33.少々の本音
次の日の朝、朝食を取ってからすぐにグラウディの住処へ向かう。
本当は俺から関わりたくはないけど、リバイアリスから深刻な話も聞いてしまったし全てを無視するっていうのも気まずいからな。
グラウディの住んでいる大木まで辿り着くと、出入口の木の扉をコンコンとノックする。
少しの間待っているとキイっという音を立てながら、静かに扉が開かれていく。
「あれぇ? ハルさんだ。どうしたんですかぁ? こんな朝早くに来て下さるなんて」
「うん。グラウディ様に少し話があって。具合はどう? まだ無理そうだったらまた出直すけど」
「ゆっくり眠られたのでまだ完璧にお元気ではないですけど、いつものラウディ様に戻ってきたと思いますよぉ。一応ラウディ様に聞いてきますねぇ」
モグはぴょんっと飛び跳ねると、タタタと小走りで一旦中へ戻っていく。
暫く待っていると、モグが同じく小走りで戻ってきた。
「ラウディ様がどうぞとおっしゃってますー。というわけなので、ハルさんどうぞぉ」
「ありがとう」
モグの後について入り口をくぐる。最近グラウディと会ってばかりな気がするが仕方ない。
この辺りできちんと話しておかないとな。
グラウディはこの前食事をしたテーブルの側でいつもと変わらない雰囲気で座っていた。
なんとなく、少し落ち込んでいるような気もしなくはない。
「突然来てしまってすみません。お伝えしたいことがあってきました」
「……」
「あ、ハルさんもお座りください」
モグに席を勧められたが、すぐ終わるからと辞退する。
俺はグラウディの顔を見ながらゆっくりと話し始める。
「一言、伝えておきたくて。リバイアリス様から聞いたかもしれませんが、俺はあなたに深く関わったりしません。ですので、安心してください」
俺の言うことに耳を傾けているのかは分からないが、俺は言葉を続ける。
「今までのお気遣いには感謝しています。ですが、俺は恵みの樹を育てることだけに集中したいんです」
「……」
「ハルさん……」
モグの寂しそうな声色が聞こえると、俺も苦笑いするしかない。
金貨を稼ぐためには、モグには会わないといけないしな。
好感度を下げたい訳じゃないんだけど、言い回しって難しいな。
「必要以上に深入りはしませんが……その、冷たくするとかそういう意味ではないです。普通にというだけです。適度な距離が丁度いいのではないかと思っているだけなので。今はゆっくりとお休みください」
俺は軽く頭を下げてから、くるりと反転して背中を向ける。
グラウディはやっぱり最後まで無言だった。
「よし、これだけ言っておけば大丈夫だろう」
これで憂いなく育成に集中できそうだ。
俺は大きく息を吸い込んで深呼吸すると、ゆっくりと歩きだした。
+++
朝早めに家を出たせいか、森の中の空気は少しだけ冷たい。
でも、澄んだ空気は俺が暮らしていた世界と違ってとても爽やかで気持ちが良いものだ。
時折聞こえる鳥の声や、木々の間から差し込む柔らかい光。
どれもこれも、普段忘れている感覚な気がする。
「これがゲームの中の世界だなんて。未だに不思議な感覚なんだよな」
きょろきょろしながら森の道を進んでいくと、リバイアリスの住んでいる湖の近くに辿り着いた。
別に決めていた訳じゃないんだけど、ここに辿り着いたのは何故だろう?
「あ……ハル。おはよう」
「おはようございます」
今日もキラキラと輝く湖の側で、リバイアリスの下級精霊でユニコーンの子どものユニコが花に水やりをしていた。
そういえば、最初に手伝ったのもユニコだったよな。
昨日リバイアリスから話を聞いたから、自然と足が向いたのかもしれないな。
「もしかして、手伝いに来てくれたの?」
「はい。俺でよければ」
今日は手伝い目的って訳でもなかったけど、どうせ金貨を稼がないといけないしな。
ごちゃごちゃと考えているより、手を動かした方がいい気がする。
俺はユニコの側へ寄って、鉄のじょうろを受け取った。




