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ハイル 救いの物語  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第2章 地獄の沙汰も代行者編
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第022話 もうヤダこの国

誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。

本日も、デュケイン様御休み回です。

「…陛下、例の代行者について新たな情報が入ってきました」


 ブランニューが再び執務室に入ってきたのは、最初に会話をしてからまだ数時間の事だった。


「…相変わらず早いな、さすが秘伝の魔法という訳か」


 ブランニューが得意とするのは風系統魔法で、それを活用した情報伝達の速さである。


 ブランニューの家系に伝わる秘伝の1つに、『見果てぬ碧の風(グウィニズ)』という魔法により、遠方にいる対象者との会話を可能としているのである。


 これにより、情報の時差を極限にまで無くすことにより、あらゆる時勢を先んじてきたのである。


「…ふむ、間違いないな。

 金獅子と銀狐の一族が教会に保護されたか…という事は、こちらに来るのはその名代という事か。

 となると、同行している者はかなり信頼されているという事になるな…何者だ?」


「…情報では、上位属性である時系統魔法を操れる可能性が出てきているのですが」


 強力な魔法使いという事を知らされて、報告書を受け取ったアルハザードの眉間に皺が寄る。


 やってくる情報はアヴァロンにとっては良い情報ではない。


 しかし、内心アルハザードにとっては好機と思う点もあった。


 アルハザードは獣人奴隷について真っ向から推進派貴族と対立している立場であり、200年前にアヴァロンを実効支配するために元シュトルンガルド首都に遷都したことに嫌悪していたのである。


 しかし、教会から再三来ている大司教、トリューマンは貴族派に賛同しているのか、謁見をしても挨拶をしても本題に入っても関係のない事ばかりを口にしていたのである。


 教国の人間がこれでは、アルハザードは常に四面楚歌の状態で、しかも獅子身中の虫も抱えてこれからの国を見据えていかねばならないのである。


 トリューマンの情報も調べては見たのだが、影で貴族派と何やらこそこそと密会をしているのだが、密会している相手も分からない上に、警備も厳しく思うように情報が集まらない。


 これからやってくる者たちに淡い期待をしても悪くはないだろうとアルハザードは思うのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 5分とかからずに騎士たちを倒してしまったウルたちは、いつものように捕虜を朽ちないロープで縛りあげた。


 とはいえ、今回は騎士たちを倒したのみで殺してはいない。


 あの山賊たちは騎士の格好をしていたから殺したが、あからさまに騎士の格好をしている者を殺してしまえば、今後に(つか)えてしまうだろうと判断したからである。


 1人重傷者が出てしまったが、そこはウルが仕方なく治療してロープで縛りあげた。


 イプシロンがリオンに縛られそうになった際に隠し持っていた短刀で斬りかかろうとしたのだが、心配する様子もなく手首をひねりあげられて厳重に縛られていた。


「くそっ、ケモノ風情にしてやられるとはなんたる恥っ!!」


「…見なさい2人とも、あれがアヴァロン限定で生息している珍獣、『キゾク・デ・バカ』です。


 主な特徴は理解不能な言語を操り相手を不愉快な気持ちにさせるという、絶滅推奨生物です。


 国によって保護されているから絶滅させることが出来ないというのが、難点な所でしょうか」


 頭を押さえながら目の前の珍獣をどうしてやろうかと思ったウルであったが、今殺してしまうとアヴァロンで何を言われるか分かったものではない。


 しかし、明らかに敵対してきた者に対してこのまま生かしておいてもいいのかという葛藤に悩まされていた。


 イプシロンは馬鹿にされたことに気付いたのか、顔を赤くして怒鳴っているが、ウルの耳に入って来ていないようである。


「…個人的にはすぐさま殺したいんですけどねえ…はぁ。

 あー、空が青いですねー」


 現実逃避を始めたウルが面倒そうに見上げると、どの世界でも変わらない、果てしなく続いていく青空が広がっていた。


 リオンとジュリーもウルに同情してか、この貴族を今後どうしようかと2人で相談している。


「正直先生が何をやろうとしているのかは分からないけど、確実に権力者と敵対するのよね。

 だったら、今ここでこの珍獣を殺したら、その報復で相手にするのが面倒になるんじゃないかしら。

 ここはぐっと我慢して、このまま放置することを提案するわ」


 ジュリーが今後の事を考えてか、イプシロンや騎士たちを残してこのまま退散する事を提案していた。


 リオンも賛同したのか、獣扱いしていた人間たちを睨むと、イプシロンたちも今の状況が理解できたのか、空を見上げているウルに助けを求めていた。


 珍獣特有の助けの求め方で、ウルに理解できたかは不明だが。


「お…おい、そこの下民っ!!

