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ハイル 救いの物語  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第1章 お騒がせな代行者編
20/97

第018話 確認と覚悟と契約を

誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。

最近投稿が不規則ですいません。


「…おかしい」


 呆然と呟くデュケインの声に、柱を滑らかな円柱にしているバルはあえて無視していた。


 相手をしていたら疲れるのが目に見えているので嫌だからである。


「ねえバル、ちょっとこれ見てよ」


「…こちらが忙しいのだが?」


 とはいえ、指名されてまで無視するほど無体なことはしたくないのである。


 無視しまいたいのは山々だが、無視をしたら漏れなく直接的な嫌がらせが待っているのは目に見えていた。


「そんなことよりこっちが優先なんだよ!!」


「…君が始めたことだろうに…」


 管理者の間に来てからどれだけのため息をつかされたのか、数えればきりがない。


 渋々といった態でバルがデュケインの元へ行くと、出来上がった使い魔の無残な姿が見えた。


 渾身の作品を作るといっていたデュケインが出来上がった作品を気に入らずに破壊したのかと思ったのだが、どうも様子が違う。


「…それで、この憐れな人形は一体どうしてこうなったんだ?」


 期待しているだろう言葉をかけると、デュケインがしょぼくれた様子で語り始めた。


「使い魔が出来上がったから僕の力を込めて送り出そうとしたんだ。

 そしたら…いきなり送ろうとした部分の身体がガリガリ削れちゃったんだよ!!」


 送り込もうとした空間はどこかの山中らしく、見渡す限り何もおかしな所は見られなかった。


 つまり、使い魔の方に何か問題が出てしまったという事なのかとバルは思ったのだが、デュケインは違うと言い張っている。


「…たぶん、とお様の創ったルールが自動更新されたんだと思う。

 僕が魔物の残骸を僕の力を込めてあっちの世界に送ったことがばれたんだ。

 …さすがとお様、抜け穴を自動更新させて埋めちゃうなんて、僕じゃ真似できないよ」


「…という事は、あちらの世界に使い魔を送るという事は諦めるのか?」


 これも同じくデュケインが期待している言葉だろう。


 バルに振り返ったデュケインは、まさかといって満面の笑顔で俄然やる気になっていた。


「冗談、この自動更新にも穴があるのに気付いてるもん」


「…で、次はどうするんだ?

 また同じような使い魔を送るのか?」


「もちろん、でも今度はギリギリの力を見極めてから贈ることにするよ。

 さっき込めたのはウルと同じくらいだったから…そうだね、手首位なら掻い潜れるはずさ」


「…間違えても女神にこの管理者の間を占拠されるような愚を起こさないでくれよ?」


 念のために声をかけたタバルだが、デュケインは違う捉え方をした。


「当たり前じゃないかバル、僕は天才なんだから、この程度の力の消費じゃビクともしないからね!!」


 だって僕はとお様の子供なんだから、といつものように自慢をするデュケインに、バルは諦めたように手を止めていた柱の制作に戻った。


 これが終われば適当な材料で料理を作り、また神殿の制作にかかるというサイクルが出来上がっていたバルは、なんだかんだでデュケインのやることに目が離せないのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「支度をしなさい、出かけますよ」


 突然リオンとジュリーは朝の訓練を終えたウルに遠出の支度をするように言われた。


 歪たちの進行を代行者として討伐したウルは、いつもと変わらず冒険者としてブリンドと新たにリオンとジュリーを加えて生活をしていた。


 ブリンドは姿を消したウルに説教をしていたが、事情の知っている2人は何時ブリンドにウルの正体を教えるのか見守っていた。


 冒険者となったリオンとジュリーはウルより3ランク低い青からであったため、仕方なく月下亭から少し離れた『羊の蹄亭』へと宿泊場所を変えることになった。


 4人でパーティーを組むことになり、賑やかに見えてあっという間の2ヶ月間であった。


 基礎訓練を中心とした組手から魔法の効率的な使い方は、ウルにも取って有意義な活動になっていたのは確かである。


 そして丁度2ヶ月目になった日、ウルはギルド本部の幹部や一部の実力者―――最高戦力を集めて自らの正体を明かした。


『はじめまして、代行者のウル・シイハです』


 事情を知らされたギルドやブリンドやブリッツたちは最初驚愕していたが、突然現れた期待の新人の力の正体に気付いて、それからはウルについての情報を秘匿することを決めて、それからはまるで何事もなかったかのように生活を続けていた。


 2ヶ月経ったことにより、ブリンドの指導官としての役目も終わってどうするのかと尋ねたが、ブリンドはまだパーティーを続けたいと申し出てきたのである。


 ウルは好きにしてくださいと素っ気なく言うと、何かとつけて飲み会を開くブリンドにその日の夕食代を払わせていた。


 お互いの名前を呼び合うようになってから、仲の良い兄弟のようにも見えていた。


 お互いは否定するだろうが。


「…えっと、ウルさん?

