第011話 勇者じゃありません代行者です
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ウルがベルグリザードと戦おうとしている所を、送り出したデュケインはベッドで寝転がりながら観戦していた。
「…威嚇してる姿が笑えるんだけど…しかもウルは僕が適当に考えたキメ台詞使ってるし…真面目に考えてあげればよかったかなあ」
戦いを始めたウルを見ながらも、特に心配する素振りを見せていないデュケインは、退屈だと呟きながら鏡から目を離した。
「あーあ、退屈だし誰か暇潰しで遊びに来ればいいんだけど…三千世界だと、とお様のいる世界の方がみんな面白いだろうからなぁ」
そう溜息をつきながら、デュケインは自らが鍛えた少年の戦いぶりをじっくりと観戦するのだった。
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ウルは自らの肉体の状態を確認した。
身体の関節から五感、精神状態に至るまで万全だと自覚すると、目の前にいるベルグリザードの対処をもう一度確認した。
毒性の強い生物で、体格に見合った体力と歪特有の凶暴性、凶悪性も特にその眼光の禍々しさが物語っている。
観察を終わらせるとウルは確信した。
「ちょろいですね、頭悪そうだし楽勝です」
この世界に来てから初めて笑った。
そう、安堵したのである。
この世界に来てから、ウルが内心で抱えていた答えが一つ解けたのだ。
“ああ、私は神王様の期待に応えられるのでしょうか”
そして目の前に『答』が現れた。
笑ってしまった。
ふふ、この程度が上位だなんて片腹痛い。
これなら、デュケイン様の訓練用岩石魔人の方が100倍は強いです。
白い空間で見ているだろうデュケインの期待にも応えるためにも、ウルはベルグリザードを完膚なきまでに倒すことに決めた。
「まあ、誰も見ていませんしちょっと位は魔法の実験もしながらやってみますか。
且つ、実戦に使えるような魔法をここでいくつか作っておくのもアリですかね」
破軍を肩に担ぐようにして持つと、先手を打つためにベルグリザードの視界を探ることに決めた。
二足歩行の上、エリマキトカゲのような特徴を持っているベルグリザードの視界は、おそらくは首から後ろは視界など見えないはずである。
ウルはベルグリザードがどのような戦法をとってくるのかを、第一印象だけでなく慎重に見極めることにしたのである。
強靭なトゲ付の尻尾を持つベルグリザードだが、その尻尾を支えにして立っているのに気付いたウルは、尻尾からの一撃がギリギリ届かない距離を保っている。
視界からいなくなったウルに、ベルグリザードは強靭な尻尾で広範囲に薙いだ。
それと同時に、ベルグリザードの前足が地に付く。
ウルは尻尾が自らの身体を傷つけないことは分かっていたが、念のためにと思い更に距離を離して余裕の状態で避けた。
前足と後ろ足を地に付けると、ベルグリザードは雄叫びを上げ、どたばたと足音を立ててウルがいるだろう方向へ向きを変えようとする。
ウルは再度死角のある場所に向かい、揺らめいている尻尾に注意しながら尻尾の付け根と右後ろ足の間に入った。
ベルグリザードが尻尾で横薙ぎにした際、どうしても空いてしまう空間にすかさず間合いを詰める。
ウルはベルグリザードが動かないうちに破軍を振り上げ膝に振り下ろした。
難なく膝を切断したウルは悲鳴を上げるベルグリザードに、今度は尻尾の付け根を斬り飛ばすために再度振り上げた。
しかし、破軍を下ろそうとした時、視界の端にありえないものが映る。
切断したはずの右後ろ足が、なぜか元通りになっているのである。
何事かと思い、距離を取って状況を整理しようとしたのだが、ベルグリザードと目が合ってしまった。
禍々しい憎悪の視線がウルを突き刺すのだが、視線では殺せない。
ベルグリザードはその大きな口を開くと、黒い霧をウルに目掛けて吐いてきた。
ブリンドから聞いていた情報では、この霧がベルグリザードの武器である毒の霧なのであろう。
