31.土の精霊の過去
モグと話しながら、グラウディの家を目指す。
本当は行くつもりなんてなかったのに、モグが悲しそうにしているとどうも放っておけない。
妹に対しての気持ちと似ている。
関わりたくないのに、結局内容が気になるから関わってしまう。
モグは妹とは違って可愛いから余計だ。
「ハルさん、あっしと一緒に行ってくださるのは嬉しいんですけど……今日の予定は大丈夫だったんですかぁ?」
「お手伝いは一つしてきたし、今もお見舞いを渡すだけだから。モグが気にすることは何もないよ」
「ハルさぁん! ハルさんはとても優しい方ですね! ハルさんのことを悪く言う方もいますけど、あっしは絶対に違うと思います。あっしのためを思って足を運んでくださるし……」
「気にするなって……モグ、また泣くとグラウディ様が心配しちゃうだろ」
モグはまたグスグスと泣き始めてしまったので、頭をぽんぽんと撫でて落ち着かせる。
グラウディもモグの存在には助けられているんだろうし、ただの翻訳機なだけじゃなくってモグはグラウディにとって大切な存在なんだろうな。
歩いていくうちに、グラウディの家が見えてきた。大木は今日も静かに佇んでいる。
「あ、イアリス様だ」
モグが手を振っている先に、ちょうど出入口の扉から姿を現したリバイアリスが見えた。
リバイアリスもこちらに気づいて、優しく微笑みながら手を振り返してくれる。
俺は静かにリバイアリスの側へ寄っていった。
「リバイアリス様、こんにちは」
「ハルがモグを連れてきてくれたのですね。ラウディは今漸く眠りについたところです。感情が急に溢れてしまって疲れたのでしょう。ですので、ちょうどモグを探しに行こうと思っていたところです」
「そうでしたか。俺はお見舞いの品だけ渡そうと思っただけなので。後はモグに」
俺はモグを優しくリバイアリスへ引き渡し、ついでに持っていたクッキーと数個のアメを渡す。
リバイアリスは何度か驚いた様子で瞬きを返してくる。
「これはハルから渡した方がよいのでは?」
「今、他人が入るとグラウディ様を起こしてしまうかもしれません。それに、俺はモグを連れてきただけですから。お見舞いの品は先日助けていただいたお礼でもあるので」
「そうですか……お気遣いありがとうございます。モグ、先に中へ入っていてください。この二つはあなたからラウディに渡した方が良いでしょう」
「分かりましたぁ。ハルさん、ありがとうございました!」
モグは笑顔で手を振りながら、俺が渡した物を抱えて先に家の中へ戻っていった。
リバイアリスは……俺に話でもあるのかな。目元を和らげると、少し歩きませんか? と誘ってきた。
今までかなり冷たくしてしまったし、ここは大人しくついていくしかなさそうだ。
俺は頷いて、リバイアリスと歩調を合わせて歩き始めた。
「あなたのことだから、何も聞こうとしないのでしょうけれど……私の勝手な判断です。あなたには話を聞いて欲しいと思いました」
「そうですか。俺が聞いても平気な内容ではない気がするので、正直困っています」
たぶん、グラウディのトラウマについて話そうとしてくれてるのだろうけど……俺はトラウマを聞けるほどグラウディと打ち解けているとは思えない。
今回はたまたまカティが地雷を踏みぬいただけだし、俺だってグラウディをゲームで攻略する前に異世界転生してしまったから地雷を踏みぬく可能性がある。
だから、困っていると伝えたことは俺の本音だ。俺にはグラウディのトラウマを受け入れる準備なんてできない。
グラウディと深く関わり合おうともしてないのに、詳細を聞くのは申し訳ない気がした。
「ハル……そうですね。私の勝手であなたを困らせてはいけませんね。では、全ては伝えません。ただ……ラウディには以前仲良くしていた精霊使いの卵がいたのです。その子と色々あって……結果、ラウディは深く傷つきました」
確実に人間とトラブルがあったとは思っていたけど、前任の精霊使いの卵だったのか。
それじゃあ余計に人間と関わるのは嫌だろうな。