 出かけるっていうとどこに?」


 いまだにリオンはウルとの距離感を掴み切れておらず、相変わらずぎこちない態度で接していた。


「決まっているじゃないですか、あなたたちの住んでいた山ですよ。

 私の次の進路はアヴァロンですが、その前に貴方たちの御両親に会っておこうかと思いましてね……貴方たちも、一度ご両親と会っていた方がいいのではないですか?」


 両親たちが生死不明の状態で2か月を過ごした2人であったが、心のどこかで一度住処にしていた山に行きたいという願いはあった。


 しかし、リオンやジュリーたちの素性を教会側が保護という形を取りたかったらしく、その為にウルがその身柄を強制的に保護下に置くといってその交渉が続いていたのである。


 その為か、首都から離れる事が出来ずにいて、2ヶ月を虚しいと感じていたこともあったのである。


「あ、お金は渡しておきますから、僕の分もよろしくお願いしますね」


 そう言ってその日は準備だけに一日が終わってしまって、リオンとジュリーは念入りに準備をしていた。


 2ヶ月ウルと接して分かったことは、ウルに生活面を任せるとロクなことにならないことである。


 ブリンドは別件の依頼がある為一緒には行けなかったが、3人で行っても問題はないと太鼓判を押して出かけて行った。


 ウルは2人が準備していた荷物をバッグに収納して首都をあとにしていく。


 既に教皇ヨハンとは簡易的にではあるが別れを済ませており、妙な視線を向けられてウルは不審に思っていたが、特に困るような状況ではなかったため無視しておいた。


 ここを出て行くといった時、ちょうど受付をしていたブリッツが名残惜しく別れの言葉を口にしていた。


「まさか坊主が代行者様じゃとはのお…世の中分からんもんじゃわい」


「おじいさんは最初僕の事どこかの貴族の子弟と勘違いしてましたからねぇ…酷い話です」


「…そんなこと言ったかのお?」


「心当たりが無かったですか?」


 にこりと笑っているウルに冷や汗をかいたブリッツは何事もなかったように見送った。


 心を読んだといえば、ウルの情報がさらに知られることになるので、この辺りで意地悪をするのはやめておいた。


 門を超えていくといつもと変わらない平原にリオンたちは2か月前の歪との大戦闘の影を全く残さないこの状況に微妙な顔をしているが、魔法を使ったウルは何とも感じていないようだ。


