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文月の契約者と消失した一時間

PM10:59:57


「3、2,1、0」


消えた。


仲春なかはるが目の前で消えた。




同日PM4:00


いつもどおり、鳴神なるかみが俺のクラスにやってきた。


いつもなら二人で帰るところだが今日は違う。


話があるから、と仲春を教室から連れ出し生徒会室に向かう。


「失礼します。愛逢めであい先輩いらっしゃいますか?」


鳴神は生徒会室にはいり、大声で叫んだ。


鳴神が叫び終わった瞬間、生徒会室からかばんが投げ出された。


かばんは見事鳴神に直撃し、ガンッとなんともいいがたい音がして鳴神が目を回している。


「うるせぇ…頭いてぇ…」


生徒会室からポニーテールの女子が出てくる。


おそらく彼女は寝ていたのだろう、髪が乱れて眠そうな目をしている。


その眠そうな目で彼女は俺を見る。


「なんだ用か?」


七夕たなばた、話があるからちょっと付き合え。」


「先輩つけろや。」


彼女は見るからに不機嫌そうに俺を睨む。


すると通りがかった教師がこちらに歩いてきた。


愛逢めであい、後輩いじめは感心しないぞ。」


その教師は冗談混じりにそういって通り過ぎる。


「相変わらず大人気ですね愛逢先輩。」


俺は嫌味風に言う。


「チッ。バカにしやがって。」


愛逢七夕めであいたなばた。俺達の2コ上の高3。


彼女は絶大な人気を誇る生徒会長なのだが、人気の理由がかなりひどい。


七夕が2年のころの生徒会総選挙に、ふつうなら生徒会に入りたい物好きな人間が何人かいるが七夕の学年には一人もいなく、生徒会メンバーが集まらなかった。


学長の「推薦なんて無責任だ。」というお言葉により、「全て自己責任」の学年じゃんけん大会が開催されたらしい。


そこで七夕は連敗し、見事生徒会長になったらしい。


そのことで、そのときの同級生と後輩、今の2年と3年におちょくられて人気がある。


それと入学式の日「私は名目上は生徒会長だが、やるきは一切無い。あてにするな。」とのお言葉により1年にもおちょくられるようになり、人気がある。


なんだかんだ言って、ちゃんと仕事をしていることから、教師にも人気がある。


そんな、ダメなようでしっかりしている人間だ。



「で、何の用事だ雁来かりき。」


「ちょっとここじゃ言えねえ話だ。俺の家いくぞ。」


俺の顔で真剣な話だと察したのか、七夕は急いで帰宅準備をすませ、鳴神をたたき起こし、俺達は4人で下校した。


下校途中、仲春に愛逢先輩をなんで呼ぶの?と質問されたが、後で答えると言い放った。



学校からそんなに離れていない高層マンションの最上階。


そこが俺の家。


「お邪魔します。」


仲春だけがその言葉を口にした。


他のお二人さんは何も言わずに靴を脱いで、かばんを投げ捨てくつろいでいる。


まあ、何回も来ているし自宅感覚なんだろう。


一方始めてきた仲春は緊張しているのか落ち着かない様子だ。


「あー適当にその辺座っといていいぞ。」


仲春は俺のその言葉を聞くと、ソファーに腰掛けた。


雁来かりき、私ロイヤルミルクティ。」


二人がけソファーに一人で横になっている七夕が頭だけこちらに向け俺に指図する。


「あ、あたしはねオレンジジュース。」


床にソファーのクッションをおいてごろごろしながらテレビをいじっている鳴神も七夕同様俺に指図する。


「早くしろよ、こっちは客だぞ。」


「へーへー。仲春は何飲む?」


「えっ…あるもので…」


仲春はそうとう緊張しているようだ。


「仲春さん、この部屋ねその辺のファミレスのドリンクバーより飲み物の種類あるから好きなもの言っちゃって大丈夫だよ。」


テレビから視線をそらさず鳴神が言う。


「じゃあ…ジャスミンティー。」


「了解。」


俺はロイヤルミルクティ用の茶葉をだし、煮出しながらつくり、氷をいれたコップにオレンジジュースを注ぎ、ジャスミンティーを専用ポットで作った。


「おまたせ。」


俺はキッチンから、注文された飲み物と自分のコーラをリビングに持ってきた。


みんなそれぞれ飲み物を飲み、俺の方に注目した。


雁来かりき、そろそろ説明しなさい。この子はどちらさん?」


七夕が仲春を指差し、いつになく真剣な顔で俺を見てくる。


指差された仲春は少しおびえているようだった。


「まずはお前の紹介からしていいか?」


俺は七夕に問う。


「その方が話が早くまとまるならかまわない。」


七夕は手を下ろし、また紅茶を飲み始める。


「仲春。コイツは知っていると思うが3年の愛逢めであい七夕たなばた。生徒会長な。」


「うん、知ってる。」


「そんで文月、7月の契約者だ。」


それを言った瞬間、七夕が机を揺らし立ち上がった。


「雁来!!!」


「わかってる。仲春、この間も言ったがこれは国家秘密だ。お前が他言した場合、悪いが俺はお前を守れない。」


仲春の顔つきがすこしこわばる。


「他言はしないわ。」


「ああ。七夕、仲春は信用できる。とりあえず落ち着け。」


立ち上がったままだった七夕はソファーに腰掛ける。


「じゃあ話をもどすな。俺と鳴神と七夕は国からの要請で仕事をしている。おそらく他の契約者もそうだろう。俺達は3人分のノルマを3人でクリアしている。説明しづらいが、まあ俺がヘマしても七夕か鳴神が頑張ればいいってことだ。」


