45.勢い余って、守られて
どうするかと悩みながら俺が腕を伸ばしたその時、遠くから凄い勢いで誰かがやってくるのが見えた。
うわー……タイミング最悪すぎる。
最初から怒り気味の赤い頭の人が走ってくる。
炎の精霊、ヴォルカングだ。
「お前……っ! 懲りずにカティに手出ししようとしてやがるな?」
「ばっ……こら、主! 熱くなるな、止まれ!」
「っるせえ! ウルフ、邪魔すんな! カティに手を出そうとしてんだろ、黙っていられっか!」
ウルフが止めようとしてヴォルカングの服を噛んで引き留めてくれてるみたいだけど、ヴォルカングは手のひらからいくつもの炎の球を打ち出してきた。
しかも、俺に向かって火の球を飛ばしてきてないか?
「なっ……」
「……っ!」
その瞬間、がばっと身体ごと誰かに引き寄せられる。
何が起こったのか分からないうちに、目の前に土壁がズンッと現れて炎を防いでくれたらしい。
カティは……恐らく尻もちをついたみたいだけど、無事みたいだな。
って、カティはいいんだけど。問題は俺だよな。
「ええと……?」
改めて状況整理をすると、俺は助かった。
しかも、思いっきり抱き寄せられていた。
どうみても……ラウディだよな。
片手でしっかりと身体は抱き寄せられている。
ラウディが突き出した右手で土壁を出して、炎を防いでくれたみたいだ。
「主っ! 精霊使いに向かって炎を放つなどと……精霊として許される行為ではないぞ!」
「いや、そうじゃなくってカティが……」
「カティだけじゃなく、ハルも精霊使いの卵だ! 少しは頭を冷やせ!」
うわ……壁の向こうでウルフが主人を叱ってるらしい。
確かに俺はもう少しで真っ黒こげになるところだった。
正直、ゲームとは言え怪我したらどうなるか分からないもんな。しかも怪我で済むかどうか……。
今更ながらに怖くなってきて、身体が震えてることに気づく。
「あ……ええと、大丈夫。ありがとう、ラウディ」
言葉はなくとも、ラウディは俺の気持ちを察したように腕の力を強めてくれていた。
気恥ずかしいけど、おかげで恐怖感は少し落ち着いてきた。
「わぁぁぁんっ! ひどい、ひどいよ! ルカンまで!」
「え、あ、なんでカティが泣いてんだ?」
「主のせいだろうが! はぁ……主は物事を考えなさすぎる。情けない」
壁の向こうでは何やらバタバタしてるみたいだけど、壁を挟んだこっち側では俺がラウディの腕の中っていうこれまた凄い状況になってるんだよな。
だいぶ落ち着いたし、流石に恥ずかしいから声をかけるか。
「ラウディ、その……解放してもらえると助かるんだけど……」
俺が遠慮がちに声をかけると、ラウディは腕を下ろして俺のことも放してくれた。
腕を下ろすと同時に、土壁もズズズと音を立てて土の中へと戻っていく。
俺の姿が反対側からも見えるようになると、俺を心配してくれたウルフが側に寄ってきてくれた。
「ハル、無事か?」
「ウルフ、ヴォルカング様を止めようとしてくれてありがとう」
「主は今、カティを慰めるのに精いっぱいだからな。ラウディ様、すまない。主が迷惑をかけた」
ウルフがぺこっと頭を下げると、ラウディは首を振ってウルフの頭をなでる。
俺もお礼のつもりでウルフの頭をなでた。
「お、おい。二人になでられると困る。が、気遣いに感謝する。この騒ぎはレリオル様の耳にも届くだろう。主は少し反省したほうが良さそうだ」
ウルフは、はあとため息を吐いてカティの側でおろおろしているヴォルカングを眺めた。
ヴォルカングも悪気はないんだろうけど、一つ間違えればカティに当たる可能性だってあったよな。
近くにいたのは俺だけじゃなかったし。
カティのことが大切なのは分かるけど、カティに触れようとしただけで炎を飛ばされるんじゃいくら命があっても足りない。
俺がふぅと息を吐き出すと、今度は俺がラウディになでられた。
「いや……俺もなでられても困るんだけど」
俺が訴えると、ウルフはハハハと楽しそうに吠えるように笑った。




