74.下級精霊の気遣い
家に着いて、モグとバードが二人で用意してくれていたご飯を美味しくみんなで食べた。
その間、ラウディは一時も俺から離れない。
何なら、ご飯を食べさせてくるし……別に腕を怪我してる訳じゃないのにお世話をしてくれるから俺は困りながらも受け入れるしかなかった。
「ハルさん、美味しかったですか?」
「バード、ありがとう。とっても美味しかったよ。モグも一緒にお手伝いしてくれてありがとうな。二人のおかげでより一層美味しかった気がする」
お礼を込めて二人を優しくなでると、二人とも嬉しそうに笑ってくれた。
すると、俺の隣にいたラウディからジトっとした視線を感じる。
まさか……下級精霊に妬いたりしてないよな?
「ラウディ様ぁ? あぁ……分かりました! ハルさん、ラウディ様もなでなでしてあげてくださいー」
「は? あぁ……もう、世話の焼ける! 分かったよ、ラウディも。ありがとな」
俺が仕方なくラウディの頭をなでてやると、嬉しそうに両腕を伸ばして抱きついてきた。
いや、ホントにどうした? あからさますぎるだろ?
「あらあら……あたしたちはお邪魔になっちゃいそうですね。では、モグ。一緒に片付けをお願いできますか?」
「はぁい。もちろんですよぉー。ささ、いきましょう、バード」
「え、待って! 俺を一人にしないで欲しいんだけど……って、あぁぁ……」
俺の言葉を聞かずに、いらぬ気を利かせた下級精霊たちは食器を持って部屋を出て行ってしまった。
この部屋には、俺に抱きついたままのラウディと二人きり。
き、気まずい……。
「ラ、ラウディ? あのー……そろそろ離してほしいんだけど?」
「……」
ラウディが無言で顔をあげて俺をじっと見つめてくる。
嫌なのか? と言わずとも視線で訴えてきてるのが見えた。
どうしたら納得してくれるんだろう? 必死に頭を回転させる。
「……じゃあ、看病してくれたお礼に。前髪、切ってやろうか? ラウディは折角キレイな顔をしてるんだしさ。隠してたらもったいないだろ」
「……」
「あ、嫌だったらごめんな。今、思いついただけだから」
変な提案をした自覚はあったんだけど、俺がもっとはっきりと表情を見たくなった……みたいな?
最初はイケメンの顔ばっかり見てると疲れるなって思ってたんだけど、ラウディはイケメンはイケメンでも絵画みたいな感じでキレイだなって素直に思った。
だから、いつも顔を見ちゃうんだけど……。
ラウディからは、返事はない。やっぱり、色々あったし嫌なのかもな。
「……ごめん、やっぱり今のなし。気にしないでいい……」
俺が言いかけると、ラウディは身体を起こしてしっかりと俺と視線を合わせてくる。
前髪の隙間から覗く表情は、今までに見た表情とは違って少しだけ熱を帯びているような雰囲気がした。
いつもの憂いを帯びているはずの瞳は、熱を持って俺だけを見つめている。
「……ハルはそんなに気に入ってくれてる? 僕の顔」
「いや、顔だけじゃないからな? って、俺はなんで乙女みたいなことを言い始めてるんだよ。だから、これもゲームの影響だっていうことか、だったら完全に毒されているというか……」
恥ずかしさをごまかすようにぶつぶつと言い続けると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
そして、ラウディと額同士がピタリと合わさる。
暗緑色の瞳は、俺を捕らえたまま離してくれない。
「いいよ。ハルがもっと僕を見たいのなら、構わない」
「へ? あ、うん……分かった。じゃあ、ハサミを探してくるから待っててくれ」
必死に声を絞り出すと、ラウディは俺を開放してくれた。
俺は妙なドキドキを隠しながら、慌てて席を立ってハサミを探す。
文房具セットも丁寧に用意されていたはずだからと思い、窓の近くの勉強用の机を探すとハサミはすぐに見つかった。
「あった。うまくできるか分かんないけど……」
ラウディは頷いてから、椅子を引いて俺と向き合う形で座ってくれた。




