許されない重罪
「オーロラ!お前が聖女を偽った罪は許されない!!」
首都を代表する大神殿の中で、断罪は行われた。
罪を語った王子の後ろには女神の像がある。
像の下には長くつづく階段があり、その床の上で必死に釈明しているのは元聖女――否大聖女である。
「わたくしは決して、そんなことはしておりません!!」
彼女は透明にも見える長い銀髪を、冷たい床につけている。
その輝きが失われることはない。
そう言われた色が今は明かりが点いていないせいか、くすんで見える。
それでも瞳の奥のオーロラは、その光を見失わない。
「黙れ!!貴様のような者が、将来の王太子妃など笑わせてくれるわ!」
「殿下...!!」
例え、婚約解消という形でも構わない。
「聖女を偽った罪はこの国の反逆と言えるだろう。」
しかし、殿下が言っているのは...
「――よってお前を極刑とする!!!」
神殿でそれまでのことを見守っていた数人の神官がざわつく。
流石にここまでは聞いていなかったのだろう。
つまり、王子の独断だ。
極刑と言われ、もちろん彼女も黙ってはいられない。
「お待ち下さい、ルーカス様!!私が聖女ではなくとも、神官よりごく僅かに多い神聖力を持っております!!
それに...国民にはどう伝えるつもりですか!?」
この国は戦争がいつ起きるかわからない。
隣国には広大な物資と土地を持つ帝国があり、そんな中でこの国が300年続いたのが奇跡といっていいほどである。
そこで長い歴史に携わってきた聖女が消えたとなれば、国民に不安が広がるだろう。
それに加えてもしものことがあれば、聖女として戦力にならなければいけない。
「はっ、民たちを人質にするつもりか。この際に及んでも酷い女だ。」
まあ確かにと続ける王子。
「お前は民たちの信頼も厚い。お前がいなくなってしまったら、少なからず文句をいってくる奴らもいるだろう。
本当はお前と同じところにでも送ってやりたいが...。」
にやっと効果音がつきそうな、不気味な笑みを浮かべた王子。
「お前と似ている女でも置けば、皆黙るだろう。」
そう言ってから、王子の隣にどこからともなくふらっと現れたのは――かつて彼女が助けた平民だった。
今代の聖女にそっくりな容姿。
銀髪をなびかせた少女。
***
連れてこられたのは絶海の崖の上。
誰も近づかない、片付けたいものがあるときにぴったりな場所。
「元婚約者として、最後くらい見届けてやろう。」
不思議と王子への怒りが湧いてこない。
あるとするなら、どこかで道を踏み外してしまった――空虚感。
「早く歩け!!」
殿下に言われるがままに裸足で歩く。
裏には、石やガラスが刺さっているように感じた。
なぜか?それは転移魔法でここまで来たのにも関わらず、その地点から崖まで1時間ほど歩かされたからである。
彼女が歩くたび、後ろに血痕がつくのは当たり前だった。
見える海は青ではなく夜空に近い色をしている。
落ちたら、どんな頑丈な勇者でもひとたまりもないだろう。
それを神殿で暮らしてきた聖女の後先など、誰もが容易く想像できる。
(あぁ――
――こんなことになるなら、もっと自由に生きればよかった。)
生まれ変わったら、この世界の隅で、一人静かに暮らしたい。
これが彼女が神殿に入ってからの願いだった。
もし、ここから飛び降りたら、私は泡になって消えるだろうか。
久しぶりの好奇心に呆れる。
「さあ、オーロラ様――」
近くにいた衛兵が彼女に話しかける。
――前に、彼女は自分で飛び降りた。
走って、崖を飛び越えたのだ。
せめてもの情けか、ある騎士は彼女の縛られた腕の紐を切ろうとしていた。
――聖女としての、最後の意地だった。
「ははっ!!」
笑いが堪えられなかったように、一人だけ盛大に笑っている者もいた。
この国の王子である。
「さらばだ、オーロラ。あちらでも楽しいひとときをな。」
その嫌味をたっぷり込めた声が――私の、『オーロラ』という人生で聞こえた最後の声だった。




