44.懲りない主人公
ハッと急に目が覚める。
室内は暗いから、たぶんまだ夜みたいだ。
俺は夕飯を食べてからまた寝落ちしたらしい。ホント、良く寝てる。
しかも、寝てる間にまたライバルの夢を見ていた。
「今度は……嫌っていうのとは違った。むしろ、辛かった」
ライバルには妹がいたんだな。
あんなに可愛い妹さんがいるってのに、どうしてここにやってきた時も荒れていたんだろう?
ここにきたってことは、精霊使いの力が目覚めたからだってのに。
この世界では……俺の妹ってことになるのか? 急にあの子のことが心配になってきた。
「父上に利用されるって……政略結婚とかそういう話か? って……俺じゃ分からないんだよな」
この身体はライバルのものなのかもしれない。
でも、ライバルの記憶をたまに夢でみるだけでライバルと話せるわけじゃない。
そもそも、ライバルの魂? みたいなものがあったりするのかもよく分からない。
俺の身体ごと異世界転生したのか、魂だけライバルの身体に入り込んでいるのか。
そんなこと、今の俺に分かる訳ないしな。
「妹か……」
夢の中の妹は、俺の本当の妹とは違って兄思いの優しい子に見えた。
でも、同じ妹を持つ身として何だかふと妹のことが気にかかった。
「……考えたってなるようにしかならないよな」
元の世界へ戻っても、俺が歓迎されるとは限らないし。
むしろ、いなくなって良かった。これで妹だけ可愛がることができるって思われるかもしれないしな。
「もし帰ることができたら……今度こそ家を出よう」
家族のことを考えると、いつもネガティブになる。
もういい年なのに、ホント女々しいよな。
今から悪いことばかり考えていても仕方ない。
気持ちを切り替えるためにも、さっさとシャワーを浴びて寝直すことにした。
+++
寝直してからの朝は爽やかに目覚めることができた。
この制服を着るのにも慣れてきちゃったな。まあ、これしか服がないっていうのもあるんだけど。
何回かのお手伝いでお金もまた溜まってきたし、今日はまたアイテム屋に行こう。
そうと決まれば、バードが運んでくれたご飯を食べて出発だな。
今日の朝ご飯は数種類のフルーツとシリアルみたいな感じか?
これにミルクをかけて食べろってことかな。
サクっと食べ終えて、今日も出かけないとな。
「ごちそうさまでした」
バードに向けてお礼を言うイメージで両手を合わせてから、金貨とカゴを紫のリュックに詰めて外へでる。
アイテム屋に向けて森の道を進んでいくと、また甘ったるい高音が聞こえてきた。
……このパターン。嫌な予感しかしない。
「だから、その……この前はすみませんでしたっ! なので、おわびにお茶会を開こうと思って。ラウディ様にもぜひ来てほしいんです」
「……」
しかも、ラウディと一緒?
アイツ……ラウディの地雷を踏みぬいた癖に、もう絡みにいくとか。無自覚天然か?
関わり合いになりたくないけど、絶対にラウディは困ってるよな。
また最悪なことにモグもいなさそうだし……ここは間に入るしかない。
「カティ……その手、放した方がいいと思うけど」
「え、ハル? ボクはラウディ様と仲直りしたいだけだよ。なのに、どうして邪魔するの?」
「邪魔って……だって、どうみても喜んでって顔してないだろ。ラウディが困ってる」
「そんなこと……って。なんでハルがラウディ様のことを呼び捨てにしてるの? それこそ失礼だよ」
自分のことを差し置いて、何が失礼だよ。
全く……自分が一番愛されてるとか勘違いしてるタイプか? ムカつくほどに妹とそっくりだなコイツ。
愛されてるんじゃなくて、仕方なくちやほやしてやってるの間違いだってどうして気付かないんだよ。
「今、俺のことはどうだっていいだろ。無理やり仲直りしようって言われても戸惑ってるって言ってるだけだ。だから、放してやれ。行きたいと思ったらラウディから行くだろ」
「だから、なんでハルがそれを決めるの? ラウディ様はボクとお茶したいですよね?」
でた。またうるうる瞳で見上げてる。
でも、ラウディはビクともしない。というか、見てもいないし何なら俺を見てる気すらする。
振り払えばいいのに、関わること自体に疲れてしまっているみたいだ。




