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葉月の契約者と氷のお姫様

─暦の契約者


12人がそれぞれの月と交わした契約。


契約によって得られるもの、武器と能力。


契約によって縛られるもの、「戦い」。


契約は世襲される。


─契約から逃げることはできない…


「…ろ。起きろ!燕去つばめさり!」


笑い声と怒鳴り声?


俺の名前が呼ばれたような…


「いてっ!」


急に頭上に痛みが走った。


「いてっ!じゃない!今、授業中なんだけど?」


顔を上げると、確か古文こぶんの担当の教師が俺の席の前に立っていた。


古文ということは、おそらく午後の最後の授業だろう。


「すいません…」


「お前なあ、何回目だ?他の授業でも寝てるって聞くぞ。夜更よふかしして何やってんだか。」


あきれたようにその教師は教卓に戻っていく。


夜更かししてお前らの安全を守ってやってるんだよ…


俺は、授業に集中できそうにないが、だからといって今寝る度胸は無いので外を見ることにした。


こういうときに窓際の席だと便利だなと、感じる。



俺には秘密がある。


国家級の秘密。


「見た目は子供、頭脳はなんとか」みたいな感じに、表面上は普通の高校1年生を装っている。


本業は一応霊祓師っぽいものだ。


ぽいものであってソレではない。


実際俺には、いや俺達には何を祓っているのか、なにと戦っているのかすらわからない。


「つばめくーん、いっしょに帰りましょ♪」


気が抜けるような甘ったるい声が聞こえてきた。


「あ゛?」


「やだーつばめくん、こわーい。」


数人の女子が固まって俺の席の周りにきていた。


どうやら、ボーっとしているうちに授業どころかHRも終わっていたらしい。


「ねえねえ、由美ね今日カラオケ行きたい~。」


「それ、いいね。つばめくんも行こうよ~。」


うぜぇ。


「そうだぁ。カラオケ行くんだったらぁ、そのあとさぁ~」


ガタッ


後ろの席で結構大きな音がした。


「感じわるっ。」


「ねぇ~、ちょっと可愛いからって調子のってんじゃね?」


俺の周りにいた女子達は、俺の後ろの席の住人を罵りながら、教室の外に行った。


「さんきゅ。助かった。」


俺は後ろの席に礼をいう。


「別に、君を助けたわけじゃない…」


そう返される。


このやり取りは毎日やっている。


最初は、ただ音をたててしまっただけなんだと思っていたが、どうやら後ろの席の美少女はいいやつらしく、俺が困っているのを知ってて女子を追い払ってくれているらしい。


「でも、助かったからありがとな仲春なかはる。」


「嫌なら嫌ってはっきり言ったほうがいいと思う。」


仲春なかはるは長い髪を手でかきあげながら言った。


「言いたいんだが、あいつらって日本語通じるのかわからなくて、通じなかった場合俺が痛いやつに見られるじゃないか。」


仲春はクスッと笑った。


「確かに、日本語通じない人に一生懸命話しかけてたら痛い人ね。」


本当は嫌って言ってしまうのが早いとは分かっているんだが、俺は仲春としゃべるのが嫌いじゃない。


いや、むしろ好きだ。


だから、あいつらに絡まれなければ仲春と話すことも無くなるわけであって、あえてアイツらを追い払わないでいる。


雁来かりき、帰ろう。」


仲春と話していると、後ろから声をかけられた。


茶髪のツインテールにパッチリした大きな目、学年で一番可愛いとまで言われている少女、涼暮鳴神すずくれなるかみ


いわゆる幼馴染というやつで、いつも俺と一緒に下校している。


「ん、じゃあな仲春。」


さっきまで笑っていた仲春が、無愛想な顔になる。


「ええ。」




雁来かりきって仲春さんと仲いいんだね。」


帰り道、鳴神がふと思いついたように言った。


「別に普通だろ?」


「えー普通じゃないよ。“氷姫こおりひめ仲春閏じゅんって有名じゃん。あんまりしゃべらないし笑わない、氷のお姫様。」


氷姫なら俺でも知ってる。


だが…


「仲春は人並みに喋るし人並みに笑うやつだろ。」


「だ・か・ら、それって雁来にだけなんじゃない?やっぱり仲いいんだ。」


「へーへーそーですね。」


「ぷぅー。」


鳴神は頬を膨らませた。


「あっ、そうだ。今日って雁来、仕事の日?」


「ああ。おなるかみもだろ?」


「うん…」




部屋のデジタル時計が21:00と表示された。


「行きますか…」


俺は部屋をでて、廃ビルの屋上を目指した。


このビルがこの町で一番高い建物だから、町を一望できる。


「おそかったね、雁来かりき。」


屋上に着いたとき、すでに鳴神の姿があった。


「お前が早いんだろ。」


