第012話 天神の思惑
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
デュケイン様との過去話はこれまでです。
ちょっと気分がよいので、一日早く、1時間ほど遅れていますが投稿してみました。
「ウルはさあ、なんで自分が選ばれたのか知りたくない?」
お暇なデュケイン様は時間が有り余っているせいか、よく話しかけられてきます。
「…私は別に選民思想などもっていませんが?」
選ばれたのは確かですが、それで勘違いできるほど頭悪くありませんしねえ。
「普通のバカはそこで落ち着くんだけど、ウルはそういうあたり冷静だよね。
っていうか冷めてるのかな?」
「…熱いか冷たいかと言われれば、冷たいのかもしれないですね」
これまで生きていた生活というものが一般家庭からすれば想像を絶するレベルでしたし、生きていくためには頭を全力で使わなければならない環境だったことは認めます。
「私にとって、他人を分ける時は敵か味方の二種類にしか分けられませんでしたから。
…接してくる相手が一体どういう思惑で近づいているのか、そんな下らないことで頭は一杯でしたね」
「けどさ、その過去が無かったらとお様と会えなかったっていうのもまた事実でしょ?
過去から学んだことを未来に生かしてこその人生だっていう事は、とお様から口を酸っぱくして言われてきたんじゃない?」
辛い人生を歩んだ者こそ本当に他人に優しくなれるんじゃないかな、とデュケイン様が笑ってくれました。
「…そうですね」
マスターや目の前にいるデュケイン様、そしてたった一人の友のお陰で、胸につっかえていたもやが取り払われて、最近は気分が良いです。
…昔は寝ても起きても疲れが残るような生き方でしたから。
「…ウルはもっと笑うといいよ、せっかくかわいい顔してるんだもん、笑わなきゃ損だよ。
ていうか、ここに来て一度も笑ったことないから笑え」
「無茶言いますね!!
第一笑えなかったのは訓練がきつ過ぎて笑う余裕もなかったのがげんい…」
「僕の命令は?」
満点の笑顔で暴君が出現しました、返事は一種類しかありません。
「…絶対です」
あちらの世界へ行くまで、鏡を使って笑顔の練習をしていたのは秘密です。
成果としては、ぎこちなさは残るが印象的、との評価を頂きました。
これは良いのか悪いのか…判断に困りますね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…大至急幹部を呼びだしてくれ、緊急だっ!!」
ブリンドたちがヘルツィカイトに着くと、ギルド本部にいる幹部を呼びだすように伝えた。
3階から慌てて1人の幹部が降りてきて、事情を聴いた。
ブリンドが森の近くで起きていたことを説明すると、ベルグリザードを討伐するためにギルドは緊急依頼を掲示板に張り出し、茶以上の冒険者を急遽募集した。
中堅冒険者である緑では、ベルグリザードを討伐するのにはまだ難しい。
しかし、上位に位置している冒険者たちはそれぞれ各国に散らばっており、教国にいる上位冒険者たちも依頼に出てしまっていたのである。
「今はウルの奴が抑えてるんだ、いくらあいつでも上位はまだヤバすぎる!!
人数が集まり次第馬車で出発するぞっ!!」
青年と少女の獣人たちは保護という形でギルド本部で身柄を預けられるようだった。
一部の幹部たちは二人の獣人に興味津々のようであったが、ブリンドには相棒を急いで助けに行かなくてはならない理由があったので、構っていられなかった。
かろうじて赤の冒険者が3人ほど帰ってきており、他の冒険者たちも腕利きが揃ったことから、戦力は整ったようである。
馬車に急いで乗り込むと、門へ一直線に走りだしていくと、ブリンドの目の前で信じられない者がいた。
今頃ベルグリザードと死闘をしているだろう相棒が、何故か門の検問にいたのだから。
「…おや、先輩じゃありませんか。
獣人の2人はギルドの方へ置いてきたんですか?」
ブリンドに気付いたのか、門を潜り抜けたウルと目が合って第一声がこれだった。
他の冒険者たちは、どういう事かと口々に出していたが、ブリンドは馬車から降りるとウルの身体をべたべたと触り始めた。
「…何をしているので先輩?
