41.土の精霊たちとティータイム
俺はどうすればいいんだ?
ゲームの中でこの流れがあるかも未確認だから、完全に俺の独断で決めるしかない。
グラウディが望む距離感でいけばいいのか、それとも完全にシャットアウトした方がいいのか……。
どうしたら、いい結果になるのか分からない。
「今だけでもいいんです。ラウディ様の願いを叶えてもらえませんかぁ? ハルさん……どうか、お願いします!」
「モグ……」
モグは必死に両手を合わせて、潤む瞳を俺へ向けている。
うぅ……断りづらい……。 俺はこの先、グラウディを傷つけずに済むだろうか?
とてもじゃないけど自信がない。
だけど――
「グラウディ様が決意されたのに、俺が否定するのも違うよな。正直、どのくらいの距離感がいいのかは分かりませんが……」
俺は、おそるおそる手を差し出した。
グラウディとモグもその手を見つめている。
「……よろしくお願いします、ラウディ」
俺が必死に声を絞り出すと、モグがラウディの肩の上でぴょんと跳ねた。
ラウディは伸ばした俺の手をそっと握り返してくれる。
その手は俺よりも大きい。
俺の思っていたイメージと違うから少しビックリしたけど、優しく包み込まれる感じだ。
「良かったぁ……良かったですね、ラウディ様! ……それともっと親し気に話して欲しいとおっしゃってます」
「あぁ……うん、分かった。じゃあ、改めて。お茶でも飲みますか?」
モグは明るくはいと返事をしてくれ、グラウディは同意の意味で頷いてくれた。
はぁ……完全に押し負けた。仕方ない、俺の方からうまく調節するしかないよな。
親しくなりすぎない、友達くらいの距離感。
それならたぶんセーフだろ。たぶん。
俺はゆっくりと握った手を離して、草の上にバンダナくらいの大きさの布を広げる。
綺麗な空色の布の上にイアリスが持たせてくれたポットやカップを並べると、モグがぴょんと下りてきてあっしが淹れますねと準備を代わってくれた。
「モグ、ありがとな」
「いえいえ。これくらい気にしないでくださいー。イアリス様のお茶とお菓子は美味しいんです! あっしもいただいちゃっていいんでしょうか?」
「もちろん。ラウディもそう思ってるんじゃないかな」
俺がチラリと視線を向けると、ラウディはコクリと優しく頷く。
今はまた表情が見えなくなってしまったけど、なんだか口元が少し微笑んでいるようにも見えるから不思議だ。
「はーい。準備ができましたよぉ。ハルさんは先にいただいてきたんですよね?」
「うん。だから、俺の分は少しでいいよ。モグとラウディでたくさん食べて」
「わぁー! 嬉しいです! 良かったですねぇ、ラウディ様!」
モグがニコニコしながら頷くと、ラウディもうんうんと二回頷く。
こう見ると、頷き方も色々パターンがあるみたいだ。
「では、いただきますですよぉー」
モグと一緒に挨拶してから、俺も透明のカップを持って口へ運ぶ。
もうだいぶ時間が経ったはずなのに、お茶は適温のままだ。これも精霊の力なのか?
「んー……この爽やかなお茶と美味しい焼き菓子! もう、幸せな時間ですよぉー。ね、ラウディ様」
「……」
ラウディも静かに口へと運んでいる。
イアリスとは仲もよさそうだし、一緒にお茶しながら焼き菓子を食べてるのかもしれないな。
俺もゆっくりとマドレーヌを食べていると、ラウディがモグへ何か耳打ちするのが見えた。
「ハルさん、この後のご予定は?」
「一仕事したし、一旦家へ戻るつもり」
俺の予定を確認してどうするんだろう?
クッキーを食べていると、モグが俺を見上げてニッコリと笑いかけてきた。
「なら、良かったですよぉ。ハルさんはぐっすり眠ってらっしゃいましたけど、きっとお疲れだと思いますし。ラウディ様も戻った方がいいとおっしゃってますー」
「ありがとう。恥ずかしい話、薪割りをしたら疲れちゃって……俺、肉体労働なんて初めてだったから」
「それはそれは! ハルさんは色々なところでお手伝いをされているのですねぇー。またあっしの手伝いもしていただけると嬉しいですよぉ」
「もちろん。モグなら大歓迎だ」
モグ相手だと素直にそのまま伝えられるんだけどな。
ラウディだと思うと、そうはいかない。どうしても、緊張しちゃうのかもしれない。




