第021話 貴族って珍獣なのですね
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
デュケイン様御休み回です。
アヴァロン王都ミンスターでは、王宮の一部で騒ぎが起きていた。
諜報機関が長、ブランニューが王室執務室で王に対して緊急の報告をしていたのである。
「…以上が、部下が調べた情報です。
教国の十字架を持った者は、近日中にこの王都にやってくることは間違いないかと」
その報告を受け、アヴァロン国王アルハザードはその端正な顔立ちを歪ませていた。
「…まさか、あの十字架の意を受けた者が出てこようとは…何者だ?」
「はっ、この情勢下であるならば、枢機卿以上の者の力が及んでいる可能性があります」
アルハザードは以前聞いていた人物を思い出して、ため息をついた。
代行者という超常的存在がこの世界にやってきたというのは、既に世界でも知られている出来事である。
その力は1000を超える歪を瞬時に消し去ったという事や、その素性が謎に包まれているという事しか知られてはいないが。
代行者を見たという者が言うには、代行者の特徴は全身白の薄手の鎧を常に着続け、得物は変わった長モノ、更には仮面も付けているという徹底ぶりである。
唯一の特徴といえば、髪の毛が黒いという以外なかった。
「…それと、未確認なのですが、その者の従者の1人が金獅子である可能性が出てまいりました。
重ねて申しますと、もう1人の従者は銀狐です」
アルハザードは目を見開いて事態がどう転がっても悪い方向にしか行かないことを覚悟する。
報告したブランニューを下がらせると、椅子から立ち上がって窓の外を見つめた。
元はシュトルンガルドの王城であった場所は高所にあり、その眼下からは城下町で賑わっている。
「…いや、手はあるはず」
自らが望む国の為に、近い将来くるだろう教国の使者にアルハザードは得も知れぬ悪寒を感じさせるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウルたち3人は後にした街の事を忘れるために、ただひたすら依頼されていた歪を狩り続けていた。
とはいっても、そのほとんどはウルが止めを刺すばかりで、理由は歪を完全に滅ぼすことが理由であった。
リオンとジュリーは連携して歪の急所や起動を奪うことに専念させて、残りはウルが破軍で斬ったり魔法で止めを刺していく。
途中依頼とは違う歪もいたが、見逃すことなく狩っていく。
見える限り、気配を感じる限りの歪を狩ったところで、依頼されていたマルトホネットの羽が揃った。
スズメバチを拳大にしたような大型の歪なのだが、森の中を探そうにも巣が見つからない上に足場が悪いしで、手間取っていたのである。
「…まあ、こんな所ですかね。
2人とも、怪我があったら申告しなさい」
「あ、僕は大丈夫です、怪我してないです。
ジュリーはどう?」
「あたしは足首捻っちゃった。
マルトホネットじゃなくてベルグントの所為なんだけどね」
ベルグントは討伐依頼の入っていない歪である。
イノシシ型の魔物に憑りついていた歪で、皮の硬さとその猪突ぶりは驚異的だ。
ジュリーはベルグントの突進を避ける事は出来ていたが、避けた後にバランスを崩して足首を捻ってしまったのである。
ウルは手早くジュリーに治療魔法を施すと、辺りを確認して昼食の準備に取り掛かった。
ウルはベルグントの牙を抜いて食べられる部位を捌いていくと、おかしな点に気付いた。
ベルグントはウルが止めを刺していたのだが、その方法は破軍での一刀両断である。
なのに、ベルグントの下半身には、何やら矢が刺さっていた。
つまり、ウルが止めを刺す以前に、他の誰かがベルグントと戦っていたことになるのである。
「…昼食はベルグントのステーキにしようと思ったんですが…念のために止めておきますか」
本来ならば狩った物が所有権を主張するのだろうが、最初に手を出した人物が何かを要求してきた場合は、捌いた肉を渡して事なきを得ようと思ったのである。
ウルたちは町で補充していた食料でシチューを作ることにした。
生活能力のないと思われていたウルであったが、元いた世界では1人暮らしをしていたので、どうにか料理だけは出来るようだった。
実際ウルには生活能力がないのではなく、する必要が無くなったのでしようとしなかったのが正解であるが、それについては割愛する。
近くに川を発見すると、その近くにある石を竈のような形にして鍋を取り出すと、バターと小麦粉それに少量の油を入れてルーを作り始める。
綺麗に溶けるまでへらでかき混ぜて、牛乳を入れた。
こういう時に何でも入るバッグがとても重宝になるという事を実感するウルだった。
既に別の鍋で炒めていた野菜と肉をルーに入れじっくりと煮込めば完成である。