仲春は飲み物には一切手をつけず、真剣にこちらを向いて話を聞いている。


「同じ契約者と言っても馴れ合っているわけじゃない。だから俺はここにいる鳴神と七夕以外の契約者の顔も名前も知らない。他の契約者も俺達みたいに何人かで仕事をしているかもしれないし、一人でしているかもしれない。もしかしたら仕事をしていないかもしれない。それは俺にはわからない。」


「じゃあ、なぜ燕去つばめさりと涼暮さん、愛逢先輩はお互いを認知して一緒に行動しているの?」


仲春がはじめて口を挟んだ。


「かなり昔の水無月、文月、葉月の契約者の気があって一緒に仕事をしたことから始まっていると聞いている。それから、涼暮、愛逢、燕去は常に共に仕事をしている。」


仲春の問いに答えたのは七夕だった。


「まあ、そういうことだ。だが、俺達は暦、時間と契約していることには変わらない。それに今回の不可解な敵についても気になる。そこで俺は他の契約者とコンタクトを取ろうかと考えている。」


鳴神と七夕が驚いたようにこちらを見た。


鳴神は仲春の事情を知っているからすぐに理解できただろうが、七夕は理解できないと言わんばかりの迫力で俺に迫ってきた。


「私達にメリットがない。私は契約者なんてものが全員正常なやつらだとは思っていない。ここに一応正常なやつが3人もそろっている。他のやつらが正常な確立はかなり低いと思うんだが?」


「ああ、だが俺はそうでもして仲春の一時間を取り返したい。」


「一時間?」


七夕は仲春の顔を見る。


「仲春は1日が23時間なんだ…」




PM10:55


今日の仕事は鳴神一人に任せることにした。


もし、この前のような敵が現れた場合、すぐに連絡すると約束し、鳴神は一人で仕事に向かった。


あれから、クロノスのこと仲春のことこの間の敵のことなどをすべて七夕に話した。


七夕は「自分の目でみたものしか信じない」という正論をつげ、今夜仲春が本当に一時間消えるのかを実証することになった。



「残り10秒、9、8、7…」


カウントしているのは七夕。


仲春は少しつらそうな表情を浮かべながらその時を待っていた。


「3,2,1、0」


消えた…


仲春が俺の目の前で…


「かり…き…消え…じゅんが…」


七夕も相当、動揺しているようだった。


「23時間の姫…クロノスに一時間を奪われた…こんなのって…」


俺も七夕と同じくらい動揺していた。


仲春の話を疑っていたわけではない。


だが…


心のそこで否定していたんだろう。


1日は24時間だ、と。




PM11:59


仲春が消えてもうすぐ一時間。


一時間の間、俺と七夕は呆然としていて動けなかった。


「七夕…あと何秒だ…?」


七夕は腕時計を確認する。


「あと3、2、1、0」


消えたときと同じように、仲春は忽然と姿を現した。


「・・・」


俺は言葉を見つけられなかった。


七夕も同じだろう。


そんな俺達を見て、仲春は自嘲混じりの笑顔を作り、こういった。


「気持ち悪いですか?」


「「違う!!!!!!!」」


反射的に叫んでしまった。


七夕も同じだろう。


「嘘つかないで!気持ち悪いって思ってるくせに!!!そうよ、見る前まではみんなかわいそうって言ってくれたわよ。でも、実際私が消えるのを見た人たちは私を気味悪くしか見ないのよ!知ってるわよ。だって…」



「私だって私が気持ち悪いんだから!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


仲春は涙をこぼしながらそう叫んだ。


「我、文月の契約者、愛逢七夕。契約に答えよ!“戦車せんしゃ”の名の下に“勝利のかたな”を!!」


『─契約に答える。そなたに刀を。』


七夕の手には青く光る日本刀が握られていた。


「お前は私が気持ち悪いか?自分の体から武器をとりだすけいやくしゃが!」


仲春は涙を流しながら答える。


「なぜ?」


「私は自分のことをたまに気持ち悪いと思う。普通の人間は体から武器なんてでない。人を殺せる道具なんか…そんな私をお前は気持ち悪いと思うか?」


「いいえ、思わないわ。」


仲春はお世辞でも嘘でもなくそういっているだろう。


「そうか、ありがとう。私も君が気持ち悪いとは思わないよ。」


「…ありがとう。」


「ああ。…雁来。」


急に七夕が俺の名前を呼んだ。


「なんだ?」


「私もお前の意見にのってやろう。他の契約者を探す。」


七夕はにっこり笑った。


「そして、閏の一時間を取り戻す。」


「そうだな。」


仲春はそれを聞くとしゃがみ、うずくまって泣いた。


「ありがとう…ありがとう愛逢先輩、燕去…。」





黒いマントの少年と、少し赤の混じった髪の少女が暗い部屋で針がひとつしかない時計を見ている。


「またひとつ針がすすんだよ。」


「─ああ。」


「これで“3”だね。」


「─ああ。」


「でも…もう進まないね。」


「─ああ。」



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