短針が2回目、11をさすとき…
「私の時間を返しなさいよ!!!!」
俺が振り返るとそこには仲春の姿があった。
『これはこれは、23時間のお姫様。』
「私の時間、返してよ!」
仲春は叫んでいる。
「23時間のお姫様…?」
俺がそうつぶやくと仲春が俺の存在にやっと気づいたみたいにこっちを向いた。
「燕去…?」
『8月の契約者、何度同じことを言わせるのかしら?』
正面には敵の姿。
なんというデジャブだろう。
また、敵は札を構えている。
さすがに、今墜落したら仲春も巻き込んでしまうだろう。
しょうがない。
「我、葉月の契約者。─契約を果たす!!!!!」
『契約に答えよう。お前に契約を果たすだけの力を。』
「はあああああああああああああああっっ!!!!!」
俺は力いっぱい炎が纏った剣を敵に振るった。
『ギャーーーーーーーーーー』
女性から血があふれ、地面に墜落する…
「仲春!!!」
「大丈夫だよ。」
答えたのは仲春ではなく、仲春を抱えた鳴神だった。
俺は地面を見た。
─俺が斬ったんだ…
無残な光景。
キモチワルイ。
『よくも、よくも!!!!!!』
女性が動こうとする。
…だが、やはり傷が痛むのだろう一行に動かない。
「降ろして。」
仲春が鳴神に言う。
「…うん。」
俺と鳴神は女性が倒れている屋上に降りた。
降りたとたん、仲春は女性に近づく。
「おい、仲春!」
仲春は俺の言葉を無視して女性に近づく。
「質問よ。あなたはクロノス?」
無愛想な声で仲春が聞く。
『─いいや、私はお前の時間を奪ったやつではないよ。』
「そう、じゃああなたに用は無いわ。封印させてもらう。」
『23時間の姫君。出会えたなら、クロノスによろしく伝えてくれ。』
仲春は頷いた。
「闇を囲むのは私。私を囲むのは光。私は光に捕らわれよう、ならば闇は私に捕らわれよ!封印!!」
あたり一面が光、目を閉じてしまい、俺が目を開けた頃には無残な姿の女性は消えていた。
沈黙の後、場所を変えず俺は仲春に疑問をぶつけた。
「仲春、お前は何者だ…?」
「私は…」
仲春は俺の質問に答えようとしない。
「燕去こそ何者なの?」
「俺は…」
同じところで言いとどまってしまい、俺達は顔を見合わせて笑った。
仲春は信用できるやつだと思うし、話しても罰はないだろう。
「俺は暦の契約者って呼ばれてる。俺の先祖が8月、葉月と契約してからずっと俺の一族は契約を守って変なやつらと戦ってる。んで、戦う代わりにこの剣と炎を自由に使わしてもらうって契約。」
まあ、簡単に言うとこんなもんだろ。
仲春は少し戸惑いながらも口を開いた。
「私は一応結界師って職業。うちも先祖から続いてる。狂った神様とか霊を祓ってる。」
…結界師。
聞いたことはあるが、実際見たのははじめてだ。
「“23時間の姫”ってのは?」
今まで黙って聞いていた鳴神が確信に触れることを言った。
「…」
仲春は言いたくないのだろうか、口ごもってしまった。
「言いたくないならいいんじゃないか?」
俺も気になるが、明らかに仲春の様子がおかしいので一応フォローしておく。
「そうね、言いたくないなら別に…」
「足りないのよ…」
仲春はそうつぶやいた。
「…一日が一時間足りないのよ。」
遠くを眺めながら、淡々と言った。
「足りないってどういうことだ?」
俺は頭の回転は速い方だと自負している。
だが、仲春の話はよく分からなかった。
一日は24時間、それがあたりまえ。
一時間足りないって…
「私は23時から0時の一時間、世界に存在しない。」
本当に分からない。
どういうことだ?
「22時59分だと思ったら、0時1分になっているのよ。」
仲春が嘲笑まじりにそういった。
「周りを見張ってもらっても、23時になった途端に私は消える。それで0時になって消えた場所に戻っているの。」
「それって…」
「私には1日が23時間しかないの。」
“23時間の姫”
1日が23時間なのがこいつの日常。
そんなのって…
「おかしいでしょ?」
今度は明らかに嘲笑しながら言った。
「でも返しっててことは…」
鳴神がそう問う。
「うん。私の一時間はとられたのよ。─時空神クロノスに。」
時空神クロノスって…
「…鳴神、クロノスって俺達の契約に関わってなかったか?」
「私もそう思った。」
「クロノスを知っているの?」
仲春が今までに無い取り乱し方で迫ってきた。
「俺達は暦、時間と契約しているから多分関わりはあると思うんだが…俺はあまり興味なかったから知らない…」
そう、俺は自分の契約とか仕事にあまり興味は無かった。
やれ、といわれているからやっているだけ。
「ごめんね、仲春さん。あたしもよくは知らない…」
「…ううん。でもクロノスと関わっている人を見つけられたのは私的にはかなりの進歩よ。」
こいつは、クロノスをずっと一人で追っていたのだろうか?
「なあ、仲春。いつから一日が23時間なんだ?」
「小学校に上がったころよ。」
「っ!」
6歳ってことか?
もう10年も前…
「それから必死に探したわ。クロノスの手がかりを探さなきゃって。」
「…一人で?」
「ええ、一族の人間は私が呪われたといって近づいてこないわ。…親もね。」
10年間も一人でずっと…
「なあ、仲春。もしよかったらなんだけど…一緒にクロノスを探さないか?」
「…えっ?」
「俺達はクロノスと関わっている、それは仲春のメリットになることだろ?」
「ええ、それは。だけど燕去たちにはデメリットしかないわ!」
「いや、結界師がいたらかなり助かる。お前も見ただろ?そこに張ってあった結界。あれが俺達の限界だ。それに、さっきの敵みたいなのが出たら封印できない。」
「あ、確かに。結界師がいたらメリットしかないわね。」
鳴神が口を挟む。
「利害一致の関係ってことね?」
「ああ、どうだ?」
「もう、一人じゃないの?」
「ああ。」
仲春は少し涙を浮かべながら、笑った。
そのときの顔は忘れられないだろう。
すごい、綺麗だと思った。
「ええ、じゃあこれからよろしくね。」
3人の遥か上空から彼らを見下ろすひとつの影。
黒いマントに黒い髪。
「─時間は動き出す。」