 この私を誰だと思っている!!

 アヴァロン王国伯爵家、マルセーヌ・ド・イプシロンであるぞっ!!

 私にこのような仕打ちをして、ただで済むと思っておるのかっ!!」


「…さて、面倒なのでさっさと王都に行きますよ2人とも」


 ウルはイプシロンの声をいない者として、リオンとジュリーに王都での予定を考えていた。


 以前通った街同様に獣人お断りの店が多くあるだろうからあまり期待できそうにはないが、いざとなればウルが買ってからリオンたちに渡せば済むことである。


 主に食事の話をしながらウルたちはその場から去っていった。


 残されたイプシロンはうめき声を上げている騎士たちと共に置き去りにされ、偶然通り掛かった商隊に見つかるまで、3日ほど待たされることになるのであった。


 王都についてウルが思ったことは、意外とインフラ整備の整った国、という事だった。


 生活するために必要な道路整備、上下水道の設備を見る限り、公共設備の充実など、見る限りでは豊かな国に思える。


 しかし、そのほとんどが獣人ではなく人間が使うための施設であると聞いた時のウルの落ち込み様は、人相の時に落ち込んだもの以上といえた。


「上げて落とすとは…人の気分を傷めつけるのが得意ですねこの国は…」


 と呟くウルに、これが当分続くのだと思うと不安になる2人なのであった。


 ウルは王都にあるギルドへ辿り着くと、2人を連れて入っていく。


 ギルドの中には人間族の冒険者で溢れていたが、獣人の冒険者もいたことに驚いていた。


 ウルたちをあからさまに嫌なものを見る目で見てくる者が多くいたが、一部の獣人の冒険者に至っては殺気まで出している者がいた。


「依頼されていたマルトホネットの羽です、確認してください。

 リオン、ジュリー、あなた達は依頼掲示板に手頃なのが無いか確認を。

 あまり遠くに行くような依頼は控えるように、当分の拠点はここなのですから」


「「はい、先生」」


「…おい坊主、貴族かどっかのボンボンか?」


 ついさっきまで殺気を放っていた内の1人だろう、虎の獣人の冒険者がウルの元にやって来ていた。


 大方ウルとリオンたちの関係を聞こうとしているのだろう。


 ギルド内では基本的に不干渉地帯であり、何より騒動は御法度である。


 その所為か、人間と獣人の比率に差があるにもかかわらず、何事も起きていないように見えていたのだった。


「…一応師と弟子のような関係でしょうか?

