第020話 そんなに人相悪いのでしょうか
始まりました第2章。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
「…平和ですねジュリー」
「…先生」
「見てくださいあの空の雲、なんだかおいしそうなパンの形をしていますよ?」
「……うう、先生の自由っぷりが憎らしいわ」
少し離れた所では、リオンが複数の野盗と対峙していて、今日でこの襲撃も3回目を越えている。
最初ウルが1人で片付けてしまったことで今日はもうやる気が出ないのか、修行だといってリオンとジュリーに野盗や山賊などの対処を任せていた。
もちろん、歪だけはウルが倒していたが。
「ちくしょうっ、この奴隷かなりやるぜっ!!」
相手にしているのは人間族の野盗のようで、ウルとリオンたちの関係を主人と奴隷の関係と勘違いしているらしい。
ウルは奴隷を扱うのは品性の卑しい者だと思っていたが、その考えでいくと、相手の野盗はウルの品性が卑しいと考えているのかと一瞬だが思ってしまって落ち込んでいた。
シュトルンガルドの首都へアヴァロンが遷都を行ったと知ったウルは、本当にどうしようもない人種だと呆れ果てていた。
アヴァロン、もとい元シュトルンガルドに入って数日、奴隷商人に間違われること5回、貴族の子息とその護衛奴隷と間違われること7回、実に今日までで12回も野盗や山賊たちに襲われていて、しかもそれがすべて人間族という事にげんなりしていた。
初見で見れば確かにウルたちの関係はそう見えるかもしれないが、ウルは奴隷を持つだなんていう悪趣味は持ち合わせていない。
200年経ってアヴァロンでは奴隷は財産という価値観が付加されているが、ウルからすれば狂気の沙汰としか思えなかった。
そんなに私って人相悪いのですかねえ。
それとも、相手の野盗たちの人を見る目が無いのでしょうか。
事実ウルの目つきが悪いのは確かであるが、それを補って余りあるほど整っている容姿は、野盗たちがウルをどこかの貴族の子息だと思ってしまったのは無理もないといえた。
アヴァロンの貴族は総じて顔面偏差値が平均以上で、容姿の良い者同士で代々血を残してきた証ともいえていた。
加えて金髪と碧眼に絶対の自信を持ち、ウルは中世ヨーロッパにあった『高貴な血』を思い出してもしかすると『貴族が義務を負う』というものがあるのかと期待したが、どうやら自意識過剰な選民意識しか持ち合わせていないようで、重ねてウルは落胆していた。
しかし、アヴァロン国王アルハザードの周りには比較的良識的な貴族がおり、そのうち5大貴族と呼ばれる5家全てが国王の味方であることは、ある意味救いでもあるだろう。
5家は進んで『貴族が義務を負う』を月に一度のペースで行っており、それが総じて国王の信頼へと強めていったが、獣人に対して5家はあまり意欲的ではない。
そもそも200年前のシュトルンガルド占領の際も5家は反対し、その当時の当主たちは王に処断されたというくらいには反発的であったのだが、今代の当主たちはアルハザードの行おうとしている獣人族の奴隷解放については一部反対意見が出ていた。
ウルからすれば、結局的なことには変わりないのでは、と呆れたものであった。
そして一番の問題は、宰相であるローゼンバウト公爵は国王と真っ向から反対しているという事である。
問題の累積にウルは、『やっぱり滅ぼした方が…』と物騒なことを最近よく呟くようになっていた。
「ああリオン、最低1人は残しておいてください、聞きたいことがあります。
ついでに貴方の事を奴隷呼ばわりした奴は絶対に処分しなさい」
思考の底から上がってきたウルが思い出したかのようにリオンに注文を付けたが、奴隷呼ばわりをした野盗はすでに死んでおり、生存者が1人だけ残されている。
とはいえ、最後の1人も横腹を斬られて重傷であるが。
リオンは黙々と野盗の1人をロープで縛りあげてウルの前に突き出した。
転がっている死体は森の方へ投げ捨て、男を挟む形で背後に立っている。
「…さて、貴方には2つの選択肢が待っています。
1つ、貴方の知っているこの国の情勢、およびあなた方のような賊がどのくらい知っているのかを洗いざらい吐いた後、国の兵に連れて行かれるか。
2つ、先ほどと同様この場で知っていることを全部話して…」
一度区切り、芋虫になっている男となるべく視線が近くなるよう膝を曲げて場違いな笑顔を見せた。
「この場で死ぬかです、どちらを選びますか?」
アヴァロンの国法では、山賊は捕まればそのまま絞首刑が待っている。
どの道死ぬことは決定しているが、ウルとしては目の前にいる男を兵士に突き出す手間を考えると面倒で嫌なのだ。
男はウルと目を合わせて恐怖でちゃんと喋れないのか、あ、う、などと言って顔中から汗を流している。
それでも、ウルとの視線を逸らすことが出来なかった。
男は直感していた。
目の前の餓鬼は拒否すれば躊躇なく自分を殺すことに。
「…ああ、そういえばですが、拷問の類はしませんよ?