公共の場で変態行為に及ばないでほしいのですが…」
わざとからかう様な言動をとったウルなのだが、ブリンドはそのまま無視して鎧の節々や露出している首や顔の部分を触って怪我がないのか確認を取っていた。
…獣人の手は軟らかいですねえ、肉球効果で癒されます、男ですが。
満足したのか、何故か考え込むように腕を組んでムスッとしているブリンドに、ウルは馬車にいる冒険者たちに何があったのか聞いてみた。
どうやら先程までウルが闘っているだろうベルグリザードを討伐するためにギルドで緊急依頼が張り出されたらしいということを聞くと、倒したので解散してくださいと簡潔に答えた。
「ベルグリザードは再生不可能な魔法で殺しきったので、行く必要はありません。
お騒がせしてスイマセンデシタ先輩方」
心配してこれだけの人数が集まったということに、一言礼をとったウルだったのだが、一部の冒険者はウルを変なモノを見るようにして帰っていく。
赤の冒険者がどうやって倒したか聞いてきたのだが、魔法で倒したと大雑把に答えてあしらった。
魔法というのは個々の特性によって発揮される物が多くを占めており、魔法使いは自らの特性を研究しながら新しい魔法を作るのに必死なのである。
教えてしまって悪用されても困る上に、基本的に魔法使いにとっては自らの魔法は秘中の秘でもある。
答える訳にもいかなかった。
冒険者は納得していないようだったが、上位歪を1人で倒せる実力者に無理に聞き出そうという気はないようで、宿屋の方へ帰っていく。
立ち止まっているブリンドがようやく動き出してウルの目の前にやってきた。
「先輩、依頼者の場所に行きましょう。
討伐した歪たちを見せて、特別報酬貰って酒場で飲み会するんでしょう?」
じっと見てくるブリンドが何を考えているのか分からないので、モノクルを取り出そうとバッグへ手を入れた時、ブリンドがようやく口を開いた。
「こ…」
「こ?」
一体なんだという、不思議そうな顔をしたウルの顔は、ブリンドが一体何を言いたいのか全く理解していない表情をしていた。
「こんの、大バカヤロウがっ!!」
殺気や悪意の類の一切無い一撃がウルの頭上に落ちた。
獣人の手加減なしのゲンコツを喰らった所為か、ウルの意識が一瞬で飛びかけたのだが、寸でのところで意識を保っていたが、足元がふらついていた。
周りにいた警備兵が何事かと思い集まってきたのだが、すぐに異常なしと判断して遠ざかっていく。
「あれほど無茶するなって言っただろうがこのバカ!!
上位歪はとんでもない位の再生能力を持っている奴がゴロゴロしてやがるんだ。
だから冒険者は上位歪にはチームを組んで時間をかけて倒すのがセオリーなんだよ。
その方が安全だし、時間はかかるが確実に狩れるんだからな!!」
説教を受けているウルだが、受けたゲンコツの所為か耳に入って来ていないようだ。
既にコブが出来ている部分に治癒魔法をかけると、恨めしそうにブリンドを睨んだ。
「いたたたた、まったく、いきなり殴るなんて酷いですよ先輩。
っていうか、私は別に無茶してませんし、特に怪我なんてしてません。
ちょっと頬に血が付いてしまいましたが、すぐに魔法で治しました」
というか、再生能力の事についてだけ教えてませんでしたねこの野郎。
知っているなら教えてくれたらよかったのに…。
ウルはブリンドをじとりと見つめると、説教は再度再開された。
「お前の実力があるのは分かったがな、お前が今回とった作戦は本来だったら無茶も良い所なんだぞ?
