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陽だまりの砂時計

作者: 由樹

 私はなんとなく生きている。

やりたいこともないし人と付き合うのは面倒だから、部屋に引き込もっている。

 両親は仲良くて、よく二人で旅行に行くんだ。

私には関係のないこと。

だからあの人たちが私に無関心なのは有り難いし、それが自然だと思う。

 別に好きで閉じ籠っているわけじゃないよ。外に興味があったら出て行くもの。

 でも…ここにいると安心するのも事実。

誰も踏み込んでこない聖域だからね。

テレビを付ければ世間の動きも分かるし困ることなんてない。

 時々ニュース番組でニートなんかの話題になるとね、笑える。

最近まで自分がそうだって実感がなくて冷静に見ていたから余計に。

高校の籍は抜いたから、今の私はまさしくそれ。

引き込もっちゃってるから典型的だよね。

 テレビって便利だよ。

色んな番組あるから退屈しないし、時間も分かるし。

私の部屋にある時計と言ったら砂時計だけだから時間なんて分からないの。

父親にお土産でもらった白い貝と砂が混じったキレイな砂時計なんだよ。あの人はもう、忘れてるだろうけどさ。

 あ……、もう夕方なのにカーテン開け忘れてた。

小学生の声が聞こえるから、きっと下校時間なんだろうな。

子ども好きだよ。純粋で、時々憎たらしくて、まるであの日の白い風船みたい。 私は今も風船みたいにふわふわ漂って生きてるけど――一体何色なの?

「あぁー…」

 窓をそっと開けると、小学生の落胆した声が聞こえてきた。

「仕方ないわよ、翔ちゃん。またもらってあげるから諦めなさい」

「でも……あの家に引っ掛かってるから、ピンポンしようよ。取ってもらえるよ」

「こら、ワガママ言わないの。またもらってあげるって言ってるでしょ? 風船を離したのは翔ちゃんなんだからね」

 ママが持っててあげるって言ったでしょう、とお母さんらしき人は言い、男の子と手を繋ぎながら歩いていった。

 カラ…

 何の躊躇いもなくベランダへの戸を開ける。

「やだ…白い風船じゃん……」

 涙が出た。さっきの男の子が放してしまった風船が私の家に引っ掛かっていたなんて。

 私はまだ白い?あの日迷わず白を指差した頃と変わっていないかな…?

 涼やかな秋風に当たりながら、何年か前にお父さんにもらった砂時計を引っくり返す。

 『見てご覧。

人間はね、何か間違いを犯してしまってもこんな風にやり直せるんだよ』……にっこりと柔らかく笑うお父さんは、私にそんな素敵な言葉をくれていた。

 家族で遊びに行った時、目立たない白い風船を持ってはしゃぐ私に、『あのね、白は純粋なあまりどんな色にも染まってしまうのよ。

素直に受け入れてしまうから…。

だからママ達は、カオリが綺麗な色になるように支えて行くからね』という優しい言葉をくれたお母さん…。

 今二人は私をどう思ってる…? 嫌なことから逃げた、ただの弱虫な卑怯者だって思ってる…?

 今思えばそんなに辛いイジメじゃなかったかもしれない。

でも怖かったの…耐えられなかったの……。

 何度も言おうと思った。

でも言えないよ。

暖かく私を育ててくれたお父さんとお母さんに情けなくって言えなかったんだよ。

 戻れるかな?砂時計みたいにまたやり直せるの?

 私は挑戦してみたいよ。まだ自分は、真っ白だって思えるようになりたいよ…。

 空を見上げれば星が輝いている。

もうとっぷり日が暮れている。こんな綺麗な夜空忘れてたよ。

 もう逃げない。自分の愚かさや甘えに気付いたから。

 やりたいこと……本当はあるよ。

小学生の時からずっと、建築家になりたいと思ってる。

沢山の家族が幸せな家庭を築けるような、時には涙を乾かせるような…そんな家を作りたい。

「ただいまー」

 お父さんとお母さんの微かな声。

「おかえりなさい!」

 私は二年ぶりにこの言葉を言った。勢いよくベランダをとび出し、階段を降りる。

 そこには二人の顔がある…。少し老けたかな。

「ごめんなさい…っ」

 私は大泣きしてるけど、構わず続ける。

「私…っ、やり直したい……。大検目指して勉強したい…。やり直したい……」

 バカみたいに泣く私を見て、二人は微笑んだ。

いつかの陽だまりみたいなほっとする笑顔で。


『風船』『時計』『夜空』の三題噺の小説です。改行の場所が気に入らない箇所が多々ありますが、主人公が立ち直る話が好きなので書けて嬉しいです。 読んでくださって本当に有り難うございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 私という人物に共感が持てました。一人称の視点で素直に書かれていて読みやすく、良かったです。「白」という色がとても効果的に使われていますね。
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