更に距離をとらざるをえなくなったウルは、楽勝だと思っていた相手に不意の一手を打たれたことに歯噛みした。
だが、その表情に焦りはなく、ただ単に想定していた状況から外れてしまったことが気に喰わなかっただけであった。
距離をとったことで慎重にベルグリザードの毒霧の効果範囲とその毒性について分かったこともあり、攻略の糸口になったのだが、一番の問題が控えていた。
「……腐食系の毒ですか、大地まで腐食させるとは、さすがに上位歪といった所ですか。
当たらなければ問題ありませんが、一番厄介なのはあの再生速度ですか。
まあ、魔法の大火力で再生不可能なまでの致命傷を負わせれば対処としては十分でしょう」
まさに爬虫類というべきなのか、切断された部位を高速再生できるというのは確かに驚異的である。
トカゲのしっぽ切りならぬ足切りをしてみせたベルグリザードは、強力な毒をもつという武器を更に加味して、確かに上位歪であるという事を自覚させれた。
しかし、何よりウルが許せなかったことは、ベルグリザードが毒霧を吐いてから一瞬だが醜いその顔で笑ったように感じられたからだ。
弱者をいたぶることに快楽を得ているような、そんな下種の顔をしていた。
「歪もそこらの下種と変わらないという事ですか、これが済んでもまだ色々と問題があるのに…ストレスが溜まるじゃないですか」
破軍をバッグにしまうと、再び二足歩行になったベルグリザードが奇声を上げながら向かってきた。
優位だと思ったのか、勝利を確信したかのような昂揚感のある雄叫びだったが、ウルからすれば視界に映る醜悪な暴走族が奇声を上げて向かっているようにしか見えて、不快でしかなかった。
『刃向かう愚者に静謐なる青の檻を ウィレゼトゥン!!』
ベルグリザードを囲むように氷の檻が出現した。
足止めをしていた時のように中途半端な魔法ではなく、対象を自由という自由を奪い尽くす特注の檻である。
囲い込んだ氷の檻は氷の枝を生やすと、ベルグリザードの身動きを容赦無く奪っていく。
前足後ろ足を氷の枝が突き刺し地面に根を張り、毒霧を吐く口も雑ではあるが強引に縫い合わして塞いでいた。
「『王国』を『基礎』に移行、次いで『知識』と同期…デュケイン様風に言う所の、『スペシャルな魔法』とやらを御見舞いして差し上げましょう、感謝するといい爬虫類」
ベルグリザードが恨みがましくウルを射殺すような眼で見るが、やはり視線では誰も殺すことはできなかった。
ウルはデュケインから10段階のリミッターが付けられているのだが、デュケインはリミッターを付けた後に肝心な魔力の問題を忘れていたのである。
10段階のリミッターというのは、ウルの規格外の身体性能を抑え込むというものであり、魔力側のリミッターは本来別物であるべきなのだ。
デュケインは迷った末に、魔力に関してはリミッターを1つしか付けなかった。
別に面倒だからという理由ではなく、魔法に関してはウルが落ちついていれば暴発などという大惨事などは起きないからである。
デュケインが鍛えたウルは、近接戦と魔法による多彩な戦法を基本としていたが、こと魔法一択の戦法をとれば、精密で強力な魔法で敵を蹂躙する戦略級兵器であるのだ。
満足に声を上げる事すら敵わなくなったベルグリザードにウルがもう一つの魔法を使う。
本来は補助としていた闇魔法を攻撃に特化運用した魔法は、『知識』によって本来の魔法の火力を取り戻したその一端は、魔力にモノを言わせたいわば精密な暴力の嵐であった。
『影によりて闇に狩られろ デンシャトゥン』
ベルグリザードの影が蠢く。
闇魔法の系統の一つである影を操る魔法がベルグリザードの肉体に対して慈悲なき蹂躙を開始した。
影が自らの身体をまるで紙を切り裂くかのように、ベルグリザードの四肢を、肉体を、尻尾を、蹂躙し続ける。
再生出来ないほどの大火力の魔法を使えばよかったのだろうが、周りにはまだ毒霧によって腐食していない森がある。
デュケインとの約束の1つである、魔法による環境破壊を律儀に守るために、こうして地味ではあるが確実な方法でベルグリザードはこれ以上ないほどに処理された。
