力と風と死神と…
月曜日AM7:30
俺は秋風にたたき起こされ、学校へ行く準備をしていた。
いつもならもっと遅くまで寝ているのだが、実家は学校から遠いから急がねばならない。
朝食を3人でとり、着替え、準備が済むと一応母親のいる座敷に向かった。
「おはようございます、月見様。」
座敷の戸の前に立ち、中にいるであろう母さんに挨拶をする。
「ええ、おはよう雁来。」
「それでは、俺は学校に行ってきます。」
「来週を楽しみにしているわ。」
「失礼します。」
他愛のない会話だろう。
だが、母さんは決して「いってらっしゃい」とは言わない。
きっと俺はここ、燕去からは出て行けないという暗示なんだろう。
「お兄ちゃん。」
俺が玄関で靴を履いていると秋風が後ろから声をかけてきた。
「ん?」
「一緒に学校いかないの?」
「あー、行くか?」
「うん、ちょっとまってて。」
秋風はにっこり笑い、かばんを取りに部屋まで戻っていった。
「雁来、もう行くのか?」
秋風と入れ違いで父さんが来た。
「うん、これでもギリギリ。父さんも仕事は?」
「今日の午後からイギリスに行くよ。」
父さんは外交系の仕事のため、海外へ行くことが多い。
「ふーん。」
「雁来、月見さんが苦手なのは分かっているが、たまには帰ってきてやってくれよ。」
「…秋風のために?」
「…ああ。」
父さんは悲しそうな顔をした。
秋風と母さんが二人でこの家にいるというのが父さんとしては嫌なのだろう。
「やっぱり、俺がいなくても母さんは変わらないのか?」
「うん…そうだね。」
母さん、月見は俺と秋風を平等には愛せない。
これは俺が小さい頃から分かっていた。
葉月の契約者として自分に似て生まれてきた俺と、父親に似て生まれてきた秋風。
もともと燕去は能力が全てだ。
だからだろう…
俺と秋風を比べ、秋風を虐げる。
せめて父さんが俺を虐げ、秋風だけを愛してくれれば良かったのに、そんなことを小さいときは思っていた。
だが、この人、木染壮は俺も秋風も同様に愛している。
それは、もう俺から見ても親ばかとしか言いようのないぐらい。
父さんは、秋風が母さんからもらえない愛の分を俺から与えてほしい、そう思っている。
だが、俺たちは外で仲良くすることを月見に禁止されている。
だから、俺に家にいてほしいと願っているのだろう。
「来週、友達を連れて帰ってくるよ。」
「彼女じゃなくて友達なのか?」
父さんは冷やかすように言う。
「友達だよ。」
「お兄ちゃんお待たせ。」
秋月が身支度を整え戻ってきた。
「じゃあ、行くか。父さん行ってくるよ。」
「ああ、雁来、秋風行ってらっしゃい。」
「「行ってきます。」」
「お兄…燕去君はさ、仲春さんのことどう思ってるの?」
登校途中、秋風が聞いてくる。
「どうって?」
「好きとか嫌いとか。」
「友達として好きかな?」
秋風は少し頬を膨らませた。
「私とどっちが好き?」
「家族と友達は別物だろ。お前こそ彼氏ができたとか噂で聞いたぞ。」
秋風は少し顔をこわばらせた。
「…彼氏ね。うん、できたよ。嫉妬するかね?」
さっきの顔が嘘みたいに秋風は笑って言った。
「お兄ちゃんとしては妹の旅立ちは悲しいですねぇ。」
俺も冗談っぽく言った。
「秋風!」
学校までもう少し歩いたところ、というところで後ろから声がした。
俺と秋風が一斉にふりむくと、そこには黒髪の美少年がいた。
確か学年で一番かっこいいとか騒がれている男子だ。
名前なんだっけ?とか心の中で思ったが、それよりもしかすると彼は秋風の彼氏だったりするのだろうか?
ていうか、フリだが特に接点のない男女が一緒に登校しているのはちょっとまずかったか。
「陽くん。」
陽と呼ばれた少年はこちらに近づいてくる。
ああ、思い出した。
雪待陽。とにかく俺とは接点がまったくない。
まあ、他人から見たら俺と秋風もそうだが。
とりあえず…
「木染さん、定期拾ってくれてありがとう。助かったよ。じゃあ俺先行くから。」
俺は雪待にも聞こえる程度の声でそう言い、学校への道を急いだ。
だから、聞こえなかったんだ。
後ろで黒い髪の少年と少し赤の入った髪の少女の会話が。
「お前、あのことを話してはいないよな?」
「私にメリットがないよ。」
「大好きなお兄ちゃんの役に立ちたいとか。」
「何回も言わせないで。─私はもう大切なものを失いたくないだけ。」