウルが地系統魔法を使って地中から探し当てた希少金属らしく、その性能は並の武具屋では置けないような代物らしい。
知っている魔法を手当たり次第につけた結果、ブレスレットには対物理・魔法をはじめ、両手では数え切れないほどの魔法を付与していた。
一種の宝具ではないか、と首を傾げたリオンであったが、本人であるウルは全く考えなしに作ったせいか、ソレがどれほどすごいものなのか理解していないようだった。
基本的に、付与が使える魔法はたった一種類、その上時間がある程度経てば付与した魔力が薄れていき、そこらの道具と一緒になってしまうのである。
そこに来てこの宝具とも言えるブレスレットやイヤリング、ウルによれば無理やり押し込めて無理矢理固定したという何とも見た目に反して大雑把な仕様になっているらしい。
素材のお陰か壊れる事も無いといわれれば、もう宝具といってしまっても問題が無い気がした。
「…先生、余程すてれすが溜まっているんですね」
最近ウルのいた世界の言葉を知りたくなったのか、リオンがもっともらしく言っている。
実際その通りだが、この場合『ストレス』である。
鬱憤の溜まっている王都での生活は、ウルの精神状態に如実に表れていた。
現実逃避をすることが多くなったり、ぼうっとする事や何もないのに溜息をついたりと、下降の一途を辿っていた。
「気を付けていってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
2人に見送られて、リオンは走り込みをしていくのだった。
「…さて、まずは準備をしなければ。
出かけますよジュリー」
「え、あの先生?
修行は…?」
「用意するの忘れてました、これから買いに行きます」
「段取り悪いなあもう」
弟子に駄目出しされました。
川原の鈴鹿邸を出て雑貨のある市場に来ていた。
ウルが探しているのは、大量の紙と各種の色つきのペンである。
1本1000ヒトゥンと高額だがウルは構わず全種類12種類ほど、それを各10本ずつ買っていた。
これだけで1ヵ月分の下級文官の給金になるのだが、おそらく値札すら見ていないウルのどんぶり勘定には毎度のことながら驚かされるのはジュリーだけでなく、周りもだった。
「会計は12万ヒトゥンですね、ご店主」
ウルが一方的に渡してきた120本のペンと大量の紙を入れるのに忙しかったのか、人間の店主が大きめの袋にいそいそと入れていた。
「豪快に買うねえ、なんだい、何やら始めるのかい?」
「ええ、こちらの弟子に魔法の修行をしようと思っていたんですが、準備をするのを忘れてしまっていて…」
「弟子って…そっちの獣人がかい?」
珍しいものを見たという顔でジュリーを見るが、ウルとジュリーは別の事で驚いた。
目の前の店主が、獣人に対しての嫌悪感が見受けられなかったのである。
大抵の商店や露店では、獣人とそうでない者の対応がまるで違うのだが、この店主にはその気配が一切ない。
「…貴方は、獣人が嫌いではないようですね」
「あー、ウチは差別とか面倒だからしないんだよ。
おかげでウチは周りの商人から変な目で見られてるがね」
かかっと笑う店主に、久しぶりに良いものを見たと思ったウルが、変わった商人に再度声をかける。
「いい心がけです、周りを気にせず頑張ってください。
また買いに来るかもしれませんが、その時までに在庫を貯めておいてくださいね」
「期待して待っとるよ」
材料を買って再び川原の鈴鹿邸の一室に戻ってから、備え付けの机に大量のペンと神を置いたウルが、ジュリーに修行開始と宣言する。
「ではまず…絵を描きましょう」
「絵…って、何をするのよ先生?」
「何って、絵を描くんですよ絵。
魔法を使う際に自分の思い描いた魔法を使えるかはまあ自分次第なのですが、それをさらに確実にするために、絵を描いてそのイメージというものを目で分かるようにすることがこの修行です。
ちなみに、私も師から教わったのですが、意外と効果的なんですよねこれ」
もっとも、デュケイン様が教えてくれましたが、すぐに飽きて描いた絵を具現化させて遊んでましたけどね。
「ジュリーの得意なのは火系統の魔法、風系統のように見えづらい魔法じゃないので比較的に赤系統のペンで細かく書いていってください。
いいですか、時間をかけてでもいいので、性格に書くんですよ?」
「…は~い」
ジュリーの火系統魔法はまだムラがあり、戦闘でも余計な飛び火があってリオンもヒヤヒヤさせる場面が幾度かあった。
実際に被害は起きてないが、それでも制御がきちんとできて悪い事ではない。
山火事や焼野原など、最終的には焦土を起こされたら敵わないのである。
銀狐という種族は火に特化している種族らしく、他の系統はあまり優秀とは言えないが、一点集中型といえるのか、他の追随を許さないほど才能に溢れていた。
正直に言って、ウルが火系統限定で魔法を打ち合った時、一度目は勝てても二度目はないと思うほどである。
絵を描いている間ウルは風系統魔法を使って辺りに気配を配っていた。
すぐにウルたちを見張っている人間に気付いたが、5人とその数は多い。
囲むように見張りをしている男や女たちは、ウルが背を向けている窓を見ては何かを書き取ったりしている様子が見える。
わざと突風を起こしてメモを落とすと、慌てたようにその場に駆け寄る様子に、思わず小さく笑ってしまった。
しかし、間が悪かったのか。
「あー、先生っ!!
あたしの絵が下手で笑ったでしょうっ!?」
四苦八苦させながら書いていたジュリーは、ウルが自分の描いた絵の下手さに笑ったのだと誤解してしまったのである。
「はい?
私はまだジュリーの絵を見ていませんよ?」
「見てもないのに笑うなんて酷いじゃないの!?」
その通りではあるが、それはウルがジュリーの絵について考えていればの話であり、まさしく誤解なのであるが、この場合言ってもよいものかウルは悩んだ。
「…なんだ、ジュリーは絵心が無いようですね、これは手を焼きそうです」
とりあえず確認したのだが、火には見えるが臨場感の無い絵で、よい評価を上げられそうにない。
見張りについてはそのうち本人たちに言えばいいと先送りにしたのだった。
話題を逸らされてはいたが事実ジュリーに絵心が無いのは確かである。
へこんでしまったジュリーに、新しい紙を出して、再度絵を描かせ始めるウルなのだった。
相手はこちらがいつ来るのか調べているようですが…今はまだ時が来ていません。
悩みながら待っているといい、200年のツケをじっくりと払わせてみせます。
ドス黒い悪意に驚いたのか、ジュリーの描いた絵が更に残念になったのはまた別の話である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…何、見張りに気づかれているだと?」
部下たちの報告に、ブランニューが声を荒げた。
諜報に関しては、日ごろから研鑚を積むように厳命をしていた。
こちらの錬度が低かったのか、はたまた相手が上手だったのか。
何にせよ、相手がこちらの動向を知られてしまったことは事実である。
後日何らかの方法で対処をされてしまうと王城での謁見にも問題が出てしまう可能性があった。
ブランニューは見張りを全員下がらせて尾行もやめさせると、3人の情報収集の任務に努めるように命令を変更させた。
読んでいただきありがとうございます。
最近デュケイン様出ませんね、何してるんでしょう。
王都、いえ王国へ来てからのウル君の精神困憊ぶりは酷いですね、終わるころには落ち着くのでどうかお待ちください。
さて次回予告。
次回、『奴隷商人と代行者』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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