「…先生の魔法はすごいわよねえ、私は専門が火だから何も傷つけずに戦闘なんて出来ないもの」


 ジュリーはウルの魔法の才能に感動してか、いつの間にか「先生」と呼ぶようになっていた。


 歪を討伐しながら1週間かけて山を登っていくウルたちは、リオンの言っていた住処に辿り着いていた。


 急激な坂のある道で風の強い場所であったが、リオンとジュリーは慣れているのか、物ともせずに歩いていく様子に、徒歩の遅いウルはゆっくりとだがついて行っていた。


 道すがら血の付いた跡や壊れた武器が落ちていて、この近くでも戦闘が行われたという事が見て取れる。


 歪の死骸も見てみると、ここ最近戦ったような形跡がある。


 斬られた跡を見てみると、まだ腐敗がはじまっていない。


 しかも一刀両断されている死骸を見ると、かなりの腕前のようである。


「…リオン、ジュリー、どうやらご両親は生きているようですよ?」


「ほ、ほんとですか!?」


「父さんたち生きてるの先生!?」


 歪の死骸を見せて切り口や腐り具合について説明すると、戦闘以外では黙々と歩いてきていた2人の生気が漲っているように見受けられた。


「あの時は酷い事を言いましたが…まあ生きているのなら良かったですね、はい」


 あっけらかんと言うウルに、リオンたちも苦笑しているようだ。


 リオンたちの住んでいた場所は山をくり抜いたような洞窟での生活をしていているようで、入り口は巧妙に隠されていた。


「…父さんが言うには、自分たちの存在を知らせないために隠しているんだって言ってたんですけど」


 リオンがそういうとウルは洞窟の内部に入っていく。


 荒らされている形跡もあったり、かすかだが血の臭いもする。


 進んでいくと道すがらあった破壊されていた剣の一部も見つかったりと、どうやらその持ち主がいるようだ。


「とおさーん、僕です、リオンです、どこにいますかー!!」


 リオンが大声で洞窟内部で叫ぶ、本来ならば慎むところだが、気配を読んでみると数える位しか探せられない。


 風の魔法で索敵をしてみると、どうやらすぐ近くに3人ほどいるようだ。


「…2人とも、こっちです…行きますよ」


 ウルは光魔法で灯を作ると、目的の場所へ歩いて行く。


 曲がり角を抜けると突然ナイフが飛んできた。


 そのまま手甲で叩き落とすと、今度は大剣が振り下ろされてきた。


 振り下ろしてきたのは獅子の獣人だった。


「っ!!」


 破軍を取り出そうにも、その余裕もなければ、振り回せるほどの広さもない。


 獣人の手を受け止めてその攻撃を止めたが、身体強化でも使っていたのか、ウルの膝が震えている。

「…何者だ貴様、何故ここが分かったっ!?」


「と、父さん落ち着いて!!

 僕です、リオンです!!」


 慌ててリオンが止めに入って、ようやく落ち着いたのか、深呼吸しながら状況を把握し始める。


「…む、リオンではないか、よく戻ってきたな。

 ジュリーもいるではないか、よかったよかった!!

 …ところで、この者は誰だ?」


 それはこちらのセリフです。


「私は代行者、2ヶ月ほど前、神よりこの世界に派遣された魔人です」


 ウルはなるべく慎重に目の前の獣人に話をかけているが、リオンとジュリーが帰還したのが嬉しいのか、聞いていない。


「なんだリオン、以前より体を鍛えているようではないか。

 ジュリーもその魔力の充実ぶり、実に頼もしいぞ!!」


 ウルに対してはあまり信用が無いようで、睨んでくる。


 見た目がまるきり人間に見えるので、あまり信用されていないのかとウルは思ったのだが、単にこの場所へ外部の者が来ていることに対してあまり歓迎的ではないらしい。


 少し広い空間に案内されると、銀狐の獣人が2人いた。


「ジュリー、よかった、無事だったのね!!」


「お父さん、お母さん!!」


 ジュリーの両親の3人はどうやら感動の再会を迎えたようだったが、リオンの母はどこかにいるのかと聞いた。


「…母さんは…その」


「…すいません、聞かない方が良かったようですね」


 察したのか、ウルがリオンとその父親に謝るとリオンは曖昧な苦笑で済ませてくれた。


 席を進められてウルたちは座ったが、リオンの父からは尋問の様な趣でウルも少しため息をつく。


「…まずは、ここへ息子たちを連れてきたことに感謝を。

 我が名はエドワード・アン・シュトルンガルド。

 金獅子族の長をしている。

 こっちは銀狐族族長グリフィス・オブ・シュタッド、その妻のメアリーだ」


「娘を連れてきていただき感謝します、ありがとう」


 エドワードとメアリーがぎこちないが感謝の言葉を口にしている。


「…先ほども自己紹介しましたが、代行者のウル・シイハです。

 リオンとジュリーとはベルグリザードを追いかけられている所を偶然知り合いました」


 ウルはこれまでの経緯を簡潔に話した後でエドワードにどうやって生き延びたのか聞くと、足場の悪い場所までは大型が昇ってくることが出来なかったらしく、戦っていた大体が中位の歪くらいだったらしい。


 それでもその数は100を超えていたらしく、洞窟にいた15人は奮闘した結果、3人しか生き残ることが出来なかったらしい。


 死者の中には、黒豹族の獣人や、珍しい鳥人の獣人などいたらしい。


 リオンたちは知り合いが亡くなったのがやはり悲しいのか、顔を赤くしていた。


「それで…その神からの遣いが我らにどのようなことがあるのだ?

 我らはすでに国を歪に荒らされ、人間に食い物にされた弱小部族ぞ?

