第009話 一歩間違えたらこちらが魔王
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「…ふふ、どうやら無事に過ごしてるようだ、うんうん」
女神も気づいたことだろう、わざわざ代行者を派手に送ったことに。
最高の一手にして最悪の一手であろうあの存在は、良くも悪くも世界を廻す歯車に確かに組み込まれたのだから。
「まさかいきなり枷を外すような事態になるとは思わなかったけど、第5まではそれほど問題ないしいっか」
全力で戦闘されると土地があっという間に蒸発しちゃうし、周りの人間からしたら化物といわれるとあの子もへこむだろうし。
あー、本当に僕は優しいよねえ。
誰かの為に手取り足取り教えてあげるなんて、本当にいつ振りだろう。
「さてと、ウルの活躍を師匠である僕がしっかりと見ておかないと」
いつか再び会う時に、話のネタにできる位じっくりとね。
ごろごろと寝転がりながら、鏡越しから見えるウルのいる世界を、万能の魔神はただ見物しているのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
見つけた歪を破軍で斬り伏せたウルを、ブリンドが口笛を吹きながら賞賛していた。
「すげえ斬れ味だなそれ、見てるこっちがブルっちまいそうだぜ」
「…心配しなくても、この刃では人を斬ることは叶いません。
これで斬れるのは歪と生きていない無機物限定です。
先輩に斬りかかっても、毛一本も傷つけることはありませんよ」
「さり気にこええ事いうんじゃねえよっと!!」
大剣で襲い掛かってきた歪を真っ二つにするブリンドに、破軍の一撃に耐えられたその大剣の方が脅威だとぼやいてみせた。
「こいつは昔遺跡で見つけた一品でな、なんでも巷じゃあ『神の落とし物』って言われてる奴だ。
現存しているのはこの大剣と、アヴァロンにあるって言われてる槍の二本だそうだぜ?
むしろそっちの武器の方が驚きだ、刃毀れ一つもしてねえなんて…ちょっと自信無くすぜ」
どうやらあの大剣はどこぞの神が落としたいわゆる『神器』というものらしく、その威力は綺麗に断ち切られた歪を見る限り驚異的な切れ味である。
落としたであろう神物(?)に心当たりがあったのか、一瞬動作が固まってしまったウルなのであった。
次第に集まってくる歪が多くなり始めたので、ウルがブリンドにここから少し離れるように伝えた。
「面倒なので、ここら一帯の歪を氷漬けにします」
「逃げといた方がいいか?」
「照準からは外すので大丈夫かと、急激に動かれない限り修正はギリギリまで利きます」
魔力次第でどうにかなる以上、魔法は便利であるとは言えるのだが、基本的便利とは程遠い技術である。
膨大な魔力があっても、それを制御するには多大な時間がかかってしまう。
才能のある者でさえ、一つの系統を極めるのに数十年以上かかるのに、七つ以上の属性を操るウルには誰よりも時間が必要とされていた。
その為に、ウルは一つの系統に絞って制御を徹底したのである。
他の系統に至っては、基礎程度の魔法しか使えず、実戦に使えるとは言い難い。
補助の為に『闇』も少しは訓練したが、実戦に使える機会が余り少ないといえた。
魔力に物を言わせて魔法を使うという手段はあるが、この手段を使った場合、環境破壊一直線の文字通りの焦土を生産し続けてしまうだろうことは目に見えていた。
『凍える氷河の大地 デスグレクションっ!!』
触媒にする水系統魔法を使っている暇もないので、生物の持っている『水分』を照準に向かって魔法を放ったウル。
生物にとっては触れれば死を意味する魔法はなったウルは、放った後も慎重に魔法を制御していた。
まだ戦闘をしているブリンドに向かって氷が進撃している以上、間違いで地に足のついている場所へ氷がふれてしまえば、彼の冒険者としての、戦士としての生命線を切ってしまう事にもなりかねないのだから。
周りを囲むように氷はブリンドに一定の距離を保ちながら辺りを侵食していく。
下位とはいえ巨体だった歪に氷が触れると、そこを起点にだんだんと凍らせていき、最終的にブリンドと戦っている歪はその一生を氷に閉ざされて終った。
「…えげつねえ魔法だなおい」
目の前で起きた光景にため息をつきながら、周りを見回す。
見渡す限り白一色。
生き物のいない静寂の世界が一面を覆っていて、まるで世界に切り取られているようだった。
「…しまいました、凍ってしまったら換金部位を切り落とせれません」
氷漬けにした歪を見て愕然としているウルに、ブリンドも近くにいた歪に触れてみる。
すると、力を込めていないのにも拘らず、触れた部分が崩れてしまった。
中身まで白くなってしまっていて、ウルの魔法の威力に呆れるばかりである。
「前みたいに戻せないのか?」
