34.美しい精霊
黙々と水やりを続けていると、上から気配を感じてふと顔を上げる。
木々の間から降り注ぐ光の下で、美しい絹のような薄水色の髪の毛が輝いている。
長い髪はサラリと流れて、更に彼の美しさを強調している。
湖の水面と似た透明さが、彼の聡明な人柄を表現している気がした。
「すみません、来てくださっていたのですね。ユニコのお手伝いをしてくださってありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。リバイアリス様、おはようございます」
まさかリバイアリスもいるとは思っていなかった。
しっかし……この人は美人って言葉がしっくりくるよな。
綺麗な髪もそうだけど、着ている服も精霊って感じの薄い絹かなんかのローブだもんな。
いかにもファンタジーって感じだ。
「私の顔に何かついていますか?」
「いえ、失礼しました。美人だなと思って」
「うん。イアリス様は精霊様たちのなかで一番キレイだからね」
「え? ユニコ、またそんな戯れを言って……ハルも……褒めてくださって、ありがとうございます。すみません、お邪魔してしまいましたね。ハル、水やりが済んだらお茶でもいかがですか?」
白い肌がほんのりと桃色に染まるのも、なんか乙女な感じだよな。
この人とはだいぶ関わっちゃってるけど、グラウディのことで何か困ったら相談しやすそうだしな。
チュートリアル精霊だし、常識ある精霊なんだから味方にしておいて損はないか。
俺から変なアプローチをかけなければ、恋愛エンドに行くことはなさそうだし。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
「良かった。では、お茶の支度をしてきますね」
リバイアリスは嬉しそうに微笑んで行ってしまった。もしかして、お茶するのが好きなのか?
ユニコも角をフリフリしながらリバイアリスを見送っている。
「ハル、良かったね。イアリス様は心を許した人にしかお茶を振る舞わないんだ。きっと、ハルのことが気に入ったんだね」
「え……ああ、そうなんですね。それはその……どうも」
あれだけ冷たい対応をしてたってのに、どうして俺が気に入られるんだか。
リバイアリスの心が広すぎるってことか?
適度な距離感って難しいな。でも、リバイアリスは無茶なことを言ってきたりしないだろうし。
俺が拒めば悲しむだろうけど、それでいきなりコロっと態度を変えたりしないよな。
「よし、あともうちょっと。頑張ろう」
「はい」
俺とユニコは水やりを再開する。この世界に来てから自然に触れることが多くなったけど、花を見ていると心が和むってホントだったんだな。
今までスマホで写真を見るだけでいいやって思ってたけど、実際に触れながら世話してみるとこれはこれで悪くない。
園芸が趣味の人とかって、やっぱり癒し効果とかもあるから趣味にしてるのかもしれないな。
「あとこっちの花にも水やりすれば終わり」
「分かりました」
ユニコは角に引っかけたじょうろで器用に水やりを続けていく。
ユニコが水やりをするたび、何故か空中に綺麗な虹が浮かぶ。これも精霊の力なのか?
「どうしたの、ハル」
「いえ、虹が綺麗だなと思って」
「ふふ。リバイアリス様のおかげなんだ」
「さすが水の精霊様ですね。俺、こんな近くで虹を見たのは初めてでつい見惚れちゃいました」
触れようと手を伸ばすと、ふっと消えてしまう。
儚さも含めて綺麗だなと柄にもなく思ってしまった。
ユニコもクスクス笑ってるし。絶対似合わないことを言ってるよな。
「ハルはここに来た頃はお花なんて興味なさそうだったのに。不思議だなって思ってるだけだよ。じゃあ、そろそろお茶にしようか」
「……はい」
ますますオレがこの世界に元々いたハルじゃないって言いづらいよな。
記憶喪失は嘘なんですって……言える日は来るだろうか?
でも、どうせこの世界からいなくなる俺には関係ないよな。
俺は色々浮かんでくる気持ちを心の奥底に押し込んで、じょうろを片付けてからユニコの後についていく。