飛び散った血も毒性があったのか、細切れにしていく最中でウルの頬に返り血が付き、ウルの頬に炎症が起きていた。
少量の毒でも致死に至る毒ではあったが、ウルには肌荒れ程度の被害しか起きていなかった。
目の前で特大のミキサーで盛大にたたきにされたベルグリザードに対して、治癒魔法をかけて頬の怪我を治すウルは再生するか5分ほどじっと見つめていた。
再生しないと分かると毒霧によって腐食した大地に念のために苦手ではあるが光魔法の1つ『浄化』を使って毒を祓った。
毒が祓われると、腐食していた毒々しい大地から太陽の温かみのある大地に戻った。
ベルグリザードに対してウルが思ったことといえば、たった一言。
「やっぱり、ちょろかったですね」
やり方が少々神の代行者の在り方としてどうかと思ってしまいましたが(闇魔法でトドメって何とも)、まあ、別に勇者ではなくて代行者ですし、王道的勝利は別に必要ありません。
声を上げることもなく静かに処刑されたベルグリザードのなれの果てをそのまま放っておくと、黒い影がベルグリザードから抜け出し、消失していった。
破軍で斬っていないのにも拘らず浄化したのかといえば簡単な理由で、ウルの魔法自体にも歪や女神に対しても破軍同様の力が込められていたのである。
黒い霧が消えたのを見るに、どうやら完全に歪を滅ぼせたようであった。
「…さて、更に追加で何かがやってくるような気配もありませんし、帰るとしますか」
リミッターを付け直すと、軽く背伸びをして首都に向かって歩いていく。
換金部位などの事を考えずに滅ぼしたウルは、帰路の際に思わず溜息をつくのであった。
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「…え~ただいまの試合、ウル選手の魔法攻撃によってトカゲがミンチにされたので、勝者ウルっ!!
………はぁ、1人でやっててなんか寂しくなってきた」
1人で遊べる遊びって結構限られてるから困るんだよねホント。
鏡越しで見た感じ、特にウルの勝利に不安定要素は見受けられなかったし。
突然斬ったはずの足がいきなり再生しても、冷静に対処できている辺りは加点対象だね。
そしてそれを鍛えた僕ってやっぱさすがだね!!
「っていうかウル怖い子っ!!
あんな地味チックでスプラッタな映像見せられる僕の身にもなって欲しいよもう」
あんなの漫画にしたって規制入っちゃうし、映像化なんてしたら年齢制限かかるうえに、見たら見たで一部の奴らはトラウマ確定じゃん。
魔法による環境破壊を忠告していた記憶は、既に無いようだった。
「…まあ、女神もあんなザコ程度で代行者が倒せるなんて思っていないだろう。
ギリギリ駒と呼べそうな歩兵を適当に選んで送ったといった感じか」
何もない空間からチェスと将棋の駒、更には既定のマス目を越えた盤が現れると、適当に駒配分をするデュケイン。
デュケイン側の駒はたった2つしかなく、相手側のマスにはこれでもかというくらいに大量の駒が配置されていた。
「キタキタ、和洋折衷ボードゲーム!!
実質駒はウルしかない上、キングは世界。
それに対して、相手側はバランスブレーカーな感じの反則的量を備えたヘボ軍隊…だけど、それでもこの勝負は僕の勝ちだ」
相手側の歩兵が1体粉々に砕け散る。
「バランスブレーカーなのはこっちも同じ、量に対してこっちは質、しかもウルに教え込んだ魔法はある意味戦力を増やせれるという利点もある…ウルが気づけばだけど」
付与という魔法、その応用に気付けばさらに快適に状況を攻略できるはず。
「…1人はつまらないなあ」
そうベットにダイブして不貞寝をするデュケインに、誰も答える者などいなかった。
読んでいただきありがとうございます。
なんと言いますか…はい、勝ちましたー。
ワオ、トカゲがスプラッタデス。
遠目で見ているデュケイン様は1人ボッチ状態なので本当にヒマそうですね。
誰か来てくれればよいのですが…。
ではでは、また次回まで。
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