58.相談タイム
俺はゲームの中でお出かけできる場所としても使われる森の広場のベンチに腰掛ける。
モグは俺の手のひらの上で、心配そうに俺のことを見上げていた。
「どこから話せばいいんだ? ほら、今日はラウディの側にモグがいなかっただろ?」
「はい。下級精霊はお二人の中間報告の時は精霊様たちの側から離れておく決まりがありますからねぇ。もしかして、ラウディ様が何か?」
「う……」
俺が小さく頷くと、モグは手のひらであわあわと慌てだす。
俺も慌てて、ラウディが悪い訳じゃないと必死に返した。
「いや、たぶんだけど。俺がラウディにお礼をしに行くって言ったのにいつ行くって約束してなかったから、それが気になってたんだと思うんだけど……」
「ラウディ様がですかぁ? それで、ハルさんを無理やり引っ張っていったと」
「そう、しかも俺に話しかけてくれてさ。こっちって」
「なるほどー。ラウディ様からハルさんに話しかけたんですねぇ」
そう、まず驚くところはそこなんだ。だけど、それ以上のことが一気に起こりすぎてるっていうか。
こういうのなんて言うんだっけ? フラグ乱立?
「うん。で、ラウディのお気に入りの場所の一つに詰め込まれてさ。最初は怒ってるっぽかったんだけど……」
俺の話を聞きながら、モグは必死で考えてくれてるみたいだ。
モグが一生懸命考えている仕草が可愛くて、俺の心は混乱中から癒されていく。
「それで、ラウディ様に穴の中につめつめされちゃったハルさんは……」
「そう。意味が分かんないんだけど……嫌かって聞かれたから、嫌じゃないって言って。それで……」
改めて説明するのも何か恥ずかしいけど、モグに聞いてもらうのが一番謎が早く解けそうだ。
おれは包み隠さずにラウディに抱きしめられたこと、おそらくまぶたにキスされたことまでを全て話した。
モグは暫く考え込んでいたけど、俺の方を見てビッと指を立てた。
ちょっとドヤァってしている仕草に見えて笑いそうになるけど、可愛いから許せる。
「ハルさんも慣れていないことはよく分かりましたぁ。あっしから一つずつ説明させていただきますとですね。ラウディ様はハルさんが思う以上にハルさんのことを気にかけていらっしゃいますよ」
「そうなんだ……でも、それってあの愛のクッキーのせいじゃ……」
「クッキー? ああ、あのクッキーには何か力があるんじゃってことですかぁ? 精霊様には影響ないと思いますよぉ。心配しなくても、ハルさんのせいじゃありません。ラウディ様の意志ですよぉー」
ラウディの意志? だとしたら余計に謎なんだけど……。
俺のどこに距離を縮めるような要素があるって言うんだ?
「なあ、モグ。だとしても、俺を抱きしめたり……その、キスしたりみたいなことにはならないと思うんだけど……」
俺が恥ずかしさに耐えながら単語を紡ぎ出すと、モグはニコニコと楽しそうに笑いながら大丈夫ですよぉと声をかけてくれる。
「精霊にとって抱きしめる行為は親愛を示す行為の一つです。で、ですね。まぶたへのキスはあなたを信頼していますという意味です。どちらも精霊使いに対して示すものですねぇ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、特別な意味はないということ?」
つまり、俺というより精霊使いの卵としてよくやってるぞって意味ならまだ納得できるよな。
内心ホッとしたような残念なような、妙な気持ちではあるけど……少し俺も落ち着いて考えられそうな気がする。
「ふふふー。ハルさん、でもですね。ラウディ様がお話するのは、あっしとイアリス様とシアン様だけです。声を発するという行為は、ラウディ様にとって大きな意味を持つと思いますよぉ」
「え……?」
「ラウディ様の想いを真剣に考えてくださったからこそ、ハルさんは無理やり連れていかれても一生懸命ラウディ様を説得してくださったのですよね?」
「それは……俺も伝え方が悪かったかなと思ったからで……」
モグに話して大分解決してきた気がするんだけど、やっぱりなんかマズイ方向にいってるのは気のせい……じゃないよな?




