66.決意
俺の意識はまた白い空間に漂っていた。
この空間は一体どこなんだろう? 異世界転移をする途中だとしても、身体の感覚が妙に曖昧だ。
「でも、こういう場合は大抵意識の世界とかそういう……」
「……一応物事を考えられる頭はあるようだな」
「え、誰?」
急に声をかけられて驚くと、目の前に俺とそっくりな人物がいた。
黒髪のショートで黒い瞳。濃い灰をベースにしたブレザーに青と白のストライプのネクタイと白のワイシャツにパンツは灰と白のチェック。全く同じ服装だ。
まさか、コイツは……――
「ハル……ハルミリオン?」
「初めて会った人間に対して名前を呼び捨てにするとは。貴族社会ではありえない行為だ。だが、貴様は貴族でもなければこの世界の人間でもなかったな」
「ま……マジでハルミリオンなのか?」
不機嫌そうな顔で腕組みをしているが、彼もふわふわと白い空間に浮かんでいた。
俺は今、ラブスピの本当のライバルキャラのハルミリオンと会話してるらしい。
お貴族様と言うからもっと喋りづらいのかと思ってたけど、どうやら上から目線なだけで口調が荒い普通の男性って感じだ。
貴族のマナーなんて全く分からないから、正直助かる。
「……ああ。そうらしい。俺も意識が戻ったのはつい先ほどだ。この場所で目覚めた時、お前が今までしてきたことが頭の中にながれこんできた」
「ハルミリオンは今まで眠っていたってこと? で、目覚めた瞬間記憶を共有したってことか。なあ、俺とあんたは一体どうなってる?」
「知るか。こっちが聞きたい。それに、俺がお前の記憶を見ることができたということは、お前も見たんだろう?」
「……見たよ。少しだけ」
記憶というか夢だけど、断片的なものだ。
それを見てから、ライバルであるハルミリオンにも色々複雑な事情があったんだと理解できた。
ただの、暴れ者の嫌な奴じゃなかったんだって。
それにしても、自分とそっくりな人物と話すというのは不思議な感覚だ。
俺は興奮気味に会話を続けていく。
「俺、あんたに聞きたいことがたくさんあるんだよ! それに……あんたの事情も知っちゃったし……」
ハルミリオンは不敵に笑って見せるけど、その表情は少し悲し気にも見えた。
悪ぶってるところはあるけど、コイツも俺と似たようなものだ。
ずっと心の内に抱えてるものがあって、その発散方法が間違っていたってだけだ。
本来は……妹思いの優しいヤツなのかもしれない。
「残念だが……その時間はないみたいだ。それに、俺はもうじき消える。ここへ飛ばされた時に俺の身体もどこかへ行ってしまったらしい。今、ここにあるのは俺の意識だけだ」
ハルミリオンが鼻で笑うと、彼の身体の一部が透き通っているのが分かる。
どうして? 俺のせいでハルミリオンが消えるっていうのか?
「そんなのおかしいだろ! 確かにお前の代わりに俺がお前の世界へ入り込んだけど……お前が消える必要なんてない!」
「こんな世界、俺はどうでもいい。そして、お前も自分がいた世界に嫌気がさしていた。だから、お前は自分の身体ごと転移とやらをしたんじゃないのか?」
「じゃあ、俺は意識と身体ごとラブスピ世界へ飛んでるということか? でも、だからって!」
「俺は……色々とやりすぎた。だから、神から天罰を受けたんだろう。そうだな……俺はどうなっても構わないが、できることなら妹を……〇〇を……たの、む……」
「おい! 待てよ、ハルミリオン!」
最後の方はノイズがかかったせいでうまく聞き取ることができない。
光が、空間に満ちていく。
妹の名前もまだ聞いてないのに、勝手に消えるなんて!
折角お前の設定ができたってのに、データクリアなんてさせてたまるか!
「俺は絶対、諦めないからな! 見てろよ、俺はゲームを完全完璧にクリアする主義なんだよ!」
高らかに宣言する。
俺は今までうじうじと悩んで生きてきたけど、そんな俺にも得意なことはある。
ゲームは俺が唯一得意な分野だ。どんなクソゲーも超難易度だっていつも諦めずにクリアしてきた。
だったら、バッドエンディングだってひっくり返せるはずだ。
俺だけが選ぶ、最高のハッピーエンドってヤツを目指してやる!




