61.兄貴の助け
俺の勢いに二人はたじろいでいるみたいだ。
だけど、今は早くハシゴを持ってこないといけない。
「あ、ああ。それなら、俺っちが後で燃やしておこうかと家に……」
「ありがとうございます!」
俺は二人を放って、言われた場所へ走る。
ハシゴが燃やされてしまったら、またワンダーに戻ってハシゴを買わないといけない。
ワンダーへ戻るより、ヴォルカングの家の方が近いはずだ。
「クソ! 間に合え!」
普段運動なんてしてないってのに、なんでこんなに走らなくちゃいけないのか。
でも、ここでやらないと俺がやってきたことが水の泡になると思ったら走るしかなかった。
必死に走ると、ヴォルカングの家が見えてくる。
近くには家の中に水が入らないようにと、入り口に土のう袋を積んでいるらしいウルフがいた。
「ウルフー!」
「ん? ハルか。そんなに急いでどうした?」
俺は、はあはあと息を吐きながらウルフに必死になってハシゴの存在を訴える。
俺の息絶え絶えな声の中から、ウルフは正確に俺の意図を汲んでくれた。
「これだな? 主が持ってきたハシゴというものは」
「ウルフ……っ、それだ……」
「ハル……お前はこんな時まで一人で頑張るつもりか? よし、オレの作業も終わった。下級精霊は精霊の卵の育成に直接手を出すことはできないが……これくらいなら」
ウルフは俺が持ったハシゴを口にくわえる。そして、俺の目の前に背を差し出してきた。
もしかして、背に乗れってことか?
「ウルフ……ありがとう!」
俺は優しさに甘えて、ウルフの背中にまたがった。
炎の毛はやんわりと暖かく俺を包んでくれる。俺は振り落とされないように、ウルフの身体を抱きしめてしっかりとしがみついた。
ウルフは俺が体勢を整えたのを確認して、力強く地を蹴って走り始めた。
「す、すごい……! さすがウルフ。速い!」
俺が必死になって駆けた道も、飛ぶように軽やかに駆け抜けていく。
道を知り尽くしているからこそ、ハシゴをくわえたままでもうまく走っていけるのかもしれない。
来た時より早く、恵みの樹の広場まで戻ってくることができた。
さっきよりもあからさまに雲の量が増えてきている。
カティとヴォルカングも、もう別の場所へ移動したみたいだ。
嵐は少しずつ近づいてきている。
「ウルフも作業していたところだったのに、本当に助かったよ。ありがとう」
ウルフからハシゴを受け取り、優しく背をなでる。
すると、ウルフはひと伸びしてからあいさつ代わりに吠えてくれる。
「オレのことは気にするな。ハルこそ、気をつけろ。あまり猶予はなさそうだ」
「分かってる。ウルフも気を付けて」
ウルフにお礼を言って、俺もハシゴを使いながら嵐に向けての作業を開始する。
支柱は組み立て式で、つなぎ目を繋げていくとしっかりとした一本の棒になる。
まずは倒れないように、支柱を立てたいんだけど……自分の背より高いとやりづらい。
支柱は幸い軽い素材だけど、しっかりしているらしい。
ゲーム世界だから現実世界と違って細かいところは都合よくできてるんだろう。
この支柱をしっかりと立ててから、恵みの樹と支柱をロープで結んで固定していく。
ここまでの作業で、もう雨が降り始めてきた。
俺はレインコートを羽織って、続きの作業を始める。
「次に、葉が多すぎるところは少し伐採っと。やってることが庭師なんだよ」
この辺は攻略サイトで見たことをアイテムで補足してる感じだ。
一人でやってるから作業効率は悪いし、慣れてないからロープの結び目も作業をしている間に緩んでくる。
「はいはい、待ってろって。ちゃんと保護してやるからな」
恵みの樹に話しかけながら、黙々と作業をしている間に雨はだんだん激しくなり、俺の身体の体温を奪っていく。
それでもできることはやっておきたいと、思い付きで幹を保護するためにブルーシートを巻いてみる。
これは本当の保護じゃなくって、あくまで代替え案だ。
それでもないよりはマシだとは思うけど、どうだろう?
「手がかじかんで、力が……」
俺の手は震えて、ブルーシートを抑えながらロープを結ぶのにもとても時間がかかる。
レインコートが意味をなさない激しい雨になってきてるけど、できることはやっておきたい。
後、思いつく限りのことを記憶を引っ張り出しながら作業を続ける。