道具など持っていませんし、何より悲鳴は煩いし手間はかかるしで面倒尽くしですから。
安心して喋ってください」
リオンとジュリーは血の臭いで歪が近寄ってこないか辺りを警戒しているが、はたから聞いていて、ウルの発言がどこの悪役だといいたそうな顔をしていた。
この発言を聞いていて、ウルが神より遣わされた代行者とはついぞ思わないだろう。
「しゃっ、しゃ、しゃべる…から、い、いのちだけはっ!!」
「…いいですよ、じゃあ喋ってください。
あなたの知っていること、その全てを」
それから数十分かけて男の知っている情報を聞くと、リオンに男に再度ロープを足に巻いてジュリーに渡すように伝えた。
リオンはその言葉に忠実にロープに足首をグルグル巻きにして余った部分をジュリーに渡した。
男はこれで歩く事も出来なくなり、リオンはウルがジュリーに何をさせるのか気になっていたが、答えはすぐにやってくる。
「さてジュリー、今度はあなたの番です。
このロープを持ってこの近くにあるだろう街へ行きますよ。
どうやら近くの街を越えれば現在の王都であるガンドルフです、頑張りなさい」
ロープの先には縛り上げた男の足に繋がっており、ロープの長さからして2メートルほど。
「お…おいっ、やくそくがちがうだろうっ!?
た、た、たすけてくれるんじゃなかったのかっ!?」
男がウルの言葉に激高して怒鳴ってきているが、ウルは特に気にした様子もなく男に向けて淡々と告げる。
「何を言ってるのやら…この場で死なないという事は、あなたに待っているのは絞首刑でしょう?
最初に言いましたよね、ここで死ぬか町の兵に連れて行かれて処刑宣告されるのか。
本来ならば、その場で死んでもおかしくなかったあなたを今生かしているのは私の温情なのですよ?
どの国でも、山賊行為は極刑です。
…ああ、もう叫ばないでくださいね、うるさいので」
ウルはバッグから布を取り出すと、男の口を塞いだ。
男はもがもがとくもぐった声を上げているが、歩きながらだと気にならなくなる位に小声になる。
「ええっと…先生、もしかして…引っ張っていくの?」
ジュリーがおそるおそるウルに聞くと、その通りですという答えがやってくる。
「魔法専門であろうと、基礎体力は必要です。
何よりこの3人の中で一番体力の劣るジュリーには、常日頃の体力向上トレーニングは必須なのです。
という事で、頑張って連れて行ってくださいね?」
「…先生、もしかして面倒だからあたしにさせようとしてるんじゃないわよね?」
「……もちろんです」
「ちょっ、今の間は何よ!?」
じとりと見つめるジュリーとリオンに、ウルがそっぽを向いて歩いていく。
ジュリーは3人の中で確かに体力は低くはあるが、獣人族より体力のある魔人族に負けていることに悔しがっていた。
男を引き摺っていくいくという事は、地面についている側を次第に削っていくことになるのかと思ったのだが、1時間ほど引き摺っていておかしなことに気付いた。
引き摺ればロープが傷むはずなのに、ロープには傷んだ個所が全くない。
男は引き摺られていった衝撃ですでに気絶していたが、背中に面した、地面に面している部分はすでにボロボロになっている。
「…先生、このロープって時の魔法使ってるの?」
「はい、その通りです、よく気が付きましたね」
何故か年下のウルに頭を撫でられたジュリーにリオンは複雑な視線を向けていたが、いらぬことを言ってジュリーの逆鱗に触れたくなかったので黙っていた。
ウルが買った日常品や食糧の全てには、時系統魔法で対象物全ての時が止まっているのである。