ベルグリザードはその凶暴性と再生能力は上位冒険者でも手を焼くほどで、1人で相手どるなんて普通はありえないんだよ、それをお前ときたら…」
それからくどくどと説教が続いていき、いつの間にか生活態度についての説教も追加されて、まるで口うるさい母親のようだった。
満足したのか、説教が終わるともう一度怪我とかしてないのかと心配してくるブリンドに、ウルはゲンコツが今日一番痛かったですねと苦笑しながら答える。
からかわれたブリンドは呆れながらもウルに怪我がなくてよかったと安堵して、依頼者のいる場所に向かっていった。
依頼を出したのは教国の騎士団の様で、思わずウルがブリンドに換金部位を渡して1人でギルドで待っておくといったのだが、上位歪の事についても報告しなければならない以上、そういう訳にもいかなかったようだった。
辿り着いた場所は教会が唯一保有している騎士団の本部らしく、ここにも門番がいた。
「ギルドで依頼を受けたもんだ、依頼してきた歪討伐の件を完了したので依頼者と面会させてくれ」
門番の1人にブリンドがつっけんどんに言うと、きびきびした態度で門番が返事をして早足で入っていく。
数分後、門番と共に現れた案内役の少年を先頭に依頼者の元へ向かった。
ウルは騎士団の誰かと鉢合わせしないかと思っていたのだが、通路ですれ違う騎士たちはこちらに見向きもしないようで、どうやら冒険者たちに構っている暇は無い様子であった。
「あんまりきょろきょろすんなよ?
騎士団の連中はプライド高い連中ばっかだからな、俺ら冒険者みたいな野蛮な連中とは水と油の関係なんだよ」
ブリンドが小声でウルに伝えたのだが、案内役の少年には聞こえていたようで、ちらっと振り返るとものすごい形相で睨んできた。
…先輩、わざとらしいですよ。
金次第で何でもする冒険者と違い、民を守るという崇高な使命を持っている騎士たちとは信念の在り方が冒険者たちと違うのだろうとウルは思ったのだが、冒険者たちも結果的には歪を倒すという事で民を守ってきた実績もあるのに、どうして仲が悪いのか分からなかった。
騎士団の騎士たちの構成は、平民も多いのだが、各国の貴族の子弟たちもまた多く、跡を継げない次男や三男たちがその多くを占めていた。
騎士団内部で派閥が出来たりしており、表立って騒動を起こさないものの、貴族気分の抜けきらない居丈高な騎士たちに教会の上層部も頭を悩ましているようである。
依頼者の部屋の前に着いたのか、少年が数回ノックする。
「…団長、冒険者の方々をお連れしました」
「ああ、入ってくれ」
落ち着いた答えが返ってきた。
少年は扉を開けてウルとブリンドに入るよう指示する。
別に指示しなくても入るのに、と2人は思ったのだが一々相手にするのも面倒なのでそのまま従った。
「ようこそ冒険者殿、俺が今回依頼を出した第二騎士団団長のファレル…だ…っ!?」
おや、誰かと思えば初めて会った時に前に立ち塞がってきた騎士じゃありませんか。
突然の代行者の登場に不意を打たれたのか、ファレルと名乗った男の動きが固まってしまった。
案内役の少年は何かあったのかとウルたちとファレルを交互に見ると、原因をこちらの所為だと判断して前と同じく睨みつけてくる。
「ああ、依頼されてきた歪の討伐依頼を完了したので、確認してもらいたい」
相手にするのも面倒なのか、ファレルと少年を無視して、ブリンドがウルにバッグから袋を出すように指示した。
「はい、こちらです団長さん」
バッグから予想以上の量を内包した袋が出てきたことにファレルと少年は驚いていたが、2人とも無視してさっさと数えろとばかりにじと目である。
ウルの目が合った所為か、慌てながら討伐していった部位を数えていくファレルは、間違いがあってはならないのか少年に紙と書くものを渡すと正確に作業を進めていった。
「…158体…ですね、これほどの数を討伐してきていただけるとは思いませんでしたよ…そちらの名前を伺いたいのですが、よろしいですかな?」
突然敬語になったことに不信感を覚えたブリンドだったが、それより気になったのはなぜか増えている討伐数である。
