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願う
「お願いします。僕を、消してください」
そう言って、嶺は真剣なまなざしで、サタンを見つめる。
サタンはぞっとするような笑みを嶺に近づけた後、気味が悪いほど落ち着いた声で、言った。
「ええ、もちろん。お望みは必ず叶えます。ですが……」
「ですが?」
嶺はおそるおそる訊き返す。
「いつもの私でしたら、すぐにでも叶えて差し上げるのですが、生憎、今は忙しくて……この世から消すという仕事は一番手間がかかるのでね。私用が済んだら、すぐに叶えに参りますので、それまで、どうぞ、残された人生をお楽しみください」
サタンは皮肉まじりに言うと、また笑った。
「それでは」
魂は貴方が消える直前にいただきますと囁き、サタンは帰っていった。
時間感覚のない部屋。音のない空間。
嶺はその場に、呆然と立ち尽くしていた。