その為、ロープは劣化『せず』、食料は腐ら『ない』のだ。
時系統を使う事の出来る魔法使いは世界で10人もおらず、その素性もほとんど知られていない。
上位属性を扱える魔法使いは権力者に狙われやすく、そういった魔法使いたちは総じて権力嫌悪者であることが多い。
珍しい例で上位属性を扱える魔法使いで国に所属しているというのは、魔人族とエルフ族だけらしい。
ウルは男の後頭部を確かめてみると、頭からは出血していて、例え魔法で治癒させても禿が残るだろう状況であった。
…そういえば、引き回しという拷問法がありましたっけ。
この場合引き回しといわれる拷問は、馬を使って見せしめにするという事なのだが、実質この男が遭っているのは文字通り、引き摺り回されているのではないかとふと思った。
ウルは魔法で怪我を治すと、昼食をとって街に向かって再び歩き出す。
「先生…なんであの山賊に治癒魔法なんて使ったんです?」
「怪我をしていたからですけど?」
リオンが怖い顔をしてウルに聞いてくるが、本人は不思議そうな顔をして当然のように答えた。
リオンは質問が悪かったと思ったのか、聞き方を変えてもう一度聞いてくる。
「ええとですね先生、どうせあの男はアヴァロンの国法で死刑になります。
情報を吐かすために拷問されるかもしれません。
今更怪我が1つや2つ増えても変わらないのに、なんで先生の貴重な魔力を使ってまで治療したんですか?」
「ああ、そういう事ですか」
ようやく意味が分かったのかウルがうんうんと首を縦に振る。
リオンはウルと話す際にはとにかく正確に伝えないと理解してくれないと思い知ったのか、後方で男を引き摺っているジュリーにあとで話しておくことを決めて、ウルの答えを待つ。
「その方が痛いからです」
「……はい?」
「つまりですね、怪我していると気分が落ち込むじゃないですか?」
「…まあ、落ち込むでしょうね」
この場合どう落ち込むのか理解し辛くはあったが、リオンは頷く。
「そこで怪我を治すと気分は持ち上がりますよね?」
「…あ」
気付いたのだろう、ウルがやっていることに。
ウルは男に天国と地獄を味あわせているのである。
頭を引き摺られ続け打ち続け、背中を削られ続けて男は緩やかにだが地獄的な目に遭っている。
そこへその痛みを失くす治癒魔法をかければ、その痛みから逃れられて気分は確かに持ち直し、怪我が無くなったことで好転するだろう。
が、すぐに地獄は再開される。
街に着くまで、一定の怪我を負えば治療されまた引き摺られていくというサイクルが延々と続いていくのである。
町まではあと1時間ほどで着くが、男がこの責め苦に耐えられるかは不明だ。
「…先生ってたまにとんでもないこと考えますね。
僕ちょっと怖いです」
ぼそりと呟いたリオンだったが、ウルは知らぬ顔で歩いていた。
街に辿り着いた3人と1人の捕虜は門の前まで行き、気絶した男を引き渡した。
最後に全身を治療した状態で。
ロープを回収し損ねていたが、どうせ廃棄されるだろうとウルはそう楽観していた。
「この町には何をしに?
商売か?」
事情聴取というべきなのか、簡単な取り調べを受けると、門を通る際に1人の兵士に呼び止められた。
ギルドカードを見せたのだからこの国で仕事を探す筈と思わないのかとウルは不愉快そうな顔をしたが、無視しようとした。
だが、兵士は空気を読めていないのかウルに再び声をかけてくる。
「そこの2匹の奴隷、結構鍛えてるじゃねえか。
王都に行けば結構な値がつくんじゃねえのか?