実は、ウルがベルグリザードを倒してからの帰り道でさらに増えているのを、ウルはブリンドに報告するのを忘れていたのだ。
小声でそう伝えると、ブリンドは敬語の事に関しては納得していないが、特に何も言わないことにしたのだった。
「俺の名はブリンド、冒険者ランクは茶色だ。
こっちは新米だが俺と同じランクのウルだ。
あとここらに帰るときにアクシデントが起きてな、それも追加で報告しておきたい」
ブリンドは手短に獣人の2人が上位歪に追われてきていて、更にウルが単独で撃破したことを伝えると、2人が驚いてウルを見つめていた。
獣人に詳しい経緯を聞きたいとファレルが申し出てきたが、本人たち次第だとブリンドが伝えた。
ファレルはウルの名前が分かっただけでもよしとしたのか、丁寧に挨拶すると帰りに係りの者が討伐証明書と依頼料、そして特別賞与の入った袋を手渡してくれた。
本当ならば、その実力を見込まれてスカウトなどされるのだろうとブリンドは踏んでいたのだが、ファレルの緊張具合から、どうもウルと教会側で何か衝突があったのかと、軽く推察してみるのだった。
「それじゃあ俺たちはこれで失礼する、ウル行くぞ」
ファレルが一瞬目を見開いたことには気づいていたが、ブリンドはその行動が一体何を意味しているのか、とりあえず記憶しておくことにした。
「あ、あのっ!!」
ファレルが扉を閉めようとした際にウルを呼び止めたが、ウルはにやりと笑って人差し指を口元に当てる仕草をした。
誰でもわかるジェスチャーで、要は“黙っていろ”と言われたのである。
閉じられた扉をぼうっと見つめるファレルに、少年があの冒険者が何者なのかと聞いてみると、出て行けとぴしゃりといわれて慌てて出て行くのだった。
ギルドに帰った2人は、保護しておいた獣人2人に話を聞くために飲み会がてら夜の街に乗り出すのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あの…失礼してもいいですか?」
ノックもせずに扉が開け放たれる。
ファレルなら普段は怒鳴ってでもノックからやり直しをさせるのだろうが、相手が相手だった。
「きょ、教皇猊下っ!!
教皇庁から御出になっているとは存じておりません、何かございましたか?」
現れた少女はヨハンだった。
警護の者を撒いたのか、教皇庁は今頃てんてこまいであろう。
「…こちらに、代行者様の力を感じたのですが…どうやら帰られてしまったようですね」
しゅんとうなだれたヨハンに、ファレルは先ほど件の代行者の名前が判明したことを伝えた。
歪を単身で40体近くを討伐する実力は既に報告が上がって来ていたが、上位歪も1人で倒せるという事を伝えると、ヨハンの機嫌はあっという間に天井を突き破るほどになる。
「さすがは代行者様ですね…ウル様ですか。
私たちとも将来的にもっと仲良くなって、お互いに名前で呼び合えるような関係になりたいものですね…」
「そうでございますね、良好な関係になればともに戦場を駆ける事もあるかもしれませんしな」
ヨハンの考えとファレルの考えにいささか差異があったことは、内心ファレルも分かっているようで、余計な口出しをしようとは思わなかった。
護衛の騎士が騎士団本部へやってきたのはそれから数分後の事で、機嫌の良くなったヨハンは上機嫌で騎士団本部をあとにした。
ファレルは、教皇の考える将来的な関係に一抹の不安を抱えながら、予想以上の出費となってしまった討伐依頼の特別報酬の予算の補填をどうすればよいのか。
管理職になって現場以外の事にも目を向けないと思うと、正騎士の頃はよかったと、年甲斐もなく考え耽るのだった。
読んでいただきありがとうございます。
今回からは少し戦闘から離れて、いろいろお話をすることに。
協会とギルドは別に仲悪くはないんですが、騎士団の方ではちょっと関係が微妙なようで…何やらプンプンしますな。
次回予告というものを考えてみました。
次回『金獅子の思い 銀狐の想い』です
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