53.目的は一つ
美味しい夕食をウィンとバードと一緒にいただいたあとは、後片付けをして俺も家へ戻ることにした。
特に何も言われていないが、そろそろ中間報告なのは間違いないだろう。
寝て過ごした期間をざっと計算すると、ゲームで知らされる期間と一致する気がする。
「この世界にゲーム機とパソコンさえあれば、完璧に進められるんだろうけど……そうはいかないしな」
ゲームをしていても見られない好感度は別として、時間経過やアイテム一覧。
パッと見るだけで分かる情報量は、やはりゲーム画面やサイトなど電子機器が便利なんだと思い知らされる。
「ないものねだりをしたい訳じゃないけど、俺だってそろそろゲームしたい。ラブスピじゃないゲームが」
ゲームがやりたいと思ったはずなのに、気づけばラブスピのことばかり考えてる気がする。
ラブスピはこの目で見て聞いて感じたから、ゲームの中の世界だけど俺にとっては現実と変わりない場所になりつつある。
精霊たちとの距離も、望んで近づいた訳じゃないけど気づけば愛称呼びもしているし距離は近づくばかりだ。
「俺は必ず帰る。帰るんだ……」
言い聞かせていないと、見失いそうになる。
最近特にそうだ。俺は、この世界の居心地がよくなってしまっている。
モグやウルフと話すのは楽しいし、バードやユニコも親切にしてくれる。
精霊たちは厄介者が多いけど、悪い人たちじゃない。
「でも、俺が本当に死んでしまっていたら? 帰ったところで、俺はどうなるんだろう……」
よくある異世界転生もののように、俺は事故にあった訳でもない。
だから、現実世界の自分の状態が全く分からないままここにいる。
別世界から勇者を召喚する異世界召喚で、異世界へ召喚されたわけでもない。
気づいたらベッドに寝転んでいて、たまたまラブスピの世界だと分かっただけだ。
「今は、やるだけやるしかない。エンディングを迎えればきっと何かが変わるはず」
それでも変わらなかったら?
その時は……?
「エンディングを迎えたときに考えよう。今は突き進むしかない」
ぐるぐるとしてしまう考えを振り切るように、俺は一旦考えをリセットするためお風呂へと向かった。
+++
次の日、俺がベッドで眠っていると扉を叩く音に起こされる。
ゆっくりと目を開くと、日の指し込み具合から考えてまだ時間は早いような気がした。
「誰だ? こんな朝早くから……」
仕方なく身体を起こし、扉を途中まで開く。
俺が様子見をしようとしたのに、扉はガバリと思い切り開かれてしまった。
体勢を崩しそうになったところを、慌てて踏ん張る。
「ハル、おはよう! って、あれまだ着替えてないの?」
「……おはよう。で、何の用だ」
ニコニコ顔のカティが今日も同じような高音で俺を出迎えてくれる。
あー……そういえば中間報告の時って、ライバルの唯一の出番だったよな。
今は俺目線だから、カティが迎えに来てくれてるってことか。
にしても、時間が早すぎないか?
「ハルはきっと忘れてるんじゃないかと思って、呼びに来たよ! 今日は中間報告の日。だから、早く着替えて!」
「いや……着替えろと言われてもまだ朝ご飯も食べてない。だから、時間が早すぎるだろって……」
「もう! ハルは前もぼんやりしてたけど、今日もぼんやりしてるね。今日はボクが誰だかちゃんと分かってる?」
「カティ、今日も元気だな」
俺はその一言を返すので精一杯だ。やっぱり、コイツとは相性が合わない。
欠伸しながら、先に行ってろと言ったのに早く早くと急かされる。
「だから、俺も行くから先に行ってろよ。今日は記憶もあるし問題ない」
「そんなことしたら、ボクがハルを無視してるみたいでしょ? ボクはハルとは違って優しいんだから。この前のことだって許してあげる」
「あ、そう。どうも」
「もー。ハルってどうしてそんなに冷たいの? だから、精霊様たちに嫌われちゃうんだよ」
正直、最近嫌われてる気がしないのは言わないでおこう。
また、カティに突っ込まれるのも面倒だし。
カティは一歩も引いてくれないから、俺はカティに見られながら朝ごはんを掻き込むように食べる羽目になった。