鳴神は口角を上げてにっこり笑った。


「じゃあ、行くよ。」


「ああ。」


われ葉月はづきの契約者、燕去雁来つばめさりかりき。契約に答えよ!“ちから”の名の下に“勇気のけん”を!!」


『─契約に答えよう。お前に剣を。』


「我、水無月みなづきの契約者、涼暮鳴神すずくれなるかみ。契約に答えよ!“恋人こいびと”の名の下に“魅力みりょくじゅう”を!!」


『─契約に答えましょう。あなたに銃を』


俺の手にはあかく光る剣が、鳴神の手には桃色に光る銃が、握られる。


─これが契約。


「雁来、勝負よ。」


「ああ。」


「「レディゴー!」」


俺と鳴神は一斉にビルの屋上から飛びだした。


俺は東に、鳴神は西に。


「さっそく見つけた。」


黒く、黒く、闇のような物体。


それがなんなのか分からないが、とにかくコイツを倒せばいい。


楽なことにコイツはとても弱い。


弱いのだが、いるだけで人間の害になるらしい。


いくら弱いと言っても、普通の人間には見えないし、見えたとしても攻撃できない。


だが、俺達契約者の武器でちょっと攻撃すればすぐに消滅してしまう。


俺は、そいつに向けて剣を振るう。


『ギャー』


「1対目っと。」


その後も俺はそいつらを見つけては消滅させた。




2:30


廃ビルの屋上に戻る。


すでに鳴神の姿がある。


「俺は65体。」


今日、あいつらを何体倒したのかを報告する。


「うう…あたし64体。」


「今日は俺の勝ちだな。」


「先週はあたしの勝ちだった!」


「だが、今日は俺の勝ちだ。ずべこべ言わずにトンカツ君買って来い。」


賭けていたトンカツくんの話でもりあがっていると、急にあたまに武器が話しかけてきた。


『『─契約に基づき命ずる。戦闘準備を。』』


雁来かりき!!」


「ああ、わかってる。」


この時間になっても動けてるやつはかなりしぶとい。


あいつらの動ける時間は大体21:30~2:00の間だ。


たまに、それ以外でも動けるやつらがいて、ものすごく迷惑だ。


「次来るやつあたしが倒したら同点ね。」


よっぽどトンカツくんをおごりたくないらしい。


「ああ、割り勘ですましてやるよ。」


「ははっ。了解。」



『契約者みーつけた』


「…え?」


感じる存在感、気配、全てが今まで戦ってきたあいつらと同じものなのに…


そいつは…


「人間…?」


人とまったく同じ形をしていた。


俺達より少し年上ぐらいの女性の姿。


『残念。私は人間ではないわ。』


「敵よ…ね?」


鳴神が俺に視線を送ってくる。


わからない…。


今まで戦ってきたあいつらは30センチほどのまるい塊だった。


人間の姿をしたやつなんて一体もいなかった。


『そうね、私は敵よ!ハァッ!!」


敵と名乗った女性は俺達に向けて札を飛ばしてきた。


俺と鳴神は瞬発的に飛翔系の術を使いそれをよけた。


俺達がもといた場所を振り返り見てみると、燃えていた…


「マジかよ…」


「雁来!!」


「え?」


前を向くと、目の前に女性の姿があった。


『戦ってる最中に敵に背中を見せちゃだめよ。』


「うわあああああ!!!!!」


女性は俺に雷系の札を貼ったのだろう、体中を電撃がはしる。


俺はビルの屋上に墜落した。


「雁来!!!!!」


鳴神の悲鳴が聞こえる。


「…うっ」


自分で思ったより流血しているみたいだ…


本当は戦いたくなんかないのに…


「契約に答えよ“恋人”の名の下に…」


『遅い!』


「いやああああああああ!!!!!」


「鳴神!!!!」


戦いたくないなんていってる場合じゃない。


戦わなきゃ殺される。


「契約に答えよ“力”の名の下に我、紅蓮の炎を欲する!!“勇気のけん”を炎でまとえ!!」


『─契約に答えよう。お前のつるぎを紅蓮に。』


俺の剣が燃える。いや、炎をだしている。


「はああああああっ!!!」


女性のところまで飛び、剣を振るう。


『ギャーーーーー!!!』


「うわぁ!!!」


皮膚のこげたにおいがする。


嫌だ!


─俺は人を殺したくない!!!!!!!!!



キー



屋上の扉を開ける音がした。


「誰…?」


屋上には結界を張ってあって普通の人間が入れないようにしてある。


他の契約者か?


「…なさい!!!!返しなさい!!!!!!!私の時間を返しなさい!!!!!!!」


この声…


俺は、敵に背を向けることになるが、振り返る。


そこにいたのは…


「仲春!!!!!」


俺のクラスメイトで後ろの席。


氷姫こと仲春閏だった。

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