ははっ、今度一杯奢ってくれよ」
その言葉にリオンとジュリーが目を吊り上げて兵士に手を出そうとしたのだが、ウルが2人を押さえて止めさせた。
「へえ、よく躾けられてるじゃねえか…そこのメスとか…」
「黙りなさい」
ウルは空気の読めていない兵士に十字架を取り出して目の前に見せた。
「この十字架はアドルフ枢機卿からお預かりしている者ですが、教国の関係者に対して、口の利き方がなっていないのじゃありませんか?」
教国ではアヴァロンに対して獣人の奴隷について一国も早く止めるよう再三から書状が届いているのだが、国の国教であるアンストル教国の、しかも枢機卿の関係者が奴隷を持つことなどありえない。
目の前の兵士はあっという間に明るかった表情を青くさせてその場にへたり込む。
「この2人は私の従者です、この国では獣人の奴隷が当たり前のようですが、その価値観を私たちに押し付けてこないでください。
とても不愉快で、吐き気がして、身の毛もよだつとはこの事です」
そう言い捨てると、ウルたちはへたり込んだ兵士をそのままにしてギルドへ向かっていった。
本来ならば十字架を見せれば教会関係者に知られてしまう事になるのだが、徹底的に落とすのならばこれが一番効果的だったとウルは思ったのだ。
ギルドへ行くとウルは一目散に依頼掲示板を見回して歪討伐の依頼書をとって受付に出した。
ギルドカードを無言で差し出すと、有無を言わさず王都で報告はするといってウルたちは出て行った。
討伐依頼などはどの支部でも報告は可能で、申告をすればいつでも可能なのだが、一応報告はしておくべきかと思ってしたのだが、ウルの気迫に押されて受付の女性は震えながら頷いていた。
どの店も獣人お断りの札を置いていて、ウルは仕方なく食料などを買い込んで早足にこの街から出て行くことを決めた。
元は獣人たちが住んでいたこの街も、今では人間の比率が多くなっているようで、しかも差別もあったようだ。
何か失敗をした獣人が主人の男に酷い体罰を受けていてリオンたちが止めさせようとしたが、ウルが止める。
そんなことをすれば、あの獣人が更に酷い体罰を受けることが目に見えていたからである。
悔しそうに見る事しかできない2人に、慰めになるか分からないがウルが声をかける。
「もう少し我慢してください、こんなくだらない法は絶対に廃して、獣人たちを解放してみせますよ」
「…はい」
「…うん」
名も知らない街を出て行くウルたちに、その後ろ姿を見ていた男がいた。
身なりはいかにも高級そうな服装で、金髪碧眼で美形である。
「……」
男は3人を見つめ、何かを考えると上機嫌でその場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日、竜人の国ムシュフシュの高山地帯で時空の歪みが発生した。
本来起こる筈の無い時空の歪みは、時間帯が夜だったおかげで誰にも気づかれずにそのまま空間を落ち着かせていった。
そこへ小さな影が落ち、地面に降り立った。
手を広げた程の大きさをしたソレは、辺りを見回して震えている。
「…ついにやってきました、とお様の創ったこの世界、『ゴッター』へ!!
さすが僕だ、予想よりはるかに上回る余力を残してこの世界へ来れるだなんて。
感覚共有もしっかりできているし、これでやっと…」
感極まったのか、小さな手を握りしめながら、誰もいない場所で大きな声で叫んだ。
「これでやっとおいしい食べ物が食べに行けるんだっ!!」
隣にいるバルが深いため息をつきながら神殿の内装をコツコツと造っている様子も同時に見えているデュケインは、ニヤニヤとしながらこの世界を眺めていた。
「本当はウルに合流しないといけないんだろうけど…やっぱり僕はこっちの方が忙しいからこっち優先しよっと。
…とはいえ」
デュケインは自分の身体を見回しながらため息をつく。
「サイズがここまで小さくなるなんて思わなかったなあ…妖精じゃんもうこれ」
全長約20センチにも満たないその体躯に不満を憶えながら、まあいいかといって辺りを見回した。
夜も更けていてよくは見えないが、近くにいい匂いがするのに気付いたのである。
デュケインは早速その匂いのする方へ向かい、この世界での第一歩を踏み出した。
読んでいただきありがとうございます。
始まりましたー、第2章ですね。
いきなり不愉快な兵士とあたったり山賊と出会ったりと不運続きなウル君。
出したくはなかった十字架も見せちゃって、どうするんでしょうね。
ていうか、ついに来ちゃいましたデュケイン様。
とはいっても、合流する気は御本人様には無いようで、本気で観光する気満々のようです、困ったものですね。
さて、次回予告とまいります。
次回、『貴族って珍獣なのですね』です。
ではでは皆様、また次回まで。