リオンとジュリーはウルに料理を任せても大丈夫なのかと不安になっていたが、今ではそのような不安は顔に出ていない。
ウルの作った料理がいたく気に入ったようである。
この世界の料理文化はそれほど充実しているとは言い難く、素材や調味料はある程度揃っているのだが、簡易的な味付けしかしていないようなのだ。
出された料理に対して文句を言うつもりもないウルは、食べられるだけで十分と思っていたが、いざ自分が作ろうとした時、あまり納得できない出来であったために一念発起する羽目になったのである。
「…2人とも、一旦休憩して昼食にしますよ」
ウルに薪を渡していたリオンとジュリーは個人トレーニングをしていたのか、素早く手を洗って軽く汚れを払うと、用意されていたシチューとパンの前で手を合わせて斉唱した。
「「いただきます」」
食事をする際に2人に言いつけていた約束事だったのだが、食事に対して感謝する事に納得して、自然に受け入れてくれた。
量的には5人前ほど作ったのだが、掻き込むようにどんどん食べるリオンに、ウルは作りがいのある弟子です、と軽くぼやいていた。
ウルも黙々と食べて昼食を終わらせて手早く片付けると、王都のある方向へ向かっていくことにした。
「それにしても、先生の料理っておいしいですよね。
僕ああいう料理毎日食べたいです」
リオンがシチューのおいしさに感動してか、何とも微妙な感想を述べていた。
ジュリーも同意していてか、ウルにまた作って欲しいとウルに頼み込んでいる。
「ジュリーにそのうちレシピ教えるので、作ってもらいなさい」
「えっ、えっと…あたし料理下手だし」
一度ジュリーに任せて夕食を作ってもらったことがあったのだが、結果として出てきたのは、焦げ付いていて穴の空いた鍋であった。
「これも修行です、私のために頑張りなさい」
面倒事は全部弟子に押し付けようという気満々の台詞である。
「先生、思考ダダ漏れよ?
…まあ損にならないから頑張って教えてもらうけど」
ジュリーがそっとリオンに視線を送ったのだが、本人は気づいた様子もなく、ウルは知らぬ顔でそのやり取りを見守っていた。
そんな微妙な空気で森を抜けていくと、正面には何故かウルたちの通り道を遮る人だかりが見えた。
「…また山賊ですか…リオン、ジュリー、さっさと片付けなさい。
食後の運動です」
ウルは2人にそう命じると、山賊たちが何故か陣形を立てて2人を囲い込んだのを見てはっと気づいた。
あの山賊たち、身なりが整いすぎです。
ぼろぼろの鎧や使い込まれたブーツに目が行っていて気付くのに遅れていたが、着込んでいる服には汚れ一つなく、何より表情が山賊のような下卑たものではあったが、何らかの組織に所属しているような、手慣れた動作が見て取れる。
「…舐めた真似を」
ウルはすぐに立ち上がると水系統魔法『凍てつく氷の鋭柱』を放って山賊もどきに制裁を加える。
リオンに背後から不意打ちをかけようとした男の身体の中心から尖った氷の柱が飛び出していき、鎧を貫いて串刺しにした。
陣形を崩されたことに驚いた男たちはすぐさま陣形を立て直そうとしたのだが、ウルは闇系統魔法『その身封じる闇の影』を使うと、男たちの影が足に這い寄って動けなくさせた。
「ま、まってくれ、俺はイプシロン伯爵家に仕えている騎士だ!!
珍しい獣人を連れた奴がいるからって、伯爵に命令されて仕方なくっ!!」
聞きもしないのに言い訳を始めた男の素性はどうやら騎士らしく、教国の騎士とは質が違うと判断せざるを得ないだろう。
「どうでもいいです、そんなこと。
それより、その伯爵は今どこにいるんですか?」
一般人に対して(この場合ウル)伯爵などの爵位を持つ者が力づくで事を運ぶことが当たり前なのか、とりあえず聞くことにしたのである。
もちろんだが、ウルは向かってくる相手に対して情け容赦をかける心情は持っていない。
話は聞くが、そのすべてに対して情状酌量などを慮る気持ちにはなれないのである。
「あ…ああ、少し離れた所に護衛と一緒に俺たちが帰るのを待ってる」
「そうですか、ご苦労様です」
再度『凍てつく氷の鋭柱』を発動し、自称騎士に対して止めを刺した。
奇怪な芸術品が出来たが、リオンやジュリーはため息をついていつもの事だと納得するのだった。
「…先生、別に殺さなくたってよかったんじゃないです?」
「ていうか、先生相手殺すのに躊躇なさ過ぎて怖いんだけど!!」
とはいえ、抗議は当然のようにしている。
出会って数ヶ月経っていて、こうして意見を言ってくれるのは大変ありがたいのだが、ウルとしては敵に対して躊躇していたら死を招くといって断固無視していた。
「襲ってきた相手に同情するなんてバカですかあなた達は。
話を聞いて分かったでしょう、相手はあなた達2人を捕まえてよからぬ事を企てていたんですよ?
