70.炎の精霊コンビのお見舞い
紫の商人のキャラ設定、哩夢に聞いておけばよかったと今更後悔する。
哩夢なら知ってそうだったのに、後の祭りだ。
「あの人は唯一の人間だ。だから、ハルミリオンの妹がどうなるか知っているかもしれない」
「え? ハルミリオンって、ハルさんのことじゃ……」
モグが不思議そうに首を傾げているので、モグにも慌てて事情を説明する。
ラウディに打ち明けた以上、モグにも伝えておかないといざという時にモグが戸惑っちゃうもんな。
モグは俺の話を聞きながら、ビックリしたり悲しそうな顔をしたりと忙しなかったけど……最後は笑顔で飛びついてきた。
「あっしにも話を聞かせてくださって、嬉しいですよぉー。ハルさんが悩んでいらっしゃったのはこのことだったんですねぇ。あっしも分からないことだらけですが、ハルさんを信じます」
「モグ、ありがとう。ラウディとモグには知っておいてほしかったんだ。みんなにも話せる時が来たら言うつもりだけど……今はやめておいた方がいいんだよな?」
俺がラウディへ確認すると、ラウディが頷く。
何か意図があるのか?
「ハルが僕を頼ってくれた。だから、今はハルを独り占めしたい」
「独り占めって……言い方……」
「ラウディ様は好きになると一途ですからねぇー」
モグはニコニコしてるけど、一途であってるのか? 束縛じゃないよな?
俺の表情は確実にひきつってるけど、モグの笑顔が可愛すぎてこれ以上何も言えなかった。
俺、選ぶ人選間違えたかな……。
土の精霊グラウディの設定は重めだとは思ってたけど、もしかして愛情も重めタイプ?
「ハル? 何、考えてるの?」
「な、なーんにも考えてない……じゃなくて! 分かったからそろそろ離れろって! いつまでくっついてるんだよ」
「いいじゃないですかぁー。みんなでくっついてるとあったかいですよぉ?」
そこ、頷くな。そして、モグ。ラウディを甘やかすなって!
でも、俺は心配をかけた身だからあまり強く言うことはできない。
なされるがまま、モグをなでて愛でるくらいしかできなかった。
+++
イアリスの言う通り、三日間は神殿の治療室で様子を見てもらっていた。
その間に、他の精霊たちもわざわざ見舞いに来てくれたんだけど……中でも驚いたのはヴォルカングだった。
ヴォルカングはウルフと一緒に治療室へ訪ねてくれた。
「ハル! 元気にしてるか?」
「ウルフ……! ごめんな? ラウディから聞いたよ。ウルフが俺のことをアウレリオル様に伝えてくれたのもそうだし、ラウディと一緒に俺を助けに来てくれたんだって」
俺はベッドから飛び降りて、ヴォルカングの目も気にせずウルフへ抱きつく。
ラウディから聞いた話だと、嵐の中ウルフが道を切り開いて俺を助けに来てくれたらしい。
ウルフが俺のことを無視していたら、どうなっていたか分からない。
「ハル、くすぐったいぞ。それに……主からも伝えたいことがあるようだ。聞いてやってくれ」
「え、ヴォルカング様が?」
俺はウルフを抱きしめたまま、傍らに気まずそうに立ち尽くしているヴォルカングに視線を向ける。
ヴォルカングは困った顔をしながら、鼻筋を指先で何度も擦っていた。
「あー……なんだ。俺っちが余計なことをしたせいで、嵐の中で大変なことになったって聞いた」
「いえ、別にヴォルカング様のせいではありません。前回は酷い目に合いましたけど……嵐の日はたまたまというか」
ヴォルカングはまだ何か言いたそうにもじもじしていたが、ウルフが急かすように尻尾でぺちぺちと主の足を叩いた。
「主、無駄な筋肉をぷるぷるさせていないできちんと伝えろ。ハルの方がよほど度量が広い」
「おま……っ! でもウルフの言う通りだな。俺っちは今まで、カティのことで頭がいっぱいだった。今でもカティのことは大好きだが……」
ヴォルカングはそう言って、俺へ視線を落とす。その目線は以前のように敵意に満ちたものではなかった。
どちらかというと戸惑いが強い感じがする。