 あと、私は貴族じゃありませんよ」


 奴隷の特徴としては、手首や足首、それに首に鉄製の魔道具が付けられており、所有者が魔力を込めると魔道具が発動して痛めつける仕様になっているのである。


 破壊する事も現在では難しく、専用の鍵が無ければ不可能とされていた。


 もちろんだが、リオンやジュリーにはそのような魔道具はついていない。


「…そうか、悪かったな。

 いやなに、人間と獣人の組み合わせなんて見て、思わずいきり立っちまってよ。

 俺はシャドウィン、茶ランクの冒険者だ。

 見ての通り、虎の獣人だ」


 どことなくブリンドに似ている雰囲気のある獣人で、おそらくは気さくな人柄なのだろうとウルは判断した。


 ウルも自己紹介しながらリオンたちを待つことにしたようである。


「私はウル・シイハといいます。

 冒険者ランクは茶色です、あと、私は人間ではなくて魔人です、間違えないでくださいね」


 念を押すようにウルがいったのがシャドウィンも気づいたのか、豪快そうに笑うと謝罪してきた。


「ん、そうだったか、悪いな。

 俺は魔力に関してはとんと疎くてな…人間と魔人の区別はし辛くてよ」


 獣人の多くは魔法が使える者が少なく、獣人特有の身体強化が使えると以前エドワードから聞いていたウルは、シャドウィンもそういった者たちの1人なのだと知る。


 リオンも魔法などを使う事は出来ないが、身体強化をすることによって並外れた力を発揮している。


「…あ、あのお…確認できました。

 依頼料の45万3000ヒトゥンです」


 受付がおそるおそるウルに依頼料と換金した額を一緒に持ってきた。


 ウルはベルグンドの牙と皮を換金に出していたので、それが加算していたようである。


 肉だけ放置していたのだが、今頃もう腐っているのではないかとウルは思ったが、今更だと思い忘れる事にした。


「…にしても、お前強いんだな。

 マルトホネットだけじゃなくベルグンドまで…」


「実力が無いと冒険者など出来ないでしょう?」


 当然のように答えたウルだったが、シャドウィンはそれもそうだなと苦笑いしていた。


「先生、これとかどうです?」


「あたしはこっちのがいいと思うんだけど、リオンが…先生はどっちがいい?」


 リオンとジュリーが持ってきたのは別々の依頼のようで、どれも王都近郊に現れる歪の討伐依頼であった。


 片方は中位の歪が現れるというリオンの依頼書。


 これは期日が後2日に迫っていて、探すのに手間取ったりすれば完遂できるか怪しい。


 もう片方のジュリーの依頼は下位の歪が大量発生しているのでその討伐であった。


 これに関してはあと10日もあるので問題はないだろうと判断。


 依頼料は討伐してきた歪次第となっていた上に、どうやら聞くところによると大きな紹介が依頼を出し来ているようで、期待が出来そうである。


「ジュリーの依頼にしましょう。

 リオンの依頼書は少し時期が遅すぎましたね。

 5日以内なら探す手間を含めて安心して狩れるのでしょうが…私たちはここに来たばかりで、土地勘があまりありません。

 それを考えると、今回は見送ることにしました。

 リオン、それで納得できますか?」


 操作とされるようにウルが言うと、しょんぼりしながらリオンは納得していた…ように見える。


 おそらくは強力な歪と戦いたいという気持ちがあったのだろうが、あまり無茶な真似をして欲しくはないウルとしては、正直なところリオンたちに危険な依頼を持ってきてほしくなかった。


「さて、今日は疲れたのでこれから宿をとらなくてはいけませんが…シャドウィンさん、近くに獣人でも泊まれる宿はありますか?」


 ウルは以前通った街で獣人お断りの看板があったことを伝えると、呆れながら金さえ払えば問題ない宿があるといって場所を教えてくれた。


 どうやら獣人が泊まってもいい宿はどこも割高のようで、ここにも格差が、と思うウルなのだった。


「…どうしようもない国ですね、この国は」


「仕方ねえさ、この国の王様は獣人の奴隷反対、なんてこと言っちゃいるが、実際は貴族の反対すら抑え込めねえ優柔不断な性格してるって話だぜ。

 俺たちだってこうも呑気にこの国にゃあいるが、いつどこで襲われて奴隷にされるか分からねえからな」


「…この国を出ようとは思わないのですか?

 高ランクの冒険者、しかも獣人を虐げている国にいれば、居心地も悪いでしょうに…どうして?」


 リオンが緊張しながらもシャドウィンに聞いたが、答えは返ってこない。


「…まあ、いろいろあるんだ俺にもよ。

 じゃあなウル、元気でやれよ?」


 シャドウィンと別れるとウルたちは紹介された『川原の鈴鹿邸』について1週間宿をとった。


 受付が嫌そうな顔をあからさまにしていて、客商売としてどうなのかとぼそりと口にしたウルに慌てて謝罪してくるのは少しだけだが胸のすっとする思いだったようだ。


「…2人とも、今日で十分に理解したと思いますが…私も我慢しますから、2人も我慢してくださいね?」


 何を、とまでは言わなくても2人にも解ったのか、渋々といった様子で頷くと、それぞれ個室へ戻っていく。


 ウルとリオンは同室、ジュリーは女の子という事で個室に入っていく。


 リオンは寝間着に着替えたウルにありがとうございますというと、なぜか笑っていた。


「…何か私言いましたっけ?」


「えっ、あっと、その、わざわざこんな大きな宿にしなくても、他にも獣人の寝泊まりできる宿があるって言っていたのに、先生がここにするって言ってくれたのが嬉しくて」


「…私がここに泊まりたかったからここにしたんです。

 別にリオンの為にした訳じゃありません」


 臆面もなく笑顔でいるリオンにいたたまれなくなったのか、背中を向けたウルが言い訳がましく早口で何か言っていた。


「…はい、分かりました。

 それじゃあ先生、おやすみなさい」


 リオンが何を分かったかなど聞く気もなかったウルであったが、寝息が聞こえてきてそっとリオンの方へ寝返りを打った。


 満足そうな顔をして寝ているリオンに、隣室で寝ているジュリーと同様、小声で良かったと呟く。


「…世話を焼くっていうのは大変ですね、デュケイン様も私に結構世話を焼いていただきましたねえ…」


 主に面白半分でしたが。


「…おやすみなさい2人とも」


 ウルは寝入っている2人にさらに小さな声で声をかけて、目を閉じた。


 羊を数えるまでもなく、5分もしないうちに部屋では健やかな寝息が聞こえてきていた。


読んでいただきありがとうございます。

今回は言うことなしに…いえ、何でもございません。

珍獣が出ました、『キゾク・デ・バカ』。

…わー、見たいな?

さ、さて次回予告です。

次回『私の都合は絶対です』です。

ではでは皆様、また次回まで。

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