92.あの日の真実
ラウディと一緒に木の下で腰かける。
エーテルヴェールは相変わらず穏やかな空気が流れていて、木漏れ日が心地よい。
少しでもラウディの気持ちが軽くなればいいなと俺からラウディの手を握ると、ラウディもしっかりと握り返してくれた。
「僕には昔、好きになった人間がいた。彼も精霊使いの卵として、精霊界エーテルヴェールへやってきた人だった。彼は最初からみんなに優しくて、僕だけじゃなくて精霊たちみんなが彼のことが好きになった」
その彼とやらが、ラウディを裏切ったっていう精霊使いの卵か。
でも、その彼と恵みのベルが繋がってるっていうのか?
これはもう俺が理解しているラブスピではないし、じっくりと話を聞くしかない。
「彼はとても笑顔が素敵な人だった。彼とはあの七色の木の下でずっと一緒にいようと約束した。だけど……彼の目的は僕が思っていたのとは違った。彼は、最初から精霊の力が目的だった。僕は……愛されていた訳ではなかった」
ラウディの手がまた震えてくる。必死に話してくれているけど、ラウディの心は大分限界に近いのだろう。
このまま聞いていていいのか? 俺はどうしたらいいんだろう?
「ラウディ……俺……」
どうしていいか分からず、ラウディの顔を見上げる。
ラウディは悲しそうに微笑んでから、俺の身体を引き寄せて後ろから抱きしめてきた。
俺は素直に両腕の中へ収まって、静かに身体をあずける。
「大丈夫。もう少しだから……聞いていて。彼は精霊界の宝と言われる恵みの宝珠を欲していた。そのために、精霊から情報を集めていた。僕は、彼に心を許した挙句その秘密を彼に話してしまった」
「そうか……本当に彼のことを大切に思っていたんだな」
俺の中では嫉妬するという感情より、悲しさの方が大きかった。
ラウディにとって、彼が最初に愛した人かは分からないけど……彼のことを信じていたからこそ話してはいけないことも話してしまったのに。
最初から利用するつもりで近づいていたってことだよな?
「彼の家は裕福ではなかったらしい。そして、育ての親に虐げられていたとも聞いた。だから、彼は恵みの宝珠の力で復讐がしたかったのかもしれないし、幸せになりたかったのかもしれない。今となっては……真意は分からない」
生まれが不幸だからといって、人をだましていいことにはならない。
ただ、ハルミリオンだって一歩間違えれば同じことをしていたかもしれないと思うとアイツはよく踏みとどまっていたと思う。
「あぁ……ラウディのことも、きっとあの女神様がスパイスを利かせすぎたせいだ。今度会ったらもう一回文句を言っておこう」
「スパイス……?」
「ごめん、コッチの話。それで、ラウディが過去を思い出してしまったのは……俺が鳴らしてしまった恵みのベルのせい?」
俺が聞くと、ラウディが頷く。恵みのベルは恵みの宝珠と関係があるということか?
「彼は恵みの宝珠がある場所へ入ろうとした。僕は……少しでも気が済むならとその場所まで連れて行ってしまった。そして、僕の分の封印だけ解いてしまったから……精霊たちに気付かれた」
「それって、本来は行ってはいけない場所ってことか?」
「そう。恵みの宝珠は、真の精霊使いが現れるまで僕たち精霊が封印して管理するもの。だから、恵みのベルを鳴らされた時以外は近づくことも許されない」
「つまり……ラウディも約束を破ってしまったってことか」
ラウディは辛そうな表情で頷いて、俺の身体を更に閉じ込めるように抱きしめてくる。
思い出したくない過去だろうけど、ここまで来たらきっと言ってしまった方が楽になる。
俺はラウディを励ますように、少しだけ振り返ってラウディの頬に唇を触れさせた。
今やるような行為じゃないかもしれないけど……何とかして負担を軽くしてあげたかった。
「ハル……ありがとう。可愛い」
「俺のことはいいから。辛いだろうけど……最後まで聞く覚悟もできてるし、話してほしい」
最初はラウディの過去を受け止める覚悟なんてなかったけど、今は少しでもラウディの重荷を軽くしてあげたいと思っている自分がいる。
だって、ラウディには笑っていてほしいんだ。