「さっき制御切っちゃいました…」
ブリンドと戦っていた歪が最後だったため、倒した後の事を考えていなかったのである。
「森の中を結構進んできてこれだからな、戻れば凍っていないのが残ってるだろう、それを切り取っておけばいいさ」
辺りにいる歪を倒し終わったのか、換金部位を切り落としながら辺りの気配に注意をしているブリンドに、ウルが駆け寄った。
「先輩、どうやらドバイ方面はあらかた倒しちゃったようですし、次はどこ行きます?」
「ウルは何体狩った?」
「まだ40体ほどでしょうか、まだかかりそうですね」
「俺もそれくらいだ、日も落ちるし今日はこの辺で止めておこう。
野宿できそうな場所を探しておくから、お前は薪でも探してくれ」
日がすでに傾いていて、もうすぐ夜がやってこようとしていた。
歪といえどやはり元は魔獣、更には獣であり、火というものには本能的に避ける傾向があるようだ。
交代で見張りをすることもあってか、探していくと小さい薪から太めの枝まで見つかって、バッグへ放り込んでいく。
十分な量を集めたと思ってブリンドを探していくと、少し開けた空間に辿り着いた。
近くには川があり、飲み水の確保もできる理想的な場所の様で、ブリンドがそこで魔法を使って薪に火をつけていた。
「おお来たか、さっさと飯食ったらお前は寝とけ。
時間になったら起こしてやる」
「まだ眠くないので、もう少し起きておきます。
それより暇なので、何かお話ししませんか?」
「自由だなおい」
「不自由ではありませんが、自由でもないですよ?」
言葉遊びが苦手なブリンドに、事あるごとに人をからかうウルはあまり相性の良い相手とは言えないだろう。
ブリンドはとりあえず、ウルに対して気になっていることを単刀直入に聞いてみた。
「お前の力、どこで鍛えたんだ?」
これだけの能力があって、これまで噂一つも聞かなかったっというのは、いくらなんでもおかしすぎる。
粗削りながら圧倒的な武術に、他の追随を許さない圧倒的な魔法は、ギルドで最高戦力といわれていたブリンドでも二の足を踏んでしまうほどである。
「…神様に鍛えてもらったんですよ」
相変わらずからかうような仕草で笑うので、また煙にまかれたの思ったのか、憮然とした表情で黙り込むブリンドに、今度はウルが聞いてくる。
「先輩って、おじいさんのこと嫌いなんですか?」
「……お前、直球だなあ」
直球過ぎて怒る気にもなれなかったのか、苦笑するブリンドが考え込むように焚火に薪を注ぎ足しながら答える。
「嫌いじゃない、ただ昔色々あってな。
謝罪もしてこっちもそれを許してる。
…が、それから話をあまりしていないんだ」
「昔っていうと、どんなことが?」
話が続いていき、次第に夜も更けてきた。
さすがに眠気もやってきたのか、ウルの瞬きの回数も増えていく。
「…そろそろ寝とけ、交代の時間になったら起こしてやる」
「…じゃあそうします、おやすみなさい先輩」
干し肉とパン、それに栄養価の高いリドの実をすり潰して作ったスープを食べて、バッグから枕を取り出してそのまま寝に入った。
すぐに寝息が聞こえてきて、余程疲れていたのか分からないが、鎧の息苦しさにも気づかずに寝ていることが見て取れた。
その様子を見て、交代しようにも起きそうにないと悟ったブリンドは、仕方なしに不寝番をする羽目になるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…お疲れウル、仕事の方はよくやってたぜ」
むしろブリンドのペースに付いて来れていたことに本人が驚いていた。
しかしやはりまだ子供という事なのか、妙な所で肩肘張っているのか無駄に疲れている様子もあった。
加減をまだ計りかねているのだろう、傭兵を始めた頃のブリンドもそうだったように、ウルも実戦経験というものがまだ足りていないのである。
2ヶ月あればウルの実力ならば簡単にこなして見せるだろう。
暇潰しにお互いのプライベートについても話したりと、今日一日だけでかなり近づけた気はしたのだが、どちらかというとブリンドの情報を一方的に流しているような気もした。
何を質問してもからかうように躱していき、ブリンドに質問してくる際には直球で訊ねてくる。
聞けなければ他の質問をしたりと、本当にヒマつぶしのようにどうでも良い事ばかり聞いてきたりもしていた。
「…はぁ、厄介な奴を指導することになったなぁ」
そうぼやきながらも、ウルの事が嫌いになれない辺りを考えて、ため息をつくブリンドなのであった。
読んでいただきありがとうございます。
戦闘パートはまだまだ続いていきます。
ブリンドさんの過去がちょっと垣間見えたりしましたねぇ…。
父親と一体どんな過去があったやら…そちらはまた次回ということで。
コメント、ご感想をお待ちしています。
ではでは、また次回。




