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幼女(仮)の恩返し  作者: そよら
序章
1/5

許されない重罪

「オーロラ!お前が聖女を偽った罪は許されない!!」



首都を代表する大神殿の中で、断罪は行われた。


罪を語った王子の後ろには女神の像がある。

像の下には長くつづく階段があり、その床の上で必死に釈明しているのは元聖女――否大聖女である。




「わたくしは決して、そんなことはしておりません!!」




彼女は透明にも見える長い銀髪を、冷たい床につけている。


その輝きが失われることはない。

そう言われた色が今は明かりが点いていないせいか、くすんで見える。


それでも瞳の奥のオーロラは、その光を見失わない。




「黙れ!!貴様のような者が、将来の王太子妃など笑わせてくれるわ!」


「殿下...!!」




例え、婚約解消という形でも構わない。



「聖女を偽った罪はこの国の反逆と言えるだろう。」



しかし、殿下が言っているのは...



「――よってお前を極刑とする!!!」



神殿でそれまでのことを見守っていた数人の神官がざわつく。

流石にここまでは聞いていなかったのだろう。


つまり、王子の独断だ。


極刑と言われ、もちろん彼女も黙ってはいられない。




「お待ち下さい、ルーカス様!!私が聖女ではなくとも、神官よりごく僅かに多い神聖力を持っております!!


それに...国民にはどう伝えるつもりですか!?」




この国は戦争がいつ起きるかわからない。

隣国には広大な物資と土地を持つ帝国があり、そんな中でこの国が300年続いたのが奇跡といっていいほどである。


そこで長い歴史に携わってきた聖女が消えたとなれば、国民に不安が広がるだろう。


それに加えてもしものことがあれば、聖女として戦力にならなければいけない。



「はっ、民たちを人質にするつもりか。この際に及んでも酷い女だ。」



まあ確かにと続ける王子。



「お前は民たちの信頼も厚い。お前がいなくなってしまったら、少なからず文句をいってくる奴らもいるだろう。


本当はお前と同じところにでも送ってやりたいが...。」



にやっと効果音がつきそうな、不気味な笑みを浮かべた王子。



お前と似ている女(身代わり)でも置けば、皆黙るだろう。」



そう言ってから、王子の隣にどこからともなくふらっと現れたのは――かつて彼女(オーロラ)が助けた平民だった。

今代の聖女にそっくりな容姿。


銀髪をなびかせた少女。




***




連れてこられたのは絶海の崖の上。

誰も近づかない、片付けたいものがあるときにぴったりな場所。



()婚約者として、最後くらい見届けてやろう。」



不思議と王子への怒りが湧いてこない。

あるとするなら、どこかで道を踏み外してしまった――空虚感。



「早く歩け!!」



殿下に言われるがままに裸足で歩く。

裏には、石やガラスが刺さっているように感じた。


なぜか?それは転移魔法でここまで来たのにも関わらず、その地点から崖まで1時間ほど歩かされたからである。


彼女が歩くたび、後ろに血痕がつくのは当たり前だった。



見える海は青ではなく夜空に近い色をしている。

落ちたら、どんな頑丈な勇者でもひとたまりもないだろう。


それを神殿で暮らしてきた聖女の後先など、誰もが容易く想像できる。




(あぁ――


――こんなことになるなら、もっと自由に生きればよかった。)



生まれ変わったら、この世界の隅で、一人静かに暮らしたい。

これが彼女が神殿に入ってからの願いだった。



もし、ここから飛び降りたら、私は泡になって消えるだろうか。

久しぶりの好奇心に呆れる。



「さあ、オーロラ様――」


近くにいた衛兵が彼女に話しかける。


――前に、彼女は自分で飛び降りた。

走って、崖を飛び越えたのだ。


せめてもの情けか、ある騎士は彼女の縛られた腕の紐を切ろうとしていた。



――聖女としての、最後の意地だった。





「ははっ!!」



笑いが堪えられなかったように、一人だけ盛大に笑っている者もいた。

この国の王子である。



「さらばだ、オーロラ。()()()でも楽しいひとときをな。」



その嫌味をたっぷり込めた声が――私の、『オーロラ』という人生で聞こえた最後の声だった。

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