アイリス
「どうした。さっきの怖い奴らなら帰ったぞ。」
「ちょっとご主人様!公爵様も負けないくらい怖いんですからね!たぶんお医者さんより怖いですよ。」
「...そん、なに...?」
「はい?」
ミアたちが話している会話が耳に入ってこない。
――どうしよう。
ここは敵国だ。
敵国と言っても全くちょっかいはかけてこないけど...
つまり王国は、帝国と同じくらいのレベルということを示したかっただけで、帝国を敵国呼ばわりしているのある。
どうしても王国が帝国と並びたかったらしく、王国にはそういう風潮がある。
きっと王家が無理やり流したんだろう。
実際、帝国には敵視なんてされていないんじゃないかな。
帝国にはすべて劣るし。
でも帝国には治癒の聖女がいない。
だから王国をいつか侵略すると信じる人も多かった。
帝国は国土を広げるために、日々周りの国を支配してる野蛮な国っていうのが国で習ってきた内容だから...。
戦争には犠牲者が必要不可欠だからって聖女を必要としているらしいし...。
しかも昔、帝国がまだ王国だった頃、王国に聖女を欲しいと言って同盟申請してきたこともあったらしいけど、王国が調子に乗って、聖女を偽って一般の神官を帝国に渡したらしいんだよね。
帝国だって神官はいるはずだから、秒でバレたんじゃないかな。
それに私は今の力が分からないけど、あの歴史があって、聖女なんて分かったら...今すぐ剣で首がなくなるかも。
それかすぐ極刑...。
どっちにしろ、この世界にはいられなくなる。
*
「...自分の家は分かるか?」
首を横に振る。
よくよく考えたら子どもの姿だし、長居しなければバレないはず!
しかも声が出ないということで、余計なことを話す心配もない!!
かなり好条件だ!こっちのほうが有利!!
「困ったな...」
「ご主人様、ちょっと!!」
...?
私から少し離れ、コソコソ話す二人。
なんとかして聞かないと。正体がバレたとかだったら洒落にならない。
「...だから、お嬢さま虐...て...そのまま川.......」
「...なに?」
むむ...何も聞こえない...。
って、なにこれ、殺意!?
どこから...って、一人しかいないか...。
公爵がこっちに近づいてくる。
え、ちょもう話し終わったの?
顔怖いよ!!!
一体なんの――
「辛いことを思い出させて悪かった。」
「...??」
本当に何の話してたの?
「うっ...!」
ちょ、ミアなんで泣き出すの!?
「大丈夫です、お嬢さま...ミアはちゃんと分かっております!」
うん、私は何もわからないけど。
「ご主人様!お嬢様はうちで育てましょう!!」
いやいやいや、え?
私死にたくないから、今から出てかないといけないんだけど。
「...知ってる。世話はミア、頼んだ。」
「お任せください!」
え?
いや、え?本当に困るって!!
何とか大丈夫って伝えないと...。
公爵様まって...!
「お嬢さま!?」
ごめんミア!気持ちはうれしいけど違う!
思わずベットから立ち上がって、公爵様の服を引っ張る。
...あれ、時間が止まってる...?
公爵が全く動かなくなってしまった。
「ご主人様!」
「はっ...っなんだ。」
え、いや。
...どうやって伝えるべき?
...
ジェスチャー!!
『私』
自分を指差す。
『今』
『行く』
『外』
窓を指差す。完璧では?
これはさすがに通じたはず...
「...最近は何が流行ってるんだ?」
何も通じてなかった。
「ご、ご主人様...これは...
お嬢様は外に行きたいのでは...?」
そう!さすがミア!わかって――
「お嬢様は自分が邪魔だと思って、自分が外に――家から出てくと言ったのではないでしょうか...!!」
ミア泣かないで、ややこしくなる!!
てかミアの頭の中が見えるし、私のイメージは...
そこには私がひとり泣いているという想像が...。
いやどういうビジョン!?
違うって!出てくと入ったけどそこまで重い思いは持ってない!
「...」
――え?
なんで私今、無言で公爵様に抱っこされてるの...?
優しくベッドに置かれる。
公爵もしゃがんで、目線が同じくらいになった。
「...名前はなんという。少しだけ読唇術ができるから言ってみろ。」
...これはどう答えるべきか。
「お嬢さま!読唇術っていうのはえっと...とにかくお嬢様は口パクしてみてください!」
ミア、それは分かるんだけど...説明へ......。
...ずっと黙ることになりそう。
「...ごーしゅーじーんさーまぁ?」
公爵様が焦ったような顔で咳払いをする。
「...言いたくないなら言わなくていい。...でもこのまま名前がないのも不便だな。」
それはそうなんだけど...。
え、暮らす前提?
「...」
そりゃ困るよね...。急に、知らない子に名前つけろって...。
公爵って子どもいたっけ...?
「公爵様!女の子は花の名前とかがおすすめです!」
花、か...。
神殿によく咲いてたなぁ...。
帝国にはどんな花があるんだろう――。
「――アイリスはどうだ?」
アイリス――光がよく当たるところで育つ植物。私の国では見えなかったけど、帝国なら――
こくっと頷く。
はっ、つい頷いてしまった...!!
でも、さっき庭でたくさん咲いてたし、響きも可愛いし...。
公爵にしては考えたんじゃない...?
「気に入ったならいい。...必要なものがあったら言え。」
そう言って立ち上がってドアの方に向かった。
いやだから話せない...。
遠のいてく背中に若干寂しさを感じる。
――ありがとうって言えたらよかったのに。
って私、今何を...!?
「ミア、後は頼んだ。
あと、勝手に話したイーサンに...」
とブツブツ唱えながら、出ていった...。
やっと、肩の荷が下りた...。
「ご主人様、ああ見えて繊細なんですよ。」
くすっと笑うミア。
一応、尊敬はされているらしい。
でもどこが繊細...?
「アイリスお嬢さま、あ、リッシー様とかどうですか?」
『だいじょうぶ』
「可愛いと思ったんですけど...」
さあ、どうするか。私の夢は一人静かに暮らすことだけど...。
...ミアは世話する気満々だし...。
――まあ、恩は少しぐらい返さないとね。
名前をつけてくれたんだから。
...一応、元聖女として――
「お嬢さま?」
.......なんかすごく眠い。
「ふふっ、おやすみなさい、リリお嬢さま。どうかいい夢を――」
ミアの優しい声が聞こえた気がした。
『公爵家に祝福を――』
読んでいただきありがとうございました!
さあ、アイリスの少し奇妙な恩返しはいつ始まるのでしょうか。
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