30.モグのために
俺が言葉に詰まっていると、フェアラはますます楽しそうに微笑んでくる。
だから、見られるのも恥ずかしいんだと訴えたい。
「え、そんなに恥ずかしい? ふふ……照れてるハルはちょっと可愛いな」
「は? いや、気持ち悪いだけでは?」
フェアラに顔を覗き込まれても困る。俺が本当に困っていることに気づき、ごめんねと謝りながらフェアラは可愛いらしい草色の巾着を俺の手に乗せてくれた。
「これは?」
「素敵な歌を聞かせてくれたお礼。ハルはいつもお手伝いを頑張ってくれてるし、金貨と一緒にアメも入れておいたよ」
「アメですか」
「そう。気持ちを落ち着かせるアメ。いくつか入ってるから食べてみてね」
気持ちを落ち着かせるアメ……そんな便利なアメなら今すぐ食べた方がよさそうだ。
俺は簡単にお礼を言って、逃げるように花畑から離れていく。
フェアラは気にした様子もなく、またよろしくねとずっと手を振り続けてくれた。
俺はもらった草色の巾着の中から、七色の包装紙でクルクルと巻かれたアメを取り出して食べてみる。
アメは想像以上に甘いけど、口の中に花の香りが広がって確かに気持ちは落ち着いてくる気がした。
「参ったな……自分でイベントを起こしたくせに……」
気まずい気持ちのまま、またさっきの七色の木の近くまで戻ってくる。
すると、今度は七色の木の下でうろうろしている小さな茶色の塊が見えてきた。
「あれは……モグ?」
俺が木の下へ近づいていくと、モグがぴょんと跳ねてこちらを見上げてくる。
俺のことが分かったのか、とてとてと駆け寄ってきたので俺も屈んでモグを待つ。
「ハルさぁーん! どうしましょう? あっしがいない間にラウディ様が……!」
「モグ……もしかして、グラウディ様が力を使ってしまったから気にしてるのか?」
モグは涙目で何度も頷いて訴えてくる。
参ったな……モグはグラウディの側にたまたまいなかったんだろうけど、そのことをとても気に病んでいるみたいだ。
だけど、傷ついている人を慰める方法なんて俺には分からない。
ただ……おろおろしているモグを放っておくのも可愛そうな気がする。
「あ……そうだ。お見舞いってことにすればいいのか」
「ハルさん……?」
「モグ、少しだけ付き合ってくれる? 一旦俺の家へ戻ろう。グラウディ様は大丈夫そうか?」
「はいー。イアリス様が付き添ってくれて落ち着かれました。ただ、レリオル様から今日は家から出るなって言われてしまって。ラウディ様はとても落ち込んでいらっしゃいますー……」
モグがしょぼんとしている姿を見ていると、本当に可愛そうになってくる。
自然とモグの頭をよしよしと撫でてしまった。
「うぅ……ハルさぁん! あっしは……今も側にいることもできず、せめてラウディ様のお気持ちを知ろうとここに来ただけで……どうしましょうー!」
俺の足にぎゅっとしがみつかれてしまった。モグを落ち着かせるように何度か撫でてから、優しく抱き上げる。
「紫の商人にもらったんだけど、食べ損ねていたクッキーがあるんだ。グラウディ様が甘いもの好きかは分からないけど……。それと、さっきアメももらったからそれも一緒に渡してみたらどうかと思って。だから、一緒に行こう」
「ハルさん、ありがとうございますー。ラウディ様もきっとお喜びになると思いますよぉ」
モグはぽろぽろと泣きながら、小さな手で自分の涙を拭っている。
本当に責任を感じているみたいだな。背中を何度かさすってやると、少しずつ涙は止まってきたみたいだ。
モグは涙目のままだったけど、俺の肩に乗ってくれた。
「ハルさんもお忙しいのに……あっしに付き合わせてしまってすみませんー」
「気にしないで。俺もたまたま居合わせただけだし。俺が関わるべきじゃないんだろうけど、この前も助けてもらったから。そのお礼」
「そんなそんな! ラウディ様はハルさんといる時は落ち着かれてましたし、ずっと誰かと関わることを怖がっていらっしゃったけどハルさんといる時は自然な感じでした」
「そうなんだ。それはたまたまなんだろうけど、きっとモグのおかげだよ」
話しながら一旦帰宅すると、俺はテーブルの上に置いたままのクッキーの包みを手に取ってもう一度外に出た。