 隆盛を誇った200年前とは訳が違うのだ、今更何を…?」


 エドワードが訝しむような表情をするが、ウルとしてももっともな話だと思った。


 既に獣人の国は人間国家アヴァロンが治めてしまっている。


 そのほとんどは奴隷として財産扱いされていて、酷い扱いを受けていると後の報告でウルも知っていた。


 エドワードも口惜しそうな様子だが、戦力というものが全くない状況で、国を相手にするというのは自殺行為とも言えた。


 何故エドワードが教会に助けを求めなかったのは、現在アヴァロンにいるトリューマン


 大司教がアヴァロンに対して厳格な態度を示せていないことを上げた。


 ウルもその人物についての情報を聞いており、教皇ヨハンと会った際に、ある手紙を受け取っていた。


 手紙ひとつで世界に激震を起こすほどの強大な兵器がそこにある。


 ウルは手紙の内容を写していた紙をエドワードたちに渡すと、内容を読んですぐにゾッとするような表情をした。


「…本当に、これをするつもりなのか?」


「断言しますが、私は人間族を犠牲にしてでも、獣人族を救いますよ?

 この世界の未曽有の危機を救うには、私1人では少しどころかかなり時間がかかります。

 それを短縮に、且つ犠牲者を減らすには、あなたたち獣人族を救い、歪をその身に囲っている妖精族を救い、エルフ族と魔人族と手を取り合ってかつての連合を作っていただきたいのです。

 教皇は今のアヴァロンの王は奴隷に対して反対の姿勢を取っているといっていましたが、情勢を見る限り、奴隷推進派の勢力は強大です。

 今の王ではらちが明かないでしょう」


 教皇ヨハンはウルに人間族を滅ぼすのだけはやめてくれ、と諌言を入れてウルもそれを聞き入れた。


 しかし、最も効率の良い勝利法はやはりそれなのである。


「…しかし、人間族にまだ理性が働いているのなら、この手紙を使えばどうにかなるかもしれないのです。

 これなら、少しの犠牲で獣人族を奴隷という悪夢から解放できるはずです。

 しかも、国も戻ってきます…如何ですか、この案は?」


 力尽くというのはあまり好ましくないのはウルにも分かっていた。


 しかし、現在のアヴァロンの行為が目に余るのは確かで、戦力という理由を抜きにしても、助けたいという気持ちは強かった。


 その為に、ヨハンやアドルフにこの手紙を書かせたのである。


 エドワードたちは少し考えさせてほしいと言って今日の会合は解散となった。


 すぐに飛びつくと思っていたウルだったが、やはり警戒されているのかと思い少し落胆するのだった。


「…リオン、ジュリー、すいませんが今日私の寝る場所を貸してほしいのですが」


「あ、はい、じゃあ僕の部屋を使ってください。

 昔使っていたベッドが1つ余っているんです」


 ベッドまで案内されると、疲れたのか鎧を脱いで簡易的な寝間着に着替えると、そのまま寝そべる形で倒れ込んだ。


 リオンとジュリーもそれぞれの部屋に戻っていき、今日の疲れを癒すためにすぐさま寝に入っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…どう思う、我はこの案には載ってもよいと思うのだが」


 エドワードが重い口を開くと、意見を聞きたいと2人の銀狐に耳を傾けた。


「…そうだな、俺も賛成だ。

 あの手紙があれば、必要最低限の犠牲で片が付くだろう。

 しかし…その後が問題だ、国が戻ってもその再興に知恵者が多くいるだろう。

 国は取り返してもずっと荒れ放題であれば、せっかく取り戻した国は今度こそ歪に滅ぼされてしまうだろう」


 メアリーもその意見に賛成のようで、国を盛り上げるための人材を集めることが急務といえた。


「…神の威を借るのはこの際仕方あるまい、歪という未曽有の危機に、我らは一刻も早く団結しなくてはならない。

 その為に、多くの血が流れようと、我らは乗り越えなければならないのだ。

 幸いにして、神の代行者を名乗る少年は過激ではあるが我ら獣人を想ってくれている。

 …救ってくれた後は我らの仕事だ、彼の少年にいう事ではない」


 2人は頷くと、エドワードが席を立った。


 真夜中の最高会議は幕を閉じ、大人たちは酒を軽く飲んでベッドに入っていった。


読んでいただきありがとうございます。

はい、少し本編を進めていくので、戦闘パートは飛ばします。

なんとビックリ、パパ達生きてました。

書くまでご両親を一体どうしようかと頭をひねりましたが、やはり大人は必要ということで。

次回で1章は終わり、物語は第2章へ。

次回『契約とさようなら教国』です。

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