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死ねるかな
『死ねよ』
声が聞こえたような気がした。
嶺は操られたように体を起こし、そこに流れる川を見た。濁った水が、音をたてて走ってゆく。流れはかなり速そうだ。
ここに飛び込めば、死ねるかな。
嶺は虚ろな頭で、そんなことを考えていた。
サタンが僕を消しに来てくれるっていったけど、こっちのほうが早くていいな。まぁ、少し、苦しいかもしれないけど……
苦しさにはもう慣れてると、嶺は思ってゆるゆると立ち上がった。
川の淵までゆっくりと歩く。急ぐ必要などない。時間はいくらでもある。
嶺は川岸に立つと、深く息を吸い込んだ。
さよなら。もう未練はない。
嶺は勢いよく、川に飛び込んだ。
もちろん泳げはしない。もし泳げたとしても泳がない。
体が波に揉まれて、どんどん沈んでゆく。この川、意外と深かったんだなと、やけに冷静に思う嶺。
だんだんと意識が遠のいてくる。不思議なことに、苦しさは感じない。
嶺はふっと笑って。そして。
彼の記憶は、そこで途絶えた。