すなわち敵です、敵に容赦はいりません。
私は身内には優しいですが、敵に対して寛容さを求められるほど魔人出来ていないので」
「…えっと、そこはツッコミ待ちなのかしら?」
「僕たちそんなに優しくされたことない気が。
……あ、でも毎日料理作ってくれるのは優しさな気が?」
残りの騎士たちも串刺しにしてそのまま放っておくと、今更になって某吸血鬼のモデルの1人となった人物が以前やっていたなとふと思ったウルであった。
…確かに、串刺しは見た目がまずいですね。
反省所が全く違うと誰もが突っ込むだろう発言だったが、2人はもう何も言わなかった。
ウルたちは騎士の言っていた場所へ歩いていくと、無駄に装飾の施された白い馬車が10人ほどの護衛と待機していた。
「…おい、何者だ貴様は?」
「この世界の人間はこうも相手に対して態度が悪いものなのでしょうか?
それとも私の人相の所為なのでしょうか…はぁ、これは悩むところですね」
仲間の騎士たちが帰って来ていないせいか、苛立っていた騎士の1人がウルに対して威嚇するように剣を構える。
騎士たちの目的としていた対象と共に帰って来ていないという事は、同僚がやられたのだと判断してか、伯爵のいる馬車の元に一目散に駆け寄り、何かを伝えていた。
大方斥候がやられてこちらにのこのこやってきた都でも伝えているのか、報告を終えるといかにも余裕綽々といった様子で構えている騎士に、この国の騎士に対しての評価が暴落していく。
ウルが殺した騎士が言うのなら、あの馬車にはイプシロン伯爵が乗っているはずである。
馬車から金髪の男が降りてきて、ウルを見ずにリオンとジュリーを眺め、ようやくウルに視線を向けると何かを伝えてきた。
「そこの下民、いくらだ」
「……は?」
何を言われたのか理解できなかったのか、ウルは相手の金髪の男が一体何をウルに対していってきたのか、まったく反応できなかった。
目の前の男は端正なその容姿でリオンとジュリーを指さすと、もう一度何かを口にした。
「だから、そこの獣人2匹を貴様はいくらで売るのだ?」
「…リオン、ジュリー、アレ(・・)は一体何を言っているのか、2人には分かりますか?」
指を指すのはあまり上品な事ではないと知ってはいたが、それでもウルはリオンたちに聞きたかったのである。
リオンたちも怒ってはいたが以前の山賊たち同様で、どうにか抑えてはいるが、いつ爆発してもおかしくはない。
それもそうだろう。
相手はごく当たり前のことを言っているだけなのである。
国法にある奴隷売買を当然のように行うことに対して、ウルの思考回路が極度の拒否反応を起こしたのである。
「…先生の聞く必要のないです、戯言です」
「そうね…ちょっと理解しない方が幸せな類の言葉だから、気にしない方がいいと思うわ」
2人の発言に機嫌を損ねたのか、護衛の騎士たちの表情が変わった。
イプシロンの隣にいた騎士がいきり立って怒鳴ってくる。
「ケモノ風情が、人間様に対してなんて口の利き方だっ!!」
「…もう一度言おう、下民よ、いくらならそこな獣人を売るのだ?
貴様が望むなら見たこともないような額を払おうでは―――」
「あー、落ち着いてきました。
そして理解しました、貴族というのは珍動物なんですね。
ある意味歪以上に脅威です、即刻滅ぼさないと世のため世界のため何より私の精神衛生の為です」
「…先生、同じこと2度言ってます」
リオンがとりあえず突っ込みを入れたが、当のウルは聞いていない。
何より突っ込む場所も違っているようにジュリーは感じていたのだが、王都に行く前に一悶着起きてしまったと再び落ち込んでいる。
「街でもあったけど、こういう連中ってどこにでもいるのよねえ…うーん、あたしも頑張って敵には容赦をかけないようにしないと」
「その意気ですジュリー、とりあえず伯爵に話を聞きたいので、周りの護衛の処理を。
私も手伝いますよ…ほらリオン、あなたも手伝いなさい」
堪忍袋の緒が切れたというべきなのか、これ以上の異常な発言を完全に遮断して、近くにいる騎士たちに『凍てつく氷の鋭柱』を発動させたことを皮切りに、蹂躙を開始した。
誰にも気づかれることもないまま、王都付近にある森で、小さな戦闘が起きていた。
読んでいただきありがとうございます。
不快な伯爵登場です、ウル君静かにキレました。
王都につくまでのアヴァロンの評価は0以下、マイナスに直下してます。
人間ってヒドイね、のまさに一言。
それでは次回予告です。
次回、『もうヤダこの国』です…誰の言葉かなんとなくわかる気が。
ではでは皆様、また次回まで。
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